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第24章 刻まれた足跡 その1 失踪事件とひきこもり

第24章 刻まれた足跡


その1 失踪事件とひきこもり


 学園のために、わたしたちを護るためにお亡くなりになった職員の方々を弔う慰霊式は無事に終わり、わたしたちは悲しみと、しかしそれ以上の感謝と決意を新たに学園再建の作業にはいったのです。

 

なにしろ、あの「要塞化」とその後の戦闘の結果は、防衛戦を行った野外演習場、北西の地下研究所直上はもちろん、半ばゲリラと化した職員方が抗戦した校舎の中もかなりの被害だったんです。


 とは言え、日食が終わった今では、校内も野外も復活した清掃用パペット(無論防衛用でもあります)や各種ゴーレム(こっちは公然と防衛用です)のおかげで、かなり楽。


「は~いぃ、みなさんぅ、今日は学食でりばりいのご利用ありがとうございますぅ。」


 学生食堂の職員方も復旧のため忙しく、わたしたちは班ごとに学食でりばりいで軽食を頼むことになったのです。


「あぁ、クラリスさんぅ、昨日はお疲れ様でしたぁ。」


 わたしたちの注文を野外演習場まで届けてくれたのは、白に近い水色の髪、釣りあがり気味の大きな銀色の瞳の女性。


 新人バイトのミャールンさんが親し気に笑いかけてくれます。


 錬金術の技術を流用した携帯保温箱から……オカモチとかいうそうです……手際よくホットサンドを出して。


「はぁい、クラリスさぁん、デニーさぁん、レンさぁん、リルさぁん、ジェフィさぁん……。」


 って、一人一人の注文品を笑顔で丁寧に手渡ししてくれるのです。


「……んん?」


 あれ、リトの品は?


「……あー、忘れてましたー。ゴメンなさーい。」


 なんだか急に声がひらたくなったミャールンさんですけど?


「……ん。別にいい。」


 リトは表情を変えず、自然にサイドポーチの非常食を出そうとしてます。


だけど。


 リトは表情に乏しいだけで、今は思いっ切り落胆してるんです。


 小食だった以前はともかく、最近はそれなりに食事量も増えて毎日の食事を楽しみにしてるんですから……。


「リト、わたしのベーコンチーズサンド、半分あげるから。」


「ん。クラリス、感謝!」


 なんて言えば、そのお人形さんみたいな顔を綻ばせるのです。


「レンのトマトオニオンも食べていいよ。」


「あたいのハムエッグも、一口あげる!」


わたしたちの班アルバトロスのチームワークは抜群です。


「この流れだと、私のチリベジも、ですかね?」


「そんなん好き好きです。うちのものはうちのものです。」


 まあ、一部は微妙ですけど、あれでも随分馴染んだって思うんです。


「あぁ、ごめんなさぁい……奥に残ってましたぁ……リトさん、どうぞー。」


 なぁんだ。


ミャールンさんのうっかりです。


でもせっかくだから、わたしたちはそのままの流れで、お互いのホットサンドを仲良く分け合って食べることにしたのです。


 これって、しぇあ、でしたっけ?


ちゃっかりジェフィも交じってましたけど……「ヒトのものはうちのものです」?


……ひどい理論です。


 ですが、なんだかミャールンさん、リトにだけ妙に冷たくありません?


 リトがネコ嫌いだとか、ミャールンさんがクロちゃんとそっくりな赤い首輪つけてるとかって……別に関係ありませんよね?


 


 午後は、学園の復旧作業に加えて、日食前に収納したアイテムやスクロールの返却です。


 一日中働いて、疲れ果てて。


 ですが!


 こんなに忙しいのに、あのヒュンレイ教官だって土系の術式で大規模修復で大忙しだったのに……あの人は朝から、あの慰霊式からさぼって!


 夕方、わたしは怒りとともに叔父様の教官室に飛び込んだのです……いえ、飛び込む前に、扉で遮られましたけど。


「コン、コン、コン、コン、コン!……………………『解錠アンロック』!」


 問答無用です!


 怒りと共に、充分に集中して魔力を込めた術式で不法侵入です!


「クラリス、強引。」


「レンも。アントにも事情があるって思うの。」


 義姉妹二人とも叔父様に甘いんです!


 二人とも疲れてるからついて来なくていいって言ったのに。


「叔父様は怠惰なだけです!昨夜の祝勝会だって欠席して!せめて慰霊式だけでも出席するべきでしょう!」


「ん。それは同意。」


「…………でも……。」


「メル!いえ、叔父様!いらっしゃらないのですか!」


 バタン!


 開け放たれた扉。


 しかし、その奥には……


「んん?」


「……何もないよ?」


 そこには、そう。


 みんなでお茶やお菓子を戴いた応接セットも。


 図書室よりも貴重な書物に溢れていた書架も。


 各種のインクや種々膨大な紙が積まれた机も。


 スクロールやアイテムをしまった収納庫も。


 メルの服しか詰まっていないムダな洋服棚も。


 なにもない。


 磨き上げられた床と壁があっただけ。


「叔父様!」


 わたしは部屋の奥にある準備室へ駆け寄って!


 バタン!


 でも……そこにも、なにもない。


 研究室兼工作室兼居間兼寝室という、せまい空間にぎっしりだった機材も家具も。  


 あの夜、叔父様と一緒にいた狭すぎるベッドも。


「叔父上……なんで……。」


「……アントの気配もメルちゃんの気配も……感じないよ。学園にはいないみたいって思うの。」


 あの、たくさんものが詰まってたはずのこの狭い空間が、何もなければ、なんて広々して寒いくらい。


「ウソつき……」


 退官まで、学園を去られるまで……


「ウソつき!」


 あとひと月あるはずなのに!


「叔父様のウソつき!」


 学園の試験は終っても、まだ魔術師認定が残ってるのに!


「どうして、どうして!」


 わたしがレベル10の目指して頑張ってたのを誰よりも知ってるのに!


「なんで見ないまま、行っちゃうんですか!」


 見て欲しかった。


 わたしが、レベル10になって、下級魔術師を最速で修了する姿を。


「叔父様のバカ!バカバカ!……バカァ!!」


 そうです。


 この日を境に、叔父様とメルは姿を消したのです。




「クラリス……気分は?」


「みんなも心配してたよ?」


 翌日、わたしは自室に閉じこもり、学園を欠席しました。


「……食べてない。」


 寮母さんがせっかく用意してくれたパンがゆなのに、手をつける気にもなれず。


「食べないとダメだって思うの……アントだって」


 叔父様のことは聞きたくない。


 心配する二人を無視して、毛布をかぶるわたし。


「クラリス……。」


「……レンだって泣きたいのに。」


 昨夜は三人で泣き明かしたわたしたちです。


 でも朝になったら、リトもレンも目が真っ赤なままなのに、学園に行くのです。


 いくら、叔父様を慕ってる二人でも、幼いころからずっと一緒だったわたしと比べればそんなものなのです……。


「クラリス、ひどいよ!レンだって休みたいけど、気持ちはわかるけど!それでも今のはあんまりだって思うの!」


 毛布をかぶったままのわたしなのに、わたしの思考に感づいたレンです。


 なまじ義姉妹みたいな関係だから、こんな時はわかりすぎてつらいのです。


「レン!?」

 

 部屋を飛び出したレンを追いかけるリトです。


 そう、今のわたしなんか、リトだってかまいたくはないでしょう……もう、どうでもいいけど。


 


 どのくらいたったかわかりませんが、戻ってきたリトは、ベッドの脇に新しいトレーを置きます。


 臭いからすれば、麦がゆでしょうか……でも見向きもしないで、また毛布をかぶる芸のないわたしです。


「食べて、元気になって。明日は一緒に行こ。」


 いつも通りのリトです。


 出会ってからもう一年近い親友で、一緒に何度も死線を越えた、今ではもう義姉妹で……。


 ですが、そんなリトにすら、今のわたしは何も答えられないままなのです。


 なんて嫌なわたしでしょう。


「今日、学園長がみんなに伝えてた。叔父上が退官したって。」


 だけどそんなわたしにリトは


「もともと3月でやめる契約だったけど」


 返事一つしないわたしにリトは


「突然メル教官がすぐ辞めますって」


 学園の様子を話し続けてくれます。


「みんな、驚いてた。」

 

 言葉は多くないけれど


「デニーたちは、クラリスの様子でなんとなく察してた。」


 抑揚も少ない、淡々とした声だけど


「でも、エミルの顔、すごかった。」


 みんなの様子が浮かぶみたい。


「シャルノは茫然としてた。意外。」


 そのうち、自然にわたしもリトの話を耳を傾けていて。


「アルユン、大泣きしてた。」


 アルユンは、わたし以上に叔父様のファンですから。


「レリシア様、いつものポーズで落ち込んでた。」


 きっと両手を組んで、なんて潔いお方……とか言ってるのでしょうか?


「ヤフネ、怒ってた。」


 あの規律委員のことですからきっとこう言うのです。


「突然やめるなんてフマジメです、とか?」


「ん。そうそう。ふふ。」


「ふふふ……。」


 わたしの物まねに反応してくれたリトは、たまにしか見せないのがもったいないくらい可憐な笑顔なんです。


 少し一緒に笑って。


 すると、なんだか、ほっとします。


「リト。」


「なに?」


「……ありがとう」


 トレーの上の麦がゆは手を付けられないまま冷めて、固くなって。


 でもわたしはそれをスプーンですくってムリヤリ食べ始めたのです。


 その麦がゆは、きっと16年の人生で一番塩辛く、でも忘れられない味でした。


 食べ終わったわたしは、ベッドにリトを招いて、一緒に寝てもらいました。


 寝るまでたくさん叔父様の話をしよう、そう思っていたのに、「眠り(スリープ)」を使われたみたいに、寝ついたのは一瞬でした。




「レン、昨日はごめんなさい。」


 朝、わざわざ部屋まで来てくれたレン。


 でも、ずっと頬を膨らませたままで、それはそれで、げっ歯類みたいでかわいいんですけど。


「うん……わかればいいって思うの。レンはもう気にしてないから。」


「ありがとうね。」


「でも……登校しないの?」


「ん。一緒に行こ。」


 ……なぜでしょう?


 部屋から出るのが、学園に行くのが怖いって感じるのです。


 自分だけ叔父様に見捨てられたみたいな、不幸にみまわれたみたいな顔をして学園を休んでしまったことが、なんだかとっても後ろめたくて。


 戦隊長なんて重要な役目を負っているのに、こんなに自分が弱いって知られてしまって。


 それに、もう一つ……。


「ゴメン。今日だけ……今日だけ休ませて。明日は行くから。」




「クラリスクラリス、大丈夫?あたいたち、心配したんだよ!」


「リル、クラリスはまだ本調子じゃないんです。静かにしましょう。」


 放課後、わたしの部屋を訪れたのは、リルとデニーです。


 無邪気で明るいリルを見ると、こんな時でも心が和むのです。


 デニーは、いつもと比べ大人しいんですけど、わたしに気を遣ってくれてるのでしょう。


 メガネの光すら抑えめに見えます。


「エミルも来たがってた。」


「でも、何人もはダメたって思うの。だから同じ班員だけにしてもらったの。」


 それで、二人限定になったそうです。


「でもでも、ジェフィはね、『うちは寮の生徒ではありまへんし』」


「『やにこいとうさんのお相手はゴメンです』、なんて言ってましたよ。」


 ムカ、です!誰がひ弱なお嬢さんですか!


「こっちこそ、腹黒女の顔なんか見たくもありません!」


 あんな語感と行間だけで人を罵倒できる陰険を相手にしてたら、元気になるどころか再起不能に追い込まれるに決まっているのです!


「ん。言うと思った。」


「ホント仲悪いって思うの……わかるけど。」




「思ったより元気で安心しました。」


「ホントホント。明日はあたいたちも一緒に登校するよ!」


「もちろんレンも。久しぶりにみんなで行こうって思うの。」


「うん。みんな、来てくれてありがとう!」


 そんな感じで、みんなを送り出して。


 その後は同室のリトからノートを借りて勉強です。


「そろそろ夕食。」


「あ、もうそんな時間ですか?」


「……?」


 ドキ……バレた?


 いえ、きっとこれくらいじゃ大丈夫……。


「でもやっぱり食欲がなくて。」


「……んじゃ、後で何かもってくる。」


「……ありがとう。」




 次の日。


「クラリス?」


「ごめんなさい、今日も体調が悪くて。」


「でも……そろそろ学園に行かないとダメだって思うの。」


「ん。リルもデニーも外で待ってる。エミルだって……」


「ごめんなさい!」


 せっかく迎えに来てくれたのに、頑として部屋から出ないわたしに、みんなもついには諦めて、学園に行きました。


 わたしは部屋の掃除をした後、遅れた勉強をとりもどすべく机に向かいます。


 時々叔父様を思い出して泣きますけど、その度に何もできなくなりますけど……だけど……もう一つ。




「クラリス~めっちゃ元気ないって?どうしたのよ?」


 放課後、わたしの部屋を訪れたのはエミルです。


 リトもレンもなぜか席を外して、部屋にはわたしたちだけ残されたのです。


「……わからないわけ、ないですよね?」


「わかるけど、わかんないよ。フェルノウル教官が突然いなくなったのは、あたしもめっちゃビックリ。ううん、とうちゃんも驚いて、今商会でも大騒ぎよ。」


「アドテクノ商会も?」

 

 それは意外な展開なのです。


 てっきり退官を早めたことだって、協力者である商会長に相談の上だと思っていたのですから。


「シャルノんチも、大公はんチも大騒ぎだって。レリシア様も言ってたよ。なんて破天荒なお方って。」


「……。」


 何かあったのでしょうか?


 以前、叔父様がいなくなった時は、一種の記憶操作の術式をお使いになりました……実際に行使したのはセレーシェル超級魔術師ですけど。

 

 でも、今度はそんなことすらせず、誰も行方を知らない?


 叔父様の奇行には慣れているはずのわたしですが、不安がどんどん広がっていくのです。


「それに……クラリス、めっちゃ変だし。」


「……変……ですか?」


「さっきも言ったけど、教官殿の不在はみんなショック。もちろんクラリスがめっちゃショックなのはわかるの。でも……それでも変かな?クラリスらしくないよ?」


「わたしらしい、ですか?」


 わたしなんか、見た目は地味で、性格も融通が利かないのが取り柄なくらい何もなくて。


 エミルみたいにきれいでもお金もちでもなく、要領のよさや直感力を褒められることもなくて。


「いつもまっすぐで頑張ってるクラリスなのに、そんなクラリスなら一晩泣き明かせばきっと強がりでも元気な顔見せてくれるって思ってたのに。」


 まっすぐ?


 それは不器用なだけ。


 頑張ってる?


 魔術しか大した才能がないわたしには、努力するだけ。

 

 ずっとそう思っていた。


 自然に笑顔でいられるエミルとは違うって。


「……もう三日も休んで。部屋からもほとんど出ないってリトたちが言ってるし。レンも……何かあるって言ってるよ?」

 

 リトにもレンにも、もう姉妹みたいな二人。


 でも、言えない。


「ねえ……クラリス。あたしじゃダメ?」


 なんでも持ってるエミルにはわからない!


 でも……いつまでも隠してはいられない。


 がんばるしかないのに、それしかできないわたしなのに……。


 こんなつまらないわたしとは全然違う、わたしの親友。


「あたし、つらいんだ。このままクラリスが苦しんでるの見てるの。それはリトたちも同じだけど、最近あんまり遊んでなかったから……なおさら心配……ぐしゅ……だから、他のみんなにお願いして……ぐしゅぐしゅ……二人で話させてって、来ちゃったんだ……」


 きれいなエミル。


 でも自分で話して、いつしか自分で泣きそうになって。


 あのきれいな顔がくちゃくちゃ……わたし、何をひがんでるでしょう?


 こんなに心配してくれる親友が何人もいるのに……。


「エミル!!……わたし、わたし!」


「……うん。なに?」


 だから、わたしはエミルに抱きついて告げるのです。


「わたしの魔術回路、なくなっちゃった!魔術が全然使えないの!」


 ……………………………………………………言ってしまった。


 魔法学園の生徒なのに、日蝕も終わってみんなもう魔術回路が復活してるのに。


 なのにわたしは、わたしの魔術回路は、あの日から、叔父様が消えたあの時からきれいに消えてしまったのです。


「「「「「「「「「「「「えええええええ~~~~っ!!!!!」」」」」」」」」」


 その時、ドアの外から聞こえる悲鳴!?


 何人分ですか!


 がちゃ!どさどさどさ……。


 怒りに満ちたわたしがドアを開けると、そこから倒れ込む仲間の顔、顔、顔……。


 ご丁寧に、レン、リト、ピピュル、リル……と背の低い順にしっかり並んで。


「……呆れました。人の深刻な相談をみんなで盗み聞きなんて!」


 これは寮生勢ぞろいです……そしてエミル!


「めっちゃごめん!でも、みんな心配だって言うから、ね?」


 お姫様にも見まがう見事な金髪碧眼は、今は完全になさけないトホホな顔になり果てて。


 それでも怒りは静まるはずもなく!


「全員出て行って!」


 バタン!


 もう、「衝撃ショックウェーブ」が使えるものなら無条件で行使するところです!極大化で!


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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