第9章 その6 ゴラオン
その6 ゴラオン
「なんでしょう?・・・味方右翼に奇妙な揺らぎが・・・あ!なんか出現しました!」
出現?
デニーの声に従って、わたしたちは一斉に右翼に目を向けます。
そこには大きな人影・・・いえ、人とは異なるバランスの、しかし明らかに人型のものがたたずんでいました。
「偽装迷彩?」
わたしの指輪に呪符された下級術式と同じもののような気がします。
「あれは・・・ゴーレムなのですか!?」
この距離ですら肉眼ではっきり見える大きさ・・・とは言え、あの魔法兵ゴーレムのようなそびえたつ巨体とは及びもつかない・・・せいぜいトロウルより一回りかそこら大きい程度の、黒くて武骨な鋼鉄の人型。
胴体部分が大きく、脚部は太く短く。比べれば腕は細く、頭部は小さい。
ですがその左腕には大きな盾が、右腕には大きな剣が装備されています。
さらには肩から突き出た、長い棒のようなもの。
これは戦闘用の兵器・・・何やらイヤなものがわたしの中にわき起こります。
ゴーレムならば、人の命令を聞いて、ただそれに従うだけの番人。
ヘクストスの守護者のような神々しさが、あれからは感じられません。
あのゴーレムには敵味方を見分け、倒すべき者と守るべき者を判断する力があるのでしょうか?
それとも、ただ遠くにいる製作者の命令に盲目的に従うだけの、殺戮しかできない魔法生物なのでしょうか・・・。
そんなわたしの不安と疑念。それを打ち消すような声がします。
「あれ?シャルノ、あの盾の紋章・・・自分ちのやないか!」
「あのマントの裏生地の記章・・・あれこそアドテクノ商会の旗ではありませんか!」
・・・え?
テラシルシーフェレッソ伯爵家の紋章にアドテクノ商会の旗?意味が分かりません。
そんな中です。
そのゴーレムの肩に、人が飛び乗ったのです。
颯爽と、とはお世辞にも言えずヨタヨタ、と。
ゴーレムとその人は、同じ黒ずくめで、その黒いマントが逆風にたなびいて・・・え?
どこかで見たことがあるような・・・。
その人は、腰のバッグからなにやら取り出し、目前に開きます。
そして、おそらくはそのスクロールを持ったまま、そのまま動きません。
「何か・・・魔力が集まっていく。」
「あの一帯の空間が聖別されていくような・・・」
あれは宣誓の儀式です。空間に魔力を集め、かつ、術式の動作を妨げる要素を払い清めるための・・・。
では、それを唱えるあの黒づくめの人は・・・
「叔父様!」
そう、わたしの叔父様なのです!
ですが、叔父様が戦場に立つ、それはあってはならないのです。
叔父様の詠唱はここには届きません。
しかし遠くからでも見えるたたずまいは、魔術の素養がない叔父様が行う儀式の切なさが伝わってくるような気がします。
願っても身につかない魔術、祈ってもかなわない夢、そして本来非暴力主義を謳う叔父様が戦場に立つ、その悔しさ・・・。
みんながあの叔父様のお姿から何を感じるのかは分かりません。
しかし、わたしにはそんなものが感じ取れたのです。
叔父様の眼前に微かな光が見えます。
おそらく起動したスクロールの文字が浮かび上がっているのでしょう。
そして、それは叔父様の詠唱に従って、叔父様ですら未だすべてを知り得ない、失われた古代魔法文字に書き換えられていくのです。
「おいおい、あの魔法円は何だよ!」
小隊長さんが、ここからですらはっきりと見える魔法円を見て声を上げます。
わたしにしても、今まで見たことのない大きさです。
「クラリス・・・あれ、フェルノウル教官殿?」
「はい、リト。あれはスクロールを古式詠唱することによって威力を極大化しているのです。」
リトは必要以上に熱心に叔父様を凝視している気がします。
「・・・えっと、以前「光害事件」で教官が唱えたのって・・・」
「そうです、エミル。あれは初級の「光」。」
あれで学校が休校になり、魔法街区は大賑わいでした。
「あの魔法円は上級術式を超えているように思えるのですが・・・。」
「あの時の初級術式の「光」でも上級レベルの魔法円でした。おそらく叔父様が今から唱えるのは、最近成功した中級術式のスクロールでしょう。シャルノ、ですから、あれは超級レベルの魔法円と推測されます。」
中級術式の古式詠唱はわたしだって、初めて見るんですけれど。
「「エクサスの怪眠事件」では、街の一角が全員眠ったとか・・・」
「デニー、よく知ってますね。あれも初級の「眠りの雲でした。」
人口1万人のエクサス北東の倉庫・問屋街の住民すべてが眠りにつきました。
それが何人なのかは聞きたくも想像したくもありません。
「じゃぁねえ~、クラリス班長。あの魔術ってどれくらいすごいのぉ?」
どれくらい?・・・少し考えて、正直に言うことにします。
「すみません、リル。わたしにも予測不能です。」
叔父様が、戦場でおそらくは攻撃する魔術を行使する、その事実の重大さ・・・15年もの間、これほど近くにいたのに、わたしは叔父様が本格的な攻撃魔術の術式を使った場面を見たことがないのです。
誰かに暴力をふるったことすらありません。そんな方が・・・。
わたしたちがそんな、まるで怪談でもするような、地味に背筋を凍らせる気分を味わっている間に、巨大な魔法円はまばゆく・・・地上に落ちた星のように光を放ちます。
そして・・・
それは轟音を響かせ、巨大な光の一撃となって、数百騎のゴブリンライダーをなぎ倒すのです。
「「雷撃」!」
風の精霊魔術・・・中級術式です。
それを放った叔父様から、地面が一直線にめくれ上がり、焦げ付いています。
そして・・・縦列で味方に襲い掛かるはずだったゴブリンライダーはただの一騎も立ってはいないのです。
巨大な雷の直撃を受けた者は瞬く間に消し飛び、近くにいた者は黒焦げになって倒れ、離れていたはずの者すら麻痺・・・いえ、あれはショック死でしょう。
ピクリともせず全て地に倒れ伏しています。
次に続くのは、完全な静寂。
敵の亜人も、味方でですらも何が起こったのか、理解しきれない、そんな虚無の状態。
「誰だ・・・あんな威力の魔術を使うなんて・・・まるで超級・・・いや秘級魔術師か?」
いえ、違うのです。小隊長さん。
叔父様は魔術を使えない。
ですからそんな言い方は、あの人を喜ばせないのです。
「しかし・・・超級以上の魔術師は、戦場に来ることはありません・・・あのゴーレムだって軍のものではありませんが。」
超級、秘級の魔術師は、もはや国家の宝なのです。
戦場に出て万が一のことでもあってはいけない、そう言う理由で国王の許可が必要なのだそうです。
そもそも魔術を極めれば戦場に出たいなどと思わなくなるのでしょう。
魔術師とは魔術を研究し、世界の深淵を覗く者・・・国や軍に所属する魔術士とは違うのです。
そう言われれば、叔父様は本来の魔術師のようです。
魔術が使えないだけで、叔父様の生き方は魔術師なのでしょうか。
いつに間にか、ゴーレムの肩にいた人影は消えました。
そして、ゴーレムが姿勢を低くしてかがむような姿勢をとります。
その足には車輪が見えます。車輪が回転し、ゴーレムが疾走を始めます。
ゴーレムは砂塵を巻き上げ、敵陣に向かっていくのです。
「班長、あれって、まるで馬のいない馬車みたいだね。」
リルの言う例えは分かり易い気がします。ただ、馬車にしては・・・
「あんな物騒な馬車がありますか!それを言うなら二輪戦車でしょう。」
デニーが叫ぶのも、正しいのです。
大きな剣と盾を身構えて疾走する巨体は、まともにぶつかればトロウルですら跳ね飛ばされるでしょう。
まして、オーク兵など・・・。
ただ一機のゴーレムが走り抜けるだけで、オーク兵の横列は蹴散らされ、壊乱していきます。
まだ味方のオーク兵がいるにもかかわらずトロウル兵が巨石を投じます。
もっともゴーレムの速さに狙いが全く合わず、味方オークの被害を増やすだけです。
ついにはスリングを捨てて、腰に下げていたメイスを装備したトロウルたちが、潰走するオークをかき分け、ゴーレムに迫っていきます。
「あの盾の頑丈さ!さすが我がテラシルシーフェレッソ伯爵家の紋章をかざしているだけのことはありますわ!」
「なに言うてんねん。あのマントをたなびかせて疾走する様は・・・もうえろうカッコええやんけ!」
シャルノとエミルの二人は、なにやら競い合っていますが、数体のトロウルを弾き飛ばし、更に剣で蹴散らしたものの、何重にも包囲されたゴーレムはピンチに見えます。
味方の大隊は未だに動いておらず、思考停止のままの様です。
「援護に行きます!叔父様!」
思わずそう言ったわたしですが、さすがにみんなにまた止められました。
「クラリス。大丈夫なの。フェルノウル教官を信じて。」
レンにはいつから、どれだけのことがわかっていたのでしょうか?
「うん?うまく話せないの。でも、きっと大丈夫。」
さっきとは違って、神秘的な雰囲気は失われています。
むしろ内気ですが無邪気で素直な子どもに戻ったレンです。
そして、そのレンの笑顔とともに・・・
「飛んだ!」
「あんな大きな、重そうなものが・・・」
あれは重力魔法を応用した飛行術式・・・叔父様版「浮揚」です。
ゴーレムは空を飛び、空中から矢を放ちます・・・肩の棒のようにつき出たものは重弩のようです。
もっとも人が撃つ弩弓よりも発射速度が早いのです。
機械仕掛けの強力な弩矢が命中した数体のトロウルが次々と倒れていきます。
更には・・・再び、ゴーレムの肩に黒づくめの人が立ちます。
空中で静止するゴーレムをめがけてまだ無事なトロウルがスリングを構え、石を投じ始めました。
「危ない!」
思わず声を上げてしまいます。
叔父様の近くを石が飛んでいったように見えるのです。
しかし叔父様はあわてずに、あらたに取り出したスクロールを開きます。
「二発目・・・めっちゃ怖い!」
「先ほどの雷撃・・・あんなものがもう一撃。しかも空から・・・まさに天の怒りのようでしょう。」
エミルとシャルノは再び「雷撃」が放たれると思ってたようです。
ですが、違いました。
先ほどと同じような巨大な魔法円が展開した後、空中から放たれたのは、地上に落ちる太陽のような巨大な火球。
「火球!」
・・・雷撃に火球。中級術式の攻撃魔術としては定番とすら言えます。
それゆえスクロールもつくり易かったのでしょうけど・・・。
「あの大きさは・・・「爆裂レベルでしょう!」
超級魔術なのだそうです。
その爆音と衝撃は、離れた場所にいるわたしたちをも震わせる恐ろしいものでした。
その瞬間、あまりの光に思わず閉じた目をようやく開きます。
そこにあったのは、大きなクレーターと焼け焦げた地面、そして、ようやく我先にと敗走を始める敵・・・いえ、もはや敵とすら言えない戦意を失い傷ついた亜人の群れ、そして無数の死体でした。
ゴーレムは、逃げる敵を追うことなく、自らがつくったクレーターの中心に降り立ちます。
そして、静かに立ちつくすのでした。
まるで自らの行いを見定めるかのように。
わたしたちは、そのゴーレムに向かいます。
伍長さんと魔法兵分隊も同行したがりましたが、
「あの人、気難しい上に、コミュ障気味ですし・・・軍人さんが嫌いですし・・・」
そうつぶやくわたしに
「そう言えば教官殿は、初対面の方は大の苦手でしたね。」
「機嫌を損ねるとめっちゃまずいかも。」
「意外に危険。」
そうみんなも合わせてくれます。
結果、随行小隊の方々はこの場で待機。本隊に伝令を派遣するそうです。
「クラリスさん・・・気をつけて!」
「でも、あそこにいるお方は、クラリスさんのお知り合いなんですよね。」
「すごい人っす。尊敬っす。」
ペリオ、サムド、ヘライフの三人は心配してくれているのでしょう。
でもあそこにいるのは、今、自分の行いで深く傷ついている、優しい人なんです。
わたしは叔父様のもとに急ぎました。
近づくわたしたちを、ゴーレムの肩に乗り眼鏡を外した叔父様が眺めています。
せっかくこんなところで会えたのに、なんて無感動・・・そう言いたいわたしがいます。
わたしだって怖い思いをたくさんして、やっとここに来て、叔父様に会えて。
それでも、戦いを嫌い、戦場を厭う叔父様が、亜人ですら傷つけたがらない叔父様が、たった今なした行いとその心境を想像できないほどわたしは愚かでもないのです。
「やあ・・・クラリス。元気そうだね。・・・キミの帰り道をつくりに来たけど、少し荒らしちゃったよ。」
できるだけ普段通りにしようとしているのでしょう。
こんな場所で、こんな時にわたしと会って、どうふるまうべきか、困惑しているのでしょう。
だから今の叔父様ができる、精いっぱいの「いつも通り」。わたしはそれに応えてあげたいのです。
なのに・・・なのに・・・
「叔父様!」
わたしは結局自分の感情を抑えきれず、ゴーレムに向かって走り出すのです。
そして危なっかしくゴーレムから降りた叔父様に抱きついて・・・
「叔父様・・・優しい叔父様にこんなことをさせてしまいました・・・わたしのために・・・ごめんなさい!」
そう言い続けます。
わたしが、わたしたちが帰るためにシーサズ軍港を守る、だから叔父様は、こんなものを持ち出して、あんなことをしたのです。
あれほど争いを嫌うこの人が・・・わたしのために。
ですが叔父様は
「バカだな、クラリスは。キミを助けるためなら僕は世界の一つや二つは平気で壊せる。これくらい、大したことじゃない。戦わなければキミすら救えない、僕が未熟なだけさ。」
そういって、優しくわたしを抱き締めるのです。
少し離れた場所でエミルたちが
「世界の一つや二つって・・・」
「全然シャレになってませんわ。」
「教官なら絶対やる。」
「それだけ大事にされてるんです、クラリスは!」
「あたい、うらやましい!」
「レンも。でもちょっと怖いかも。」
散々言い散らかしていましたが、そんなことは今さらなのです。
叔父様は本当に非常識です。
ですが、戦いを嫌うという一点だけでもわたしは許せるのです。
これほどの力を使いながら、邪悪と言われる侵略者ですら、許し、見逃してしまう、その甘さを、わたしは信じたいのです。
「これは・・・うちの商会が資金提供して・・・」
「我がテラシルシーフェレッソ伯爵家が法律上の手続きその他の便宜を図って・・・」
「メルが唱えた術式で作ったゴーレムなのですか?」
エミル、シャルノ、わたしの問いに、未だ憂鬱さを引きずっていた叔父様が、それでも胸を張ってこう言います。
「こいつは戦闘用有人式ゴーレム、通称ゴラオン。その実験機だ。汎用人型決戦兵器じゃないぞ。」
その後半のものは意味不明ですが・・・兵器じゃない?
そこにヘロヘロになったメルがゴーレム・・・いえ、ゴラオンから降りてきました。
背中に搭乗口があるんだそうです。
メルの頭に上にある犬の耳は、今はペッタンコになっています。尻尾もブラ~ンです。
「ご主人様・・・魔力供給はメルは平気なのです・・・ですが、乗り物酔いはどうにもなりません・・・」
そう言って叔父様にしがみつくのです。
「ああ・・・ゴメンよ。随分走ったり飛んだりしたらね。」
叔父様は優しくメルを抱き締め髪を撫でるのです・・・ムカッ、です。
「魔力供与ですか?ゴーレムなのに?」
デニーが好奇心丸出しで、ゴラオンに取りつきながら叔父様に聞いていきます。
この子は自分に正直で・・・ある意味うらやましいのです。
「そもそも、僕が普通にゴーレムなんか作れるわけがない。」
「メルの術式でも、こんなアイアンゴーレムレベルのものは作れないのです・・・。ですからご主人様はイスオルン元主任から提供していただいた「アイアンゴーレム生成」の上級術式を解体して、3つの術式になさったのです!」
叔父様とメルが道々話してくれたのはこういうことでした。
魔力や情報量、そんなものからすれば上級術式の「アイアンゴーレム生成」ですが・・・。
「まず、「ゴーレム生成」には3つの大きな要素が入っている」
1つ目は、素材を人型にして動けるようにする。
2つ目は、生成時の魔力をもとに半永久的に動く。
3つ目は、製作者の意図に沿って、半自律的な判断力を持つ。
「これを、その要素ごとに分割して、3つの術式に直したんだ。そうすることでバカみたいに大きな必要魔力とか術式の情報量が減る。つまり、再編集して上級術式を中級術式と二つの下級術式にリライトしたんだ。」
解体され、再編集された術式は、上の3つの要素に対応しています。
1つ目。前もって、職人が人型になる部品をつくって、それを術式で組み上げます。
部品とは、人型の関節やそのほかの動作も可能なモノだそうです。
これで部品を量産すれば、同じものが何十体も製作できるのです。
しかも、その形成術式は下級魔術士でも唱えることができるのです。
2つ目。ゴラオンは、最初から有人機としてつくられました。
故に搭乗者の魔力を供給することで、その都度動力を確保します。
この魔力供与の魔法装置も、下級術式によって作動できます。
3つ目。2つ目と関連しますが、人が乗り操縦することで、中途半端な半自律型という知能をなくし、搭乗者の意志を動作に反映させる補助的な能力に限定させます。それでも中級術式になるほどの容量になったそうですが、かろうじてメルが唱えることはできるのです。
これによって中級術式でも鋼鉄製のゴーレム・・・ゴラオンを動かす術式が完成したのです。
ですが、これでは容易に大量生産できます。
あのヘクストスの守護ゴーレムとは全く違うのです。
「叔父様・・・つまり・・・ゴラオンは兵器なのですか?」
最初に見た時の禍々しい印象は、どうやら当たっていたようです。
ですが、叔父様が兵器をつくる?それはありえないのです。
あのセメス川の水源にあるエスターセル湖が、塩の湖となってセメス川ともども生態系を壊してしまうほどありえないのです。
はちみつの湖になるのなら、ちょっとは歓迎したいのですけれど。
「それは違う。僕は自律ロボット兵器を開発して、キミを隠しルート「博士の娘」に送り込む気はない。」
・・・なんですか?その変なルートは?
泥棒さんの最終回?・・・相変わらず意味不明なのです。
「だから、これは武具なんだ。キミを、キミたち守り助けるための。剣と鎧と馬と、そんなものだと思ってくれればいい。」
「武具・・・ですか?」
「ああ。使う者の・・・人の意志で動く武具だ。まだ未完成だけど。そもそも今の段階じゃ、操縦者と魔力供給者の複座式だ。だから大きすぎるし、つくりが無駄だ。」
「・・・魔力の供給者って、退屈で、そのくせ揺れがすごくて・・・散々なのです。」
さすがのメルも辟易した様子です。
それでも叔父様に抱きしめられたせいか少し元気になったようですが。
「だから、最終的には操縦者がそのまま魔力供給を行う。それに、せっかく魔法兵が搭乗するのに今のままじゃ、搭乗したまま魔法は使えない。」
「それでわざわざ肩にのって・・・。」
あの時、空から落ちたらどうするんでしょう、本当に。
ゴラオンのすごさはわかりました。
ただ一機で敵陣を蹂躙しながら叔父様たちが無傷なのはゴラオンのおかげです。
しかし、勝敗を決したのは叔父様の詠唱でした。魔術を安全に行使する工夫は必要でしょう。
「そうなんだ・・・そんなわけで、秋休みから今までかかってようやく形にはできたけど、まだまだ完成には遠い。」
「・・・教官殿、たった一月足らずでこんなものまでこさえておいて、なんで自慢しないんですか?その謙遜はおかしいです。」
デニーがいう気持ちもわかります。それでも叔父様からすれば「まだまだ」なんでしょう。
「んじゃ教官。いつか、これにあたいたちも乗るの?」
無邪気なリルの発言です。
ですから叔父様もつい答えてしまったんでしょう。
「実はそのつもりなんだ。リルルくん。エスターセル女子魔法学園の生徒には卒業後もゴラオンの操縦者として軍の中でもちょっと独立した立場を手に入れておきたいんだ。」
「ご主人様!」
「あ・・・と、今のナイショ。いいや、さっきからの話はぜ~んぶナイショだ。口外禁止!」
なにやら、いろいろ企んでいるようです・・・わたしたちのために。
そういうところはいつもの叔父様らしいのです。
ですから、このゴラオンはきっとわたしたちを守るための武具、そう言う叔父様を信じたいのです。
「ただ、このままじゃ終わらない。このままじゃ巨大ゴーレムなんて夢のまた夢だ・・・だから、この中型ゴラオンを発展させて、将来は五機合体・・・いや、ここにいるみんなが乗り込んで変形合体する七柱合神ゴーレムを完成させてみせる!その日が見えて来たぞ!」
・・・あなたの妄想にわたしのお友達を巻き込まないでください・・・わたし自身のことは半ばあきらめますから。
こんなことでは、本当にこの人を信じていいのか、不安になるのです。
ですから、わたしはため息をついて、額を抑えます。
「クラリス・・・口元が緩んでる。」
リト?これは違うのです。
バカバカしい妄想を聞かされて、つい緊張感がなくなっただけです!
本当ですよ!




