第23章 その3 ネコを追いかけて
その3 ネコを追いかけて
後になってみれば、この、一見平和な時間の延長だった騒動も、あの事件の前兆だったのかもしれません。
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「ネコ?ネコって、あの尻尾が長くて四本足で全身黒くてちっちゃくて夜に目だけが怪しく光ってニャアと鳴く?」
「そうだけど……あれ?黒猫しかいないのか。そりゃ怪しくも見えるか?」
そんな話題になったのは、もう二月も終わり近い日の放課後。
ここは叔父様の教官室です。
「だからかな?不思議なことにこの王国じゃ猫はペットとして飼われないんだよな?」
ネコなんて妖獣のことを叔父様がお話しになられて………ネコは犬と違って簡単には人になつかず、しかもその妖力で人族を惑わすのです。
主に人里に隠れ住むので、魔獣ではなく野獣とも言えず、ですからこの辺りでは妖獣と呼ばれているのです。
「でもね、猫の鳴き声はもうホントにかわいくて、あの『にゃあ』には全哺乳類をメロメロにする魔性の魅力があるんだよ。」
ガチャーン?
なんの音でしょう?
振り向くと、お茶のセットを落としたメルがいます。
なんだか頭の上の犬の耳もお尻の上の犬の尻尾も、ワナワナと震えてますけど?
「ご主人様……まさか!ご主人様は犬系のメルよりネコ系がお好きだったのですか!?だからメルがあんなに甘えても一向に手を出してくださらないのですね!?」
「そうなんですか、叔父様!」
って言うか、やっぱしわたしの目を盗んで叔父様をユウワクしていたんですね、この年中発情犬娘は!
ホントにこんなのを叔父様のお伴について行かせていいのでしょうか?
「なんの誤解だよ!」
「ご主人様ぁ♡」
「もう、叔父様!メルも離れなさい!」
……そんな当たり前だった日々も、あとわずか。
一か月後の3月末には、叔父様は学園を去られるのです。
ことの発端は、叔父様がわたしたちの校外活動の引率業務から度々姿を消してしまわれることにあります。
先日のエス魔院との決闘騒ぎだって、そのせい!と言えなくもないのです。
「それはいくらなんでもクラリス様の責任転嫁だと思われるのです。」
「……あなたには言ってません!わたしは叔父様に申し上げているのです!」
「まあまあ、二人とも。悪いのは僕ってことでいいじゃないか。クラリスが言うんならそうなんだし。」
ズキ。
少し罪の意識が……でもきっとそうに決まっているのです。
それで、まあ、なんで引率中にいなくなるのですか?と聞いたところ、冒頭の話しになったのです。
「ですが叔父様……どうしてネコなんかをお探しに?」
それで、叔父様がおっしゃられたのです。
ネコが妖獣と呼ばれるのは、人を惑わす習性にもありますが、ネコが持つ強い妖力やら霊力やらが怪現象を引き起こしているのではないか、との仮説があるのだそうです。
「では、その霊力は先天的なものだけなんだろうか?」
「……先天的なものだけではない、とおっしゃるのですか?」
「まあね。だって、人に飼われないくせに、人の街に好んで住むなんて、カラスやネズミのように街の環境に適応しているってことだろ?で、猫の場合は、人里にいることで、その霊力を補充する手立てがあるんじゃないかな?」
つまりネコは、自然の霊脈の近くではなく、人の街で霊力を集めているのではないかってことのようです。
「普通、人の持つ霊力は微々たるものだ。しかし、街というものは、住んでる人の霊力を集める力があるといえる。だけど、自然に集まった霊力は、放っておくと暴走して、それこそ怪異を引き起こすんだけど……」
叔父様の元の世界では、信仰という形でジンジャとかオテラとかキョウカイとかいう場所で人の霊力を集め浄化して、その暴走を防いでいたそうです。
「一方、この世界じゃ、主に街の小さな怪異は猫のイタズラによるところが多い。だから猫が街の霊力をため込んでるって説にはそれなりに根拠があるって思うんだ。」
街に住む大勢の人の霊力がどこかに集まる。
それをネコが体内に取り込んで、悪さをする、ということなのでしょうか?
「まあ、だいたいそんな感じ。だから、猫は霊力の強い場所に集まりやすいんじゃないかって思って、その調査をしてたのさ。日蝕が起こったら、魔術が使えないのは、マナの発生に問題があるのかもしれないって説もあってね。なら近くに霊脈のない街中で、その強い地点でマナの量を観測しようと……それには日蝕の最中に猫が集まる場所がどこかでわかるだろ。今のうちにそこを見つけておいて、観測装置を置いておこうと思って。」
「それで、ネコが集まる場所をわざわざ?しかも毎日……。」
あきれます。
なんでそんなに街中の霊力を観測したがるのでしょう?
もう退官されるまで日も少ないのに……もっと一緒にいてほしいのに。
それに……もっともらしく聞こえるお言葉の中にも感じられる微かな違和感。
おそらく叔父様はウソはおっしゃられてはいないけど、全てを話してくれてるわけでもない。
それはメルにすら気づかれない、わたしだけにしか察知できないでしょう。
「……叔父様!」
だから、少し真剣に見つめるのです。
「……だって、いざという時になってから探してたんじゃ間に合わないからね。」
「いざという時?」
少しひっかかるわたしですが、叔父様の次のことばでそれは消散してしまいます!
「もっとも一番怪しいのは、あそこなんだけどね。」
そう言って叔父様が見上げたのはこの王都ヘクストスの中心部、王城なのですから。
「王家の紋章ってライオンなんだよね?」
「獅子じゃありません。レオ!竜殺しの槍を持つ有翼の白獅子です!」
もう、この人は王家の馬車に轢かれそうになったり、その馬車にお乗りになって王城にお入りになったことまであるのに。
「どこが違うのかはわかんないけど、要はここの王家って意外にネコ好きかもね。」
「ですから、そういうおっしゃりようは不敬なんです!レリシア様にも失礼ですよ!」
なぜか叔父様を尊敬なさるレリューシア王女殿下でも、さすがにお怒りになるでしょう。
なんて残念なお方……って消沈なされるかもしれません。
「だって、この国の人は黄金の聖竜を崇拝してるんだろう?なのに竜殺しのライオンなんかを紋章にしてるのは何か意味があるのかなって。」
「あれは聖竜様ではなく、邪竜を滅ぼす竜殺しです!」
まったく、世間に興味がないにも程があるのです。
ですが、後になってみれば、わたし、うまくごまかされてしまったのかもしれません。
「ですがクラリス様……。」
落としたティーセットの後始末を終え、新しいお茶を淹れてくれたメルです。
香りは……以前より少しはマシですけど。
「ご主人様もメルも、ネコに逃げられてばかりで、調査は一向に進まないのです。」
「そうなんだよな。さすが猫。聴力がいいって言うより、勘がいいんだよな。」
おそらくはネコに引っかかれたのか頬を押さえる叔父様です。
傷跡はもうないけど。
「……叔父様はともかく、メルまで、ですか……。」
半獣人のメルは、人族よりもはるかに捜索、追跡に向いているはずです。
嗅覚や聴覚に加えて、敏捷性や静音性もまた相当優れているのです。
「きっとイヌ属は猫と相性が悪いんだろうな。むしろ僕よりも嫌われているみたいだよ。」
「メルだって、あんな薄気味わるいネコなんかに近寄りたくはないのです!ご主人様のお伴ですから従っているだけなのです!」
叔父様の言うことには絶対服従、というより嬉々として従っているメルが、仕方なく従っているというだけでも、ネコ嫌いはかなりのものなのです。
「そんなわけだから、これから頼んだよ、クラリス。」
「はい?」
「口惜しいのですが、仕方ないのです。ですがクラリス様、この機会を利用してのご主人様へのマーキングはご遠慮いただきたいのです。」
「あなたじゃあるまいし!」
この年中発情犬娘に言われたくはないのです!
……って、何を言われたんでしょう?
「んじゃ、さっそくこれから出かけるから……もう主な試験は終わってるからいいよね?」
「二人きりで?……はい、叔父様!」
退官間近の叔父様と二人っきりでお出かけなんです!
これってデート!?
「もう口元が緩んでいるのです!これではご主人様のいろいろなモノが危ういのです!」
そんなメルの声なんか、もうどうでもいいんです!
コートをとった叔父様がちゃんと着込む前にその腕をとって勢いよく部屋から連れ出すわたしなんです!
なのに。
「どうしてこんなところに来るのですか、叔父様……。」
日暮れ間近の王都はバーミリオンに染まり始め、とってもきれいです。
いい雰囲気なのに。
「だって、ネコは広い大通りなんかにはなかなかいないんだよ。人族に迫害されるから……される前に逃げちゃうけどね。」
それは妖獣と言われるネコですから、そんなの好きな人族なんか。
わたしだってちゃんと目撃したことはありませんし、でも見たって近づきたいとは思わないのです。
「だからって、こんな狭い路地裏ばかり……。」
せっかくのデート(?)なのに、人もめったに通らないような場所……しかもあまりきれいなじゃない……ばかり回ってますから、とっても不本意なんですけど。
学府街からも商店街からも遠い、下町なんです。
建物も古くなったり汚れたりして、うかつにカベに触れたらコートが汚れちゃいそうです。
「あ、そうそう……これ、使って。」
「香水ですか!?」
差し出されたのはガラスの小瓶。
叔父様にしてはありえないくらい気の利いたプレゼントです!
「いや、消臭剤。猫の嗅覚をごまかすんだ。僕は囮になるから、キミだけ使って。」
「……ふん、です。」
叔父様の鈍感!
期待を裏切られてばかりで、機嫌が悪化したわたしですけど、有無を言わせず霧吹きで消臭剤とやらを吹きかけられます。
「さて……んじゃ、ここで登場だ!……♪マタタビ酒~♪」
またそんな変な節回し。
ホント、なんのお約束なんでしょう?
え、あのネコ型の方?
「クラリス、あそこの箱の上に」
ええっと、路地の奥は行き止まりになって、そこには木箱があるのです。
「これを置いてきてくれ。」
これ?
例によって叔父様がどこからかとりだしたのは、きれいな琥珀色の液体が注がれた浅いお皿……あ、これ!?
「そうそう。ドラゴンブレスを基にしたお酒にマタタビを漬けておいたんだ。」
ドラゴンブレスとは、錬金術の試料として精製されたという恐るべきブランデーです!
三口も飲めば死ねるという危険物!
そんなものを飲ませたらネコなんて小型四足獣は即死です!
いくら不気味な妖獣でも調べる対象を殺すのはどうなんでしょう?
それではただの駆除なのです!
「いやいや、これはちゃんと調整してかなり希釈もしてる。前にキミが飲んだ気づけ(アウェイク)のポーションとは別物といえる。」
じと~~~……以前実際に飲まされたわたしは、不信に満ちた視線を送るのですが、叔父様には通じないのです。
「僕は少し離れた場所で『猫捜索』のスクロールを使ってみるよ。」
わざわざそんなものまでおつくりになって……この人は相変わらずムダに凝り性なのです。
「叔父様!このネコかわいいです!」
あれから、同じようなお皿を叔父様のチェックリストに従って置いて行き、その結果を確認すること一時間後。
数か所で、見つけては逃げられ引っかかれ、叔父様の頬や手にはひっかかれた跡が未だなまなましいのです。
わたしがひっかかれないのは、やはり叔父様がネコに嫌われているからなのでしょう。
「お、さっきの場所に猫反応あり、だ!」
いさんで出向くと、木箱の上には小さな黒ネコが一匹。
にゃあにゃあ鳴きながらねそべって、うっとり。
なんて幸せそう……見てるわたしも思わず微笑んでしまいます。
「フレーメン現象だな。すっかりマタタビに酔ったみたいだ。今なら大丈夫。」
恐る恐る近づくわたしに逃げもせず、あっさり抱き上げられた黒ネコちゃんです!
「これが妖獣?こんなにかわいいのに……。」
背中を撫でてあげると、気持ちいいのかわたしに顔をスリスリ。
「さっきまであんなに嫌ってたのに、猫の魔性の魅力、おそるべしだね。」
叔父様がおっしゃるには、こんなにわたしになつくのにも
「僕の前世じゃ、黒猫は魔女の使い魔って決まってたからね。魔術師のキミにはなつきやすいかなって。」
なんて理由があるみたいです。
もちろんマタタビで油断していたのがキッカケでしょうけど。
「にゃあ」
「猫っていいよね……うわ!」
うかつに手を伸ばした叔父様は手の甲を引っかかれます。
「ちぇ。もうマタタビ酒の効果が切れたか。クラリス……は大丈夫だな。この首輪、つけてくれる?」
それはネコを追跡して集まる場所、つまり街の霊力が集まるかもしれない地点を探すために、ある種の信号を発信するものだそうです。
「……なんだかかわいそうです。」
細い首輪は赤くて小さな鈴がついています。
それはそれでこの子に似合ってはいるんですけど、叔父様が「苦しくないようにしてるから」って言うからつけてあげます。
「にゃあ……」
「ごめんなさい。用が済んだら外してあげますから……。」
結局この日捕まえられたのは、この子だけでした。
それでも人になつかない妖獣が、マタタビ効果が切れた後もわたしから逃げなかったのは相当珍しいのです。
「さてと……んじゃ、クラリス、猫を放して。」
「ええ!?連れて帰っちゃダメですか?」
「イヤイヤ、キミ、すっかり目的忘れてるだろ?」
まぁ、そうですけど。
でも学生寮でペットは、しかも妖獣なんて飼えませんし。
泣く泣くネコを手放したわたしです。
そしていざわたしから離れると、ネコは振り向きもせず行ってしまうのです……。
やっぱり犬とは違って、どこか情が薄い気がするのです。
「さよなら、クロちゃん……ぐすん。」
「やれやれ、すっかり猫に毒されたね。これじゃどっちが捕ったかわかんないな……さ、少し離れて追いかけるよ。」
「浮揚」を使って足を浮かせて狭い通りを歩き(?)「静寂」で衣擦れまでも消して進むわたしたちです。
ですから会話は隣にいるのに「魔伝信」……。
指輪が浮かべた文字を見ながら首をかしげてしまうのです。
『なんだか 不思議です』
『僕の前世じゃ よくある使い方さ』
歩きながらも器用に指でメールするわたしたちです。
でも、一緒にいるのになんでメールなんてするんでしょう?
やはり叔父様の前世のお国はスキンシップやコミュニケーションがとっても不足なのです。
ひょっとしたら叔父様以外にもコミュ障やひきこもりがいるのかもしれません。
なんてさびしいお国なんでしょう……。
メガネを外してる叔父様は黒いコートが意外に似合うのですけど、今はネコにひっかかれた傷で台無し。
治癒系のスクロールはなぜかお使いにならないし。
『痛くありませんか』
『平…k』
と書きかけの文をそのまま送りつけ、叔父様は前方に注目しています?
そこには一人の若い衛兵さんがいました。
でもその衛兵さんに変わった様子はありませんし、わたしたち、別にアヤシイことはしてません。
何が気になるんでしょうか?
わたしは指輪を操作しようとしたのです。
でも叔父様は、わたしの手をつかみ、そのまま歩きだします。
見上げたわたしに、ゆっくり首を振る叔父様……。
少し離れた場所で、ようやく話し始めたわたしたちです。
あ、メールよりは、いつもの指文字ですけど。
叔父様の手の平に指で文字をなぞるわたしです。
メールよりよっぽどこの方が慣れてるわたしたち。
さすがに年頃になった今では人前では恥ずかしいですけど。
『な に か あ っ た の で す か ?』
『あ の お と こ を ね こ が い や が っ て た』
さっきの衛兵さんを、あのネコがかなり大げさに避けたということなのですけど……。
『お じ さ ま よ り も ?』
『き ず つ く け ど そ う だ』
ですが、それがなんなのでしょう?
ひょっとしたら魔術回路のない、しかも男性はネコに嫌われるという新事実の発見かもしれませんけど、わたしたちがコソコソする理由にはならないのです。
或いは何もしてないのに衛兵さんを避けてしまうなんて、もう叔父様は長年の悪行からの条件反射になっているんでしょうか?
ですが、それを確認しようとするわたしを、まるで察したかのような叔父様です。
『い そ ぐ よ ね こ が い っ ち ゃ う』
そして手を握られて進み始めると、わたしだって後は黙ってついて行くだけです。
まぁ、わたしの手を握って歩くのは、叔父様ですから許可なしでも許しますし……えへ。
『あ れ ?』
『こ こ は ・ ・ ・』
その後も追跡は続き、すっかり暗くなったので、指文字解禁のわたしたちですけど……なんだか見覚えがある場所なのです。
「あ、そこにいるのはクラリスではありませんか!」
「ん!お……教官殿も!」
「……またアントと一緒?ぶう。」
「なになに、手なんかつないじゃってデートなの!?」
見覚えもあるはずです。
ここは魔法街。
既に学園の近くなんです。
生徒に見つかって慌てたのか、手を離そうとする叔父様ですが、絶対離さないわたしです。
そのせめぎあいは、握力でも優るわたしが勝つのです!
「痛いよ、クラリス!」
聞こえませんけど。
「叔父様、リトたちの声が聞こえたということは……」
「静寂の効果は切れちゃったね。浮揚もか。」
追いかけるのに夢中でそんなことにも気づかなかったわたしたちです。
「あ……見てないうちに猫の反応も消えちゃった?」
首輪の発信が途切れるのは、よほどマナの濃い場所に入ったか、結界の一種に入ったか……もう魔法街ですからどこかの研究機関の敷地にでも入ったのでしょうか?
「そんなとこかもしれないね……まぁ、またチャレンジするさ。首輪の効果は当分もつし、明日でも再探知するよ。他の猫にもつけときたいし。」
わたしに手をつかまれたまま、ですが……その声は、心ここにあらずの叔父様なのです。
「今日の晩御飯、何かな何かな!あたいここの食堂のご飯大好き!」
リルが体を揺らすたびに、童顔に不似合いなム……も揺ら揺らします。
叔父様と別れた後は、いつものように学生食堂で夕食です。
チームメイトと一緒の席に座り、料理を並べるわたしです。
玉ねぎとじゃがいものスープにバゲットにサラダ。
「メインは、フライの盛り合わせですね。」
「ん。エビにホタテにアジにカツ……シイタケにカボチャまで。」
「とっても豪華なミックスフライだって思うの。」
「世間の女子なら食べすぎでしょうけど……」
わたしたちは軍学校の生徒です。
魔術に教練に大忙しで、小食の仲間も今ではそれなりに食べないとやっていけないのです。
「アツアツでサクサクでジュシー!おいしいです!」
「ん。期待を裏切らない。」
「んうう~妹たちにも食べさせてあげたいよぉ~」
「リルはいいお姉さんだってレンは思うの。」
「リラ、うまくやってるでしょうか……男なんて結婚したら豹変しますよ。」
リラというのは、先日結婚したばかりのリルの妹さんです。
「デニー!相手の子もあたいの幼馴染なんだから、そんなこといっちゃダメだよ!」
なんて会話の間です。
「すみませぇん、これ、今日のデザートでぇす、遅くなっちゃいましたぁ。」
新人のアルバイトさんが、全部の席に小さなゼリーを配ってます。
あれ?
「すみませぇん、これ……」
で、わたしたちのテーブルにもゼリーを置いて行ったのです。
笑顔が良く似合う、大きな瞳が少しつりあがった子です。
「あの子、先日の募集で入った子ですね。」
「ん、出前もやってた。」
「クラリスとメルメルの決闘の時だね。」
「……クラリス、何を気にしてるの?」
そうです。
わたしはその新人バイトさんから目が離せなくて。
でも、偶然ですよね?
「あの子、なんだか変わったアクセサリーつけてますね?」
「昨日まではつけてなかったよね?」
「ん。」
「レンもそう思うの。でも……?」
わたしの視線を追いかけたみんなの目にも見えたのです。
あの鈴のついた赤い首輪が。
その夜のことです。
「「「「「にゃあ~~~お!」」」」」
おそらく王都中のネコが一斉に鳴いたのでしょう。
そして、なぜか教官室の窓から身を乗り出した叔父様。
その時、一緒に見上げた星空に謎の物体が出現したのです!
それは、きれいな淡い黄金色の真円……。
叔父様はそれをツキと呼んだのですが、そのまあるい金色が見えたのはほんの一瞬。
すぐに消えてなくなり、あとにはまた冬の星空が見えるだけ……。
「今年の日蝕は……やばそうだ。」
ポツリと呟いた叔父様は、それでもなぜか少しうれしそうだったのです。




