第7章 その9 目覚めた時に
その9 目覚めた時に
作っていただいた麦がゆは、以前のものと少し味付けが違っていました。
「そりゃ、寝る前の女の子にガーリックが強いものはちょっとね。かわりにチリペッパーを少々。オリーブオイルは・・・。」
途中から分からなくなります。あまり料理は詳しくないのです。
それでも「おいしい」という事実に変わりはなく、わたしは食欲がないと言ったことを忘れ、お替りまでしてしまいました。
しかも、キッシュを温めていただいて、好きなイノッサル産のワインをはちみつや炭酸水で割って、魔法の冷風で冷やした飲み物・・・ワインパンチ・・・までいただいて、すっかり幸せな気分でした。
「叔父様は・・・こんなに何でもお出来になるのに、なんでひきこもってばかりなのですか?」
酔いが回ったせいでしょうか、今日何度目かの、軽はずみな発言!思わずはっとしました。
もっとも叔父様は、ご自分のことに関してはさほど気にやまないお方です。
これが先ほどのようにメルや・・・わたし・・・に関わることで、相手を傷つけること、自分を貶めることであれば、見逃せないお方でもありますけど。
「・・・・・・うまく言えないよ。でも、僕にはできることよりできないことのほうがはるかに多い。特に人間・・・人の世・・・で生きていくには、ね。」
思わず胸を突かれます。一見叔父様は多才に見えます。
ですが、それは全て一人でできることに限定された才能ではないでしょうか?
一方で、人とかかわって生きていくために必要なものは、驚くほど欠けているように思えます。
それはよく言えば協調性や社交性、悪く言えば打算や表裏、そう言えるものかもしれません。
「まぁ、でも別に世の中に興味はないさ・・・ただ、今日、あのおっさんに言われたことは、ちょっと響いた。」
世の中に無関心過ぎて、叔父様はご自分の研究の成果がどれだけ世の人々を惑わすのか、気づかなかったのです・・・叔父様にとっての「オモチャ」をめぐって、今日学園にいた多くの命が奪われたかも知れない、そんなことが起きるまでは。
その騒ぎで、ご自分の半身とすら言えるメルを傷つけて。
それで、ようやく叔父様は、ご自分の行いを振り返ったと言えるでしょう。
「だから半端に世に出て、半端にひきこもって・・・結局一番悪いのは僕かもしれない。」
そんな、絞り出すような述懐を聞いて・・・。
「あ~っ!それは止めてくれ!キミに泣かれるのが、僕にとって一番つらい!お願いだ、もう弱音なんか言わないから!」
「それは違います!叔父様はそう言っていつも本当のことを言わないで、傷ついて・・・苦しんで・・・でもつらいのに弱音も言えないんじゃ・・・あんまりです・・・お願いします、わたしにだけは・・・わたしにだけは言ってください。」
「僕はキミを泣かせたくないんだ!キミを守るなんて言っておいて、いつもキミに心配ばかりかけて・・・あんまりだ。僕はホントにダメなんだ。だからせめてキミの前じゃ、情けないことを言いたくない。」
「一緒に泣いてはいけないのですか!わたしは、わたしこそ、いつも叔父様に助けられてばかりで、叔父様を苦しめて、それなのに何にもできなくて・・・せめて叔父様と一緒に泣くことはだけは許してもらえないのですか!」
わたしたちは、そう言い合ってしばらくにらみ合いました。
そして、どれくらいたったでしょうか?時刻を告げる鐘が聞こえます、もう十時でしょう。
「・・・なんか半年くらい前にも、似たようなことをしたような気がするよ。」
叔父様が疲れたようにつぶやきます。
「ええ。きっと三月のあの日と同じですね・・・叔父様。結局叔父様はイスオルン教授と同じなんです。」
教授は、わたしたち女が戦争に、社会に参加することに反対なお立場の方でした。
「・・・自覚してる。おっさんほどじゃないが、僕もキミが、生徒のみんなが戦場に行くのは反対だ。女の子も守れないんじゃ、僕たちの価値は何もなくなる。」
「じゃあ、わたしたち女は、みんなが死んでいくのをただ見ていればいいんですか!あの5年前の邪赤竜の襲撃のように・・・弱いことを言い訳に、ただ、叔父様に、好きな人に守ってもらうだけで、なんの助けにもなれず、むしろ足手まといのままの・・・・そんな子どものままでいればいいんですか!」
「違うよ。キミは足手まといなんかじゃなかった。いいかい、キミがいたから、キミを守りたいから僕はあの日は走り続けることができた。窓を突き破って、屋根から屋根にとびうつって、全部キミを守りたいからさ。キミがいなかったらむしろ僕は死んでいた。」
「じゃあ、もしまた同じことがあったら、わたしに何もするなって言うんですか!全部叔父様がしてくれるから、わたしはその通りにしているだけでいいって!」
延々と、同じことの繰り返し。
わたしを大切に思い、守ってくださるという叔父様の想い。
いつまでも守られるだけの、弱いままではいたくないというわたしの想い。
おそらく5年前から生じた、ささやかなすれ違い。
それはわたしが長じるにしたがって、次第に大きなものになっていて。
わたしは、きっと叔父様が大好きで、叔父様もわたしをとても大切にしてくれて。
それでも・・・それだからこそ、この溝は一向に埋まらないのです。
夜が更けて、もうすっかりワインの心地よい酔いも飛んでしまって。
「もう、やめないか。今日の所は。・・・とりあえずだけど、僕があのおっさんと違うのは、キミが望むことを、僕が力ずくで押さえつけることはしないってことだ。」
こういう申し出が出る分、口惜しいんですが、この人の方がわたしよりは大人なのでしょう。ちょっとだけですけど。
「・・・ええ。今日の所は。わたしも、叔父様が、わたしが本当に目指していることを止めるようなお方ではないと信じています。」
そのあと、たっぷり10秒はにらみ合って、わたしたちは同時にため息をつくのです。
「「まったく頑固なんだから。」」
そして、そのつぶやきが二人の口から同時に漏れて、思わず目を合わせて。
その後、二人で、お互いの顔を見つめ合って、一緒に笑ってしまいました。
叔父様はしばらく食器やらの片づけをして、ふと思いついたように背中越しにわたしに声をかけたのです。
「そろそろ帰るんだろう。寮まで近いけど、一応送っていくよ。」
こういうところが世慣れていないというか、気の回し方が一周遅れているというか・・・。
「寮は門限をとっくに過ぎていますよ、叔父様。わたしはもう帰れません。」
「ええっ!?じゃ、今夜はどうするんだい!」
そんなに大慌てて戻らなくても。
「今夜はここに泊まらせていただきます。エミルたちもそう伝言していたんでしょう?」
「いやいや・・・っていつの間に着替えてるんだよ。パジャマ持参なんて計画的な。」
わたしの計画じゃありませんけど。
「いいじゃありませんか。今日はメルもいないんですから、久しぶりに一緒に・・・」
「何を言ってるんだ!もう15歳なんだろ、大人なんだろ!子どもじゃないんだろ!」
「ズルいです、叔父様!こんな時ばかり大人扱いして!」
「それはキミのほうだ。こんなときだけ子どもに戻るな!」
なんて、またまたにらみ合いです。ですが今度は長く続きませんでした。
「クシュン!」
わたしがくしゃみをすると、叔父様は一変します。
「ああ。もうパジャマのままじゃあ・・・仕方ない。今夜だけだぞ。義姉さんに知られたら殺される。兄さんにだって怪しいもんだ。」
こうして、わたしたちの戦いは久し振りに決着がついたのです。
でも、わたしは知っています。
どんなに対立しても、叔父様がわたしの味方であることに変りはないのです。
この先も、なにがあろうとも。
しかし、最後になっても叔父様はなかなか抵抗を止めません。
往生際が悪いというか、まったく、子どもですか?
いえ、子どもでないから抵抗するのはわかるんですが。
「ダメだ。僕は外で寝る。」
「叔父様こそダメです!外の教官室は扉すら壊れたままです。」
って言ってはモメて、
「僕は床で寝る。これが最終ラインだ。」
「ダメです。毛布だって1セットしかないんですから、風邪をひきます。」
って、またモメて、
「叔父様、それではベッドから落ちてしまいます。」
「だからって、くっつき過ぎだ!」
って。まあ、わたしもこの件に関しては自分が非常識な自覚はあるんです・・・ホントですよ。
ですが、今日、めったにない二人きりの夜。実行しなければいけない計画を思いついたのです。
おそらく叔父様と一緒に寝るのは10歳の時以来でしょう。
その年だって、そう頻繁にはそんなことはしませんでしたし、さすがに5年ぶりともなればわたしも、いろいろ成長しているのです。
しかもこのベッド、小さいです。
「叔父様・・・いつもはメルとこんなにくっついてお休みになるんですね。」
「・・・ノーコメントだ・・・いや、やましいことは何もない。」
それはわかります。逆にメルの方に同情したいくらいです。
それでもようやく互いの妥協点にも決着がついたころ・・・と言っても今回は圧倒的にわたしが優勢・・・です。
「さて・・・叔父様。わたしが6歳の頃にした約束、憶えていらっしゃいますか?」
「僕がキミとした約束を忘れるはずがない。」
・・・一部誤解したのがありますけど。まあ、今はいいです。
「・・・って6歳!?あれか?・・・あれはダメだ。もう10年近く前じゃないか!・・・それで、こんな強引な手を!? 」
「覚えくださって、とてもうれしいです。叔父様。」
「図ったな、クラリス!」
わたしが6歳の頃。
当時は文句なしの叔父様っ子のわたしでしたが、あるつまらないことで機嫌を損ねてしまったことがあります。
それは叔父様の話すことが時々意味不明で、それは子どもだからわからないという類ではなく、父や母、祖父母ですら、全くわからない例え話や言い回しが多すぎて、わたしがそのことを叔父様に問いただしたのです。
だって、知り合いの結婚式に行っては
「やっぱりあのマントの中にはロケット花火がなきゃダメだよ。」
とか、乗り合いの馬車を見ては
「赤く塗りたい!3倍速くなるか試したい!」
とか、わからないことばかり言ってて。
「その例えに出てくる人はどんな人なの?」
「どうして、そんなわからない話し方をするの?」
聞いても叔父様は答えてくれません。
「どうして叔父様だけ、そんな言い方をするの?」
って聞いても無言です。
最後には、わたしは叔父様に意地悪されたと思って泣き出したのです。
その日、叔父様はわたしの父と母にちゃんと断って、わたしを叔父様のお部屋に連れてきて、一晩かけて大切なお話をしてくれました。
「僕は・・・この世界で生まれる前のことを覚えているんだ。」
そう。自分が異世界転生者と言われる存在であることをわたしに話してくれたのです。
その時わたしは叔父様にある約束をさせたのです。
「もしも、わたしに言いにくいことがあっても、こうやって一緒に寝た時にはこっそり教えてね・・・。約束よ。叔父様。」
「・・・僕は嘘なんてついていないぞ。」
「それは信じています。叔父様。ですが・・・お聞きしたいことがあるのです。」
実はわたしだって、心臓がどきどきしています。
きっと今夜は眠れないでしょう。
別に不安とかじゃありませんけど。それでも、聞きたいのです。
「叔父様の・・・前世ってどんな方だったんですか?」
この世界でもこんなに不思議な叔父様です。
さぞかし前世でもユニークで、楽しいお話が聞けるのでは・・・今にして思えば、やはりわたしは子どもだったのです。
こんな約束、叔父様が苦しむのなら、破ったんて構わなかったのです・・・そういう後悔をわたしはまたしてしまうことになるのです。
叔父様は長い沈黙の後、こう話しだしました。
「僕が前の世界を去ることになったのは・・・自ら命を絶ったからだ。ぼくは自分の人生から逃げ出した最低の卑怯者だ。」
「僕は・・・前の世界でも、たいした取柄がない、普通の男で、特に夢や希望があったわけじゃないし、なりたい職業があったわけでもない。
それでも仕事について頑張っていた。
でも、その仕事は自分に向いてないっていうか、全然あっていなかったって言うか・・・つらいだけで、まわりにバカにされて、やめた方がいいなっていう仕事だった。
それでも、それじゃだめだって思って、向いてないからって簡単にやめちゃダメだって思って、結局やめる勇気もなかった。
それでも、苦手なことを一つ一つ克服して、認められてきて、自信もついてきたけど、ちょっと結果が出るとすぐに転勤を命じられて。最初は、何が悪かったんだろう、次こそ頑張ろうってまた新しい職場で打ち込むんだけど、他の人が何年も変わらないのになぜか自分だけまた転勤・・・そんな事が、三回、四回って繰り返していって・・・。
転勤する度に、なれた部署をまた変わって、人間関係を作り直して、新しい職場で認められるために一番苦しい区域を担当するようになって、気が付けば、自分の生活なんかどこにもない。
朝は早くて、夜は遅くて、休日はないのが当たり前で。好きな本も漫画も、見たいアニメも映画もドラマも、やりたいゲームも、どんどんたまっていくだけで。
買ったって積んでるだけの本、録画したって、BDに落として見てもいない番組。そんなものばっかりで。
いつしか、僕は何のために生きてるんだろうって、こんな生活に価値があるのか?僕に価値があるのか?・・・もちろん仕事は大切で、僕も頑張ってきてそれなりに認められてきたけど、でも、僕の仕事に価値はあっても僕自身には価値がないじゃないか・・・。
僕は段々と、黒くゆがんでしまった。
仕事を頑張るほど、頑張っている自分が憎くて仕方なかった。
自分なんかどうなってもいい、そう感じることが増えた。
すると、しだいに自分の弱さを抑えられなくなってきた。
気が付けば、僕は悪いことをして、結果、多くの人を裏切っていた。」
聞いてはいけないことを聞いてしまいました。
わたしは、何も考えずに叔父様の最もつらいことを聞いていたのです。
「・・・叔父様・・・では、それで・・・」
叔父様は、とてもやさしくお笑いになって、思い出したようにわたしの髪を撫でてくれます。
でもそれがとても悲しいのです。
「いいや。僕はその時、生きることにした。・・・このまま死んでは、僕は何のために生まれて来たんだい?自分に絶望して、多くの人を裏切って、やりたいことも見つけられなくて、そのまま死ぬのはイヤだった。だから残った時間で、自分のやりたいことを見つけて生きなおそうって思った。」
「叔父様?では・・・」
「その後だ。さすがに2年ほどは引きこもって、それでも何とか自分のやりたいことを見つけ始めて・・・そんな時、駅で知り合いに会ってね・・・ああ。僕がその信頼を裏切った人さ。その人は僕を見て、怒って、罵った。あれほど信頼していたのに、なんであんなことをしたんだって、みんながどれだけ迷惑だったかって・・・僕はそれに耐えられなかった。せっかくの自分の生きなおそうっていう決意もあっという間に消し飛んで・・・衝動的にホームに入ってきた電車に身を投げた。」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・叔父様・・・こんなことを聞いてしまって・・・わたし・・・本当に・・・」
人の過去を、しかも前世というどうしようもないものを聴いてしまった、わたしはどれほど愚かだったのでしょうか。
ひたすら叔父様に謝ります・・・もう、なんでこんなにわたしはおろかなのでしょう?
次から次へと叔父様を苦しめてばかりで・・・どれほど泣いても、たとえ叔父様が許してくださってもわたしは・・・。
「誤解しないで、クラリス。キミに話したのは・・・話したくなったからなんだ。キミに聞いてほしくなったんだ・・・特に、これからする話を!」
「これから?」
「そうさ。僕がこの記憶を持ったまま、この世界に来てからさ。」
泣いているわたしを抱きしめながら、叔父様は、静かなお声のまま話を続けます。
「僕は、この世界に生まれ変わって、最初は何も変わらない子どもさ。兄さんはエラそうだったけど、父さんも母さんも優しかった。
ただ、物心ついたころに、やっぱり前世の記憶が戻っちゃってね・・・最初は絶望したよ。
なんで生まれ変わってまで、こんな記憶が付いてくるんだ、記憶が残ってるってことは、前世の罪も残ったままってことかって・・・。何もかも忘れて生まれ変われていたら、どれだけよかっただろうって、ね。
この世界で生きなおそうとしてあこがれた魔法も、身につかない。
それでも必死に勉強して、魔法文字の在り方や術式や書式も、随分分かった気になって、それで受けた魔法学院もやっぱり落第して、挙句にミレイル・トロウル戦役で、大勢人が死んだ。
その中で生きてる自分ってホントに何なんだろうって。
生まれ変わっても魔法も使えないのに、あの戦争でたくさん死んで、何のために生きてるんだろうって・・・。」
叔父様?叔父様がわたしをまっすぐ見つめています。とてもやさしい、夜の色の瞳です。
「ボロボロになって戦場から帰ってきた日に、僕はキミと出会った・・・と言ってもキミは生まれたてだからね、憶えてなくて当然さ。
だけど、生まれたばかりのキミが、とってもきれいで、かわいくて、僕があこがれていたあのお姫様にそっくりだって思えて、そんなキミが僕なんかを見て笑ってくれたんだ。
だから、この子が幸せになるんだったら、僕は何だってできるぞ、そう素直に思えた。
そのためにこの世界に来たんだって・・・僕はそう思うことにした。・・・不思議だな。
そう思うと、今までのつらいことやイヤなことがみんな無駄じゃなかったんだって感じられた。
だから、僕はあの日からずっと幸せなんだ。
キミが大きくなって、僕をさけるようになって、それでも・・・すこしはさびしかったけど、でも幸せさ。
だから、もしもキミが強くなって、僕なんかの力はいらないって思っても、僕はキミを守り続けるよ。
どんなにお節介でも許しておくれ。」
そう、叔父様のお話は締めくくられました。
前世のことで始まり、でも、今につながる大切なお話でした。
それは、わたしを守ってくれると誓った叔父様が、わたしと出会うための物語だったのです。
決して眠れない夜になるだろう。
そう思っていたわたしですが、いつの間にか目が覚めました・・・目が覚めた、と言うことは寝ていた、と言うことです。
もう夜は明けていました。
薄明るい光がカーテンから部屋に差し込んで・・・わたしは昨夜のことが夢でないことを確信します。
わたしは叔父様と同じベッドにいたままです。
なんと、わたしはしがみついたまま寝ていたようです・・・今になって考えると、よくもまあ、あんなはしたないと言うか、ふしだらと言うか、勇気があるというべきか・・・。
わたしは一度叔父様の胸元にほおずりしてそっと顔を上げます・・・反応なし。
叔父様はまだ寝ているのです。
あれだけ寝る前に騒いでいたくせに、結局は熟睡。
さすがは叔父様です。
二つの世界で生涯DT聖人を貫き、次の転生で魔法使いになるという不毛な願掛けをしているだけのことはあります。
でも、ふふふ。
なんだか、とっても幸せそうな、子どものような寝顔です。
目が覚めた時にこんな寝顔が見られると、なんだか今日はいいことがありそう、そんな気がしてしまいます。
わたしは、だれもいないはずの部屋を一度見回して、素早く横顔に口づけをしました。
じつは叔父様はキスがお嫌いの様で、わたしが父や母とキスする光景ですらバツが悪そうにしています。
起きていれば決してできなかったでしょう。
寝ている叔父様の油断。そう言うことにします。
あ!そう言えば・・・イスオルン教授が最後にわたしに託したもの・・・それは小さなカギだったのですが、わたしには何の鍵なのか分かりません。
何より、教授は、わたしを通して叔父様に手渡したかったのではないでしょうか?
そう思ったわたしは、そのカギを寝ている叔父様の手に握らせることにしたのです。




