第23章 その13 エスターセル女子魔法学園の抵抗
その12 エスターセル女子魔法学園の抵抗
「こんなところにいたのか。アント二等兵。」
ドキリ、です!
叔父様に気づかれないまま、新たな絆を結ばんとしているわたしでした。
しかし、夢中になりすぎていたのでしょうか?
いえ、半獣人の鋭敏なメルの聴覚すら察知できないのです。
相手は隠形に長けている……しかも、この声、叔父様へのこの呼び方……まさか!?
「こんなところとはご挨拶だね。わざわざ押しかけたのはそっちだろう。学園にも、ここにも招待した覚えはないよ……特務曹長殿。」
2m近い長身に、それを上回る大剣を背負った剣士……リーチです!
叔父様が特務曹長と呼び、学園の防衛線をたった一人でズタズタにした張本人!
気が付けば、プールサイドに寝そべっていたネコたちは一匹もいない?
「にゃあ」
あ、ごめんなさい。クロちゃんがわたしの肩に乗ってます。
毛並みが逆立ってますけど。
そしてメルは叔父様の前に立ち、犬の耳も尻尾をピリピリして、完全に戦闘態勢です。
以前この男にボロボロにされたのに、それでもこの子は叔父様の盾として前に出るのです。
もちろんわたしもです!
散乱した薬瓶や書物を気にする余裕はないはずですが、互いの足の踏み場をめぐって軽い牽制があったのは、仲が悪いわたしたちにとっては仕方ないのですけど。
「さっきの現象は何だ?大佐が興味をお持ちだ。来て説明しろ。」
さっきの現象とは、日蝕の暗い空に突如浮かんだ黄金の円盤が出現したことでしょう。
一瞬で消えた数日前と異なり、消え去るまで、多くの者が目にするには充分な時間でした。
そしてそれを為したのは叔父様ご本人、そして妖獣と言われるネコたち。
「お断りだね。用事がある方がやってくるべきだろう?相変わらず礼儀も気遣いもなっちゃいないな。」
人に対人関係のお説教をなされる叔父様ですが、どの口で言っていらっしゃるのでしょうか。
でもこの人は自分のことを棚に上げて人を非難することにおいて人後におちないのです。
そんな叔父様を黙殺するリーチもただものではありませんけど。
「来い。もちろんバカげた計画もやめてもらうが。」
そしてこの圧力というか迫力というか、なまじ言葉を飾らない分、その言葉は強く相手に届きます。
なのにこの人は……
「いやなこった。イ~だ。」
子どもですか!
36にもなって!?
そんな叔父様に呆れも動揺もせず、無言・無表情のまま前に進むリーチ!
わたしはよみがえった魔術回路を起動し術式を唱えんと準備します。
一方メルは身構え、今にも飛びかかりそうです。
「クラリスもメルも待って。やっと来た。」
「待たせたでござる。」
リーチの後ろに静かにたたずむ小柄な姿。
腰にさしたのは大小二本のカタナ。
「遅いよ、タイト氏。」
サムライさん!タイト・アシカガさんです!
実は血縁上は叔父様の従弟だそうです。
「貴様……ここで決着をつけるか?」
「いいや、今のお主と戦う気はござらん。」
「なに言ってるんだよ!今がチャンスだろ!」
今がチャンス?
前回は雷切を手にしたサムライさんがリーチを退けたのですが、今はリーチも愛用の大剣を携えているのです。
前回よりも強いのでは?
「……それでも戦うのなら相手になるでござるが?」
「……ここに近付かなければお前はこの戦いに関わらない、ということか?」
「拙者、雑魚と戦う趣味はござらぬ。友誼によってジロー殿を守ること以外は。」
「なに勝手にまとめてるんだよ!」
事情はわかりませんが、ここでの戦いは回避されるみたいで、一人叔父様が見苦しくも騒いでるだけです。
ちなみにサムライさんの言ってるジローとはアシカガ衆でもある叔父様の呼び名だそうです。
「では、決着はいずれ……恩には着ないぞ。」
「堂々と立ち合いたいだけでござる。着る必要もござらん。」
「こらこら、ウォージャンキーとソードハッピーがなに平和的解決してるんだよ!」
後退するという後ろめたさを全く感じさせず、あっさり立ち去ろうとするリーチです。
ですが
「アント。大佐の元に戻れ。人族の勝利のために力を尽くせ。」
その前に叔父様を見たのです。
その面差しはいかついながら、圧倒的な力量を持つ剣士というには、あまりにも穏やかなものでした。
わたしには、とうさんが叔父様に話しかける時の響きに似てるようにも感じられたのです。
そう、出来の悪い弟に向かって話す時の兄の声に。
「……元隊長殿。僕もロクロー師匠……ヒノモト教官からあんたのことを少し聞いた。」
隊長?……リーチが兵役時代の叔父様の隊長?
それに師匠?
魔術の師セレーシェル超師や筆写・製本の師おじいちゃん以外にも師匠と呼べる人が、このひきこもりの叔父様に?
「だけど、ムリだね。僕はもう人族の勝利なんてものに興味はない。」
少しはもってください!
それ、とっても大事なんです!
もう、こんな時なのに恥ずかしいやら腹ただしいやらで顔が赤くなったわたしです。
まあ、確かにこんな人だって知ってますけど、それにしたって正直すぎ!
「ならなぜあんな計画を立てた?」
「この子の夢を叶えるために。それがたまたまそれだっただけなのさ。」
そして、また無自覚にこんな大事なこと!
今度は違う意味で頬が熱くなるわたしなんです。
そんなわたしですが、リーチに一瞥されるや、一気に冷えるのですけど。
「こんな小娘の、夢物語のためにか?」
「そうさ。でも、それじゃ、大佐の野望だってその夢と変わらないってことだぜ。」
それには何も答えず、そしてリーチは悠々と暗闇に消えていくのです。
姿が見えなくなるや、思わず膝からくずれそうなわたしとメルです。
「ちっ。せっかく機会だったのに。」
「拙者の趣味ではござらぬ。」
「あのう……チャンスとか機会ってなんですか?」
さっきから叔父様たちの会話がわからないわたしです。
そして教えられたのは、人族のもつ「スキル」のことです。
「人族の魔術と技能は、基本的には同じと言えるし、でも違う点もあるのさ。」
その根源の力は生命魔力とか霊気とか、専門職によって言い方が異なる場合がありますが、つまりは生体が持つエナジーです。
そこは同じ。
「しかし、キミたち魔術師はオドを現象魔力に融合させ、その意志を空間に直接書き込むことで大きな奇跡を作り出す。」
一方、一般のスキルとは、己のオドだけで行う奇跡だそうです。
そこが違うということです。
つまり強力なスキルは、術式よりも負担が大きいということなのです。
「あの剣士の技、あれほど大きな破壊を行ったからには、かなり気力を費やし、おそらくは今も実力は出し切れぬでござろう。」
それを知ってた叔父様が今がチャンスだってけしかけて、サムライさんは堂々と立ち合いたいから断ったということなのです……叔父様、姑息です。
「だって、あんな化け物相手にまともに戦うなんて面倒くさい。勝てる時に勝つのが合理的じゃないか!」
まあ、一理、というより戦理にも適っているとは思うんですけど。
「……立ち合いとは心技体の全てを究めんとする求道の道筋でござる。」
自分を高めるための行為であるから卑怯なことはしない、と言うのがサムライさんの立場だそうで、これはこれで正しいのです。
わたしだって魔術師として高みに立ちたいと思いますし、そのために必要なことは相手の失態を突くのではなくまず自分を鍛えることです。
「魔道」として叔父様も自分の意志と認識の重要性を教えてくださったからには承知のはず。
ただ、実際に戦う際にはそうもいかず、「兵は詭道なり」となってしまうのが現実です。
「ですけど……サムライさんは『飛閃』というスキルをあれだけ使ってもたいして疲れてなかったと思うんですけど?」
アシカガ流刀術『飛閃』は、一瞬で建物を両断し、霊獣の吐き出す氷塊を寸断できるすごい技なんです。
それを随分連続しても、この人は全然平気なのです。
「拙者の技は、父祖より連綿と続いた流派の一端でござる。しかも『飛閃』の技が斬るのは、一線のみでござる。」
アシカガ衆、いえ、ヒノモト族の体質と修行が築いた流派、しかも破壊範囲は限定的、と言いたいそうですけど……あれで?
「ところが、リーチは天才過ぎて、師にもつかずに独力でスキルを身に着けた。だから威力がバカ強い反面、気の使い方に無駄が多い。おまけにさっき防塁を砕いたスキルは、あの一体の空間そのものを破壊したんだ。あれじゃ、オドはかなり減ってるね。」
「俊足!」
簡易詠唱で浮かんだ魔法円は、いつもと少し違う輝きです。
白銀ではなく、微かに黄金を帯びた輝き、白金です!
見上げた空は暗いままですけど、わたしの中には未だ、空に浮かんだ黄金の円盤の残滓が感じられるのです。
「僕たちは、プールの温度管理やらでまだここにいなきゃいけない。」
リーチが去った後、ツキの幻影の力を少しでも長びかせるために残られた叔父様を残し、みんなが戦っているはずの最終防衛拠点に一人向かうわたしです。
「にゃあ」
「ごめんなさい。あなたも一緒でしたね。」
「にゃあ」
わたしの肩に乗ったままの、赤い首輪をつけたネコはクロちゃんです。
「それに……わたしにはもっとたくさん仲間がいるのです!」
そうです。
魔術が戻ったのはわたし一人だけ、そんな不安を隠していたわたしの去り際にささやいてくださったのはやはり叔父様。
「大丈夫さ、僕のクラリス……キミには、キミたちには奥の手があるじゃないか。」
叔父様に勇気づけていただいて、助言までいただいて、すっかりやる気になった単純なわたしです。
乙女としては正しい単純さなのですけど。
(レン、聞こえますか!リトはどう?)
わたしから、しかも離れたところから思念を送るのは初めてですが。
((クラリス!?))
うまく伝わった!さすがはわたしの義姉妹たちです!
(どこ?心配した!)
(そうなの!途中でいなくなって、みんな心配してるの!)
(ごめんなさい。でもさっきまで叔父様と一緒だったの。だから安心して。)
(んん?叔父上と!?)
(また一人だけ!?ズルいって思うの!)
なんだか義姉妹の二人はかえって心配してるというか怒ってるというか?
(でも、これからみんなの元に向かうから!リトは状況を教えて!そして……レンにはお願いがあるの!)
防衛線を突破され、教職員方と寮生たちが向かったのは、敷地内の北西部につくられた最終防衛拠点です。
公園のように広い緑地の中、小さな小屋がポツリと立ってる場所ですが、実はその地下には、我がエスターセル女子魔法学園の中で最高ランクの秘密研究施設が存在しているのです。
昨年の南方戦線の一時的な崩壊に伴い勃発した「シーザスの戦い」。
ガクエンサイの日にこの王都を襲った「巨人災禍」。
更には今年の冬季実習でコアード一党との戦い。
そんな戦いで活躍したのが戦闘用有人式簡易ゴーレム、通称ゴラオンです。
そして、その更なる簡易版ゴーレム機甲馬に、それらを戦場で運用する為につくられた機甲馬車など学園独自の兵装の数々がここで開発され、いまも格納されているのがここなのです。
以前もコアードの精鋭部隊が学園に潜入し、ゴラオンを強奪せんとした事件がありました。
もっともその際に彼らを手引きしたのが……
(クラリス、寮生たちは今、ジェフィの指揮で応戦中。)
(……そうですか。)
あの腹黒陰険謀略女が、この窮地に脱走もせず、みんなを指揮してる!?
例え天地がひっくり返ろうと、それは信じがたいのですけど。
とはいえ、撤退時に彼女に指揮を一任したのはわたし自身ですし、ヒルデアもシャルノもレリシア様すらいないこの状況、当然と言えば当然。
まあ、コアードを抜けて、こちら側にいるわけですから、彼女としてもここでまたまた裏切るのは難しいのでしょう。
そう言う意味では安心かもしれません、なんて自分に言い聞かせるのです。
そんな押し殺したはずの思念は、やっぱりリトには筒抜けですけど。
(んん?素直じゃない。)
(本心です!……それで、そちらの損害は?防衛体制は?)
おっと。
念話中に屋上から屋上へ。
室内演習場の屋上プールから南校舎の屋上へ大ジャンプしたわたしです。
下には北西に向かって押し寄せるコアード兵が大勢いますが、わたしに気づくことはないのです。
(学園長、主任は無事。戦闘に参加していた他の教官方も軽傷くらいで抗戦中。ただワグナス副主任が重傷。)
(ええ?大丈夫なんですか!?)
わたしたちのクラス担当でもあるワグナス教官は、後方支援で戦闘に参加していなかったはずなのに?
(ん。警戒灯をつけた後、階段から落ちた。いまスフロユル教官が手当してる。)
(…………。)
返す言葉、いえ、思念もありません。
心配しないわけではありませんが、運動も苦手な、どうせ非戦闘要員ですし。
(職員の戦闘要員は遊撃班。校舎のあちこちに残って、窓や屋上から敵を狙撃したり、頭の上からモノを落としたり、遅滞・攪乱。)
あ、今、北校舎の西窓から開いて、机が落ちました……地面からは悲鳴があがります。
敵も気づき、一隊が北校舎に突入しています。
あ、また悲鳴?
きっと罠でしょう。
(ん。もしもに備えての準備・訓練済み。)
校舎内の各地にも、武器を隠し、罠や障害物を用意していたのです。
みなさん、徹底的にやる気のようです。
頼もしいというか、悪ノリし過ぎと言うべきか、悩むところですけど。
(んで、ここは今、トリデになってる。)
(は?)
ここ?
こことは、あの、普段は閑静な公園みたいな北西の一画のことでしょうか?
あの穏やかな場所が?
野戦陣地と化していた野外演習場以上に、トリデという軍事拠点にはなかなか結び付かないのです。
(四方を堀と石垣で囲み、その上に城塔を組んであった。むろん城塔も石づくり。)
(……。)
学生寮の屋上からは確かに死角で見えなかった場所ですけど、そこまでやりますか!?
これも土系の精霊魔術の使い手ヒュンレイ教官が中心になって作業していたのでしょうけれど、相変わらずなんて抜かりのない……。
あれで社会不適合者でなければ、軍でも研究機関でも冒険者でも、引く手あまたでしょうに。
顔も思い浮かばないほど疎遠ですけど。
(広い東側は、防衛用迷宮が敵を阻止。だから戦況は有利。)
北西の施設の北と西には、もともと学園を囲む壁と柵があって、これを越えて侵入するのは決死のコアード兵でもしり込みするくらい危険なのです。
残る東側は、正門側からすれば遠回りにはなるものの、最も広い場所です。
しかしそこには増改築された防衛用迷宮があり、未だ敵の接近を拒んでいるとのこと。
そして、せまい南側、南校舎と公園の間を通るしかない敵は、学園の新兵器連弩の前に苦戦は必至という戦況なのでしょう。
言葉少ないリトですが、その言葉を吟味すれば、大事なことはちゃんと伝えてくれるのです。
まあ、彼女の言葉を完全に理解できるのは、おそらく肉親以外ではわたしくらいだけでしょうけど。
(ん。でも、短矢がアヤシイ。)
……そうです。
防戦しているわたしたちが、多数の敵に有利に戦っていられるのは、元戎というこの連弩のオカゲなのです。
錬金術の技術を使い、簡単に連射できる高性能の反面、数多くの矢を使ってしまう。
わたしたち生徒の参戦で戦力は増えた半面、短矢の消費も倍増したとも言える訳で、しかも防衛線の破砕で一度多くの短矢を放棄した今、どこまで残っているのでしょうか。
(あと、敵兵多い。)
主任は開戦直前500人は覚悟しろとおっしゃいました。
わずか30人余りのわたしたちには、それでも多すぎる数ですが、実際にはきっとさらにその倍はいる気がします。
つまり、ひょっとしたら1000人以上!?
日蝕のせいで、魔術が使えない魔術士たちにとって、なんて絶望的な兵力差でしょう……。
(ジワジワ押されてる。石垣にとりつかれるまで長くないかも。)
そうなったら今度こそみんなを巻き込んでの白兵戦になってしまいます。
(リト!そうなる前に、なんとか地下通路でリルたちだけでも逃がして!)
もともと魔術師のわたしたちです。
いえ、仲間の多くは入学して始めて魔術師として修行を始めたばかりで、いくら厳しい護身術の教練も受けたとはいえ、コアード兵とまともに戦える生徒は一握り。
まして教官方の多くは魔術専門で体もろくに鍛えていらっしゃらないのは、ワグナス教官がおケガされたことでも証明済みなんです。
頑強なトリデとはいえ、侵入を許せば後はもう、惨劇しか待ってないのです。
(んん。それ、もう潰した。)
(え?地下通路を?なんで!?)
(ジェフィが。どうせ徹底抗戦するなら、退路を自ら断つべきって。みんな同意した。)
……トリデに着いたジェフィが真っ先にみんなに合意を求め、主任が承知して、ヒュンレイ教官が……万が一コアードにバレた時に備えて仕掛けがあったとか。
リトの思念でそんな説明を受け、しばし絶句するわたし。
(なんで……しかもジェフィが?)
捕まったりしたら一番危ないのは彼女です。
彼女はもとコアードで、向こうからすれば裏切者。
しかも頭がよくて薄情者で要領よくて……こんな時は真っ先に一人で逃げるのが彼女らしいのに。
(生きるも死ぬも、学園みんなで。ジェフィが言った。)
そんなのウソにきまってる。
どうせ、みんなに覚悟を決めさせるために行った演出!
これも彼女の策略なんです……だって、こんなのジェフィに似合わない。
だから、きっと、これもあの腹黒陰険謀略女の手の内。
それでも……
(クラリス、みんな覚悟ができたの。こんな時だけど、ちゃんと落ち着いて、レンの言うことを、クラリスの指示を信じてくれるの。)
……なら、まだやれるのです!
もう退路はないけれど、わたしの覚悟も決まりましたし。
北校舎屋上にたどり着いたわたしの眼下では、リトが話してくれたトリデがあります。
遠くからも見えるのです。
石垣の上から元戎を撃つみんなの姿が、城塔の上で指揮なさっているイスオルン主任が、その後ろで優雅にお茶をお飲みになっている学園長、ベッドに横たわるワグナス副主任、側にいるのはスフロユル医務教官とその恋人と噂されるミラス准教授……みんなまだ戦っています。
姿は見えませんが、城塔の矢窓からも短矢が放たれ、多くの教官・職員方も絶賛防戦中なのです。
そして、それに向って押し寄せるコアード兵の隊列も。
多くの兵が矢で打ち倒されながらも、前進をやめない、なんて精強な軍なのでしょうか?
或いは、そんなに私たちが憎いのでしょうか?
女の身で魔術を学び、戦場で戦う軍人になるということは許されないのでしょうか?
「大佐に盲目的に従う兵は多い。政治家や高級軍人に裏切られたかつての南方軍兵士やその子弟は圧倒的に、いや、狂信的に大佐を支持してもおかしくないんだ。」
叔父様はそうおっしゃられました。
「……そんな人を全員倒さなくてはいけないのですか?」
同族と戦うことは叔父様でなくたって、避けたいと思っているのです。
身を護るためだったとはいえ、あの罪悪感は、今もわたしの奥底に重く残ったままなのです。
「そんなことはない。僕は戦争ぎらいの軍隊音痴だけど、理屈で考えればだれだってわかることだろう?」
そうです。
だから、わたしが、私たちが本当に戦う相手は!
「最後通告だ!」
犠牲が多過ぎたせいか、逆にもう一息でトリデに取り付けると確信したのか。
「素人ながらの奮戦ぶりに敬意を表する。しかし、もうこれ以上の防戦は不可能と知れ。」
コアード軍は一度攻勢を止めたのです。
整然と、黙々と、そして粛々と隊列を直していくのです。
この間学園側も連弩を撃つのをやめているので、或いは態勢を立て直す時間稼ぎ、という気もしないではありませんが。
「降伏せよ!最初に申し出た通りだ。女を戦場に送り出すなどという非人道的な計画を改めるのならば、生徒の無事は保証する。教官たちも命はとらない。」
一人、トリデの前で呼びかけるコアード兵……いえ、将でしょうか?……がいます。
それなりに礼節を保った呼びかけですけど。
「バカじゃねえの?」
「ん。ムダ。」
「あさっておいで。」
「またスカウトされたの~マネージャーを通してほしいの~♡」
……トリデから返った声は、ジーナ、リト、アルユン、ファラファラの、クラーケン退治組の声です。
通称たこやき隊。
例によって一人意味不明ですけど。
「黙れ!」
「「「「……。」」」」
で、主任に一喝されて沈黙です。
「まあ、下っ端相手にまともに返事する気がせんのは私も同じだがな。出直してこい!」
……それ、みんなを黙らせた意味あるんでしょうか?
まさか自分が言いたかっただけでは?
そんな主任の言葉にトリデ中から賛同、というか激しく支持する声が上がるのです。
「さすがは主任!」
「いよ、鬼!」
「丸眼鏡カッコイイです。」
……みんなも悪ノリし過ぎ。
(クラリスも入りたい?)
(……違います!)
遠くからみんなの盛り上がりを見てるだけで、寂しいとは思いますけど。
そんな中、整列していたコアードの隊列が二つに割れ、一人の男が姿を現しました。
いえ、その後ろに控えるリーチを連れて。
音もなく現れた、ただそれだけで空気が重くなるのです。
そして辺りに雷が帯電したかのような、張り詰めた緊張感が立ち込めます。
それはコアード兵だけならまだしも、何も知らない学園側も、あのファラファラですらわかるほど。
さっきまでの歓声がピタリとやんで。
「ならば直接話をさせてもらおう……エルミア・イスオルン中尉。いや、大尉だったな。」




