第5章 その5 父娘と兄弟
その5 父娘と兄弟
「クラリス様。これは奥様からなのです。」
あれから数日たった日の放課後。リトとわたしは寮に向かって帰宅するところでした。
夕方で、長い影が伸びている校門前です。
「かあさんから?」
「はい。クラリス様のお好きな「星豆とベーコンのスープ」なのです。・・・リト様もどうぞ。」
メルは手に持っていた大きな水筒のようなものを、わたしとリトに手渡します。
「奥様が、いつも娘がお世話になっているので、お礼、ということなのです。」
「・・・ありがとう・・・これ、暖かい。」
リトは受け取ったものを頬にあて、微笑んでいます。
「本当に・・・でも、これって・・・これは・・・まさか!?」
かあさんの手作りがまだ暖かいということは・・・。
「はい。エクサスにはご主人様の御用で、時々『転送門』を使わせていただいております。」
転送門で帰宅?なんて贅沢な・・・がんばれば一日で往復できる距離なのに。しかもこの水筒・・・。
「さすが、クラリス様。お気づきになりましたか。これはご主人様がおつくりになった『ポッド』という、新しい術式『保温』という魔法を呪符したアイテムなのです。」
新しい術式、新しいアイテム・・・。
「最近の叔父様は随分とお働きの様ですね。」
「ええ。ご主人様の最近の目標は、『打倒猫型ロボット』だそうです。」
「あの『不思議なポッケ』をお持ち、という?」
「はい。」
話題についてこられないリトは首を傾げています・・・それが正常な反応なのでしょう。
わたしだってこんな話題についていける自分が忌々しいのです。
「今は学園の依頼で魔法装置の大型化に力を注いでおいでなのです。あのイスオルン教授が頻繁に打ち合わせにいらっしゃって・・・・イヤイヤお話しを聞いているのです。ですけど・・・クラリス様。正直に申し上げます。ご主人様は無理をしておられます・・・あの日以来。」
それは、あの講義の日以来。
わたしがみんなの前で「叔父様」と言った日。叔父様が「もう迷惑をかけない」と言った日。
「もっとはっきりと申しあげれば・・・がんばりすぎなのです。見ているのがつらいのです。そして、もしもこの後何かあれば、その反動でひょっとして・・・」
もともと叔父様は深刻なひきこもりで、今みたいに学園の講師である方が異常・・・よほど叔父様にしては頑張っていると言えるのです。
でもだからこそ何かのきっかけでひきこもることはあり得ます。
いえ、むしろ自然とすら言えるでしょう。
「メルとしては、引きこもっているご主人もかわいらしくて何ら問題はないのですが。」
そうです。メルは叔父様の忠臣。いかなる状態でも献身を尽くすでしょう。
頬を赤くして尻尾をパタパタ・・・何を妄想しているやら、この半獣人は。
きっと引きこもっている叔父様と二人きりの方が幸せなのでしょう。
でも・・・それは叔父様にとっての幸せでしょうか?
「・・・メル。それでも、あなたがそれをわたしにそれを話すのはなぜですか?」
「さあ?なぜでしょう?・・・メルは明日も転送門でご実家に行く予定なのです。何か御用がありましたら、お聞きいたします・・・。それではこれで失礼いたします。」
実家・・・エクサスの家には夏休みに帰ったきり。ですが、そろそろ秋の休暇に入ります。
今年の上半期を終え、評定をいただいての秋休暇。
それが済むと、下半期です。2週間もしないうちに戦場への実習に行きます。
次に行くとすれば、もうすぐ来る秋の休暇です。今帰る理由がわたしにはありません。
でも・・・あの子はわたしに何を伝えたいのでしょうか?
「クラリス・・・行くべき。」
リトも何かを感じたようです。リトは教官としての叔父様のファンみたいなものです。
もしも叔父様が引きこもったらがっかりでしょう。
翌日、わたしはメルに連れられて転送門を使い実家に戻りました。
「転送」はさすがに上級魔術なので、メル単独では使えず、学園の有料サービスを利用するということでした・・・往復で金貨1枚!またも無駄遣い!
そんなに大金を払ってまでこうも頻繁に転送する必要があるのでしょうか?
わたしの不満そうな顔を見て
「クラリス様・・・一度旦那様とお話しください。」
メルはそう話しました。
「・・・とうさんと?どうして?」
しかしその後メルはわたしに答えることなく、翌朝迎えに来るとだけ言ってそのまま戻りました。
最初からわたし一人をここに送る目的だったようです。あの子らしくもない、手の込みようです。
それだけ、メルも今の叔父様が心配なのでしょう。
「まあクラリス、よく帰って来たわね!」
「うん。ただいま。かあさん、この前はスープありがとう。リトもおいしかったって。」
かあさんは大層わたしの帰宅を喜び、さっそくごちそうの準備に入ります。
でも随分用意のいいことです。
「メルちゃんが、あなたが今日帰って来るって言っててね。正直あなたみたいな融通利かない子がこんな時期に帰ってくるって半信半疑だったんだけど・・・。」
かあさんにまで融通利かないって言われるのも心外です。否定はできませんが。
わたしは手伝おうとしましたが、かえって邪魔だから、と言われ憮然としながらも夕食まで待つことにしました。
夕食は両親におじいちゃんおばあちゃんも交え、楽しく終わりました。
そして秋の夜も更けてきたころ・・・何か察していたのでしょうか、星明かりに照らされたとうさんが言いました。
「クラリス・・・久しぶりに少し話そうか」。
「はい。とうさん。」
わたしはとうさんの仕事部屋に入ります。インクと紙の臭いが入り混じる独特な空気です。
「なんか、久しぶり。」
「そうだな。お前がここに来るのは・・・何年ぶりだろう?」
多分、5年はたっていると思います。
「さて、お前は明日も学校だろう。早々に話を済ませようか。」
「・・・何の?」
「やれやれ・・・わかるだろう?あいつの、だ。」
あいつ。とうさんは叔父様をそう呼びます。
わたしが叔父様のことを聞きに来た、とうさんはわかっていたのです。・・・メル。
あの子は何をわたしに知らせたいのでしょうか?
その夜。わたしがとうさんから聞いた叔父様の話は、到底信じられないものでした。
逆に言えば、わたしは今まで何を見ていたのか、また、何も知らずに叔父様のことをあんな風に言っていたのか、と情けなくなるほどのものです。
わたしは一晩中眠ることもできず、翌朝家族にあいさつを終えると早々にメルに連れられて学園に転送しました。
メルの顔をまともに見ることもできませんでした。メルも必要なこと以外は全く話しません。
ただ、転送門に着いた後、わたしはメルに無言で頭を下げました。
「おはよう、クラリス・・・目、赤い。」
「リト・・・おはよう。わたしは大丈夫ですよ。」
リトはわたしを全然大丈夫とは思っていないようです。
ですが、着替えだけ済ませ、そのままわたしたちは教室に向かいます。
「おはよう、クラリス。」
「おはよう、エミル。シャルノも。」
「おはようございます。」
わたしたちはホームルームのため教室に入ります。
そしてホームルームでワグナス教官が告げました。
「今日のミラス教官の『術式の書方』が、フェルノウル教官に変更になります」
「え~っ?」
叔父様の「術式の書方」はまだ1回も授業してないのに、今日、急に?
ミラス教官、もう上半期の評定はできているのでしょうか?
「楽しみ。」
リトがつぶやきます。エミルやシャルノも、いえ、他のみんなもイヤではないようです。
ここ最近の叔父様の授業は、クラス全体でもなかなか好評でした。
魔法というものへの理解が進み、かつ術式の詠唱がスムーズにできるようになりました。
とくに先週の「悪魔の術式演習」の前と後では段違いです。
そんなこともあって、術式の書式も、魔術師としてのわたしたちをより高みにあげてくれる・・・そんな期待がありました。
そして、叔父様の「術式の書方」は、いきなり魔法原理で習った魔法文字の読解を確認すると、すぐに「略式詠唱」の実践に入りました。
「ウソ・・・こんな、めっちゃ早いペース。」
「でも、基礎は教わってた。」
そうです。魔法原理ですでに多くのことを教わっています。
「術式をよく読み取るんだ・・・そして、どの部分が特に大切か・・・教えることは出来るが。教わって唱えるより、自ら感じ取って、その部分を唱えた方が結局は身につく。」
課題として与えられた術式は、生徒たちが自分で必要と思ったものを自分で選ばせました。
逆に言えば、叔父様は一つの術式を全員に教えるよりもざっと20倍の苦労を・・・実際には同じ術式を選んだものも多かったのですが・・・することになりました。
わたしたちは、通常の術式を自分たちでどの部分を残しどこを削るか、自分で判断しながら省略していきます。
下級呪文は通常8文100文字程度です。
その内容を、自分の判断で20文字~40文字程度に収めます。
その縮め方は、詠唱者の力量や特性に任されました。
普通は全員同じ魔法の、略式詠唱のための術式を暗記して、繰り返し実習するのが略式詠唱の身に着け方と聞いていたのですが、叔父様はやり方を教えるから後は自分で身につけろ、そのための助言や教材は十分に準備する、というものです。
「教官殿、お願いします。」
え?リト!?もう!叔父様は楽しそうです。
「『防御』系を選ぶのはいい選択だね。」
近く戦場に行くことで、多くの生徒は「火撃」「飛石」「眠りの雲」などの敵を攻撃する魔術を多く選んでいました。
ただ、叔父様は明らかに防御系の支援魔法を教えたがっていましたが。
「我は人の子 リーデルン・アスキス。」
みんなが一旦自分の作業を中断して見守ります。
「我のまといし大気よ 鉄の如き堅固な壁となって 我を守れ!『風甲』!」
強い魔力風をまとい、外からの攻撃を防ぐ魔法術式・・・。
リトの詠唱に伴い白銀の光が全身から放たれます。
これは、成功する!そうわたしとシャルノは眼を見合わせます。
そしてリトの実力からすればそれほど大きくはない、しかしはっきりした魔法円が描かれ彼女の前に展開しました。
「アスキスくん・・・成功だ。見事です。」
わたしも、みんなも一斉に大きな拍手を送ります。
たった一回の授業で「略式詠唱」が身につく・・・もちろん才能もあるし、日ごろからの努力があってのことです。
それでも・・・。
この後わたしたちは一層熱が入り、授業終了10分前には8人の生徒が略式詠唱を身に着けました。
リトに至っては、あの後「閃光」の略式詠唱も身に着けました。
わたしは「回避」の、シャルノは「火撃」の略式詠唱に成功し、まだ成功していていない生徒たちも、要領をつかんだせいか、この後は自力でできそう、という生徒が多くいました。
「すまない。まだ10分あるが、今日の実習は終わりだ。」
「え~!?」
授業が一段落するのに、みんな残念そうです。
エミルは「もう少し、あと一息なんです!」って延長を願い出たほどです。
「今日身につかなかった者も、みんなやり方はわかったはずだ、休みの日でもやってごらん。きっとすぐ身につく。もちろん今できた人たちも、もっと多くの術式を略式で詠唱できるようになる・・・。もっと言えば、略式以外の通常詠唱でも前より威力や魔力消費の改善がみられるはずだ・・・。だから、このあと、ちょっと僕に時間をくれ。」
叔父様は、全員に教材をしまわせて、少し話をしたい、と告げました。
人前で、これだけ言う叔父様は珍しいんです。
あの、大勢の人前、特に若い娘が苦手な叔父様が。
そして、叔父様はメガネを外しながら、話し始めました。
その多くは、昨夜わたしが父から聞いた内容と同じモノでした。
「今から20年前、エスターセル魔法学院の受験に失敗した僕は、けっこう落ち込んで、その後引きこもってしまった。ところが、家に兵役が来てね・・・僕は徴兵された。」
みんなは驚きます。兵士、そういう存在から一番遠い男性、そんな印象の叔父様です。
父はもっと詳しく教えてくれましたが。
もともと製本・製紙業の実家です。わたしの祖父が店主で、父が後継ぎ。
それでも二人とも叔父様に兵役はムリだと思って、バカにならない額の免除金を支払おうとしていたのです。
しかし叔父様がそれを押しとどめて
「どうせ魔法もできないし受験も失敗した、ひきこもりの僕だ。僕が行くよ。」
無断で役所に届けてから、家族にそう話したそうです。それから1期2年の兵役の予定でした。
「ところが、当時は戦線が崩壊しかかっててね、僕たちは三か月の訓練期間を一か月で終えて南方でも激戦区にまわされた。」
この時の戦いは、今の戦史で言うと「ミレイル・トロウル戦役」と呼ばれています。
トロウルは亜人の中では数は多くはないんですが、固体としては知能が高く屈強、魔法耐性も高く強敵です。
さらに・・・
「ミレイル種・・・要するにトロウル族の女王種なんだけど、こいつが出現すると、その強さは次元が変わる。」
女王種を守るために種族全体が一層組織的になり、かつ女王種が一般種ではなく戦士種や将軍種を生み出す割合が急増する。
加えて
「この時のミレイル種は、恐ろしく賢いヤツで・・・細かいところは戦史で勉強してくれ・・・まあそんな奴らのせいで、南方戦線もあちこちほころびてね・・・僕は1期2年で退役のはずが、任期を継続させられた。強制的に。」
叔父様はみんなには言いませんでしたが、父の話によれば3期6年まで延長されたそうです。
当時の政府でも随分問題になったとか。
実際には5年目でようやく鎮圧し、任期途中で希望除隊・・・ですが途中除隊ですから恩給はなしだったとか。
「除隊した時には、一緒に徴兵された同期はほとんど残っていなかった。」
し~ん、です。それまでの教官の話も興味深く聞いていたのですが、真剣さ、あるいは深刻さが違う、というべきでしょうか。
「戦場で僕が学んだことはいくつかあるが・・・一番は、弱いものから死ぬ、かな。」
わたしは、いえ、おそらくみんなドキ、としました。
今、戦場に行って一番弱いのは間違いなくわたしたちです。
「教官殿!わたしたちが危ない、ということですか?」
シャルノが代表する形で叔父様の話を遮り質問します。
ですが叔父様はそれも予期していたのでしょう。何事もないように答えます。
「・・・いや、キミたちは大丈夫さ。」
みんな、ホッ、です。わたしたちは弱くない、そう言ってもらえたと思ったのです。が、
「死ぬのはキミたちを守る兵士だ。弱さとは、立場の弱さと言うことも含む。」
教室がザワザワッっとします。
「キミたちは軍が戦意高揚、女性兵士を募集するうえで、最高の宣伝材料だ。美しく、勇ましく、そしてお国のために献身的に戦う美少女たちさ。絶対に無事に返すよう、現場の部隊は全力を尽くしてキミたちを守る。20人、2個分隊のキミたちを教育し護衛し、実習させるためには直接所属する1個小隊の40人じゃ足りない。1個中隊200人、さらにその護衛の護衛に大隊クラス、実習用の安全な戦場づくりには旅団クラスの兵が動員されるだろう。・・・それが戦場の実態だ。」
リトがうつむいています。エミルも。
シャルノは拳を握りしめて・・・みんな。
どんなに自分の身は自分で守る、と言っても、現実には多くの人に未だ守られている。
わたしは、まだまだ何も知らず、何もできていないのです。
「19年前、僕の部隊は、その例えで言えば、エスターセル魔法学院の魔法実習のために戦場をきれいにする役割の、旅団の一部だった。ところが、その戦場にミレイル種を擁するトロウル軍が出現してね・・・旅団の3割が戦死。2割が重傷。2割が逃亡・・・。僕の中隊もボロボロ・・・生存者は200人中18名さ。何度も言うが戦史で調べてごらん。なかなか示唆に富む戦いだった。」
わたしは知っています。その戦いで何が起こったのかを。
「そして・・・そんな中で生きのびて・・・みんな死んだのになんで僕なんかが生きのびたんだろうって・・・」
叔父様は前以上にひきこもりになって。
「ま、いろいろあって、社会復帰・・・はしてないんだが。ひきこもりのままで。だけど、ひきこもりなりに、やれることを見つけたよ。」
いろいろ・・・そこはちゃんと話すべきですよ、叔父様。
わたしはもう、父から聞きましたけど。ふふふ。
「済まない。ちょっと取りとめなくなった。言いたいのは、戦場でキミたちが危ない目に遇う可能性は低い。そのために多くの兵士が動いている。でも可能性はゼロじゃない。そして、戦場にいる限り、本当に安全な場所なんてないし、最後に生きのびるのは・・・誰かはわからない。でも戦場に行く前に、自分のできることはやっておくべきだ。そして、みんな、ちゃんと帰ってこい・・・もうすぐ秋の休暇に入るが、さぼらず頑張りたまえ・・・以上だ」
チャイムが鳴って、叔父様が教室を出て行って・・・
ほうっ。わたしたちはいっせいにため息をついて。
それから5分もして慌ててわたしたちは食堂に走りだしたのです。
「フェルノウル教官殿の術式の書式・・・すごかったぁ・・・。」
「とても勉強になりましたけれど・・・でも、エミルはそれだけですか?リトは?」
「授業はたしかにすごいけど・・・なにか気になる。」
・・・。
エミル、リト、シャルノとわたしは食事をしながら・・・今日は羊と玉ねぎの串焼きに野菜スープ、ライ麦パン・・・今日の叔父様の授業について話していました。
「クラリス、あなたはどう思いますか?」
「え・・・ええ。そうですね。終わりに叔父様が戦場の体験を話すとは意外でした。ああいう話を人にする人ではないと思っていたので。」
「昨日、何かあった?」
リトはわたしが実家に戻ったことを知っています。なにがあったか気にしているのでしょう。
「父が・・・叔父様の兵役について話してくださいました。それに、ひきこもっているだけではなく、実家の仕事にかなり貢献しているって・・・わたしは何も知りませんでした。」
兵役から戻って、少し経ってから叔父様は本格的に製本・製紙に加えインクの製造にもかかわるようになって、製本・写本師の腕前はとうさんはおろかおじいちゃんよりも上・・・おそらくこのヘクストスでも5本の指に入る・・・であり、それで得た利益のほとんどは実家の売り上げにまわしていること、叔父様の意志でかあさんには知らせていないということ・・・。
ですから、叔父様が高価なインクや紙を使うのは、全て自分で作ったものを使っているだけ。
無駄遣いでもないし、穀つぶしでもなかったということです。
そして、一度諦めた魔法術式研究を再開したのは、5年前。
わたしと叔父様が邪竜の襲撃を受けた、あの時からだそうです。
叔父様もあの日、何かを感じたのかもしれません。
「あいつは、あの夜、とても・・・変だった。」
邪赤竜に襲われたわたしたちが生還した日の事を、昨夜、とうさんは最後に語りました。
「叔父様が変なのは、いつもでしょ?とうさん。」
「んん?まあ、そうなんだが、いや、違う意味で・・・あいつらしくない意味で変だった・・・あいつは、お前を守ったことを自慢して、しかし、お前しか守れなかった自分を責めて、泣いていた・・・泣いて、笑って、何回もそれを繰り返して・・・最後に、また笑った。兄さん、あなたの娘はすごい子だ。あんな中で助かったのに、もうみんなを守ることを考えてる・・・僕にはそんなことできなかった、てな。」
それは・・・わたしを買いかぶり過ぎです。
それに叔父様は自己評価が低すぎです。
だれがあんな中で、10歳の子どもを連れて生還できたでしょうか。
魔法も使えず体力すらない人なのに。
あの日、あの場所で生き残ったのはすべて叔父様のおかげだというのに。
「だけど、あいつは・・・明日からまた勉強するって。自分のできることでこの子を助けたいって。寝ているお前を見てそう言った。その後もひきこもりは治っていないが、部屋の中じゃ、店の仕事をやりながら、なんか、すげえことも始めてたよ。俺の弟は・・・時々やらかしやがるがな。」
そうです。
わたしの叔父様は、ひきこもりで、変なことを口走る、女性が苦手で、人付き合いが悪い、事件ばかり起こす非常識な困った人です。
ですが・・・わたしはどうしようもなく、そんな叔父様を誰よりも信頼して、尊敬して、そして、きっと・・・。
「そう言えばな・・・今日は14年前、戦場から帰ってきたあいつが、初めてお前に会った日なんだよ。」




