第24章 その2 家庭訪問と学園規定
その2 家庭訪問と学園規定
わたしが魔術を使えなくなったとエミルに打ち明けた、その翌日。
「いいかね、お嬢ちゃん……お嬢ちゃんは実は人族ではなかったンよ。」
「はい?」
ヌヌっと老師のお顔が接近し、しわの一つ一つを数えられるくらいです。
近い、近いんです!
その勢いに押されてさがるわたしなんですけど。
自分の部屋でこんなに落ちつかない気分になったのは初めてです。
「あのフェルノウル教官は、なんと錬金術を学んでおったというではないンか!錬金術といえば、魔法生物のホムンクルスが基本なンよ!」
なんの基本ですか?
と言いかけて、言葉を引っ込めます。
だって、この反応は……この老魔術師さん、叔父様と同じ匂いがします。
言えば言っただけこっちが負けなのです。
するうが一番なんです。
目も合わせないのです。
「錬金術師なんて、かわいいホムンクルスをつくってウヒヒなことをするに決まっておるンよ!」
決まってるんですか?
だとすれば錬金術師ってなんて寂しい専門職なのでしょう?
王国ですたれてしまったのは当然なんです。
叔父様は物質の変成にとどまらず、物質も人すらも進化の階梯を進むための学問だなんて言ってらしたけど、所詮はそんなものなのです。
ですが……ねえ?わたしがホムンクルスなんて、ありえないんですけど。
「それでお嬢ちゃんは、フェルノウルにつくられ、今、主と離れたがゆえに魔力が失われたンよ!」
……どこをどう突っ込めばいいんでしょう?
「それが、今になって魔術を使えなくなった理由なんンよ!」
「……あのう、言いたいことがたくさんあるんですけど、一つだけいいですか?」
再び眼前に迫る老師から思いっきり目をそらし、少し離れた位置のワグナス教官に目を向けたわたしです。
「……どうぞ。」
ため息交じりの返答。
そんな、普通の人の普通の反応が、なんだかとっても新鮮です。
「では……叔父様はホムンクルスなんて大嫌いだって言ってました。ゴーレム以外の魔法生物なんて、生命の冒涜みたいだって……」
「うむ?」
「それに、もしもわたしがホムンクルスだったら……」
叔父様から離れて魔術を使ったことなんてたくさんあるし、入学以来半年ほどはずっと離れていましたし、今のわたしは魔力切れじゃなくて魔術回路が開かないのであって……
「絶対にわたし、ケモノ耳とか、シッポとかついてるに決まってます。」
そう。
あの人の闇は深いのです。
イヌもウマもネコも好き。きっとウサギも大好きでしょう。
もしも学園にもう一年残られたなら、わたしたちの「ふぃぎゅあ」のケモノ耳ばあじょんが作られること必定なのです。
「……マジなン?」
「はい。間違いないです。」
こんなことを断言する自分がとっても残念なのですけど、ウソは言えないのです。
一瞬ウサギの長い耳をつけた自分を思い浮かべてしまい……背筋に冷たいものが走るのです。
「ふふうん。ノソウリン師、所詮あんたのような偽老人には、わからんのヂャ。」
……すごすごと引き下が老師……ノソウリン?……に代わって、同じくらいご高齢の別の老師が近づきます。
見た目は80才くらいの、灰色のローブの老魔術師は、わたしの部屋に押し掛けた、もう一人の協会の老師ですけど……。
「いやいや、娘さんや。あのノソウリンは、見た目こそワシと同じくらいヂャが、実はまだ30代の若造でな。」
「はい?」
……お年寄りが若い格好するのはたまにありそうですけど……あれが?
「なんでも若い魔術師は権威がなさげで舐められるから、ああやってワシのような威厳のある真の老師の真似をしとるんヂャよ。わざわざ時間魔術で加齢して、変わっとるヤツヂャ。」
高度で難解な時間魔術をそんなことに浪費?
それは立派な変人なのです。
多分叔父様級の。
「なにを言うンよ。年齢なんて中身じゃないンよ。見た目なンよ。」
「ふふうん、偽モンは去るんヂャ……このワシ、セワシタン老師が娘さんのナゾを解くんヂャ。階梯が下のモンは口だし無用ヂャ。」
わたしのナゾって……わたしの魔術回路が閉じたままということが、こんな大騒ぎになって……まさか魔術協会の老魔術師たちがこんなところ来るなんて……。
「さてさて、娘さん……ワシが思うに、あんたの正体は人造魔術師なんヂャ!その魔術回路はパチモン、つまりは偽モンだったんヂャ。」
……来なくてよかったのに。
ええ。
ちっとも。
昨年の魔術レベル認定の時はこんな困った人たちじゃなかったのに。
「……はあ。」
人造魔術師って何?
叔父様以外の人の言葉でこんなに混乱したのは初めてなわたしです。
「おそらくは人造魔術回路をあんたの体に張り付けておったんヂャ。あんたは……もともと魔術を使えない俗人、しかし魔術師になりたいというフェルノウルが、自分の望みをあんたにたくし、人造魔術師に仕立て上げたのヂャ。それが、先日の騒動で消耗し、焼失した。これが魔術回路消失の原因なのヂャ!」
要するに今度は魔術回路の偽物疑惑、なのですか?
これも突っ込みどころが満載なのです。
「老師、よろしいでしょうか?」
「おお。ええよ。娘さん。」
「わたし、叔父様から魔術回路を真似してつくるのがとても難しいってお聞きました。」
ほとんどの呪符物は、宝玉や特殊金属に疑似魔術回路を彫り込んだものです。
しかし疑似魔術回路とは一般的な魔術師の回路の、最も基本的で単調な部分を真似するのが精いっぱいで、それだって相当の技術が必要なのです。
例外は、わたしのためにつくられた、わたしの魔術回路を複製した碧玉、この指輪だけなんです。
それすら、魔術回路が起動しないわたしには反応しない。
今はただの宝石以上の価値はないのです。
でも、わたしにとっては決して無意味なものではありませんけれど。
「それなのに、そんな人造魔術回路なんてできるのでしょうか?」
魔術師の回路に同調・共鳴することだけでも、至難。
それを魔術の使えない者に張り付けて人造魔術師にする、なんて、あの叔父様ですら不可能でしょう。
そもそもできるなら自分にしてるはずなのです。
そして世間では魔術師が量産されて、人族の危機は救われたりしてるはずなのです。
「ふふうん……ちっ、ヂャ……コホン。ふぉふぉふぉ……」
……わたしの反論を聞くと、舌打ちして、あっさりとセワシタン老師が去っていきます。
これで魔術協会のお二人とも、諦めてくれたのです。
まったく、なんて理不尽で不合理な尋問?だったんでしょう。
やっと解放された……と思いきや。
「真打登場!このモーリーモン師にお任せだヨ!」
……ええっと、奇妙なポーズでエラそうにそっくり返るのは、二人の老師……一人は若いそうですけど……の付き人ですさん?
見た目、子どもにしか見えませんけど?
まあ、小生意気な美少年と言えなくもないですが。
「しっつれいだね。あの二人がモーちゃんの付き人だヨ。」
疑惑に満ちた目を向けるわたしですが……ワグナス教官もスフロユル教官も大慌てでうなずかれてます。
本当みたいですけど。
「モーリーモン老師は、時間魔術の使い手で、魔術協会の中でも長老格ヂャ。」
「確かに巳どもの師なンよ。この加速老化もモーリーモン師から教わったンよ。」
遠くからそんな声がくるからにはそうなんでしょうけど。
「それで、だヨ。ぼくが魔術師として魔術愛に満ちた魔術的考察をした結果!」
びしっと指を向けられて、少しムッとしたわたしです。
どれほど優秀かしりませんが、この子、礼儀も常識も何もないんですか?
「きみの正体は、フレッシュゴーレムだ!あのフェルノウルのことだ。魔術も使えないくせに妙な知識と技術を総動員してついに完成させたんだよ。縫合跡もない外見の、人間そっくりなフレッシュゴーレムを!」
…………それでも聞くだけ聞こうという、わたしの殊勝な覚悟は、この一言で完全に瓦解しました。
いきなり部屋にやってきて、推測ですらない変なことを言われて、もう限界です!
一応確認はしますけど、フレッシュとはお肉のことで、つまりフレッシュゴーレムとはお肉をかき集めて縫合したり接着したりしてつくる魔法生物です。
ツギハギだらけで、しかももとはお肉ですから、あまり固くも強くもないんです。
そもそもゴーレムとは非自律式で、魔術でつくられるけどそれ自身は魔術も使えないのです。
わたしの魔術回路が起動しない原因とは全く、全然、欠片も関係がありません!
「そもそも!わたしに縫合跡なんかありません!」
「それは調べればわかる!さあ、いますぐ解剖だ!まずは見えないところに縫合跡がないか調べてやる!へへへ~」
なんて言いながら、手をワキワキさせて迫る、このお子様は……変態です。
この子も叔父様級の変態なんです!
協会の魔術師って、みんな変態なんですか!
変態しかいないんですか!
「お帰りください!」
なにが超級魔術師で長老格ですか!
ヘクストス魔術協会のサンケンジャーですか!
「もうかまわないでください!自分のことは自分でなんとかします!」
もう最後は強引に部屋から追い出したわたしです!
わたしを心配して、やってきてくださったクラス担当のワグナス教官と医務担当のスフロユル教官です。
ですが……なんでこんな変態たちを連れて来たんでしょう?
「すみません、クラリスさん。」
「運悪く、日蝕中のことを聞きつけた魔術協会が興味を持って、学園に調査に来ていたの。その生徒が魔術使えないって聞いて、強く同行を希望されたのよ。私もあんな人たちとは思わず」
「コホン。口が過ぎますよ。あれでもあの方々は、ヘクストス魔術協会が誇る、モノトーンのサンケンジャ-……白黒灰色の賢者たちなのですから……まあ、その」
そうは見えませんけど。
魔術協会もなんだか、底が知れたって言うか、先が見えたっていうべきか。
とは言え、わたしも魔術師の端くれとは口に出しません。
しかし、その後、あの子ども……モーリーモン師とやらが、三賢者の中でも最年長で実は「若返り(アンチエイジング)」の使い手と聞いたのです。
その実年齢は見た目の10倍ではきかないとか。
「……へぇーすごいですー若返りって……頭の中まで若返るんですねー」
これでもすごく驚いたことには間違いはないのです。
ただ、それを表現すようとすると、全く現実感がないのです。
それが多少失礼に聞こえようと、それがなにって感じですけど。
「コホン、コホン。」
「本当にゴメンなさいね。あの方たちはまた学園の調査に向かったはずだから。」
「『診断』……」
少し落ち着いて、学生寮の自室でベッドに横になるわたしに、医療術式を行使してくださったスフロユル教官です。
いつも微笑まれているお顔ですが、今は診察中のせいか、少し気難し気ですけど。
「スフロユル教官、どうです?」
あの三人がいなくなり、冷静になればわざわざ授業中に抜け出してまで来てくださったお二人には素直に感謝です。
「体温は低いです。脈も元気ないですね。ですが……体に大きな異常は見られません。」
「……なるほど。う~ん……参りましたね。」
ワグナス教官も、なんだか困ったお顔です。
しばらく続いた沈黙。
そして改めて向き合ったわたしとお二人。
さっき寮からお借りした茶器を使い、お二人のお茶を淹れます……料理と違い、メルよりはましなはず。
そしてさっきの「わたしトンデモ説」……しかも三連続!……ではなく、常識的な範囲での、原因究明に入ったわけです。
「クラリスくん……魔術回路が消失する、という現象は、それほど珍しい現象ではありません……それがまだ定着していない思春期以前であれば。」
「だけど、仮にも成人し、魔術師として認定された者が、となると……滅多にないの。フェルノウル教官なんて、例外中の例外だけど、あなたはそんなところまで叔父さんの真似しなくても」
「コホン。」
「あ……すみません。」
叔父様の話が出るや、わたしを気遣って咳払いされたワグナス教官です。
突然いなくなった叔父様を思うと、胸が未だ痛むのです。
「……いいえ。」
それにしても……そう、叔父様は非常識が過ぎるのです。
30過ぎて、魔術回路が起動して、って思ったら10日ほどで消失、いえ、焼失です。
「セミみたいな魔術師人生」とはまさに言い得て妙……ご本人の弁ですけど。
「……それでですが、現時点で原因は二つ考えられます。一つは、やはり例の事件……あなたは月の昇天により黄金の魔力を帯びました。それで、日蝕の中で唯一魔術を行使できたのですが、その影響が残って何らかの後遺症となっているのではないか、ということです。」
あの夜。
魔術も使えない叔父様ですが、密かに学んでいたという錬金術を元に謎の儀式を行い、ネコちゃんたちの謎の協力も加わって、ツキとかいう謎の円盤を、そう、「ゆうふぉ」を呼び出したのです。
まさにわたしには謎だらけ、だったのですが、結果は自明。
日蝕の暗闇に金色の真円が浮かぶと、日蝕中は魔術は使えないという常識を覆し、わたしは、魔術を行使して、学園を襲撃したコアードやそれに同調した王国兵と戦ったのです。
「……後遺症、ですか?」
「とは言え、その儀式の形跡はきれいさっぱりなくなって、あなたの報告以外に詳細は不明なのです。ですから、あくまで可能性、なのですよ。」
あの日から、ツキが空に浮かぶことはない。
ネコちゃんたちが一斉に鳴くこともないのです。
「ただ、月の儀式とあなたの魔術回路がどういう関係なのかも、現状ではわかりません。もうしばらく調査が必要です。今は魔術協会も調査に入っていますから……すぐにわかればいいのですが。」
……あの方々では、まともな調査結果を期待できない、という本音をもらすほどわたしは子どもではありませんけど……表情には出たかも。
ワグナス教官がまた困っています。
学園一のいい人教官を困らせるつもりなんか、少しもないんですけど。
「もっとも、その調査の結果がでる前にひょっこり治った、なんてこともあるかもしれませんし。」
「……はい。」
わからないことばかりの謎の儀式ですから、それが原因かもわからない。
あまり当たってほしくない推測です。
「あの、それで……」
「ええ。もう一つ考えられるのは……」
聞き始める前に答えてくださったのはスフロユル教官です。
ですが、それはいつもの優しいお顔ではなくて、たまに見せる、生徒をからかう様子ですけど?
「精神的なものね。」
「精神的?」
「あ~やっぱりそうですか。」
首をかしげるわたしに対し、ワグナス教官はむしろ納得ぎみです。
「あなたみたいに、成人したとはいえ、まだ正魔術師になって一年もたっていない若い子は、精神的に不安定で、それが魔術回路に影響することがないわけじゃないの。消失は珍しいけど、それだって、たま~には。」
「でも……わたし不安定なんて……」
「だから、あなたの場合は、甘えてるの。」
「……え?」
「フェルノウル教官にいつもべったりなあなたは、教官が突然いなくなったから、ショックで寂しくて、それで不安定になったのよ。」
違います!って言いたいけど……言葉が出ません!
「やはりそうですよね。そっちの可能性が高そうです。」
違うんです!って言いたいけど、やっぱり出ない!
「でも困ったわね。あの方だってかわいい姪がこんなになってるなんて知ればすぐに戻って来るでしょうに。」
かわいい姪?
それは事実ですが、真実でもないのです!
わたしと叔父様には、更に新たな絆が……って、本人はニブ過ぎて気づいてもいませんけど。
「行き先も知りませんし、『魔伝信』も着信すらしませんねえ。」
「本当です。メル教官も言うだけ言ってすぐ消えたって学園長も言ってましたし。」
叔父様とメル!?
二人で何を……きっとメルはここぞとばかり叔父様をユウワクするに決まってるんです!
この前の、学園制式水中運動着……すくうる水着とやらの、あのはしたない格好で!
学園を去られる時はメルを連れて、なんて自分から言うんじゃなかった!
あの時の自分を殴ってやりたい、と呪うわたしです。
時間魔術って、きっとこんな時に使えるです!
「時を戻そう」とかって!
……とはいえ、さっきの賢者?たちに教わるのはまっぴらですけど。
「……その様子なら、すぐに治りそうね。」
「ええ……クラリスくん。学園長があなたとお話ししたいそうです。明日の朝。」
こんな様子のわたしの何を見てお二人が安心なさったのかは疑問なのですが、しかし自室に閉じこもってばかりのわたしが外出することを自然に受け入れたのは、お二人と話したおかげかもしれません……あの三人はともかくとして。
放課後、下校したリトたちも、
「クラリス、元気。」
「うん、少し笑えてるって思うの。」
って安心してましたし。
翌朝。
まだ始業前に一人登校したわたしは学園長室に入ったのです。
セレーシェル学園長は、いつもの優美な紫色のスーツで、待っていて。
その声は、魅力的な少し低い声なのです。
「……フェルノウル教官は、今月いっぱい勤めた後で退官、その後は……来年から始まる反攻計画のために秘密裏に活動……する予定だったの。」
「予定……ですか?」
「ええ。予定。でも今では、わからないわ。」
叔父様の、予定外の失踪で、そして、連絡もつかない。
「仮にも大人なんだし、向こうにも事情があるんでしょう。メル教官が代理できただけ、マシです。」
ですが、意外にあっさりとお話になられる学園長です。
「だからね、あなたのことの方が深刻なのよ。学園にとって。」
エスターセル女子魔法学園は、既に平凡な軍学校ではないのです。
わたしたちは卒業後、サーガノス大公、いえ、次期アキシカ大公の尽力により、王国の反攻計画の一翼を担う独立部隊として編制され、前線に赴くはず。
「……魔術レベル認定がもうすぐなの。だからあなたが」
「学園長。」
今まで無言でいたイスオルン主任が、つぶやいたのはこの時です。
「ゴメンなさい。一番つらいあなたに、せかすようなことを言ってしまって。」
わたしの魔術レベルは、わたし一人の問題ではない。
そうおっしゃってくださるのはありがたいのです。
そして、今の微妙な立場の学園にとって、確かに生徒の魔術師レベルの高低が大問題なことも確か。
コアードを率いる「大佐」との論戦の中でも、わたしたちが優秀な魔法兵になるということが論点になったくらいです。
だから、前期トップの……シャルノと並んでですけど……わたしのレベルは、大公殿下や「大佐」も注目しているかもしれないのです。
「いいえ。気になさらないでください。わたしがご迷惑をかけているのは事実ですし。」
落ち込んでない、と言えばウソになるのです。
でも、仕方ないんです。
「……軍の魔法学校には規定がある。」
そんなわたしに、イスオルン主任が投げかけた言葉は厳しいもので。
「在学中に魔術師でなくなった者は、停学だ。」
停学!?
学生とはいえ、有給で軍の施設で魔術を学ぶ身であれば、軍としてはありうる話です。
でも!
「一般的には、魔術師としての資格を喪失した者に言及される規定だが……」
いつも通りの厳しい口調。
まるで冷たく厚い石の壁のよう。
「今回のような希少な事態にも当てはまる、と言わざるを得ない。」
「……だから、もしも一か月の停学期間の間に魔術師に戻れなければ……」
そこで苦しそうに言いよどむ学園長ですけど、それをあっさり覆す一言。
「お前は退学だ」
退学!?
わたしがこの学園をやめなくちゃいけない?
リトやレンや、リルやデニーやエミル!そんな、みんなと別れなきゃいけない!?
それに魔法兵にはなれず、夢もかなえられない!
今さらながらに問題を突き付けられて!
それは魔術回路が消えた時よりも、衝撃的なことだったのです。




