第6章 その5 2班の正念場
その5 2班の正念場
「クラリス、意見具申よ。あの茂みに伏兵がいるかもしれない。」
「さすがデニス。じゃあ、その場合はリルルが『眠りの雲』を、レンネルはわたしに『防御』をかけて。距離に気を付けて。デニスは周辺警戒をお願い。『敵検知』は使えた?」
「大丈夫、昨日覚えたの。」
得意げなデニスのメガネが怪しく光ります。
「えらいです・・・リト、『敵検知』の後のデニスの指示で対象を攻撃。」
「了解。」
わたしは隊の中央で、デニスが隣。デニスには味方が困りそうな場面を考えてもらっています。
もともと推理は得意な頭のいい子です。
情報と目的がはっきりしていれば迷わず動けます。
戦術的な判断もできるようになりました。
リトは斥候役。全てに優秀な彼女には、先行して隊の進路を調べ敵がいたらどうするかの判断をまず任せます。
二人相手くらいなら一人で無力化してくれますし、大勢なら撤退し、わたしに情報を持ち帰ります。
デニスが「敵検知」の後、敵の位置を石板に書き込みながら、わたしに伝えます。
「やはり伏兵よ・・・あそこに4体。でも、正面の森林からも4体接近中。距離は200。」
今は2班単独での偵察任務。
この草原を越えて、森林の敵を探らなくちゃいけない。
でも、もう発見されたからには、撤退か、あるいは・・・。
「一戦して、敵の戦力を見極めます。できれば捕虜をとって。リルル!レンネル!」
「うん!」
「・・・はいっ!」
リルルは初級呪文しか身についていないけど、通常詠唱で焦らなければ「眠りの雲」を使って、敵の一団を先制することができます。
それに最近魔力量が上がってきているので、呪文使用回数はけっこうあるんです。
リルルは小柄な子ですが、その身長のわりに・・・一部分発育がよろしくて、魔術動作のたびによく揺れます。ム・・・が、です。
レンネルは人見知りで怖がりですが、指示されたことには一生懸命です。
意外にも覚えた術式はそれなりに多いのです。
緑がかった金髪の、リトよりもさらに小柄でメルと同じくらいの年恰好にすら見えます。
そのレンネルが懸命に術式を唱えます。
かけてもらうわたしがつい応援したくなるくらいの健気さです。
二人とも具体的な指示を出してあげることで、かなり落ち着いて行動しています。
呪文成功率も段違いに上がりました。
まずリルルの「眠りの雲」が見事発動します。
魔法抵抗に1体成功していますが、デニスが「リト、一体残った。駆逐して。」と指示します。
わたしはレンネルの「防御」呪文の成功を褒め、ついでリトの支援に向かいます。
もっともリトは瞬殺。ついでに眠ったゴブリンを縄で縛りつけてます。幻影相手に格好だけですけど。
「さすがね。今度はわたしたちがここで伏兵よ。」
デニスがリルル、レンネルを率いてオトリ役をしてくれます。
そして4体のゴブリンが近づいたら、リルル、レンネルが十分に魔力を込めて「眠りの雲」。
デニスはその様子を見極めてわたしたちに伝えるはずです・・・。
「敵の反応消失。クラリス班長、全員眠ったわ。」
ホッです。
「伏兵、出番なし。」
「いえ、捕虜の確保よ。偵察なんですから。」
「2班。偵察任務成功。損害なし。」
この日、わたしたちは、各班の単独偵察任務という演習で、クラス全体の今期最高の成績でした。
「クラリス!」
4人・・・リト、デニス、リルル、レンネル・・・みんなが集まって大喜びです。
あの日。
わたしとリトは、エミル、シャルノと別れた後、デニスとリルルを追いかけました。
さらにレンネルを探し出し・・・わたしたちの勢いに押され怖がっていましたが・・・5人で叔父様から頂いたロールケーキと北紅玉茶を囲んでお茶会をしたのです。
そう。叔父様がくださったセットは5人分。
自分たちの班のことを、班以外の友達や教官と話す前に、まず仲間同士で仲良くお茶でもしながら話せ、ということなのでしょう。
そう悟ったわたしはリトと一緒に、デニス、リルル、レンネルとゆっくり話すことにしたのです。
そして、わたしは自分が情けなりました。
自分たちの班がうまくいかなくて悩んでいるのはわたしだけでも、リトだけでもなかったのです。
デニスも、リルルも、レンネルだってみんな悩んでいたのです。
それなのにわたしはいつもエミルやシャルノたちとばかり話をしていて、気が付けば、3人がどんな思いでいるのか、それどころかそもそも3人の得手不得手や性格すら考えず、自分ばかり必死になっていた・・・いえ、そのつもりだったのです。
「ごめんなさい!みんな必死だったのに、みんな悩んでたのに。わたしはみんなに相談もしないで・・・。」
「ゴメン。自分も。」
「・・・クラリスもリトも頭を上げて。」
「だれも悪くないよ。」
「・・・うん。レンも・・・レンも頑張るから!」
お互い、じっくりお話して、それからは5人で自分のできることや相手にしてほしいことを話し合いました。
その後は、中庭を使って、みんなで行動する練習をしました。そして日も暮れて、生徒の退下時間です。
わたしたちはそれなりに手ごたえを感じながらも、名残惜しくも解散することにしました。
「む?」
「メル?」
「はい・・・ご主人様のカバン、お役に立ったでしょうか?」
どこからともなく現れるメル・・・まさか見ていた・・・わけでもないでしょう。
「叔父様に直接お礼を言いに行こうと思っていました。」
「なるほど・・・ですが、ご主人様は今、ご多忙なのです・・・特訓で。」
「特訓って・・・あれ?あの・・・重要な研究のための実践?」
「はい。他にも大演習場の改修など、ご多忙なのです。」
・・・特訓とやらともかく、確かにお忙しいようです。
そんな中、こんな心遣い・・・。
「わかったわ・・・。叔父様にありがとうございました、と伝えてください。」
「かしこまりました。」
そして、次の日も、その次の日も、メルが「叔父様のカバン」を届けてくれます。
中身はいちごケーキとかチョコケーキとか、毎日変わるのですが、いつも5人分。
わたしたち2班は、計3日間お茶会とその後の自主練習を繰り返しました。そして・・・
「なんか、わかってきたよ、クラリス・・・私、戦場を推理すればいいのね!戦場の名探偵、燃えるわ。」
「あたい、バカだけど、言われたことはやってみせる!何度だって呪文唱える!」
「・・・レンは・・・怖いけど・・・でも、頑張るから・・・一緒に頑張るから。」
ようやく、わたしたちは一つのチームになったのです。
「明日からは、もうお届け物は不要ですね、クラリス様。」
メルの目にも何かわたしたちの変化がみてとれたのでしょう。
「はい。ありがとう。叔父様にも心遣い感謝すると・・・」
「待って、クラリス。」
「そうですよ!まだ早まらないで。」
「お菓子おいしかったよ。明日も、ううん毎日食べたい食べたい。」
「・・・お茶も・・・北紅玉茶・・・お願いするの・・・。」
そんな必死に・・・少々餌付けの効果が強すぎたのでしょうか?
しかも訓練中よりよほど心が一つになっています。どうしましょう?
わたしは困った顔でメルを見つめてしまいます。
「ではご主人様と相談しますね。」
さすがにメルは動じず、笑顔を残して立ち去りました。
どうせ判断は叔父様に一任ですしょうけど。




