第6章 クラリスの班日記 その1 2班、全滅!
第6章 クラリスの班日記
その1 2班、全滅!
「クラリス、ゴブリン何体か、後ろに行った!」
ええ?気づきませんでした。後衛は・・・レンネル?
「いけない、レンネル逃げて、リルル援護!」
「・・・あ・・・え?」
「援護ってなになに?」
急に言われて、オドオドするレンネルにアワアワとするリルル。いけない!
「ここには味方の歩兵がいるはずなのに~」
いない状況なんです、デニス。敵の急な出現に慌てています。森の中での遭遇戦です。
「自分が行く!」
「だめ、リトは前方を警戒!」
2列目のわたしが行きます。ワンドを左手に、ショートソードを右手に持ち替えて後方に向かいます。
ですがドンって。デニス?何で前に来るの?身動きが取れません。狭いんです。
「・・・ん?いやっ・・・」
「うきゃあ! ダメ、ゴブリンはダメダメ・・・Pされちゃう!」
P!?それは・・・いけない、レンネルとリルルが戦死です。でもPはダメ!?
「デニス、支援魔法を。わたしが後方の敵に向かいます。」
「ああ!ええっと・・・術はなにがいいかな?」
「デニス、頭堅い。前衛に行って。『風甲!』」
「2班・・・全滅。生存者なし。」
・・・あの後、今度は前衛が突破されて包囲され・・・わたしもリトも戦死判定。
「はああ・・・どうしましょう。」
イスオルン教官もまともに講評すらしてくださいませんでした。はああ・・・。
「クラリス、めっちゃ大変そう・・・。」
ここは最近お気に入りの中庭の東屋です。すっかり秋の気配に包まれています。
「確かに、2班は少々編成に問題があると思いますわ。」
エミルやシャルノは慰めてくれますが・・・いえ、それは言ってはいけないのです。
「でもさあ・・・クラリスとリトは魔法騎士適性あるくらい遠近両用で、すごいけど・・・。」
「後の方は少々・・・いえ、かなり実戦には不向きな方々で、3人一緒で同じ班はムリではありませんか?」
「戦術」実習の模擬訓練の後です。
4つの班ごとに、遭遇戦の実習をしたのですが、全滅したのはわたしが率いる2班だけで・・・かなり落ち込みました。
「ゴメン。」
「そんな。リトは判断も戦闘も略式詠唱もちゃんとできていました。」
「クラリスも、戦闘も指揮も的確。」
でも・・・戦いは2人じゃない。
いえ・・・そこからもう違っているような気がします。
どこが違うのかは・・・分かりません。
もうすぐ9月も終わります。
そうしたら、上半期の魔術師レベルの認定が出て、秋の休暇があって・・・10月になれば、いよいよ戦場実習・・・。南方戦線に向かい実戦を経験しに行くのです。
ですが、今のままでは実戦に出る自信がなくなります・・・。
今週は叔父様の授業がありません。先日、叔父様が臨時に授業したせいなのでしょう。
かわりにイスオルン教官の戦術の模擬戦が多いのは、まあ、いいことなのでしょうけど。
「あ~あ、この中じゃあたしだけかぁ、略式詠唱できていないのは。もう少しなのに。」
「ですが、エミルは通常詠唱でも早いですし、威力がありますわ。近接戦もまあまあで。頼りにしてます。」
1班は、シャルノを筆頭に成績優秀な人が多く、座学が苦手だったエミルですら、実戦訓練ではとても頼りになりそうです。
とくに最近は魔術の威力が上がっています。
「体格的に、2班ってみんな小柄よねえ・・・一度接近されると、雑魚ゴブリン相手でもアウト。」
魔法兵とは言え、接近された時の護身として剣術や体術は一応学びます。
しかし、あくまで護身です。体格・筋力で男子に劣る女子では接近戦は避けなくてはなりません。
特に2班では・・・20人中やや小柄なわたしが一番背が高く、デニスが同じくらい。
クラス一背が低いレンネルや三番目のリト、四番目のリルル・・・。
「魔法兵ですから、身長は気になりません!どうせ接近戦は避けますし!」
「うん。正論。同意。」
「それでもなあ・・・編成偏ってるよねえ・・・聞いてみたら?」
「班編成の根拠をですか?そんなこと、できるわけないではありませんか!」
「危険。叱責されそう。」
全くです。そんなことしたら、イスオルン教官に懲罰されるかもしれません。
「でも・・・ホラ。一人くらい事情教えてくれそうな教官っているんじゃない、クラリス?」
え?・・・ダメです!
「エミル!ああ見えて叔父様は公私の区別は厳しいのですよ、失礼です!」
「そっか・・・でも、せっかくだし、あたし、フェルノウル教官にめっちゃアドバイス欲しいんだよね。今週授業ないし。でも略式詠唱、できそうで、できないし・・・。」
「それは賛成。教官室に行ってみたい。」
ええっ!?それはちょっと・・・とっても気まずくなりそう。最近お話ししていないし。
「では放課後4人でフェルノウル教官殿の教官室に行きましょう。わたくしもいささか班での戦い方の助言をいただきたいのです。それに・・・ミレイル・トロウル戦役のことも少々気になります。」
シャルノまで。
「助言ならイスオルン教官に・・・」
「ダメ!」「めっちゃいや!」「それはさすがに勇気がありません。」
確かにイスオルン教官は優秀な元軍人で教官なのですが、助言を乞うにはかなり精神的にハードルの高い方です。
結局4人でフェルノウル教官の教官室に放課後行くことになったのですが・・・。