第23章 その8 開戦
その8 開戦
「クラリス、生徒たちの配置だが……どうした?」
臨時指令室……司令ではないのです……となった学園長室で、数名の仲間とともに打ち合わせに参加するわたしです。
もう間もなく戦闘が始まるでしょう。
「あ、いえ……その……」
なのに、ついキョロキョロ。
挙動不審のわたしです。
いつもなら主任に野外演習場を走らされるところです。
「ああ。あの不良教官ならいないわ。」
叔父様がいない!?
「彼は、やることがあるらしい。まあ、あのひきこもりの非暴力主義者など、いても役に立たんし。」
「学園の改装は彼のおかげじゃないですか。」
……やっぱり。
なにが非暴力主義ですか!
なにが無抵抗主義じゃない、ですか!
これでは過剰防衛による加害を前提にした、倍返し主義です!
しかも、いない!
せっかくやってきたわたしを褒めも叱りもしないなんて!
いきなり戦闘意欲が大きく減退したわたしです……別に叔父様に見てもらいたいだけで、戦いに来たわけじゃないんですけれど。
「ああ、準備だけで、もう十分だ。後は勝手にやらせておけばいい。あんな非常識なヤツなど、近くにいない方がいいのだ。」
軍人の娘ケーシェがささやくには「去就定まらず戦力不明な味方はいないものと扱うべき」なのだとか。
「言い過ぎですよ、主任。少なくても、彼は敵ではないのです。わたしはアテにはしていますが……。」
と、もともと民間人ながら軍属となって、わたしたちクラスを担当してくださるワグナス教官です。
地味な灰色に金の帯が目立つ術者衣姿は今日初めて見たものです。
「ワグナス、そう言えば衛兵隊はこの事態にどう動いているんだ?」
「……弟の仕事までは知りませんよ。ですが、朝になっても暗いまま。しかもうちなんかは厳戒灯や警戒鐘ですし……動揺する市民が外出しないよう巡回してるんじゃないでしょうか?」
「それじゃ、途中でコアードと遭遇して戦闘になったりはしないの?」
「ならんな。奴らは衛兵に偽装していると思われる。そこまでは想定済みだ。証拠なしで信用されず、学園の外の対処まではできなかったがな。」
……コアードは衛兵に偽装していた?
これひょっとして……デニーと目を合わせたわたしです。
ヘクストスガゼットの記事にあった、王都・王城の警護に駆り出された兵士にまぎれてコアードが王都に侵入していた、ということなのです。
しかし……エスターセル女子魔法学園の教官方は、完全にコアードの動きをつかんでいる。
今度はジェフィに目をやって、首を振られたわたしです。
一度はコアードにいた彼女も知らないのです。
なのに……どうしてここまでコアードの動きをつかんでいるのでしょう?
「さて、配備を急ぐぞ。もう開戦も近い。」
「は、はい!」
……デニーとケーシェの意見も聞きながら、わたしたち14名の配置を決めていくのです。
そして、わたしたちは野戦陣地と化した、野外演習場の土塁の一画を任されます。
主戦場です!
ここに敵を引き込み、その数を減らしながら防戦、日蝕が終わるのを待って反撃に転じる、というのが基本的な作戦だそうです。
ただし、学園の外に被害がでないよう、あくまで敷地内での戦闘と限定しているのです……向こうが余計なことをしなければ、ですけど。
ちなみに正門は破られるのが前提だそうで、錠前も掛けてないとか。
そして学園周囲の壁周辺には思ったとおり罠が満載。
なんでも壁の上にも柵が取り付けられていますけど、そこに重さが加わると……
「罠?そうよ。あそこから燃えるガスが噴出して、自動的に火打石がカチって……ホラ。」
学園長が楽しそうにお話ししていると、さっそく遠くで悲鳴があがります……容赦ないです。
「それはそうよ。厳戒灯を点灯中の軍施設に入ったら殺されてアンデッドにされたって文句は言わせないわ。ましてや、わたしの学園ですからね。」
……そして学園私物化を宣言なされた学園長の隣で、ワグナス副主任は苦笑い。
「まあ、それだけでもないんですけどね。向こうの柵上にはゴスンバチのフェロモンを塗り付けていまして……」
「は?」
「そうです。フェロモンをかぎつけたゴスンバチが、その対象が近づくと寄ってたかって針を刺すという……」
ゴスンバチというのは30cmくらいの大きなハチです。
街中にはいないし、さすがに冬は活動しないはずなのですけれど……。
その時どこからともなく、ぎゃああという悲鳴が聞こえたのは、気のせいではないのです。
「今、学園内には、季節外れのゴスンバチの巣がなぜかたくさんありまして……みなさんも気をつけてくださいね。」
「…………はい。」
にこやかな学園長に穏やかな副主任なのですが、やはり、この学園にお勤めになられる教官方は、常人ではないのです。
「危なかったな……。」
壁を登って学園侵入を提案していたケーシェはもちろん、ある程度の罠を予測していたデニーも蒼い顔です。
それに追い打ちをかけるように、その他の罠をお話になる主任です。
一見いつも通りですが、声がいつもより弾んで血色もよさそうです。
それはこの場の誰にも感じられるのです。
なんだか楽しそうって言っていいんでしょうか?
……これ、叔父様の影響ではないですよね?
単にもともと人族が持ってる闇が深いだけなんですよね?
なにかに背筋をなでられながら、それぞれ今までとは少し違った目で教官方を見てしまうわたしたちなのです。
打ち合わせが終わるや急ぎ野外演習場に向かうわたしたちです。
基本的にはここで迎え撃つのが、わたしたちの役割です。
20名かそこらで防戦する覚悟だった教官と職員の方々でしたが、やはり人手は不足なのです。
校舎側の土塁は随分高い場所になっていて、見わたせば、正門を抜けるとすぐ空堀があり、底には杭やら……あれ?
なんかいる?
「あそこでウネウネしてるよ?」
「毒蛇じゃない?」
やっぱり?
魔術が使えないとはいえ、なんだか容赦なさ過ぎって気がします。
そして急こう配を越えると、次は水をたたえた内堀です。
「暗いけど……あの水なんか濁ってる気がするよ?」
「毒じゃない?」
思わずサイドポーチの毒消しを一斉に確認するわたしたちです……。
そして、それを越えた敵に、三方から集中射撃できるよう、土塁や城塔が待ち受けているのです。
わたしたちは西側、室内演習場の前に組まれた土塁を任されたのです。
土塁といっても、更に急こう配になってる上にあるので、登ってくるのは敵ながら大変でしょう。
「しかも妙にヌルヌル光ってるよ?」
「油じゃない?」
……………………準備万端、と言うには、あまりに整い過ぎた防衛体制なのです。
こんなに過酷な野戦陣地に化してはいるけど、ここは昨日まではわたしたちが使っていた野外演習場。
複雑です……。
そこで防戦するわたしたちとしては、弓や弩で応戦して、それでも登ってきた敵には白兵担当が率先して対応……不安ですけど。
入学以来、主任は護身術と称して魔術師であるわたしたちに剣術や体術なども指導してくださいましたが、それでも魔術の片手間だったことに変りはなく、実戦で白兵戦に参加できる水準の者は限られているのです。
今ここにいる仲間の中では、騎士の家のリト、王国南西部の蛮族ジーナ、軍人の娘ケーシェたちを除けば、せいぜいわたしに……あ、ジェフィ!
「うちは遠慮させていただきます。うちの杖術は相手の力を使って極めたり投げたりする技ですからこないな時には危のうて使えまへん。」
……ちっ、です。
いえ、舌打ちはしませんけれど。
他には……浮かびません。
ケーシェも「それくらいでしょう」っていってますし。
デニーやレンやアルユン、ユイ、ソニエラ、ヤフネは論外です。
リルやピピュル、ファラファラだってゴラオンに乗るならともかく、生身の戦闘なんて到底させられません。
幸か不幸か、わたしは全員実戦での白兵戦経験者という強みはありますけれど、乙女としては、なんて不本意な経験豊富……。
「ですが、弩での射撃はなんとかなりますよ。」
「そうそう。あたいだってできるから。」
「ネコの手よりはマシだって思うの。」
妖獣なんかの助力を口走るくらい人手が足りない現状ですが、ネコにあるのは前脚ですし、そんなもの頼る必要がないくらい武器は豊富なのです。
「この武器、すごいのぉ~♡」
「連弩だね?……元戎って言うのかい?へえ?」
みんなに配られたのは、弩なのですが、上から縦に短矢が10本ならんだ弾倉がとりつけられて、なんと10回も連射できるんだそうです!
「それで、この縦に入ってる弾倉を…‥ここのレバーで、そう、で外したら新しい弾倉を入れればいいんだ。」
ユイの知り合いだった図書室の司書助手さんが、丁寧に手順を教えてくれるのです。
「引き金を引くと、反動とバネの作用で、自動的に弦がもどり、次の短矢が装填される。」
通常の弩は、弦を張る力が強過ぎるので、かなり腕力が強い人でもなければ、足で踏みつけるか、或いは滑車やらレバーやらの器具を使うしかないのです。ですから
「……なんて精巧なカラクリなんだ。連弩の中でもこんな連射できるものはないぞ。」
と兵器にも詳しいケーシェが驚いていますが、これ、ゴラオン零式にも使われていたものと同じ仕組みでしょう。
「じゃあ、これもフェルノウル教官殿の発明なのね☆」
アルユンの黄色い歓声がわたしの鼓膜を直撃し、地味に痛いのです。
「……多分ですけど。」
「ええっと、アドテクノ商会と錬金術研究所の共同開発って聞いています。」
助手さんによれば、弦やバネなど、随所に錬金術で錬成した素材が使われているとか。
「弩は、弓と違って、腕で弦をひきながら狙いを定める負担がない分、お前ら素人や女子どもでもそこそこ命中が期待できるのだ。」
自分だって女のくせに、ケーシェはそんな言い方をするのです。
軍人の娘というのが、彼女にとって誇りなのはわかるんですけど。
「加えて、この弩は長い弓床で狙いがぶれにくい。短矢の交換も恐ろしく楽だし、ちゃんと土塁に隠れながら焦らず狙えばまあまあ安全に戦果を出せる。」
ですが、こういう助言をさせるにはうってつけの人材です。
「あたいなら、これをたくさん作って、普通の軍でも使ってもらうよ。」
「そしたら、レンたちが卒業する前に亜人との戦いも終わるかもって思うの。」
無邪気と無垢な二人がそう思うのもムリなからぬことなのですけれど。
「甘い!一つの兵器で戦局が覆るなんて、考えが甘すぎる!」
こんな上からの軍人目線は少々厄介ですけど。
「実際、十回も連射できるってことは単純に考えて今までより10倍短矢を用意しなくてはいけませんし。」
「そうですなぁ。それにこない面倒くさいカラクリをぎょうさんこさえられる職人はんもそういらしまへんし。」
「む……その通りだ。」
今回のような短期決戦という限定的な局面ならまだしも、こんな精巧な武器を量産し運用するのは、難しそうです。
使いどころが難しいのは、人間もそうです。
「ヤフネ、あなた、ここで弾倉や薬品、ポーションの管理をしてください。」
「わたし?なんでですか?」
「口うる……いえいえ、しっかりしたあなたに在庫管理をしてもらわないと、すぐに使いきってしまいそうです。でも、ケチケチする必要はありませんからね。少なくなったら、リルやピピュルに伝えて。集積所に取りに行ってもらうから。」
「はい、承知しました。戦隊長。」
「あと、ユイにはけが人の手当てを頼みます。」
「……わかりました。」
「他は基本的に弩手にまわします。デニーとジェフィは戦局を見て、弩手の配置を指示して。」
「ミスターからいただいたメガネがない今、不安ですけど……」
心なしか、スペアのメガネはいつもより輝きが弱々しいのです。
マジックアイテムでないくせに光るのは充分アヤシイのですけど。
……やはりあれはデニーの特異体質?
「なに言わはります。位置取りや距離の把握はデニーはんのお得意ですや。」
そうです。
主任の教練で決戦詠唱距離を習得したわたしたちですが、中でも距離感覚はデニーが一番優れていました。
わたしたちは詠唱時間と敵の移動時間を考え試行錯誤した挙句自動的に90mで詠唱を始めるようになったのですが、この子は術式や詠唱の種類で即座に判断できるのです。
敵との距離を1メートル単位で体感できるのでしょう。
「距離ですか……しかし、この距離じゃアレと一緒で、敵が来たら撃つだけですよ。」
デニーの言うアレとは、2門ある投石機です。
人手がいない今、こんな手間のかかる兵器……しかも攻城用……を配備してるのは大きな疑問でしたけど、最初に照準固定で撃って、それでお役御免だそうです。
他に4門ある弩弓機も、敷地内で軽装のコアード相手に防戦することを考えれば、なんであるのかわからないシロモノです。
広い野外演習場にある野戦陣地ですが、単純な距離でいえば、デニーの言う通りで、全部射程圏内なのです。
通常の弩よりは短射程の元戎だって、余裕の必中距離なのです。
「アーバレストはともかく、カタパルトはちゃんと役立つぞ。一射だけだがな、二門の交差砲撃でキャニスター(対人用散弾)をぶちまける。正門から入った敵は……ク、ク、ク、ク、クッ。」
そこ笑うところなのでしょうか?
日蝕症で体調不良気味だったわたしには、想像しただけで気を失いそうになる光景なのです。
「主任はん、なにやら随分お楽しみですなぁ……。」
「他の教官方も随分生き生きとはしていたんですけどね……。」
ふだんから人の悪い顔をしていらっしゃるイスオルン主任ですが、今はご馳走を目の前にした人食い狼なのです。
人食い狼のごちそうとはもちろんヒトなのですから、主任の場合同族相手の惨劇の手配に嬉々としていらっしゃるという、とってもアブない状況なのです。
「築城術に物資の手配、作戦立案、現場指揮!魔法以外の知識がこんなに役に立ったことはない!」
主任はわかりやすく上機嫌で、ウキウキしてると言っていいでしょう。
スキップでもしそうなくらいです。
みんなが思いっきりヒいているのは、当然なのですけど。
ですが……叔父様が教えてくださいました。
主任は、将官になれたかもしれないほど優秀な軍人だったそうです。
しかし少数派で特殊な兵科である魔法兵であったために早々に退役せざるを得なかったとか。
軍の主流では、魔法兵は魔術を使っていればいいわけで、指揮とか作戦立案とかには口だしするな、という考えが少なくないのです。
「魔法なしの戦争ができるとは、退役して本当によかった!」
……仮にも希少な上級魔術師なんですけど、これではただの戦争狂なのです。
そんな主任に恐る恐る話しかけたのですが。
「なかなか攻めてきませんね。」
「ふん。秘密裏に王都に潜入できたのは見事だが、その代わり攻城兵器はまったくあるまい。あの程度の数と装備で攻めてくれば、即座に殲滅してやるさ。そしてこちらの陣地に怖気づいて攻めて来なければ、そのうち日蝕が終わり魔術が使えるようになる。どちらにしてもこっちの優位に変りはないのだ。」
さすがは人食い狼さん、いえいえ、鬼の主任です……どっちも褒めてない?……まあ、それはそれ!
コアードが攻めても攻めなくても学園の優勢は変わらない、なんて悪辣なんでしょう。
同族相手に過剰な防衛体制は、きっと戦いを、同族同士の不毛な争いを避けるための方策なのでしょう。
ハリネズミのハリは身を護るため防具なのです。
「だから一番いいのは、あのまま敵が突撃してきて、それをこっちが瞬殺し、逆上した敵が戦力の逐次投入を繰り返し、そのたびに殲滅する入れ食いだ。で、ついには日蝕も終わって総反撃で一人残らず、字義通りに全滅させる。これなんだがな。」
……気のせいでした。
やっぱり邪悪で貪欲な人食い狼です!
それでも少しずつ情勢は動いていたのです。
朝日を隠す黒い穴が、地平線から次第に登っていって。
「ク……えっと戦隊長!敵が増えてるって思うの。」
「あれ?あ、戦隊長~、援軍だよ!あちこちの通りからあのコアードってやつらが北上してる!」
見張り台の上からレンとソニエラの声が聞こえます。
体調不良にも関わらず頑として下がらず、見張りを引き受けたレンですが、一種のカンが働いたようです。
ソニエラもソウガンキョウで確認してくれたのです。
「さすがにバカではなかったか。」
少し残念そうな主任ですが、すぐに表情を改めるのです。
そう、指揮官たるもの、一喜一憂して感情を部下に見せてはいけないのです。
「すぐに敵が来るぞ!おそらくは朝の5倍は来ると思え!」
そして、敵の総数が不明な中、楽観的な数は言わない。
士気が低い部隊ならともかくわたしたちは意気軒昂なのですから、正確な予測が無理でも気を引きしめるくらいでいいのです。
「5倍?ざっと500人ですか!こっちは40人もいないぞ!」
「大丈夫なの~♡ファラ一人で20人くらいまでは平気なの~♡」
「俺様なら30人は余裕だぜ!」
常識的なケーシェの不安は当然ですが、ファラファラやジーナの根拠不明な自信はこんな時にはありがたいのです。
教官、職員、生徒たち、みんなも勢いに乗って「おお!」「やってやるぜ!」「まかせてください!」と声を上げるのです。
敵の増援にも味方の士気は高いまま。
そして防衛戦では士気の高さも必須なのです!
「まぁ、それで済めばいいのだがな。」
ですが、主任ご自身は聞こえないようにボソリとつぶやくのです。
どうやら学園側、というより主任がコアードの内情に詳しいのです。
それが言わせた、最悪の予測、ということなのでしょう。
「ひときわ大きな旗が、あの死星環があがりました!」
(クラリス、強い気配を感じるの。きっと……あの剣士が近いって思うの。)
レンの思念が飛んできました。
どうやら彼女の感応力や思念波は魔術師の術式と異なり日蝕でも使えるようです。
しかし伝えてきた内容は……最悪です。
暗い中、どんどん人影が集まってきます。
そしてやや広い正門前で次々と隊列を組んでいくのです。
無駄な声はほとんど聞こえず、整然とした動きは、
「冬季実習の時の軍勢とは大違いですね。これがコアードの正規軍……。」
「ふん、それでも最初の襲撃隊の最精鋭に比べれば、劣る。あの時潰しておいて正解だったな。が……どうやら王都に潜入したコアード一党の主力が集結したようだ。」
「ええ?なんでうちの学園に主力が集まるんですか!?」
これはわたしには予想外なんです。
軍の施設とは言え、コアードの主義に反する女子の学校とは言え、他にも王都には政治的にも軍事的にも経済的にも多くの拠点があるのです。
もっと重要な標的なんかたくさんあるでしょうに!
「今は、ここが要だからだ。だから、他の標的の制圧を断念して、早々に学園に戦力を集中した。」
……貴族、政府、軍にすら一定の影響力をもつテラシルシーフェレッソ伯爵家や、王都有数のアドテクノ商会、そして、王弟であられるサーガノス大公殿下の確保すら諦めて、他にもいるであろう軍や政府の要人を無視して、このエスターセル女子魔法学園に来る!?
「情勢の正確な把握に、戦力の迅速な再配置。さすがは……なるほど、ご本人の登場、と言う訳か……これも想定済みだがな。」
そして、そんな危機的情勢の変化すら、嬉々として受け入れるイスオルン主任なのです。
学園の南通りから白っぽい明かりが近づいて来ます。
二頭立ての馬車のようです。
集まってきた軍勢はそれを見るや無言のまま一斉に道を開けます。
辺りにはピンと張り詰めた糸というか割れる直前のガラスというか……そんな緊張感が立ち込めていくのがここからでも感じられるのです。
正門前で止まった馬車からは、一人の長身の影が、おそらくは男性がゆっくりと下りてきます。
両脇の兵士が支えようとするのを身振りで遮り、地面に立ったその人は、学園を真正面から眺めています。
やせてはいるようですが、もともとは鍛えられた者特有の律動的な仕草が随所にうかがえますが、今は……なんでしょう?
違和感がありますけど。
敵の軍勢がすべて敬礼をし微動だにしない中、頭一つ以上高い、ひときわ大きな男が現れました。
そのたくましい姿はここからでもわかるのです……叔父様がリーチ特務曹長と呼んだあの剣士。
そして、その剣士が、先ほどの男の前で恭しく膝をつくのです。
男は鼻の上に手をのばし、おそらくはメガネを直して、リーチの肩に手を置き、立たせたのです。
何を話していたのか、知りたいと思い、わたしは念を集中するのですが……
(酉さん……?)
ダメです。
こんな時くらいにしか役に立ちそうもないのに、わたしに憑りついた使い魔も、日蝕のせいか反応がありません。
しかし、話の中身は聞こえませんでしたが、その結果はすぐに思い知らされることになったわたしです!
立ちあがった剣士が叫んだ時に!
「総攻撃だ!」
ついに、そして慌ただしくも始まったのです。
わたしたちエスターセル女子魔法学園と核人主義者の戦いが!




