第23章 その17 決闘! 魔術士 対 剣士
その17 決闘! 魔術士 対 剣士
その時、ポーン、ポーン、ポーンと飛んだのです。
冗談みたいに現実感がない、しかし飛んだのは確かに……首。
首が地面に落ちて、できの悪いボールのように転がり、止まりました。
「やはり使えん輩だったか。少しでも時間を稼いだだけマシだが。」
「……ハッ。破城槌を運ぶだけでした。」
そして何事もなかったように話す「大佐」たち。
首を失った死体がそのまま倒れるのが見えました。
全員、王国中央軍の濃緑の軍服を着ていて……ガイゼルとその取り巻きの高級軍人たち!?
「仲間じゃないんですか!」
酉さんの背から飛び降りたわたしですが、叫ぶ以外に何ができたのでしょうか?
「……仲間?このような無能な者が?まさか。地位が高いので利用しただけのこと。このまま王国軍にいても亜人殲滅の戦いに全く役に立たんどころか有害だ。それがわかって、早急に粛清できたのはむしろ僥倖と言える。」
学園を守るどころか私欲のために接収しようとした、敵と言える相手の死。
それなのにわたしがこんなに動揺して、殺したリーチもそれを命じた「大佐」も極めて当然にふるまっているのです。
「……自分の役に立たない者、自分が認めない者、それをあなたはすべて粛清すると言うのですか!」
そんな独善、許すわけにはいかないのです!
「いや。わたしに敵対しても、有能であれば、少なくとも使い道がある者は生かしておく。まだ使えるものを壊すことをなんと言ったかな、そうそう、アントに言わせればモッタイナイそうだ。」
「そこで叔父様の名を出さないで!」
こんな人に「飼われていた」という叔父様の無念を、しかも、今もこの人の考えを理解してしまう叔父様の憂鬱を、怒りと共に思い出すのです。
「魔力矢!」
この一撃には、おそらくわたしの初めて人に向けた殺意がこもっていたはずです。
金色の魔法円が展開し、それが7本の金の矢となって「大佐」に向かっていくのです!
「ふ!」
しかし、目の前に立ちはだかるリーチがその大剣を振るうや、わたしの魔力矢が消えてしまうのです!
さっき特大破壊スキルを使って力を出せないはずなのに!?
「他者に放たれた術式を?剣風のみで無効に!?」
発現した魔術とは、既に確定した現象なのです!
それを防ぐ力って何!?
ただの剣技じゃないにしたってアンマリです!
「なめるな、小娘。全力で戦えぬまでもこの程度は児戯と言える。」
ジリ、わたしに向かって踏む出すリーチです。
小剣なんて抜く気にもなれないほど剣技では圧倒的な差です。ならば!
「酉さん!」
空飛ぶ巨大なニワトリ……コカトリスと間違われて不本意でしたけど……に乗って空から術式で戦えば!
「……酉さん?」
(……まことに申し訳ござりません、クラリス様。この文武勇仁信の五徳を備え邪悪を祓う象徴たる酉めをお頼りになられるのは当然至極なのでございますが)
「だから何!」
リーチの斬撃を奇跡的にかわし、地面にゴロゴロして、土塗れのわたし相手に何の講釈ですか!
このオシャベリ!あの首、しめてやりたいんです!
(ヤツガレは、もう活動限界なのでございます……主が……。)
オマケに5分ももたないなんて、どこの決戦兵器ですか!?でも!?
「叔父様が?……叔父様がどうしたのですか!」
(…………。)
肝心なことを言わないまま消滅?
もう、あのニワトリ、絶対フライドチキンの刑です!
役に立たないばかりか叔父様に異変があることすらロクに伝えられないなんて!
「屋上からわざわざ降りてきたのには驚いたが、何のことはない。死にに来ただけか。」
なんて言いながら振り下ろされた一撃は、地面を割る勢いです!
これまた避けたものの、剣風か飛んだ石かで、頬を切り裂かれました。
もう、女の顔を!?いえ、顔なんて気にしていられません。
ですが……有利な位置を捨てたのは、思い上がりだったかも。
金属ヨロイすら上回る四重の防御術式(防御・回避・風甲・素材強化)ですら、この男相手では気休めもいいところなんです!
「特務曹長、女生徒は殺すな。ヤツがうるさい。」
「ハッ。」
……ヤツ?
「まさか、わたしを人質にでもするつもりですか!」
叔父様になら効果覿面です!
なんて卑怯なんでしょう!
「そんなことはせんよ。これでもまだ軍人のつもりだ。テロリストとは違う。」
「どこが!?学園を襲う軍がありますか!仲間だった相手を粛清する軍人がいるものですか!」
「ある。なにしろこの学園は、軍閥化している。」
「そんなことはありません!」
「現に正規の軍務から著しく離れた活動をし、独自の武装をし、独自の戦術を練り、独自の編制を始めている。」
うっ!?それは……否定できないのです。でも
「それは、女だけで新規の独立部隊を編制し、戦いを終わらせるためです!」
叔父様が考えた計画は、セレーシェル学園長が認め、イスオルン主任が賛同し、ワグナス副主任らの教官方も協力し、そしてきっと政府・軍の中にも同調する人がいるのです!
「まあな。違法な活動、と言いたいところだが、それを黙認、いや、むしろ推奨している者もいるのが、面倒なことだ。しかし、このままでは軍の亜人戦略に大きな支障をきたす。そう判断したのは、そこの首だけではない。そういうとこだ。」
首。
つまりガイゼル一派の他にも学園を認めない勢力はある?
「特務曹長。しばしここを任せていいな。」
「ハッ。」
「大佐」はわたしを無視してそのまま立ち去ろうとしています。
逃げた、とは言えません。
明らかにわたしはリーチという剣士に押し負けているのです。
まだ戦えているだけでも幸運と言えるでしょう。ですが!
「魔力矢!」
再び金の矢をリーチに放ったですが、ことごとく大剣で撃ち落とされ、霧消するのです。
「学生の身で、ここまで、と褒めてやる。さすがは、アントの姪だな。」
この人は叔父様を裏切った元隊長さんなんでしょう。
その件は叔父様の大きな傷の一つです。
でも……叔父様がこの人を今も憎んでいる、という気はなぜかしないのです。
それは実は……。
「だが、ここまで、でもある。7つの矢では俺の剣を抜けられんよ。」
7つ。
以前は最大でも5つでした。
でも最初は使えず気絶して。
でも今は7つでも平気です。
みんなの魔力の後押しと、暗い空に今も浮かび輝くツキの光のおかげで……。
ただ、いつものようにみんなの魔術回路と共鳴できれば、絶対に負けないのに、今はムリ。
「沼生成!」
だから、まずは足場を奪います!
そう、大剣のさばきに目を奪われていましたが、剣技の基本は足さばきのはず!
あっという間に腰まで埋まったリーチから大きく距離をとるわたしです。
「こんな時間稼ぎ、無駄だ!」
もちろん時間稼ぎです。
10m程度離れただけで、もう抜け出したリーチ……なんて身体能力!ですが
(レン!力を貸して!)
(うん!待ってたよ!)
レンの「精神結合」は、しかしレン自身の魔術回路ではなくわたしのものを借りてる状態のせいで、いつもと比べか細いまま。
それでも彼女を通して……そう。確かにつながってる、みんなと!
2m近い巨漢のリーチが、更に大きな大剣を振りかぶり、あれが振り下ろされればこんな距離なんかほとんど意味がない。
でもその一瞬が勝負なんです!
その刹那で浮かぶのは……みんなの顔!
リト、レン。
麒麟の昇天に立ち会って以来、二人との仲はうんと深まって、今ではわたしの義姉妹です。
デニー、リル。
同じ班になって以来、すっかり仲良しです。一緒に死にそうな目にも何度も会って。
アルユン、ジーナ、ファラファラ。
クラスでもひときわ癖の強い人たちで、でも、こんなに頼りになる人も少ない。
ユイ。
クラス委員でみんなをまとめるしっかり者。でも星が好きなんて初めて知った。
ケーシェ。
今日だけで随分あなたのことがわかった。死にかけても、動じないあなたは軍人の卵の鑑です!
ソニエラ、ピピュル、ヤフネ。
今日はこんなところまで来てくれて、ありがとう。
ジェフィ。
……最後まで本当に付き合う気ですか?まだ裏切らないんなら、もう信じていいのかも
そして……この場にいないみんな。
今は本当に微かにしか感じないけど、でもやっぱりつながってる。
シャルノ!
わたしの無二のライバル!あなたがいればどんなに心強かったか!
ヒルデア!
騎士を目指すあなたは、この場にいないことを悔しがるでしょうね。
ミュシファ!
みんなと一緒にあなたの歌を聞きたいです。歌えない音痴なわたしを見逃して。
レリシア様!
王女殿下が巻き込まれないことは幸運でした。でも殿下はきっと悔しがる。
それにカリュナ、ルレーシャ、サーミャル。
あまり話したことがなかったけど、もしもこの後会えるなら、たくさんおしゃべりしましょう!
最後に……エミル!
最近一緒に遊べなくてゴメン!今度買い物に行きたいです!でも、あんなに値切るのはやめて。恥ずかしいから。
わたし以外の寮生11人にオマケの二人。
そして貴族や富裕階級の10名の寮外生。
一瞬で、みんなの顔を浮かべ、そして……みんなの魔力を引き出して!
「魔力……それは世界の根源を司るもの」
わたしの体内の魔力……生命魔力オド……が、わたしの集中と詠唱に合わせて形づくられていくのがわかります。
それに、レンとつながってる細い線を通り、みんなの魔力も流れてくるんです!
それがわたしの魔術回路を通り、体内を駆け巡っていくんです。
「魔力……それは生命の中に流れるもの
魔力……それは精霊の働きを促すもの
魔力……それは物質を形成しうるもの」
その魔術回路で増幅され、性質を決定されたオドが体内から放たれ、触媒となって、今は天空のツキから注がれる魔力……現象魔力マナ……を呼び寄せ金色の魔法円を形成します。
これで、わたしの意志が、魔力により世界に刻まれていくんです。
そして、今、その展開した魔法円は、わたしの周りに並列し、全部で22です!
「魔力よ 今、その姿を矢と化して……かの全ての標的を撃ち抜きたまえ」
そうです。この攻撃呪文の基本中の基本と言える術式は、魔力を操作して意志を込めて魔術を発現させるという、根源的な構成から成り立っています。
ですからみんなの魔力をそのまま顕現させることも容易!
「我、人の子の一人 クラリス・フェルノウルが願う!……魔力矢!」
そして……ここまで唱えたわたしの声は、今はホンの一瞬で唱えたもの!
これが高速詠唱です!
通常詠唱と同じ呪文を、しかし超高速で唱えた術式は、呪文の一部だけを要約した略式詠唱や術式名だけの簡易詠唱と比べると、威力や術の再現度は術者の心象を実現しやすいものなんです。
そして、わたしの心象に描いた景色は!
「いけえ!わたしの、みんなの、わたしたちの魔力矢ぁ!!」
それは、22の魔法円が作った、22本の金の矢なんです!
それは金の軌跡を描き、まっすぐにリーチに向かって!
「うぐわあああっ!」
なのに!
その多くは確かにリーチの剣を抜け、当たったのに!
「ふぬう……危なかった……あわやで死ぬかと思ったぞ……。」
ボロボロでありながら、なおも立っている2mの長身!
「……女?学生?下級魔術師?……もうそんな言葉には騙されん。この日蝕下で魔術を駆使するだけで充分脅威!しかもここまでの術者であれば!」
どうする、わたし?
22の魔力矢をもう一度?
でも、きっと何度か続けないと倒せない。
この男の技も精神力も体力もそれくらいすごい!
そしてわたしは一撃をくらっただけで、よくて戦闘不能。
手加減されても死ねそうな力量の差。
ツキの魔力はまだあるけれど、みんなの魔力もまだ流れてるけど、どんなに魔力があったとしても、わたしが使える術式は未だに下級……これが現実。
下級術式で、この距離で、この男を倒せる術式は?
「衝撃!」
これは不可視の衝撃波!
そして遠当てばあじょんです!
必ず命中です!
しかし与えた一撃は、ぐらつかせただけ。
この距離では連射できない!
やはりこの術式は接触しないと今一つ利点を生かせないのです!
「酸性風!」
わたしが巻き起こした酸を帯びた風は、しかし剣風に遮られ、無効化されてしまうのです!
相性が悪すぎ!
何か……威力があって抵抗されない下級術式は!?
いえ、威力だけでは剣風で遮られる。
「もう終わりか。ならば、今度こそ!」
何か……何か!?ないの?
思わず空を仰いだわたしです……あった!?
「いいえ、あなたこそ、これで、終わりです!」
そう、あった。
空には!日蝕の空!黒い穴に塞がれた空!だから見えるのです、星が!
「……叔父様!」
あの詠唱術、いただきます!思わず拳を握るわたしです!
そして、その拳には、眩しいほどに瞬き始めた碧玉の指輪があるんです!
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「クラリス……あの指輪、持ってるかい?」
「もちろんです、叔父様!」
わたしが叔父様から戴いた、あの指輪を持っていない訳がないのです。
いつもはしっかり左薬指にしてるんです。
ですが、マジックアイテムは日蝕下では無効化され、時に暴走したり、消滅したりするのです。
「ですから大事に箱に入れてポケットにしまっています。」
「……はめてごらん。」
「ええ?でも……」
大事な指輪が壊れでもしたら。
この鈍感極まりない人に指輪をもう一度送っていただくなんて、一人で竜種を倒す竜殺しよりも偉業なのかもしれません。
そう考えると、これは無二の宝物なのです。
「大丈夫。これは……この碧玉に刻んだ疑似魔術回路は、特別なんだ。」
特別?思わずドキリ、です。
叔父様から戴いた指輪はそれだけで特別なのですけど。
「これは……そうだな。レンズマンのレンズみたいなものさ。」
ええっと……れんずまん?
また、そんなわかりにくいことをおっしゃる、困った人です。
「つまり、キミの魔術回路に限りなく近づけた、疑似魔術回路だ。」
疑似魔術回路。
それはすべてのマジックアイテムに刻まれた、きわめて複雑で面妖な、しかしそれでも本物の魔術回路と比べれば単純で簡略化された模様です。
「ですが、魔術回路は魔術師一人一人別で、それを写す、いえ、真似ることすら不可能な……。」
そうわたしに教えたのは数年前のこの人ですけど。
「本来そうなんだけどね……生まれた時からキミを、そして魔術師として目覚めた時からキミの魔術回路を、僕は見てきた。相当、真剣にね。だから」
わたしがポケットから取り出した箱から、あっさり指輪をとりだす叔父様です。
もっと大事に扱ってください!宝物なんです!
「だからこれは、キミだけの疑似生命体とすら言える。どんな時でも、キミの魔力がある限り、キミの魔術回路に共鳴する。もちろん月の魔力で再起動した、今のキミの魔術回路にもね。だから日蝕でも壊れたりしないさ。」
この人は、そんな特別なことができる!
わたしのためにそんな特別なことまでしてくれていた!
なんて感激してるうちに、優しく叔父様に右手をとられて、ドッキリです!
そして叔父様はわたしに指輪を……。ん?待ってください?
「あ!空飛ぶエンバンです!」
「え、どこどこ!?」
ソノスキニ……。
「なあんだ、月じゃないか。」
「そう言えばそうでしたね。えへ。」
なんて、言いながら、しっかり。
もちろん叔父様がわき見したスキに手を入れ替えて、指輪はわたしの左薬指に!
もっともご本人は、手を入れ替えられたことも、わたしの口元がニマニマしてることにも全然お気づきになってませんけど。
ですが……わたしの指に再び収まった指輪は、先ほどの秘密の儀式の成功率を更に高めてくれるに違いないのです……多分。
そして……わたしの力になることには間違いないのです!絶対に!!
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「幻影!」
わたしは再びアルユンの術式を借りるのです。
今、みんなの魔力を借りて映し出したのは、22人のわたしです!
「幻影」というより「影分身」!ニンポウじゃありませんけど。
「見苦しい、時間稼ぎも大概にしてもらう!」
もちろん時間稼ぎです。
それにしても、たくさんの分身を大剣の一振りで全て打ち消すなんて、反則級です!
わたしだってその余波で飛ばされそう。
でも、欲しかったのは、そのわずかな時間!
しっかり踏みとどまって、指輪を天にかざすんです!
今、指輪は、わたしの魔術回路に完全に同調、共鳴して、まるで生きているみたいに脈動しています。
その碧玉はかつてないほどに輝いて、空のツキにも負けていないくらいなのです!
天の星に呼応して、光ってる……これは既に、地上の星です!
恐ろしいほどの昂揚を全身で感じ、でも、同じくらい研ぎ澄まされたわたしの心。
これは、来ました!
ウィザーズハイ!
絶好調で唱えるわたしなんです!
だから高速詠唱なのに、その一語一語を正確に、韻も律も整えて、わたしの耳にもしっかり聞こえるのです。
「それは天空にあって輝くもの」
「それは地上を照らす無限の灯」
「それは人の心に届く光」
「すべての星よ!今、その輝きを地上に注がん!その光を矢と化して!」
「我は人の子、クラリス・フェルノウル!その心象を現世に投影せん!」
「……降り注げ!星光矢群!!」
顕現させるのは、星々から降り注ぐ光の矢です!
一つ一つは普通の魔力矢の半分ほどの大きさですが、その数は、まさに無数!
これは、本来は魔力矢の応用。
その心象投映であるこの詠唱術を、叔父様は簡易詠唱で行使できるのです。
そのご本人は「魔力矢を星の光に仮託して発現させただけ」なんて、軽くおっしゃられましたけれど、そんな簡単にできるものでは決してないのです。
ですからわたしが真似するにしても、もう別の術式みたいになってしまいます。
とは言え、これは魔力矢の一種、つまりは下級術式!
問題のイメージ投映を今の詠唱で軽減!
膨大な消費魔力だって、今のわたしの魔力ならば!いけます!
今のわたしの目には、はっきりと見えるのです……リーチに向かって突き刺さる星々の矢が!
どさり、と音を立てて倒れる巨体です。
この強敵を、倒せたなんて今でも信じられないほど。
確かに彼は疲弊して、一方わたしは強化されて、不公平な勝負ではありましたが、それでも、これほどの敵を……勝ったはずのわたしも、思わず膝の力が抜けるのです。
(クラリス、東側を突破されたの!)
なのに、ひと息すらつけない戦況です!
(レン?なんで!ヒュンレイ教官の防衛用地下迷宮がこんな短時間で!?)
北校舎のさらに北の広い空き地は、みんなが立てこもるトリデに面しているのです。
しかし迷宮がそれを防いでいたので、コアード兵たちはせまく攻めにくい南側からの攻撃を強要されていて、それもあって学園の守りは固かったのです。
(ん。でも抜けた兵たち、突撃隊形。)
しかも抜けた兵が各個で攻めず、統一行動をとる余裕ぶりです。まさか……?
「魔力の抜けた迷宮など、罠も魔獣も大したものではない。そんなことくらい見抜けないとでも?」
「大佐」の声?
一度離れていた「大佐」が、リーチを兵士に運ばせて、わたしに話しかけてきたのです。
リーチほどではないにしろ、この人も長身です。
しかし、ひどくやせた印象があります。
そして……初めてじっくりその顔を眺めるとぬぐいきれない違和感があるのです。
「あなたたちの主力は、最初から向こうだったのですか!?」
「そういうことになるな。南からは総がかりに見せかけて、いかに手を抜くか、あのイスオルンの目をごまかすのはなかなか手間がかかったが。」
……「大佐」が相手しているのは、戦略面では叔父様、戦術面では主任の二人なのです。
戦争嫌いで非暴力主義と自称しながら、意外にも「大佐」の攻撃を読んだのは叔父様で、その具体的な対処をしているのが主任なのです。
なのに、この二人がかりでも……「大佐」は黒いレンズの下で一人で余裕の表情なんです。
そう、これが違和感の正体。
「大佐」はこんな暗い中なのに、黒眼鏡なのです。
そして、その黒いレンズが、まるで日蝕の空を映すかのように不気味に光り、それは今、わたしに向けられたのでした。




