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第23章 その19 たどり着いた光

その19 たどり着いた光


「今日はせっかくの臨時休校だから、あたし、めっちゃ寝てやるって、のんびり二度寝してたんだよ。」

 

 アドテクノ商会の大型馬車で寮外生たちを拾い集めた、というエミルです。


 ここは学園の北校舎屋上。


 関係者一同集合なのです。


 しかし、休校という事実は、正当防衛とはいえ戦闘していたわたしたちの前では、妙に空々しく聞こえてしまうのです。


「ところが……伯母ちゃんが寝室に乱入して来よって、ウチを引きずり出すやないか!いきなりすぎやろ!」

 

 相変わらず実家がらみになると話し方が豹変し、お姫様みたいな金髪碧眼が崩れまくるエミルです。


 さっきまで殺伐としていたのに、そんな彼女を見て、いつもの学園の日常に戻ったような、そんな安心感を覚えたのはわたしだけではないと思うのです。


 これから大事な会談が始まるのですが、その前に少しだけお互いの事情を話してるところです。


「伯母ちゃん、ウチが生まれてからず~~~~っと話しもせんかったのに、あんまりや!」


 ええと、エミルの伯母さんというのは、エルミウルさんという超絶美女です。


 ですが、エミルにそっくりで……もちろん崩れていない時の方です……まるで実のお母さんみたいです。


 もっとも伯母と姪がそっくり過ぎる、しかも伯母はその弟、つまり商会長でありエミルのお父さんに若い時からずっと仕えていたため、それはそれで商会の悪いウワサになってるとのことなのですけど。


「しかも言うことがわけわからんし!」


 エルミウルさんは、人の運命とか未来とか、そんなものが「見える」というとても怖い人なのです。


 わたしも一度だけ(二度?)会ったのですが、随分不可思議なことを言われたことを覚えているのです。


 しかしエミルにとっては初めて聞いた肉親の声。


 それが意味不明って、けっこうキツイって思います。


「ただこんだけはわかったんや。今すぐみんなを連れて学園に行け言うてるって!で、顔も洗わんうちに馬車に乗せ、いや、載っけられたんや!」


 乗車ではなく積載、つまり荷物みたいに扱われた、ということなのでしょう。


 仮にも商会長の娘で実の姪に対しなんというか……。


「せやけど、シャルノはもう準備しとったし、他のみんなもなんや覚悟しとったしな。集合、めっちゃ早かったで。レリシア様なんか、大公はんに用事言われて馬車出るとこやったいうし。そん後は王家の紋章押し立てて、学園まで超特急や。」


 シャルノを始め、貴族、騎士、富裕階級のクラスメイトも、早すぎる日蝕や謎の一党が王都各地を占拠していることに疑問と危惧を抱いていたとか。


 そして学園に乗りつけたけれど、コアード兵たちが正門を固めていて……


「そいでな、しょうもなく辺りを回ってたら、ええもん見つけてな。」


「最初は正気を疑いましたわ!まさか、わたくしたちで破城槌ラムを使い壁を壊すなんて!」


「本当だよ。でも、学園の中で大変なことになってるのはボクたちにもわかったし。」


「ううう……ワタシ、怖かったんですぅ~それに、みんなが心配でぇ~……」


 シャルノ、ヒルデア、ミュシファたちも、わたしたちと合流する為に覚悟を決めて、そして、決行したのです。


 そして、まさかのこんな時だったのに、全員集合が実現したのです!


「どうりで……遠くにいるはずのみんなの思いが、魔力が、わたしにも届いたわけですね。」


「それですわ!あれはやはりレンの『精神結合マインドリンク』でしたの?ですが、いつもとは……」


「シャルノ、それに皆さま、お互いお話ししたいことはありますけれど、そろそろお話しさせていただきますよ。」


「あ、はいはい、もちろんです、レリシア様。めっちゃゴメンね。あたし。」


 相変わらず表情の変化と言いますか百面相と言いますか、黙ってれば王女殿下に匹敵するくらい高貴な顔をすぐに崩壊させて平謝り。


 でもそんなエミルを見るとわたしも寮生たちもクスクスって笑っちゃいます。


「そうだ貴様ら、王女殿下の寛大さに甘えていつまでも」


「オルガ。」


「弟が失礼いたしました。」


「出すぎた真似をいたしました!」


 秘密裁判の刑を恐れてか、ひたすら忠実な側近兼影武者のエリザさん、オルガさんです。


 4月からは二人もクラスメイトなんですけど、レリシア様にそっくりな二人がひたすら這いつくばる姿は強烈な違和感があるのです。


 しかも一人は男性ですし……うち、女子校なんですけど、いいんでしょうか? 


 


 殿下たち寮外生部隊が学園に乱入した後、関係者全員、北校舎に押し掛けてきて、結局、王女殿下との秘密(?)会談になってしまったのです。


「今、わたくしは当学園の生徒としてではなく、父サーガノス大公レドガウルスの代理として、クァールエル・シャズナー元大佐と会談しなくてはいけないのです。」


 そう。


 これは王弟でもあらせられる大公殿下のお達しなのです。

 

「大佐」は驚いた様子もなく、また黒眼鏡……実は封印具ですけど……をつけ、一応はかしこまってる様子です。


 まさか殿下の来訪まで予測していたんでしょうか?

 

 そんな「大佐」でも、破城槌で壁をぶち破ってまで合流したクラスメイトたちを見た時は、微かにですが苦笑したように見えたのです。


「い~や、あいつ、絶対驚いてるね。僕だってこんな形で乱入されるなんて考えてなかったんだし。」


 そこで何、対抗なさってるのやら、子どもですか!


「フェルノウル師。お静かにお願いいたします。」


「は~い、レリシアちゃん。」


 だから「ちゃん」はやめて!


 不敬罪です!


 双子に斬られます!


 今斬らないまでもすごいにらまれてます!


「こほん……先ほど父は、国王陛下、並び元老の方々と極秘裏に会談を行いました。未だその途中故、父自ら出向くことができず、わたくしが代理として派遣されたのです。」


 レリシア様は、まず、学園長と「大佐」を左右にしてお話になられます。


 こんな重要な内容なのに、「大佐」が応接室を拒絶されたため、殺風景な屋上なのです。


 あの塞がれた空の穴の下、ランタンを使っての、こんな重要性にそぐわない粗末な会談に、わたしは強い違和感を、いえ、正直に言えば不満を覚えていたのですけれど。


 今さら、何の話し合いって。


「その会談にて、内定したことを急ぎお伝えせねばならない、特に……クァールエル・シャズナー元大佐に、と強く申し付かりました。またエスターセル女子魔法学園の教官、職員、生徒一同も心して聞くように、とのことでございます。」


 うう……こんな時、いつもは同級生として親しくしていただいているレリシア様が、やはり本物の王女殿下なのだと思い知らされるのです。


 その気品、仕草、まなざし一つがわたしたちなんかとは大違い。


 多少とも対抗できるとすれば、クラスの貴族令嬢たちの中でもシャルノくらいでしょう。


「クァール……?へえ、あいつあんな名前だったんだ。初めて知ったよ。」

 

 小声とは言え、その中身!?


 2年もご自分を使役していた仇みたいな、今日だって学園に攻めてきた敵なのに……名前も知らない!?


 思わずめまいがして頭を押さえたわたしです。


「だって僕は他人の名前を覚えるのが苦手だからね。」


 人嫌いでひきこもりの叔父様は、人そのものに興味がないんですけど、これはあんまりです。


 もう倒れ込みそうな脱力感……わたし、ずっと朝から頑張ってたのに……もう倒れていいですか?


 そんなふらつくわたしを支えてくださる叔父様ですけど。


「ふ。」


 微かに笑ったような「大佐」ですが、それは叔父様とわたしのやり取りに気づいたせいか、殿下のお話に反応したものなのかは、不明なのです。


 そんな「大佐を」特に咎めるでもなく、殿下はお続けになります。


「父レドガウルスは、サーガノス大公の爵位返上と、かつて我が祖父が返上したアキシカ大公位への復帰を願い、陛下、および元老に許されました。」


 ……ええっと、わたしには大事件ということしかわからないのですが、これは少なくとも「大佐」にとっては少なくない衝撃を与えた……のでしょうか?


 今度は「くくっ」という声が微かに漏れた気がするのです。


「すぐに、というわけではありません。正式な公布はおそらくは一年後になるでしょう。」


 一年後。


 それはわたしたちの一年早くなるはずの卒業と同じころです。


「……セレーナ・セレーシェル学園長。」


「はい、王女殿下。」


 今はいつもの落ち着いた学園長です。


 少し低い大人っぽい声がおきれいです。


「エスターセル女子魔法学園の卒業生も、そこで正式に任官される予定となっております。この場にいる全24名……アキシカ解放のための、独立部隊として。その指揮系統は未だ父が折衝中ですが、アキシカ大公家が学園の経営に参画する形で、軍から譲り受けることになりそうです……。人員・資金など各方面では、テラシルシーフェレッソ伯爵家とアドテクノ商会のご協力を戴くことは、今まで通り。」


 学園長や教官方は大きくうなずきます。


 それを見れば悪い話ではないんでしょうけれど……今一つ、まだピンとこないわたしたちです。


 市民の娘の身としては、政治的な話はどうも理解が及ばない。


 いえ、理解したくない、というのが本音なのです。


「ふふふ。とっくに実態はそうなっていたのですけれど、形式を整えるということは存外大切なのですよ。」


 つまりは、今まで通りってことなんですね!


「大まかな内容は、先の、そう。ガクイエンサイ前後の保護者会談で内内に決まっておりましたけれど。」


 あの困った大人の会議のどこにそんな重大なことを話し合った痕跡があったんですか!?


 しまいには叔父様が「静寂」のスクロールで魔法街を一晩沈黙の世界にして逃亡したってことしか記憶に残ってませんけれど……。


 それでも、わたしにも少しずつ実感がわいてきます。


 みんなもわかってきて、うなずき合ったり微笑みあったりしています。


 ただ……叔父様?


「あのさあ、レリシアち……こほん。レリューシア王女殿下。失礼ながら、その決定には大きな問題が残っているんじゃないかな。」


 問題?


 なんで敵の前でこんな話をしているのかってことについては、実はわたしも不満で不審なんですけど


「……フェルノウル師のご指摘はごもっともなことなのです。それゆえ、父レドガウルスは、シャズナー元大佐に依頼したいと申しております。」


 このご発言で、「大佐」たちともかかわりがあることが察せられたのです。


「くくくく……まあ、よい。聞いて差し上げましょう。」


「聞かずともわかっている、そういうことですね。」


「いえいえ、殿下のお言葉を直に賜りたく存じております。意外にお思いになるでしょうけれど、こう見えて小官は、王族の皆様には強い忠誠を抱いているのです……それが、魔獣怖しでアキシカ大公位を投げ捨てた家系の者であってもね。」


「貴様!」


「無礼者!」


 と色めきだったオルガさんとエリザさんですが、レリシア様の一睨みによって抑えられます。


 ですが、わたしの気持ちは二人と同じ。


「では……まず、この度、父は王国を代表して、この騒乱の収拾を行うことになりました。そこで、国王陛下の名の下に、わたくしレリューシアが調停を行います。」


 調停!?


 ……コアードの一掃とか討滅とかを期待していたわたしは、ぐっと歯をかみしめるのです。


「……セレーシェル学園長。調停を受け入れることに、不服はありますか?」


 わたしたちの視線は一斉に紫色のローブを着た学園長に向けられたのです。


 この時、わたしたち寮生たちの顔は強張っていたと思います。


「ございません。学園は、自衛のためにやむなく戦闘行為を行ったのみですから。殿下が調停してくださるからには、なんの問題も……相手次第ですけど。」


 このまま戦闘が終わる……未だ日蝕が終わらず、魔術が使えない今、しかも東側の迷宮を突破された今、戦闘継続が不利なことはわかるのです。


 学園の防戦はまだしも、コアード一党の殲滅に至っては困難極まりないことだって……わかっては!


 でも王国が退治してくれるって思いたかったんです。


 せめて、援軍だけでもって!


「大佐。王都への不法な潜入工作、今日のエスターセル女子魔法学園への襲撃は不問にいたします。」


 不問!?


 罪を問わない?


 ここまでやっておいて……。


 ギリッ。わたしの歯が小さな悲鳴を上げたのには、叔父様だって気づかない。


「しかしながら父レドガウルスは、あなたが軍より脱走した際に奪ったアイテムの返還を要求しております。何よりも『アキシカの大剣』を。先王が下された、アキシカ統治の大権を象徴する、あのアイテムなしでは、先王以来の属州アキシカ統治の正統性が疑われてしまうのです。」


 ……調停とは、政治的取引なのでしょう。


 王国では、自治権や統治権をあたえる場合、それを象徴するアイテムを下賜することになっているのです。


 かつての属州アキシカの場合は大剣。ですが……


「一度下賜された統治の象徴アイテムは、それが失われたと確認されるまでは、新たに作るわけにはいかない。まあ、そうですね、何かある度につくっていては、統治の正統性も何もありませんからな。」


 そうです。


 もしも同じ土地の統治権を争うような事態がおこった場合……主に相続争いなのですが……類似アイテムがあってはとても面倒なことになってしまうのです。


 だから、一つの土地に統治アイテムは一つだけ。


 原則的に、新たに作るのは、以前のアイテムが失われたと確認されてからなのだそうです。


「原則です。そんなもの気にせずつくってしまえばよろしいのでは?」


「……元老たちが、許可しません。」


「なるほどね。」


 国王陛下と言え、その権力は絶対ではなく、実績ある王族や有力な貴族に支えられてもいるのです。


 いくら弟君の願いで、それが王国にとって有益なものであろうとも、周囲を説得せずに進めることは難しいのでしょう。


「……それで、その代償は?」


「貴様!罪を二つ不問にするというのに!」


「もともとあれは大公家の……」


「二つ?それだけではそれ以外の罪とやらを問われることになります。しかも……違いますよ。あれはアキシカ統治軍の総司令官に下されたものです。であれば、総司令の遺志を受け継ぐわたしこそが正当な所有者と言えるのです。しかも一度逃げ出した者の子に、たやすく譲れるものではありません。」


 なんでも王国がアキシカを放棄する際には大きな政変が起こったらしく、当時のアキシカ総司令の不慮の死もいろいろと疑わしいのだそうです。


「父は申しております。元大佐、およびその一党の名誉を回復する、と。」


 「大佐」たちは、アキシカ統治軍を脱走した将兵、という扱いです。


 脱走の罪は重く、その名誉の失墜は当然のことに決まっています。


「……いささか事情はご存じと見える。しかし、それだけでは」


「加えて、希望する者のアキシカ大公家での雇用を約束します。いえ、正式にアキシカ解放の一翼を担っていただきたいと、父は申しております。」


 こんな偏狭な思想に汚染された犯罪者集団を!


 しかも、このままでは、そんな人達と一緒に戦うことになるかもしれないのですか?


 学園を襲った敵で、職員さんたちも何人もの仇!


 わたしたちを護るために戦死した人だっているのに!


「……ふ。それは代償ではなく、むしろ、いっそ戦って亜人と共倒れになれ、ということではありますまいか?」


「……その意図を否定できません。」


 ……レリシア様、いえ、この場合は大公殿下が腹黒なんでしょうか?


「そんなん当たり前です。なに、こまいこと言うてますの。」

 

 腹黒陰険謀略女のジェフィからすれば、この程度は策謀にすら入らないのでしょうけれど。


「ですが……脱走兵、テロリストとすら言われるあなた方を、抱え込むにはそういう名分もまた必要なのです。」


「……く、くくくくく……そこは悪くない!なかなかどうして、悪くはありませんな!」


 笑った?


 ここ、笑うところだったんですか?


 理解不能な不気味さに背筋が寒くなるわたしです……いけません、やはりこの人、叔父様級の変態です!


「クラリス……僕を変態の格付けの物差しに使わないでくれる?」


 ……どの口がおっしゃられるやら。まったく。


 だって、理解不能なところは、叔父様に近い分類!


 こんな策謀じみた駆け引きで初めて笑うなんて、立派な変態に決まっているのです!


「しかし、お断りする!」


 でも断った?気にいったんじゃないんですか?


「それは、アキシカ大公になられるお方にとって、我らコアードはこの学園の女子どもと同じレベルにしか見られないということですか。だから同じ戦線に立て、そういう屈辱的な扱いを甘んじろということですよ。」


 ブチ!その瞬間、そのわたしの額で、何かが切れました!


 そんな「大佐」の声を聴き、わたしはガマンできずに飛び出したのです。


「こっちだってお断りです!あなた方のせいで職員方が何人も犠牲になって!それに……わたしたち女を差別して、亜人も魔獣も一匹残らず殺せって言って、いいえ、ネコちゃん妖獣や怪異現象だって認めないし、自分の嫌いなものを全部否定するあなたたちと誰が一緒になんか!」


 みんなが。


 戦いを停めるため、妥協を探っていたレリシア様が、学園長が、イスオルン主任が、ワグナス副主任たちが。

 

 共にギリギリまで戦っていた、リトが、レンが、ジェフィが。


 デニー、リル、ジーナ、アルユン、ケーシェたちが。 

 

 危機に駆けつけてくれたエミルが、シャルノが、ヒルデアが、ミュシファたちが。

 

 みんなそれぞれの立場で、レリシア様と「大佐」の会談を聞いていて、でもそんなそれぞれの思惑はわたしの叫びで全て吹き飛んでしまったのです。


「では、決裂ですな。小官たちは5分後に攻撃を再開いたします。では。」


 「大佐」は平然と見事な敬礼をし、立ち去ろうとします。


 そして存在しないはずの目でわたしを冷ややかに一瞥したのです。


 わたしは睨み返し、しかし……心の奥になにかが訴えてて、でもその声は今のわたしには聞こえなくて。


「そうかい。仕方ない。クラリスがそう言うなら、どちらかが一人残らず死に絶えるまで戦うしかないね。」


 ですが、この声は届くのです。


「クラリスが願うなら、僕がやるよ。僕にはまだまだ戦闘手段は残ってるし、皆殺しさ。」


 いつでも、どんな時でもこの人の声はわたしに届く。


 でもその内容は、いつもの叔父様の言葉とはあまりにかけ離れていて。


「……叔父様が……非暴力主義の叔父様が、そんな、殺す、だなんて……」


 それはこの人には似合わない。


 どんな時でもわたしの味方してくれる叔父様ですが、でも…‥違うんです!


「だってキミがそう願うんだろ?僕の夢はキミの願いをかなえることさ。だから、学園のみんなとコアードの、どちらかが死に絶えるまで戦うのが願いなら、そうするしかないじゃないか。」


「そんな!?……わたしは学園が、仲間を死なせるために戦うんじゃ……」


「おんなじだよ。クラリス。コアードだって死ぬために戦ってるわけじゃない。殺したいために戦ってるわけでもない……互いに目指す理想があって、それを叶えるために犠牲を払う価値がある。そう思ってる点ではおんなじさ。」


 そうでしょうか?


 コアード兵が、死を恐れず淡々と攻め入る姿から、死を求めているかのような印象を受けたわたしです。


 そうでなければああも戦えないと思ったのです。


「ただ、目指すものが少し違うから戦う。僕から言わせれば、そんな戦うほどの違いじゃない気もするけど。だから僕は、暴力なんかで決着をつけるなんて野蛮な行為が嫌いなんだ。だからさっきもそう言ったじゃないか?」


 自分の主義主張を貫くために戦う覚悟はコアードのヤツラと同じ。


 確かに叔父様はプールサイドでそうお話になったのです。


 戦争、いえ、人と争うことが嫌いな叔父様からすればそう見えるのは致し方ない、と思いながらも、わかっていただけないのは悲しかったのです。


「じゃあ、今日なんで叔父様は戦ったんですか!?」


 この人は、敵の襲撃を予測して、ある意味今日の戦いは叔父様のせいとも言えるのに!


「一方的に襲われて殺される趣味はないからだ。そして僕には守りたいものがある。だから抵抗する。抵抗することで、相手が諦めたら、それで終わりさ。相手を殺すまで戦うなんて、趣味じゃない……でもキミが望むんなら僕はそうするよ。」


「そんな……いけません!」


 わたしの行為は、収まったかもしれない人族同士の争いを再開させることになるかもしれない。


 終りかけていた戦いにみんなを、叔父様を巻き込んでしまう……今さらながらそれに気付いてゾッとします。


 でも……許せないのです!


 あの傲慢さが、いえ、何より失われた生命に申し訳がなくって。


 だから……結着をつけたい。


 それは譲れないことのように思えるのです。


「ただ……一つだけ。キミは軍人を目指していたと思っていたけど、それは止めるの?それでいいの?」


「そんなこと言ってません!悪い敵と戦うのが軍人の仕事です!」


「違うよ。命令で、任務で戦うのが軍人のはずだよ。憎しみやかたき討ちで戦うのは、自分の感情で戦うのは、軍人じゃない。でも命令はなく必要すらないのに、キミの感情を満足させるために戦うなら、その戦いを誰が支えるんだい?他の誰が犠牲になるんだい……キミの自己満足の犠牲に誰かがなることを覚悟せずに、そんな殺し合いなんてできるもんか。そんなの誰よりキミが後悔するに決まってる。」


 今まで、うすうす感じていたことがあるのです。


 叔父様が戦争を憎むのは、誰より戦争を理解してるからではないでしょうか。


 軍隊を嫌うのは、軍人の葛藤に深く共感しているからではないでしょうか。


「戦争をしない国」なんてウソのようなお国から、戦争をしなければ滅ぼされるこの王国に転生された叔父様なのです……。


「あ、それでも僕はついて行くよ?キミが願い、キミと行くのなら、それが針地獄でも血の池地獄でも炎熱地獄でも極寒地獄でも……」


「……全部地獄しかないじゃないですか……そんな地獄めぐりの趣味なんか……わたしには……叔父様にだって……ないのに……。」


 ひょうひょうと話す叔父様です。


 こんなに戦いが嫌いなくせに、それでも最後には当たり前のように、この人は本気でついてきてしまう。


 わたしが望むところなら。


 でも……そこがそうじゃないって教えてもくれるのです。


 わたしよりもわたしを知ってる叔父様です。


 正面からは説得が難しい、融通が利かなくて頑固なわたしを、こんな搦め手で……大人はズルいのです。


 そう、叔父様は、やはり大人なのです。


 生まれてすぐのわたしと出会ってから。


「後悔するキミの地獄とそれを見ている僕の地獄さ。そんなの目に見えてる……どうだい。少しは頭が冷えたかい?」


「はい……叔父様……ありがとうございます。」


 少しだけ、側に寄って、頭を胸に寄りかからせて。


 でもすぐに離れます。


 今はちゃんとしなきゃいけないんです。


 みんながわたしを見ています。


 頭を一振りして、前を向くのです。


「……重要な会談に口をはさみ、その結論を左右しかねない愚行、誠に申し訳ございません!レリシア様……『大佐』、お二人に深く謝罪いたします。それに学園のみなさん……ごめんなさい!わたし、自分の感情だけで全部壊してしまうところでした!」


 深々と、ひたすら頭をさげるわたし。


 そして、一緒にさげてくださる叔父様です。


 沈黙に耐え兼ねて、そっと顔を上げると、レリシア様は厳しい視線をわたしに向けたままです。


 それでも頬に血色が戻られていました。


 学園のみんなは……教官方は明らかに安心していらっしゃいます。


 一緒に戦ってた仲間は……複雑そう。きっとわたしの葛藤がわかってるのです。


 後からきた寮外生たちは、事態がつかめずキョトンとしたままですけど。


「茶番は済んだのか?あれで終っていれば、やはり女に兵士はムリだと結論がでたところだったが。」


 カチンとくるその言葉ですが、さすがにこの場面。


 言い返したいのをガマンしている、わたしです。


 でも、そっと頭に手を置かれて、すぐに落ち着くのです。


「そうかい。それじゃあ、このあんたにして、まだ結論出してないのか?一考に値するなんて、随分評価が上がったじゃないか……まあ、さっきの王国軍なんかと比べれば雲泥だからな。」


「……男であっても役に立たない者はいる。その逆も、極めて稀ながらないとは言い切れぬ。……自ら戦いを選び、その覚悟を示し、そして一人も欠かさず、ここに集まった。その意味は理解している。その程度には、な」

 

 そう言って、「大佐」はわたしたちをゆっくりと顔を向けたのです。


 そう、黒いメガネのような封印具をつけたまま。


 見えないはずなのに、その冷然とした視線が届いた途端、みんな思わず背筋を凍らせたのです。


 しかし、わたしは氷に負けずににらむだけ。


「ふ。」


 そして、レリシア様もまた、別の意味で「大佐」と戦っていたのでしょう。


「大佐。では、先ほどの件は考えなおしていただけますか。調停の受け入れと大剣の返却、最低でもこの二点は譲れないのです。」


 穏やかなお顔ですけど、それは殿下の、王族としての戦闘もおどなのです。


「やはりお断りする。」


 それでも、そんなレリシア様の申し出を「大佐」は即答で却下です。


 レリシア様は落胆をお見せにはなりませんが……少し罪悪感です。


 わたしのせいじゃないかもしれませんけど。


「あの大剣は、われら一党がアキシカを解放するまでは渡せない。」


 盲目を感じさせない、その挙動でわたしたち一同を睥睨するような、たった一人の「大佐」です。


 側近もだれもいないまま、わずか一人で臨んだ会談、しかし、わたしたち全員の総がかりですら、「大佐」には勝てていないのです。


 なぜかそんな敗北感がこみ上げて。




「そうかい。んじゃ、勝手に戴いておくよ。」


 …………え!?


 いえ、一人だけ、そんな雰囲気に無縁な叔父様なのです。

 

 そして……バタン!


 屋上に通じる分厚い扉が、大きな音を立てて開かれたのです。


 敵の襲撃か、と身構えたわたしたちです!


 その時、一同の目の前に現れたのは!


「ご主人様!メルはご主人様のためにとっても頑張ったのです!」

 

 メイド服のメル!


 メルは、勢いよく叔父様に飛びつき、お尻の上の犬の尻尾も全開で振りまわしています。

 

 そんな姿を見ると、警戒したわたしたちがバカみたいです!

 

 叔父様は抱きつかれた勢いで倒れちゃいますけど、メルはお構いなくその上に体を預けて……これは……まうんと?


 許せません!


「この犬メイド!場をわきまえなさい!」


 お前が言うなってどこからか突っ込まれそうですが、それはそれ、です!


 思いきり引き剥がすわたしです!


 叔父様は苦笑いを浮かべながら、力なく立とうとします。


 メルはわたしの手を振りほどき、そんな叔父様を支えるのです。


 ち、です。いえ、舌打ちはしませんけれど。


「……泥棒の真似なぞ、これで終わりにして欲しいでござるよ。」


 その後ろには、疲れ果てた様子で、その体より大きな包みを抱えた小柄な男性、サムライさんです!


 そこに「大佐」の見えないはずの視線が向けられて。


「……フェルノウル師。これは一体?」


 しかし声を出したのはレリシア様です。


 それはこの場のみんなの疑問なのです。


「だからさあ、しばらく前からコアードの対魔法結界の位置にアタリをつけていて、それが日蝕で無効化されたスキに潜入してもらったんだよ。だから、日蝕で不利なのはお互い様なんだって。おまけに学園に慌てて全軍配置したから、やっぱり手薄だったろ?」


「……その剣士は、リーチが相手しなければ何もしないと言ったのでは」


「言ってないよ?」


「……拙者はあの剣士と戦う以外は、ジロー氏との友誼に応えるのみ、と……しかしながら大いに詐略があったと言われては否定できぬ!ああ、拙者、己が呪わしいでござる!」


 つまりは叔父様が、リーチがプールから離れた間に、叔父様の護衛以外何もしないと思わせたサムライさんと、魔法なしでも追跡・捜索に優れた半獣人メルをコアードのアジトに送り出していた、ということなのです。


「ここ数日、あんなに大勢が動きまわってたからね。使い魔も総出、冒険者にも監視頼んでたし、今日なんか結界も警備もないから潜入も簡単だったよね?」


「その通りなのです!ご主人様の用意周到なこと、例えるならばその糸の張った自らの巣に標的を誘い込むがごとくなのです!」


 もう全力で叔父様に体を押し付け甘えるメルです!


 この年中発情犬娘には慎みとか恥じらいとか、欠片もないのです。


「ってことで、これは……どうぞ、レリシアちゃん……これはお察しの通り、『アキシカの大剣』。属州アキシカの自治権をゆだねる者に先王が渡した統治の象徴アイテムさ。」


「ああ、なんて思慮深いお方……」

 

 感動したご様子で叔父様から包みを受け取るレリューシア王女殿下ですけど……なんだか思慮深いの意味が違うのでは?


 これはあくどいとか、卑怯とか……ねえ?


「ありえない。私の瞳が、かくも不慮に事態を招くとは……まさか私の他に因果をゆがめた者が?」


「おっと、そこで詮索やめてくれる?まあ、たぶん正解だけど。でも、この場合は歪めたんじゃなくて、正したんだよ。本人、無自覚だし。」


 ……気のせいでしょうか?


 わたし、思いっきりにらまれてる気がします。


 いえ、あの「大佐」、ホントに見えないんですよね?




 ……そんな、多少の中断の後、会談は再開されました。


「……では、以上の条件を満たすことができれば、これに合意する。双方、このことに相違はありませんね。」


「わたしどもはございませんわ。」


「……ない。」


 最初にレリシア様が提示なされた条件で、互いに約定を結び、調停はなされたのです。


 無論この場ですべてが決したわけではないのですが、大公殿下もいらっしゃらないこの場ですべての合意を、しかもたった一度の会談で終らせることは不可能ですし非常識とすら言えるのです。


 そういう意味では、この北校舎屋上で結ばれた合意は限りなく満点に近い……とは、後日ワグナス教官からお聞きしたことですけど。


「ですが……『アキシカの大剣』も既に持たない非合法組織になんであそこまで譲歩するんですか!」


 みんなと少し離れて、叔父様をいろいろ問い詰めてるわたしです。


 だって、わかんないことも納得いかないことも多過ぎなんです!


 その憤懣の対象はこの人しかいないんです!


「……クラリス。『大佐』たちの思想がなんで未だに力を持っているかわかるかい?」


「それは、あのなんとかの瞳というアイテムのせいです!」


 ここ数年で女性が働くことは認められつつあり、クレオさんのように男社会の新聞記者の中でも求められる女性が出てきました。


 それにも関わらず、そんな風潮に対し反動的な動きも強まっているのは事実です。


 でもそれはきっと、そう、「大佐」個人の歪んだ願いを……。


「違うよ。シャル・アークの瞳は確かに強力な呪術具だけど、それを後押しする力がなければ、ここまで強い力を出せないよ。」


 それはつまり……?


「ああ。これが今の、人の認識なんだね。それは長年染みついて、いろんなところに根付いていて、まだまだ強くて。そう簡単に変えられるものじゃない……今日まで僕たちは、政治、戦略、戦術、思想、そして人族の意志をめぐって戦った。それでも『大佐』が張り巡らせた王国内での影響力を払拭することはできなかった。」


 おそらくは、この今日にいたるまで、大公殿下と学園長に主任、そして叔父様の、みんなが協力して「大佐」と戦っていたのです。


 見えない形でも戦い、今日は現実に干戈を交えて。


 しかし、それでも勝てなかったのでしょうか?


 わたしには勝ったと思えたのに。


「……過去のコアードの問題を不問にせざるをえなかったという点では、僕らは負けたとも言える。そんな奴らを友軍にするしかなかった。それこそ軍閥として認めて。だけどね……」

 

 そこで叔父様はわたしを見たのです。


 いつもの穏やかで優しくて、でもちょっとだらしないお顔で。


「キミたちを認めさせた。きっとこの点じゃ大勝利さ。だから……戦略的には互角に見えて、政治的には劣勢で、戦術的には敗北寸前だったけど……」


 ポンって、わたしの頭に手を置いて。


「きっとキミたちの圧勝だったのさ。この後、何年かしたらそう言える。」



 

 その時……少し明るくなった、そんな気がしたのです。


 だからわたしは空を見上げるのです。


 今日何度も見上げた暗い空を。


 幾度も願い、そのつど裏切られた黒い空を。


 そんな空が、今。

 

 少しずつ闇が薄れ、薄明かりが指していくのです。


 暗闇をつくっていた黒い穴に目を向けます。


 穴は、でも、欠け始めて、見始めてからは、わずか数秒のうちになくなって。


 代わりに現れた、眩しい太陽!


 青い空の中、なんて明るくて!


 白い雲って懐かしい!


 みんな一斉に声を挙げて、一日ぶりの太陽を歓迎しています!


 リルなんかはしゃいで、ム……なんか大変なことになってます。


 デニーのメガネはまた怪しい光をとりもどしてますけど。


 明るくなった屋上で、わたしは叔父様と並んで辺りを見渡すのです。


 でも叔父様のお顔に目を戻すと……


「叔父様、お疲れですか?お顔の色も……。」


 もともと外に出ず色白い人ですからわかりにくいのですけど、いつも通りに見えてどこか生気が感じられないご様子なのです。


「やれやれ、僕もけっこう働いたから疲れたよ。もうこんな時間か……僕の体内時計じゃ午後2時ごろだって思うけど?」


「え?あ……はい。1413です!魔術時計が復活してます!」


「まったく。午前6時ころから午後2時過ぎ……8時間以上も、か。あいつの闇はどんだけ深いんだ?」


 ……意味不明ですけど。


「推測だけど、あいつ自身もわかんない内に、今日の結着を待ち望んでいたんじゃないか。だから、あいつの潜在的な願いにあの瞳が…‥」


 まさか!今日の早すぎる日蝕も長すぎた暗闇も、あの「大佐」が心の奥底で望んだ結果なんですか!?


「ま、そんなことあるはずないか。でも、日蝕なんてもともと原因不明なんだし、つい、そんな考えも、ね。あいつなりに、王国政府、軍の中に根を張って、既存の戦力を総動員し、一番見込の高い計画を立案したつもりだった。それでも人族が勝つ可能性は高くはないってわかってたかもね。しかし、今日、より清算の高い計画とそれを託すに足る相手の出現を無意識で認めた。」


「それは……叔父様の!学園の!わたしたちのことを!あの『大佐』が評価したってことですか!?」

 

 勢い込んで迫ったわたしです。


「……根拠不明の推測以前。ま、勘だけど。だから、あいつが笑った時に晴れたんだよ。」


 勘ですか?


 叔父様の勘……それは過去の失敗から思えば、著しく信頼性が低いのです。


 だいたい「大佐」、会談中も何度か笑ってませんでした?


 嘲笑ったり、苦笑したり、鼻で嫌味に笑ったりとかですけど。


「面倒くさいよね。感情の出所がわからないコミュ障って。」


 はあ?って思わず乙女らしからぬ奇矯な声を挙げそうになったわたしです。


 しかし、耳を疑うこのセリフは、まぐれもなく叔父様の本心なのです!


「ま、それでも『大剣』奪われたことをきっかけに引き下がってくれたんだから、あいつも大人になったもんだ。」


「……それ、どの口がおっしゃられるのでしょうか?叔父様、少しご自身のことを省みになられた方がよろしいと思いますけど。」


「僕がかい?僕は前世から謙虚が取り柄だったんだけど?」


 ……例えそれが真実だとしても、その取柄とやらは転生で滅却したに決まっているのです!




 この日、わたしたちは教官方の許可を得て、教官方、職員さん合同の宴会に乱入し、一晩中大騒ぎしたのです。


 犠牲者が出たのに不謹慎、なんて規律委員ヤフネがさけんだのはもっともで、わたし自身もそんな気持ちはあったのですが、


「なに言ってるんですか。彼らも向こう側で自慢してますよ。キミたちを、学園を守ったのはオレたちだってね。だから彼らのためにも宴会ですよ。」


 なんて金髪の司書助手さんに巻き込まれて、気がつけばヤフネもワイン飲まされてますし。


 助手さん、外見にそぐわず意外に押しが強いんです。


「今日は無礼講よ!」


「……ふん。桁くそ悪い。これはやけ酒だな。」


「私もケガが治りましたし。いやぁ魔術って本当にいいですよね……フェルノウル教官、あなたも参加ですよ。」


「僕はこういうのが苦手なんだ。だいたい無礼講って言ってもホントに無礼したら、学園長すごい怒るし……だから遠慮するよ。」


「ああ……なんて謙虚なお方……」


「レリシア様……ボクは王国の未来が少し心配だよ。」


「ウジウジすんな、委員長!」


「そのとおりだ。常に前向きなのが軍人のあるべき姿だぞ。」


「そうでしょうか?わたくしもレリシア様の唯一の欠点は男性への審美眼だと思いますわ。」


「……あんたが言うな。残念趣味。フェルノウル教官殿の魅力もわからないくせに☆」


「アルユンもめっちゃ偏ってるけどね。」


「うぅ~みんな、仲よくするんですぅ~」


「そうそう!みんな仲良く!それが一番大事なんだよぉ!」


「いいえ、大事なことはメガネです!あの『大佐』の黒眼鏡、渋いって思いませんか!」


「デニーはやっぱり病んでるって思うの。」


「ん。ところで……ジェフィ、今日はがんばった。」


「……そんなん言わんといてください。ウチは表返った身ですから当たり前です。」


「ファラがかわいいのも当たり前なの~♡」

 ・

 ・

 ・

 翌日。


 わたしたちは学園の復旧作業の前に、慰霊式を行いました。


 6名の職員の方を弔い、そしてその後、中庭には「名もなき希望の礎たち」という小さな石碑が建てられることになりました。


 わたしたちを、学園を守り、名前を刻まれることすら望まず、ですが彼らの想いは、そう、希望を残してくれた、わたしはそう思いたいのです。


 石碑の前に立つわたしの足もとには、さっきまでクロちゃんがいました。


 あの日以来、エスターセル女子魔法学園にはネコが日常的に出没することになり、いつしか学園のみんなはネコにも感謝をささげるかのように、ご飯を分けたりするようになったのです。


 王都ではまだまだ妖獣として忌避や迫害の対象ですが、ここではもうかわいい仲間なのです。


 今も逃げ回るのは、なぜかネコ嫌いのリトだけ。


 そして……。


「クラリス……あのね、あの中庭。東屋ガゼボから見える花壇には、いつもレンの好きな花が植えられてたの。春も、夏も、秋も……なんでかな。」


 慰霊の石碑に手を合わせるレンの胸元には、フクロウさんを象った首飾りが光っているのです。

 

 わたしは、そんなレンに何も答えられないのです。


 それを責めるようなレンの視線。


 わたしが何かを隠していることは、この義妹にはバレバレみたいです。


 しかし、わたしだって、ほとんど知らないことに間違いはないのです。


 だから……もしもレンがずぅっとこの花たちのことを覚えているのなら、来年の、そう。卒業式には話そうって思います。


 それなら助手さんも、いえ、ヤージンさんだって、きっと許してくれるって思いたいのです。

 

 ちなみに、その花壇の花は、その後もなぜかレンの好きな花が植えられ続けるのです。


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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