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第8章 そして、戦場へ その1 戦場実習決定?

第8章 そして、戦場へ


その1 戦場実習決定?


 あの翌日。


 寮の方にはリトが「クラリスは親戚の所」っていう、まあ、決してウソではない証言のおかげで処罰を免れました。


「これも日ごろのあなたが築いた信頼のたまものですわ・・・で、まさかとは思いますが、その信頼を崩すようなことはなさっていないのでしょうね!?」

 

 シャルノ?顔が怖いです。そんなに迫らないで!


「何言ってるの、朝のクラリスの幸せそうな顔・・・これはもう乙女を卒業した大人の余裕よ!ねえ?そうなんでしょ?」


 エミル、そのニヤニヤ顔はなんですか、もう。なにが乙女を卒業・・・って、そう言うことですか!


 それはちょっと・・・心臓がぎっちょんって!


「クラリス班長・・・まさか・・・今までは名目だけで「事実」がなかったんですね!」


「デニー、「事実」って何?」


「・・・リルも?レンも知らない。デニー教えて?」


 シラなくていいんです!子どもは!クラスでも特に小柄な二人には不似合いです。


「クラスメイトをお子様扱いですか。これはもう自白したようなものね!」


 そこの探偵気どりは、男女関係を詮索しすぎです。それでは醜聞記者です!




 そんないわれのない誤解を解きつつ、ホームルームが始まるのを待ちます。


 昨日学園でまた爆発騒ぎがあったとか、緊急保護者会があったけど何も知らされてないとか、一部の生徒が暴動を起こしたとか、いろいろな噂がみんなの中で飛び交っていたようです。


 最大の話題はリトのベリーショートがとても似合うってことでしたけど。


 そして、ワグナス教官が現れました。


「今日の午前中は校内の清掃・修復をお願いします。教官たちは昨日に引き続いて会議です。」


 一瞬のザワツキの後。


「教官殿、質問があります!よろしいですか?」


 一番質問が多いシャルノが大人しい・・・シャルノも昨日の当事者・・・ので、クラス委員長のヒルデアが挙手します。


 青い髪を短くした、ボーイッシュな子です。


「ボク、昨日の会議で結論が出て、今、その決定を聞くんだって思ってました。なんでまた会議をなされるんですか?・・・しかもボクたちが修復作業って・・・ひょっとして噂の生徒の暴動って本当だったんですか!?」


 ・・・これは、聞きたくもない展開です。関係者一同、アイコンタクトで「ヤバ」って感じです。


 でもあれは暴動ではありませんよ!正義を訴える・・・そう、義挙というものです・・・って言える訳もありません。

 

ワグナス教官は何も答えず「これは決まったことです!午後は、校舎外の小演習場に集合。そこでお伝えします!」と繰り返します。

 

 這う這うの体、とはまさにこの様子なのでしょう。


 教官殿は集中攻撃を浴び、被弾しながらも、かろうじて撤退いたしました。


 それにしても、作業の割り当てすらロクにしないままの退室です。

 

 ヒルデアとシャルノたちクラス委員が中心になって、実習の班ごとに作業区域を割り当ててくれました。


 2班は・・・模擬演習室ですか。シャルノがウインクしてきます。

 

 たしかにあそこの担当は、事情を知っている・・・露骨に言えば全員当事者の・・・わたしたち2班しかないでしょう・・・大変ですけど。


「じゃあ、2班、模擬実習室に移動開始よ!」


「了解!」


 幸いみんなの士気は高いようです。士気はその戦力の三分の一を占めるそうですから、まずは安心です。


 わたしたちは、駆け足での移動を終えると、早速武器・・・ではなく清掃用具の点検を始めます。


 そして被害状況の点検・・・。


「まさかここを清掃することになろうとは・・・知っていたらあんなに簡単に壊さなかったのに・・・。」


「名探偵さん、考えが甘かったのはあなただけじゃないわ。でも、どうせここの修理は叔父様がなさることですから、大きな破片を集めて、小さいのは廃棄しましょう。」


「クラリス・・・隠さない?」


「なに、リト?・・・あぁ、人前で叔父様って呼んだこと?授業中じゃないし、いいんです。」


「むふふ、やはり二人に進展が?」


「しんてん?」


「・・・なに?それ?」


「もう、みんな・・・じゃぁ、午前中にここの清掃作業と可能な修復が終わったら・・・」


「まさか?」


「昨夜、わたしと叔父様の間に何があったか、教えてあげる!」




 ・・・あんなので、ここまで張り切ると予想外です。もともとやる気のある子たちでしたけど。


「魔法装置・・・破片OK、塵芥OK」


「演習場・・・道具の収納OK。清掃OK。白線は・・・なしでもいいでしょう。OK」


「用具室・・・そう言えば昨日荒らしたわね・・・でも整理整頓OK、清掃OK」


「装備室・・・OK」


 ・・・All OKです。なんなんでしょう、このやる気は?


「実はちょっと気になる」


 リトまで・・・。そう言えば・・・


「リト、昨日の叔父様とのお空のデートはどうだったの?」


「ク、クラリス悪趣味!メルも一緒、意識なかったけど。」


「あ・・・ゴメンなさい。」


 またやってしまいました。少し調子に乗ってるんでしょうか、わたし。


 でも真っ赤になったリトの反応は・・・チクっとします。


「それで?」


「それでって・・・なに、デニー?」


「だって、班長、今朝約束したじゃありませんか!?」


「うんうん。」


「・・・した。」


 全く、みんなも。


「・・・別に。最初にお茶を淹れていただいて・・・クオリティーシーズンの北紅玉茶を。」


「・・・うわ、飲みたい・・・」


 レンはお茶が好きでしたね。北紅玉茶は特に・・・今度またポッドに入れてもらおうかしら。


「それと、麦がゆを作ってくださって、あと、キッシュも。」


「教官殿、料理上手すぎだよ・・・班長、いいないいな。」


 リル。でも叔父様以外で料理をされる男性って、「れあ」っていうんですよ。


「さらに、ワインにはちみつと果汁に炭酸水をくわえて、魔法で冷やしてくださって・・・とてもおいしかったです。」


「大人です!さすが、フェルノウル教官殿は大人!」


 ワインのあんな飲み方は、わたしも知りませんでした。


 そう言えば一緒にお酒を飲んだのって、昨夜が初めてだったんですね。今頃気づきます。


 そうか。初めて・・・。ふふ。ちょっと今さらドキドキです。そのせいで、ちょっとイタズラです。


「そして・・・なんと、困ったことに!」


「ことに?」


「お部屋には、小さなベッドが一つしかなかったの。」


「「!!!?」」


「「・・・?」」


 ここで、リトとデニー、リルとレンの二組で反応が別れました。でも


「この後は、ナイショ!」


「それはズルイ、班長!」


「だって、全部教えるなんて言ってないわ!・・・2班はそのまま駆け足でホームルームへ移動!」


「了解・・・でもズルい!」


「大丈夫よ、わたしが突きとめて見せるわ・・・真実を!」


「まったく、この醜聞記者。そんなことを調べるなら今やってる会議の内容でも調べなさい!」


「許可がいただけるんですか?」


「正式な許可なんて下りるわけないでしょうに、もう。」




 午前が終わる間際に教室にワグナス教官がやってきます。


「午後は、え、演習室使える?」


「はい、2班作業終了しました!」


「では、生徒は午後の始業には模擬演習室の演習場で、班ごとに整列して待機すること。」


「はい。」


 終業のチャイムでわたしたちは一斉に食堂に向かいました。




 エミル、リト、それに最近すっかり一緒のシャルノの4人で昼食です。今日は食堂も清掃などに追われたのか、いつもよりは品数が少なかったのですが・・・。


「お菓子あるから、いいわ。プリンよプリン!」


「うん、量もこれくらいでいい。」


「プリンですか・・・プリンでごまかされるのですか・・・。」


 まあ、悲喜こもごもです。今日はクロワッサンに卵とソーセージ。


 野菜スープ。そしてプリン。みんなも喜んでるのなら、いいのでしょう。


 わたしもおいしくいただきます。

 

 ですが、昨夜のことをリトがエミルたちにばらし「その後のベッドはどう使ったか」って食い下がる三人。


 これは困りました・・・あれ?食堂を見回すとリルとレンが一緒ですが、デニーがいませ・・・まさか!

 

 わたしは食事を中断し、会議室の方へ・・・そして途中の廊下で、デニーの肩を抱きながら歩く困った顔の叔父様の姿が・・・デニーもわたしに気づいて目をそらしました。


「なるほど。キミの指示か。ク・・・っと、フェルノウルくん。」


「違います。フェルノウル教官殿!わたしの独断です!班長は無関係です!」


 ・・・どうも、デニーは本当に会議の情報を探ろうとして、叔父様に見つかってしまったようです。


「フェルノウル教官殿。2班班長クラリス・フェルノウルです。わたしが不適切な指示を与えたことが、生徒デニスに誤解を与え、軽はずみな行動に走らせたと推測します。責任はわたしにあります!」


「クラリス班長・・・」


 デニーのメガネが曇って、本人も下を向いてしまいました。


「やれやれ・・・キミと軍隊ごっこはこりごりだよ。いいかい、二人とも。よく聞いてくれ。」

 

叔父様はデニーの拘束を解き、わたしたちを人気のない校舎裏に連れて行きます。


「軍も一枚岩じゃない。いろいろな考えがあり、立場がある。その意味じゃ、自分独自の情報をつかもうとすることを、僕は一概には責められない。」


「叔父様。」


「教官殿・・・」


「ただし、特に戦場で、危険になればなるほど、情報も価値は大きくなり一方その対価も大きくなる・・・見つかったら死刑もありうる。」


「死刑・・・。」


「ひっ!」


「ま。そのへんは「軍法」の授業で一通りは習うだろうけど・・・要は油断するなってことだ。そして、情報を欲する時は常にそのリスクを考えて行動しなさい。いいね。」


「「はいっ、教官殿!」」


 わたしとデニーはそろって叔父様に敬礼します。


「・・・なるほど、おっさんが言うわけだ。へたくそって・・・実習に行く前に敬礼くらいはちゃんと練習しておきなさい。」


 え?


「それは・・・教官殿・・・」


「おっと。今の失言は忘れてくれ。下手すると僕が情報漏洩罪だ。もっとも僕はこの後、メルを迎えに行くから午後はいない・・・キミたち、広めるのはせいぜい昨日の関係者までにしておきたまえ。」


「はい、叔父様!」


「了解です、教官殿!」


 こうしてわたしたち、エスターセル女子魔法学園の戦場実習の決行が知らされたのです!




 わたしデニーはすぐに食堂に戻り、エミルとシャルノ、そしてリト、リル、レンに知らせます。でもわたしたちが喜んでいたら・・・


「キミたち、どうしたんだい。随分ご機嫌じゃないか?ボクたちにも教えてくれたまえ。」


 ってヒルデア委員長が・・・。


 困ったシャルノが


「委員長、頼みますよ、口止めされているんですから・・・。」


 と言って耳打ちしたのですが・・・


「なんだって!実習の決行が決まった・・・って、いつ中止になってたんだい!?」


 ああ~~そう言えば、昨日の会議で中止に決まってて、その後情勢をひっくり返して決行になったっていう経緯を知らないと、そうですね・・・。


 ただ、一部保護者には不穏な書状が出回っていますし、勘のいい人は知っているかも。


「・・・まぁよくわかんないけど、実習が行われるのはいいことだ。決まったって聞いた瞬間、ボクたちみんなで、敬礼でもしよう!」


 敬礼ですか・・・昨日もイスオルン主任に下手って言われて、今もあの叔父様に下手だって・・・。


 結局妙に乗り気のヒルデアにみんな乗っかって、セレーシェル学園長から


「今年の戦場実習は時期尚早という反対意見が根強くあったのですが、最終的に決行することがきまりました。」


 と言った瞬間にみんなで敬礼をしました・・・。


 ええ。それはそれは不揃いで、惨憺たるもので。


 この日の集会の後は臨時の追加指導で、「敬礼」をみっちりと学ぶことになりました・・・。


 でも、これ、戦場で役に立つんでしょうか?


 ・・・もう日が暮れます。


 今レンが泣き出しました。


 リルが敬礼する度、身長に不似合いな・・・ム・・・が揺れます。気になります。


 リトとシャルノは上手です。わたしもまあまあ。


 ですが、エミルとデニーがダメ組で・・・特にデニーが。


「まさかわたしが会議を探ろうとしたことがばれていて、それでわたしだけこんなに指導が厳しいじゃ・・・」


 名探偵さん、想像力を働かせる前に鏡を見なさい。ちゃんとへたくそですよ・・・。


 こうして、戦場実習実施が決まった日、わたしたちへの指導は今まで以上に徹底して行われたのでした。


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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