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第24章 その6 レベル発表と修了式

その6 レベル発表と修了式


 そして、更に数日が過ぎました。


今日は一年の修了式です!


 全員の無事進級決定は既に知らされて、ほっとしたのも、ほんのつかの間。


 これから、修了式を前に、先日実施された魔術レベル判定の通知が行われるのです。


 今は、教官方の準備の為に待機時間なんですけど……みんな、不安と緊張でコソコソ・ソワソワ。


 落ち着きません。


 もっとも憎らしいことにジェフィなんかはいつもどおりどころかうっすら微笑んでる余裕ぶりです。


 さすがは腹黒なのです。


「班長はん。なんや妙に力がお入りになってますけど……まさか自信ないんと違います?」


「ほ、ほっといてください!」


 残念ながらガチガチで、陰険女の軽口に付き合う余裕なんて全くないわたしです。


「クラリス、なんで今さら固くなってるんです?」


 振り向きざまに、しっかり光らせるメガネです。


 その輝きの怪しいこと……この子も5ヘンタくらいはありそう。


「本当に。試験では鬼気迫る迫力でしたのに……さすがはあの方の、そう思っておりましたわ。」


 あの方、という時だけは、やはり手をお組みになられた王女殿下。


 王国の未来が心配です。


 ですが、ジェフィの声がきっかけに、わたしたちの周りからもチラホラ声が。


 そうなると……


「待機中は静かに!私語厳禁です!」


 当然こうなるわけです。


 相手が王女殿下でも遠慮はない規律委員ヤフネって、これはこれで立派でしょうけど。


「まあまあ、ボクにはヤフネの声の方が大きく聞こえるよ。みんなも静かに。」


 全体を見てクラスをまとめる委員長は、日和見をやめた今では、かなり頼りになるんです。


「そうだな。静粛な軍事行動は重要だぞ。スーグ将軍などは無言の行軍で必勝だった。」


 どこに奇襲にいく気ですか、この軍人趣味みりおたは?


「そうかぁ?大声上げた方が敵はビビンじゃねえか?」


 それはあなたが突撃しかしないからです、蛮族ノウキンさん。


「……あんた、いい加減少しは魔術師らしくしなよ。」


 そうそう。もっと言ってあげて!


 アルユンは器用なくせに根っこは正統派の魔術師です。


「そうなの~みんなファラを見習えばいいの~♡」


 一方こっちは「紙一重の境界線上の住人」です。


 わたしたち全員を「紙一重の向こう側」にひきずり込むつもりですか!


「この後、修了式なのに、なんだかめっちゃにぎやかよね、クラリス。ま、あたしたちらしいけど。」

 

 ホントです。


 一年の成果が見える日なんです。


 でもいつの通りなのは、実はほっとします。


「みなさん、いい加減になさって。今日はただの修了式ではございませんのよ。これからが大事なんです!」


 ……そうでした。


 伯爵令嬢でライバルさん。


 だからそんなににらまないで。


 とは言え、わたしたちが落ち着かないのは、緩んでるからではなく緊張に耐えきれないからなんです。


「ああ、早く早く!」


「ダメですよ、リル。気持ちはわかりますけど。」


「ん。イライラする。」


「でも、まだ待機なの。」


 そう、次に続く、魔術師レベル通知の重圧がヒシヒシとおし寄せてくるのです!


 緊張します!


 さっきから、ずっと緊張が解けないんです!


「……ホンマ、いややわぁ。ちょろこいうさぎはんやありませんに。らしゅうもない。」


 この腹黒女の遠回しな罵倒も耳に入らないくらい、まだガチガチが解けないわたしです!


 そんな中、待機中の教室で。


「みなさん……着席してください。」


 ようやくのご入室です。


 クラス担当のワグナス教官を先頭に……え?主任に学園長まで?


「ああ……エクスェイル教官もいらっしゃいますわ。」


 ……シャルノのごひいき教官まで。


 まあ、荷物抱えてますから助手役でしょうけど。


「さて、みなさん……お待ちかねの、後期魔術レベルの通知です。」


 待ってましたけど、待ってません!


 もう少し後でもいいです!


 でもこのままでは生殺し……引くも地獄、進むも地獄。


 もちろん待機だって地獄ですけど。


「そこで、提案です。後期は空前の記録づくしですし、どうでしょう。全員のレベルを公開発表なんて?」


 なに言ってるんですか!


 学園長!ほら、ミュシファなんか既に泣きそうです!


「どうせそのうちバレるだろう。こっちもこの方がやりやすい。」


 ぷらいばいしいとか個人情報保護とか、ないんですか!……ないですけど。


 まあ、実際の話、前期のレベルも通知の時こそ個人ごとでしたが、授業が進み試験を重ねる度にいつしか公然の秘密になってましたし。




 そして……レベルごとに一人ずつ読み上げられた成績は、まさに空前の記録だらけでした。


 最初に呼ばれた仲間たちは、当然消沈していましましたけれど……


「あ~ん!あたい頑張ったのに~!」


「えええ!ウソだぁ!」


「もっと素直にフェルノウ教官の助言を聞いていれば……」


「試験直前に追い上げてもやっぱり……家の面汚しって言われるよ……」


「……以上4名は……レベル6です。」


 え?…………クラスで一番最初に呼ばれるのがレベル6?


 リルは、去年の夏まで現代文字の読み書きすら苦手で、前期では最低のレベル1でした。


 それが、半年で一気にレベルを5も上げた!


 カリュナ、ルレーシャ、サーミャルたちだって、2月の叔父様の面接から一気に追いあげて……。


「クラスの最低値がレベル6ですか!うちの……失礼。ですが僕の母校エス魔院でも初年度末で、普通の生徒で4か5ですよ?」

 

 取り乱しているのは、名門エスターセル魔法学院の次席だったエクスェイル教官です。


 その後輩相手にはあんなにわたしたちのことを擁護してくださっていたのに。


「あら、あなたは、彼女らを評価してるつもりでも、身体能力担当だったからまだ認識が甘かったのね。」


 


 続くレベル7は、デニー、ソニエラ、ピピュル、ヤフネ、ミュシファたち5名でした。

 

 デニーは、試験に向いた術式は苦手ですし、ミステリーの読み過ぎと醜聞漁りに時間を使い過ぎなんです。


 ミュシファは、気が弱くて試験に弱いから。


 ホントは二人とももっとレベルは上だって思うんですけど。


「……7?7と言えば、エス魔院では二年目後期の平均レベルなのに……」

 



 そして、今までの市内(実質的に王国)初年度最高レベルだった8には……


「あ~あたし、ここかぁ!めっちゃくやしい。」


 いえいえ、歴代タイ記録ですって、エミル。


「まあまあだな。」


「……こんなものでしたか。」


 だからケーシェもユイも、10年以上前に学園長がお建てになった大記録ですってば。


「……やったよ!クラリス!リト!レンは頑張ったの!」


 そう!すごいんです!


 特にレンは、実はクラス最年少で、前期はレベル2だったんですから。


「最高レベルのはずの8がこんなに?でも……呼ばれてない生徒たちが残ってる……ということは……まさか!?」

 

 そうです。


 そしてあっさりと新記録、レベル9に達したのが。


「ボクもまだまだだね。」


 魔法騎士を目指すヒルデアには、魔術以外に学ぶことが多かったのでしょう。


 それでもここまで来た…‥さすがです。


「ああ。残念だけどわたいらはここまで。でも、次の半年で追いついて、その次で抜いてみせるわ……そしたらフェルノウル教官に褒めてもらえる☆」


 そしてアルユン。彼女も王国では捨てられた土地に移住してきた難民の子孫なのに、よくぞ……でも、ちっ、です。


 叔父様のことを話す時にそんなに瞳をキラキラさせないでほしい。


「……あんお方なら今でも充分褒めてくれる思います。でも、まあ、あんたはんの病気ですからうちは何も言いまへんけど。」


 言ってるじゃないですか。


 それでもこの陰険糸目にしてはわかりやすい皮肉なのですから、それなりに感動してるんでしょうけど。

 

 結局、この三者三様のクセモノたちがレベル9。


「………どういうことです?レベル8という、事実上の王国魔法学生初年度生の記録を抜いたのが3人もいるのに……」


「さっきからうるさいわねえ、エクスェイル教官。」


「現実も直視できんのか。やれやれ。」


「まあまあ。わたしたちも最初はなかなか信じがたかったじゃないですか。」




「さて……いよいよレベル10です。」


「言うまでもないがレベル10とは下級魔術師の上限だ。」


「つまり、以下のメンバーには下級魔術師としての認定証を授与いたします。」


「認定証!?まさかまさか……僕だって2年目の最後にようやくなったばかりなのに!」


「やりましたわ!……と素直に喜べませんけれど。」

 

 微笑みの中にもわずかばかりの複雑さを残すレリシア様です。


 でもわたしに?


「まったくです。レリシア様ではありませんけれど、まさかレベル10に達し下級魔術師を修了する者がこれほどいようとはわたくしも思いませんでしたわ。」


 なんて言いながら、シャルノも。


 わたしは、わたしに向けられた二人の手をとって、三人で握手です!


「でも、これで約束は果たしましたよ、レリシア様!それにシャルノ!」


 わたしは素直にうれしいんです!


 みんなで目標レベル10に到達できて、ほっとしてます。

 

 そして


「ん。自信なかったから驚き。」


「ファラはふつうに自信あったの~♡」


 リトにファラファラまで。


 これで5人で手を握り合って丸くなって。


 ついにやりました、レベル10!


 叔父様……どうですか!見てますか!


 ……でも……どうして今は隣でほめてくれないのですか?




「以上、五名に認定証を授与いたします!」


「まさか、一年前はこんなに早く渡せるとは思ってませんでしたけどね。」


「…………。」


「どうした?もう言葉もないか。だがな……学園長。」


「ええ。まだ終わってませんよ。」


 …………は?


 思わず乙女らしからぬ反応を見せかけたわたしです。


 ですが、それが当然。


 意味不明なのです。


 わたしたちは受け取った認定証を抱えたまま、はてなのポーズです。


「では、レベル発表を続行します。」


「「「「「ええええっ!!」」」」」


「何ですと?」


「レベル10以上に達したものに、まずは修了式を行っただけだ。」


「ええ。今回は、レベル10の上の者がいるのです。」


 まさかの11!


 それが本当なら、いえ、学園長がおっしゃるのなら本当に決まってますけど、まさに空前絶後です!?


 わたしたちは思いっきり驚いて。でも!


 そうです。


 次の瞬間、レリシア様が!


 シャルノが!


 そしてわたしだって!


 さっきまでの安堵と不満の交じった、でも本当はどこかくすぶった感じだったわたしたちでした。


 今は一斉に顔を上げ、また見つめ合い、火花を散らすのです。


 リトとファラファラはキョトン、ですけど。




「……レベル11。」

 


 ぎゅっ、と握ったわたしの拳です。


 きっとレリシア様も、シャルノも同じはず。


「……シャゼリエルノス・デ・テラシルシーフェレッソ。」


 教室中のどよめき。そして……


「シャルノ、おめでとう」


 悔しいけど、貴族の子女でも英才教育を受けて、そればかりか叔父様の着任以来はその非常識と思える授業でも非凡なものと素直に認めて、毎時の板書を欠かさず真剣に貪欲に……その姿勢は自信に満ちても謙虚さを忘れない、尊敬するしかないライバルなんです。

 

 パチパチって、自然に拍手するわたしです。


「……よくやりましたわね。シャルノ。さすがです。」


 続いてレリシア様も、ついにはみんなも。


 なのに?


「シャルノ?」


 当の本人は浮かない顔、いえ、それどころか


「これで終わり?わたくしにはそう思えないのです。」


 なんて、とっても険しい顔をするのです。


 そして……なんでわたしを睨むのでしょう?


「……ええ。わたくしには自信があります。ですが、あの時のクラリスを上回っていたとも思えないのです」


 それは……でも、わたし二回も停学してるし、市民の娘だし。


 仕方ないんです。


 レベル10まで認めてもらって……。


「やれやれだ。だからさっさとやれと言ったのだ。残酷だぞ、学園長、ワグナス。」


「……順番があるの。こういう形式だし、仕方ないのよ。」


「……でも、そうですね。前例のないことを形式通りやろうとしました……反省します。」


 順番?形式?


「…………では続いてレベル12!」


 レベル……12?


「……つまり修了証を受け取った5人のうち3人がレベル10。シャルノがレベル11。残った最後の一人がレベル12です。そして……我が学園の初年度の到達点。おわかりでしょ、クラリス・フェルノウル!」


 ……茫然とするわたし。


 だって、魔術だけなら負けないけれど、一介の市民の娘だし、二回も停学して、どこか仕方ないってあきらめていたから。


 ……でも、シャルノが、ポンってわたしの肩を叩いて。


「やはりあなたでしたか。負けましたわ……」


 きれいなシャルノの顔が優しく微笑んで……でも肩がぎゅうって……イタいです。


「ですが来年こそは、わたくしの勝ちですよ!」


 そして、隣ではレリシア様も。


「シャルノ、それはわたくしがさきほど話したことですよ……クラリス、約束、果たし過ぎですわ。あのお方は喜ばれるでしょうけれど。」


「クラリス、さすが。」


「うん。とってもすごいって思うの。」

 

 リトが、レンが。そして……。


「やったやったぁ!」


「クラリス、めっちゃかっこよかったよ。」


「ええ。我らアルバトロスの班長です!」


「俺様が認めた組長だぜ!」


「それを言うならボクらの戦隊長じゃないか。」


「おめでとうですぅ~」


「みんな……ありがとう……」


 クラスみんなが……もう視界なんてとっくにぼやけて。


 この後は不覚にも、大泣きするしかできません!


 ふええええ~ん……です……ぐすん……。


「なんです、このしんなりしたとうさんは?」


 うるさいです!


 ですが、この謀略女の言葉すら、なぜか遠回しな祝辞に聞こえるんです。




 その後。


 来賓の方々の到着に合わせて、わたしたちは講堂に向かい、整列するのです。


 そう、一年のしめくくり、修了式です。


「……幾多の苦難や事件を乗り越えて、ようやくたどり着いた今日の修了式です。」


 壇上の学園長のお声は、女性にしては少し低いけど耳に残る魅力的な声なんです。


 話し方も大人っぽくて、わたしでなくたって憧れます……たまに取り乱してますけど。


「そして、ここまで来たみなさんは、創立一年目の本校で、いきなり後輩の高すぎる目標として、以後長く君臨する記録を打ち立てたのです。」


 ……そうです。


 学園関係者への正式な発表はこれからですけど、まさに空前。


 初年度生22名の平均レベルが7.7という数値は、名門エス魔院のそれすら軽く2以上も上回ったのです。


「……あらためて言わせてね……進級おめでとう。あなたたちはわたしたちの誇りです。」


「学園長……ぐすん。」


 またも目が潤んでしまったのはわたしだけではないのです。


 学園長の言葉でこの一年の苦難……試練と言うにはあんまりな……を思い出し、あちらこちらでグスグスって声がして、うつむいてる子、肩を震わせてる子……リルなんか大泣きです。


 わたしだって、今日はもう涙腺崩壊……。


「あら、ごめんなさい。たかだか修了式でこんなに泣かせちゃって。今から一年後が心配だわ。」


 そう。既にクラスのみんなも気付いてる。きっとわたしたちの学園生活は、あと一年しかないって。戦況悪化のためにまるまる一年早まるはずの、わたしたちの卒業は来年なのです。




「この場を借りて、あいさつする……サーガノス大公レドガウルスだ。」


 その水色の髪の貴公子が登壇してからは、し~ん……と静まり返ってしまうのです。


 クラスメイトのほとんどは初対面ですから当然の反応ではありますけど。


「ふ」


 ……レリシア様は、まあ、実の娘ですから苦笑してるくらいです。


 何度かお話しさせていただいたわたしにしてみれば、叔父様に野山の食材で料理を作らせて専属料理人を泣かせたり、お茶に使う水がどうこうで多少のムリを聞いてしまうような、恐れ多くも王弟の身にあるまじき変人なんです。


 まあ、叔父様の変態度を10ヘンタとした場合でも、せいぜい3ヘンタくらいでしょうから大した変人ではありませんけど。


「当学園は、新年度より我が大公家の支援の元、より充実した態勢で新体制をとることになった……」


 以前学園長からもお話がありましたが、なんでも理事会、という組織が新たに増設され、軍が大きな影響をもつことは変わらないながら、学園の運営や資金・人材の提供にテラシルシーフェレッソ伯爵家やアドテクノ商会、ヘクストス魔術協会などが理事という形で公式に参加することになり、大公殿下自ら理事長にご就任になったのです……ほとんど、ぴいていえ~、なんですけど。


 もちろん、その最終目的は、女性だけで編制させる初の独立部隊に、我が学園の人材を輩出させることです。


 そう、わたしたちは、一年後、実戦部隊として再編制されるのです。


「しかし、王国として、このような英断を下した決め手になったのは、諸君ら自身の優秀さである。これはまぎれもない事実だ。そして、この事実がなければ、女性だけの独立した軍組織を公認するという、前代未聞とまで言われたこの決定が、かくも容易に下されることはなかったであろう……」


 いいんでしょうか、こんなに絶賛されて。


 でも、今では自信がないと言えばウソになります。


 魔術レベル認定の結果も、前代未聞の高成績!


 ならば自分たちを信じて王国のお役にたってみせるのです!


「……それでは、修了証書授与。学園生徒を代表して……レリューシア・オルダ・サーガノス!」


 司会のワグナス教官がそう言った次の瞬間です。


「お断りしますわ。」


 そのうつくしくも冷徹な一声が、講堂を凍らせたのです。


 そして講堂内はまるで静寂の術式がかけられた如く、重い、重すぎる沈黙につつまれるのです。


 学園代表を王女殿下が拒否したんですから!


「教官方はもちろん、父上、いえ、大公殿下もお判りでしょう。わたくし如き転入組ではなく、真の生徒代表がどなたであるべきか。」


 重い沈黙をお破りになったのは、レリシア様ご本人です。


 そしてそれにお答えになられたのも、大公殿下でした。


「学園長、吾輩も我が娘の申し様ながら、これは道理だと思う。生徒代表として、ふさわしい者を再選出せよ、今すぐ。」


「え?ええ……コホン。それでは……シャゼリエルノス・デ・テラシルシーフェレッソ。」


「ご辞退申し上げます。」


 ひええええ、です!


 シャルノまで何を言ってるんです!


 レリシア様がお譲りになったからには入学以来、ずっと首席で貴族の中でも名家の出のあなたしかいないでしょう!


 って思わずあげそうになった悲鳴を押し殺したのも、わたしだけでは……あれ?


 わたしだけですか?


 みんな……なに見てるんです?


「みなさん、おわかりですよ。我がエスターセル女子魔法学園の今年度代表にふさわしいのはどなたなのか?大公殿下、学園長。もういいではありませんか。儀礼も慣習も大切とは思いますけれど、それも時と場合によるのです。ご英断は最後まで貫きなさってくださいませ。」


 次に訪れたのは、沈黙ではなく騒めきです。


 あちこちでザワザワって。


 こんな大事な式典の最中なのに、軍の重鎮や伯爵、商会長もいらっしゃるのに、こんなはぷにんぐ……まったく叔父様がいないのに、前代未聞の珍事です。


 シャルノ、何を考えているの?


「ふん。もっともだ。学園長……どうした?ためらうのなら、わたしが代わりに呼んでやろうか?この、軍がつくって、伯爵家が介入して、しかし、あの男が唱えたパラダイムシフトに共感したわたしたちのこの学園が、今更何をためらう?殿下もおそらくはお見通しだぞ。」


「うるさいわね!この鬼のふりした人情家!……わかったわ。異例のことながら、軍で初の魔法女子学園の生徒……しかし、今は王国を救う最後のトリデを目指すあなたたちです。ならば、建前も身分も全て不要でしょう!」


 学園長のお言葉に、大公殿下も伯爵様も苦笑し、商会長は大笑いしていらっしゃいます。


 軍のエライ方は沈黙してますけど、反対はしてないみたいです。


「……今年度の学園生徒代表!……クラリス・フェルノウル!」


 ………………学園長、今なんて?


「では、クラリスさん、登壇してください。」


 ………………ワグナス教官、ですから、何をおっしゃられているかまったくわからないわたしです。


 なのに


「さっさと上がらんか!」


「はい!教官殿!」


 って、主任に怒鳴られた途端、体が勝手に動くのです。


 まさに苛烈な軍人教育の成果!


 だって、この鬼教官、式典中でも平気で懲罰を下すにきまってるんです!




「これがふさわしいとは思ってはいた。なかなか決断できず、娘たちに諭されてしまうとは、ア……フェルノウル師に笑われるな。」


 苦笑のまま、わたしに話される大公殿下です。


 演壇をはさんで目の前にいらっしゃる殿下は、失礼ながら、水色の髪に青い瞳、そして大公としての正装がよくお似合いな、とても美形な方なのです。


 同年代のはずの叔父様も見かけだけなら若いんですけど。


「……殿下。叔父様は、殿下にアントと呼ばれてももう気にしてないって思います。」


 いつの間にかレンだって公然と呼んでるし。


「ですから、もう、そのままお呼びください。」


「いいのか?」


「はい。以前はわたしが出すぎたことを申し上げました。殿下の寛大なお心に感謝いたします。」


「ふむ……ではそうさせてもらう。アントの姪よ……では生徒代表クラリス・フェルノウルに、修了証書と進級記念品を授ける。」


 まあ、みんなの分もあるんですけど、壇上で授かるのは代表のわたしなんです。


 大公殿下の背後に、付き人の若い女性がやってきて、手渡してくれますけど……その服はアルマさん!

 

 亜麻色の髪をした、ふんわりした感じの若い女性で、大公家の別荘で働く接客担当メイドさんです!


 そのメイド服は叔父様から贈られたものなんです。


「アントが喜ぶと思ってわざわざ連れて来たのだが……」


 確かにアルマさんは叔父様と笑顔で普通に会話できる希少な女性ですけど、そんな気遣いは要らないのです!


「くすくす。あの方にお目にかかれないのはわたくしも残念ですわ。」


 ほら、なんだかアヤシイし!


「どうだ?」


「……はい。ありがとうございます!」


 戴いた進級記念とは、まさに四月から上級生になるわたしたちのために追加された装備でもあります。


 それは二つ。


 学生杖ワンドの柄の部分に取りつけるグリップに、制帽です。

 

 学生杖はもともと貸与されてる官給品で、専門の職人さんが丁寧につくってくださったものではありますけれど、なんの飾りもそっけもない樫の枝の加工品でしかありません(とは言え、魔法による加工品ですから、お値段もそれなり以上です)。 

 

 しかし、上級生になるわたしたちには、新たにそのおぷちょんが贈られたということのです。


 グリップですから、握りやすくなり、しかも柄の部分に小さいけど透明な宝玉がつけられています。


 わずかながら魔力集積率も術式発現確率も上がっているのです。


 そして制帽。


 俗に言うとんがり帽子ウィザーズハットのような、広いツバと先のとんがったクラウンのものではなく、制服のデザインに合わせた紺と白のもので、正面には学園の紋章がついています。


 以後、わたしたち上級生の制式戦闘衣は、この制帽とグリップつきの学生杖が基本になるわけです。


 みんなも配られた装備を身に着けて、ホントははしゃぎたそうですけど、さすがに式典中でガマンです。


 わたしは大公殿下に向かい、左手にグリップをつけた学生杖を構え、右手で魔法兵式の敬礼で答えるのです。


 右手は制帽に触れてから戻すので、動作的には初めてですけど。

 

 そして、みんなも!


 打ち合わせなんかしてなかったのに、わたしに合わせてみんなも一斉に敬礼したのです!


 その姿は背を向けてるわたしには見えません。


 ですが、講堂に響いた音は一つだけ。


 つまり完全に動作が一致していたってことです!

 



 こうして、わたしの、いえ、わたしたちの一年目の学園生活は幕を閉じたのです。


 叔父様の行方は気がかりまま。


 ですが、進級祝いのグリップに制帽。


 これには叔父様のデザインしたものに決まっていますし、学園を歩けば、叔父様が遺されたものは確かに残っているのです。


 何よりも、これほどの成績を修めたわたしたち自身が、その足跡と言えるのかもしれません。


「レンがこんな成長できたのはアントのおかげだって思うの。」


「ん。リデルも。」


 そこ!


 それ、わたしのセリフです!


 義姉妹二人とは意志の疎通がたやすくなりすぎて。




 そして、その夜の大宴会(祝!全員進級パーティ!)は……


「聞いてますの!半年!次の半年ではわたくしこそが!」


「ああ……晴れ舞台にも姿をお見せにならないなんて……なんて奥ゆかしいお方。」


「あたいはフェルノウル教官のカナッペが恋しいよぉ。」


「教官殿ぉ!早く帰ってきて☆」


「アルユン、最近、酒癖悪くねえか?」


「ファラはいくら飲んでも平気なの~♡」


「そのトナカイのコスプレ、いらないんじゃないって思うの。」


「そうです、不謹慎です!」


「騒ぐべきときに騒ぐのも軍人の務めだぞ。」


「まあ、ほどほどにしてる分にはいいんじゃないかな。」


「なに言うてんねん。めっちゃ飲まんでなんの酒や!」


「んん。エミルも飲みすぎ。」


「みんなのアルコール摂取量に酒癖。ふふふ。これも貴重な情報です……。」


「デニーはん、そないなことまたノートに……みなさん、なんやおにらみです。うちは知りまへんけど。」


「「「「「デニー!」」」」


 ……大荒れでしたけど。


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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