第22章 その4 仁義なき戦いの果てに 後篇
その4 仁義なき戦いの果てに 後篇
「学園の秘密?秘密なんてあったかな、ウチの学園に?」
なんて言い草でしょう!
この、秘密と混乱しか作れない叔父様なのに!
わたしはもちろん、デニーはあのメガネに渦巻マークを浮かばせて頭をフリフリ。
なんて怪しいメガネ……特殊効果ありすぎです。
そして、鉄面皮のジェフィですら口を開けるという大失態をみせるほど……ま、すぐに隠してましたけど。
そもそも学園の秘密は、叔父様のおつくりになった兵装なくしてありえないのです!
そしてそれがわかったのは……。
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さっきまで快晴だった冬の空が、一転にわかに書き曇り、もはや灰色の曇天を化しているのです。
ここはエスターセル女子魔法学園の野外演習場。
そしてその中央に立ったわたしとメル、二体のゴーレム!
「クラリス様……今こそ積年の恨み、晴らさせていただくのです!」
頭の上の犬の耳とお尻の上の犬の尻尾を怒りで震わせる犬娘です!
しかしその衣装は……先ほどまでのメイド服を着替え、先日叔父様からプレゼントされたピンクの魔術師衣装です!
とんがり帽子に術師衣、そしてこれも叔父様から戴いた、あの魔術宝杖!
それを、これ見よがしにひけらかして……ギリギリギリ!
悔しくて歯軋りがとまりません!
わたしだって叔父様からあんなプレゼントてほしいのに!
「あなたに恨まれる覚えはありません!逆恨みもいい加減にして!」
一方、わたしは制式戦闘衣に着替え、術生衣と学生杖の姿。
冬季用コートはないけれど、もう怒りで寒さは感じないのです!
「……あのう……お二人とも、用意はいいですか?」
そんなわたしたちの間に入ったのは、美少年教官セイン・エクスェイルです。
そんな彼をジロリとにらむメルとギロって見つめるわたしです。
「あのう……。」
「早く始めるのです!!」
「さっさと始めてください!!」
わたしたちはまずゴーレムの傍らに立ち、杖を持ったまま両手を上げるのです。
バチバチバチ!
その姿勢のまま、数秒間にらみ合うわたしたち。
その間に恐る恐る進んで、中間に立ち、オドオド構えるエクスェイル教官です。
「がんばってください!教官殿!」
「メル教官に負けないで!」
「クラリス、あんまりイジメないでよ!」
わたしとメルににらまれ虐げられるセイン・エクスェイル教官に、シャルノを始め多くの生徒が声援を送るのです。
これもなんだか不本意な構図ですけど。
「ん、クラリス、負けるな!」
「うん!でも、メルちゃんも頑張ってほしいってレンは思うの。」
「う~ん、あたいはどうしよ?これって女の戦いなんだよね?」
「ええ、私が推理するに、決闘の根底にあるもの、つまり動機はよくある痴情のもつれですね。」
「そない大仰に言わんでもわかります。」
仲間たちの声も聞こえますけど、これも今一つ緊張感にかけるのです。
いえ、今はどうでもいいんですけど。
「……両者、準備用意!」
それでもシャルノたち女生徒の声援のおかげか、エクスェイル教官は張りのある声でわたしたちに告げるのです。
「開戦!」
そしてその掛け声と同時にわたしはゴーレムの背中にある魔宝玉に右手をあて、ありったけの魔力を注ぎ込むのです!
そう、この灰色のストーンゴーレムは、魔力炉を搭載し、操者の魔力で動くのです。
これはかのゴラオンこと戦闘用有人式ゴーレムの実験機だったとか。
つまりは操者の魔力の質と量が、このゴーレムの力となるのです!
そしてこの決闘の手段は「ツナヒキ」!
互いのゴーレムが一本のロープを引っぱりあい、力、つまり操者の魔力の強い方が勝つ、というものなのです……なんて平和な決闘でしょう?
そして決闘の相手、メルは昨年12歳にしてヘクストス魔術協会に正式に中級魔術師として認定された天才です!
その魔力の強さは、同じく叔父様に師事していたわたしが一番思い知っている……。
ですが、たとえメルが中級魔術師とは言え、修行期間はわたしのほうが長いのです!
簡単には負けません!
しかもこの半年ばかりは異常に実践続きで経験豊富なのですから……乙女としては不本意な経験ばかりですけれど。
ですが!?
グググイググッ!
思いっきりロープが引かれてます!?
なんて力!
これがメルの魔力です!
いけません!
もうわたしが最大限の魔力を送ってるのに、グイグイグイグイと引っ張られて……勝敗を決める地点にあの赤い布が、ドンドン迫り、あと、30cm、20cm、10cm……5cm!?
ですがわたしの魔力はもう上限まで出し切っていて……余力はまったくないんです。
負けそうです!
3cm……1cm!
「クラリス!」
「負けないで!」
「エクスェイル教官殿かっこいい!」
「メル教官かわいいの~♡」
そんな悲鳴やら何らや……もうダメかも!?
「っく!」
ですがそんな声に隠れ、わたしの耳が微かに拾ったのはメルのうめき声。
これは……そうです!
わたしたちの魔力の上限にはもちろん限界があり、更にそれをつぎ込む時間にも限度があるのです。
そして、メルの魔力の消費上限、いわゆる瞬発性はわたしを上回っていたけれど……!
「ええええい!」
その持久性は……!
「わたしだってぇぇぇ!」
ずずずずずぅぅぅっ!
きたきた!
わたしのゴーレムがついにロープを強く引っ張り始めたんです!
メルの魔力の瞬発性はわたしより上でも、その持続時間はわたしの方が長い!
そしてそれからグイグイと引き続け、今度はわたしの方にロープがやって来ます。
あの赤い布切れが、もう10cmで開始位置にもどって……今、戻った!これでリセット!
既にメルが挽回する余力はなく、後は畳みかけるだけです!
ここから一気に逆転です!
なのに!
…………ぷしゅうう……?
突然わたしの、いえ、メルのゴーレムも停止です!?
そして、手を当てている魔宝玉からモクモク白い煙が!?
「アレ……あ!?お二人とも、指輪に魔伝信の着信です。お読みください。」
困惑していたエクスェイル教官が、かろうじてそんな指示を出してきます。
そこでわたしもメルも忌々し気ににらみ合って、でも一時休戦です。
「……このゴーレムは、一定量の魔力、一定時間の稼働後、停止するように作られている?これって……」
……そんな、指輪から投映された魔伝信の文字は、少し角ばって、でも魅力的な魔法文字……こんな説明までゴーレムに呪符していたなんて……。
そして緊急時には配信されるように、以前から準備なさっていた?
「これ以上の魔力炉の稼働は、操者の魔力限界を超えて、魔力欠乏症およびその後遺症を引き起こす可能性があるから、なのです?」
向こうでは、メルも指輪の文字を読んでいます。
戸惑いながらもメルもこれが誰の筆跡であることはわかるのでしょう。
「だからこのゴーレムをこれ以上使役することは禁止させてくれたまえ。魔力量の測定かなんかの競技かはしらないけど、前途ある魔術師であるキミたちにこれ以上負担を掛けたくはない……。」
なんて過保護なお人よし!
こんなゴーレムにまで、こんな厳重な安全装置なんて!
オマケにその文章の最後には
「それでも、もしも試合が途中で遺恨ができそうなら……そんな子にはゴーレムパンチだ!」
……………………まるで意味不明です。
なんでしょう?
その時、なんだかとっても大きなゴーレムの腕が空を飛んでくるイメージがわたしの脳裏をよぎったのですけど。
「……ごぉれむぱんち?これはなんの暗号なのです?」
思わずメルと目を見合わせてしまうのです。
そして、そこにエクスェイル教官の声。
「……以上。ミスターエックスより?……誰です?ミスターエックスって?」
わからない?
この人だって魔術師としての基礎をあの方に学んだ、いわばわたしたちの兄弟子みたいな存在のはずなのに、なんでわからないんでしょう?
「……本当に残念な人ですね。あなた……。」
「セイン!だからあなたはバカ弟子なのです!」
この時ばかりはそういうメルの気持ちも、よくわかってしまいます。
「なんですって!?クラリスも、メル教官もエクスェイル教官に失礼ですわよ!」
そこに乱入し、彼をかばうシャルノです。
まったく、長年お世話になった方の筆跡もわからず、その正体に気づかない。
そんな残念系に憧れるなんて、シャルノも見る目がないにも程があるのです……。
「でも、それはそれ!」
「これはこれなのです!」
鉾先が同じ相手に向いたことで芽生えかけた共感も、ふと我に返ればあっさりと消え!
「……ゴーレムは停止しましたけれど、メルたちの結着はまだついていないのです!」
「ならどうしますか?次は……模擬戦闘での決闘モードですか!?」
「それでいいのです!メルの教官権限で、これから仮想訓練室を稼働するのです!」
そして再び、いや、もはや何回目かもわかりませんが、にらみあったわたしたちです!
そんな二人の間に一陣の風が吹きすさび!
「は~い、お待ちどう様。学生食堂の『出前』です!」
…………は?
そこにやってきたのは笑顔を浮かべた、食堂で働く女性ですけど?
取っ手のついた金属製の四角い箱を持ってます。
「あの、今は授業中で、いえ、そもそも『出前』ってなんですか?」
困惑しきったエクスェイル教官が、そんなもっともらしいことを聞くのです。
女性は美少年の教官相手に、営業以上ににこやかになってますけど。
見たことないし、あの人、新人でしょう。
「あの、学生食堂の食べモノをお届けするサービスです。新年度から本格的に始まる予定ですけど、今は試行中です!教官さんもぜひ、利用してくださいね!……ではご注文のごぉれむぱんち二つ、確かにお届けしました!」
そこに差し出された大きなお皿には……これがゴーレムパンチ!?
「……なんや、大きなシュークリームやな?」
「その後ろに……これはロールケーキでしょうか?」
「なるほど、シュークリームを人の拳に、ロールケーキを上腕に見立てたんですね!」
「ん、それでパンチ?」
「えらいえらい、デニー賢い!」
「確かに、言われるとそう見えるってレンも思うの。」
「そいで、これでどうしよ思います?まぁ食べるしかないですやろけど……」
わたしとメルをそっちのけで、なんだかみんながワイワイ騒ぎ出します。
なんだか、思いっきりやる気がそがれていくんです!
「あ、なんか紙があります。手紙?……ええっと、二つあるもののうち、片方はチョコレート、片方はストロベリーだ。どちらを選ぶかは……年上が決めたまえ、だそうですよ?」
年上?
わたしたち、基本的には同い年の生徒で……リル、デニー、レン、そしてエリザさんは違いますけど……本来年長者なんていないのですが、その場合は生まれた季節や月で決めなさいという補足があります。
そして今の場合は明らかにわたしが年長者!
「なお、それがイヤなら、これを互いに投げ合って台無しにしてくれたまえ?」
それがごぉれむぱんち?
でも、こんなおいしそうなケーキ、だれが投げたりするものですか!
それはメルの困った顔でもわかるんです!
「……フフフのフ!」
やはり正義は勝つのです!
悔しそうなメルの顔が実に心地いい!
何しろメルはチョコレートがなぜか食べられない体質で、食べると鼻血やらなにやら大変なんです!
しかも、イチゴが大好き!
すごい恨めしそうな目でイチゴのケーキをにらんで。
これはもう……勝敗は決定です!
おそらくは叔父様のケーキを、しかもこんなにたくさん食べられるチャンスなのに、先に選べるのは、わ、た、し!
「くぅ~っ……ひどいのです。天は、メルを見放したのです!」
……なんて気味のいい瞬間なんでしょう!
わたしはそんなメルに言ってやったのです!
「はい、あなたはこっちよ。」
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「へえ?そんなことがあったんだ?でも、それ、なんかナゾがある話なのかい?」
お話の間にも「なんて無茶な」とか「危ないことして」とかわたしとメルにお説教したそうな叔父様でしたが、ここでお説教はゴメンなのです!
ましてメルと一緒だなんて。
だから、ここで畳みかけるように持っていくのです!
「デニー!任せます!」
「はい、班長閣下!……ミスター!この私、デニス・スクルディルは、ついに気づいたのです。本当に大切なものは隠し切れない、という意味に!」
「言われてしまえば、手品みたいなもんですけどな。」
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「あの……クラリス様?」
ちぇ、です。
いえ、舌打ちはしませんけど。
「わたしはチョコレートのケーキが食べたいんです。だから先にこっちを戴きます。だからあなたは、このイチゴのケーキ。それでいいでしょう?」
そしてピンクのストロベリーソースに染まったロールケーキをシュークリームをメルに差し出すのです。
やれやれ、です。
年長者は年下に対して義務がある……ご自身をそう律しておられた叔父様の……律してない、という説もありますけど……しかも姉弟子のわたしがここでその教えを破るわけにはいかないのです。
コワゴワとイチゴのゴーレムパンチを受け取るメルを背中に、わたしはみんなにも言うのです。
「これ、大きくて食べきれないから、みんなも食べましょう!……メル、あなたもそれでいいでしょう?」
「……はい、クラリス様。」
これで、決闘騒ぎは終了。
「待ってください!まだ僕の授業が終わってませんよ!」
で、そんな残念教官の悲鳴もむなしく
「まあまあ教官殿、ええやないか?」
「ん。どうせ中断してた。」
「そうですね。決闘騒ぎで中断よりは……」
「おいしいケーキを食べて仲直りなら、こっちの方が絶対いいよ!」
「レンもそう思うの。」
「リルはん、レンはんがそうお言いなら、それが一番ですなぁ。」
……そのまま、実質授業も終了。
後はクラスでケーキを分け合って、楽しく食べるのです。
用意のいいことに、余分のフォークまでちゃんとあって。
「エクスェイル教官……おかわいそうに。」
そう言うシャルノもちゃっかり交じって、顔にチョコつけてましたけど。
「そう言えば、ケンカの原因ってなんだっけ?」
「……痴情のもつれ?」
「ううん、あれはね、姉妹ゲンカだってあたいは思うな。あたいんちなんかあんなのしょっちゅうだよ。女だけでも五人もいるし、妹たちなんかちっちゃいことですぐケンカ。」
リルには四人も妹がいる、そう聞いています。
以前はとても楽しそう、と思っていましたが、でも仲のいい姉妹でもケンカは起きるのでしょう。
「でも、仲直りもすぐだよ。だって姉妹だもん。あたいなんかお姉さんだから妹相手にガマンしてばっかり。あたいも自分の好きなモノ、ガマンして……ねえ、さっきのクラリスとメルメルも、そうなんでしょ?」
姉妹?
5年も一緒に暮していたメルです。
しかも同じお方からともに魔術を習った間柄です。
だけど。
「……リルが言うことは単純で時に真実を突くのです。ですが、それには簡単に同意できないんです!」
そんなすぐに仲直り……したんでしょうか?
そもそもこの原因はメルが勝手にわたしの言葉を聞き違え、いえ、邪推して……。
でも、確かにそれ以前からわたしがメル……そしてその不肖の弟子……に怒っていたことは事実で。
「合点ですなあ。ご自分の気持ちなんて面倒くさいものも、素直なリルはんから見れば、それはもうわかりやすいんですやろ……。」
「そうです!一見わかりにくいと思っていたものも、実は簡単過ぎて、気付かなかっただけだったのです!」
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そして、今、叔父様の教官室にいるわたしたち。
ここでデニーが主張したのは、わたしたちの装備と戦術の特異性、そして叔父様の極めて行き届いた配慮……端的に言えば過保護ですけど……から見える推論です。
「ミスター!あなたのおつくりになった装備は、他の部隊では使用されず、主任の指導なさる戦術構想もこの学園独自のもの。これで訓練した私たちは、在学中にいくら実績を残そうと、卒業後一般部隊に配属されるや、却って役立たずになってしまうのです!軍の魔法学校として、おかしいと思いませんか!」
あのメガネは七色にきらめくプリズムの如く、ひたすらアヤシイんですけど。
「ええっと……デニスくん。じゃあキミはゴラオンなどの装備もあの性格悪い丸眼鏡の授業も不要だって言うんだね?」
そして、久しぶりに銀縁のメガネをかけて、お話しする叔父様です。
なんだか不自然なまでに落ち着いてます。
人嫌いで女性が苦手でも、ガリガリでメガネがギラギラのデニーはあまり女の子っぽくないし、叔父様のファンですから話しやすいんでしょうけど……。
「そうではありません。ミスター。私は尊敬するミスターが、そんな無意味なことをするとは到底思えないのです、更にはあの主任もそれに同調するかのように、ゴラオンや機甲馬を組み込んだ戦術構想を打ち出すには……必ず理由があるのです!」
……どうしましょう?
幼いころから叔父様の無意味で有害な実験とやらに散々つきあってきたわたしですけど。
ですが、絵本作家時代の叔父様を慕うデニーには、どう見えるんでしょうか?
そう言い切ったデニーに、やや押された叔父様ですけど、そこで言い出したのは……
「……僕はクラリスのために巨大ゴーレムをつくるって約束したんだ。ゴラオンはその実験機さ。」
って、わたしの話じゃないですか!?
だから、それは違うんです!
十歳のわたしが「魔法兵になる」って言ったのを、どう勘違いしたのか、胸に青い宝玉をつけたわたしが巨大化して邪竜を倒すっていう!
そしてそんなわたしを勝手に助けようって「僕がクロガネの城みたいなゴーレムをつくるよ!」って……トンデモない大誤解!
でもそんな誤解から叔父様がゴーレムの研究を始め、ゴラオンや機甲馬の開発をすることになったのは、ホントに世の中わからないんですけど。
「いいえ、それだけではないはずです。なぜなら、あなたは私たち生徒のこともご心配してくださっている、いえ、ミスター以外の主な教官方も、あの主任ですら今では!……そのあなたの心配を共有していると思うのです。ですからクラリスのことだけではないのです。」
そんなデニーは、少し落ちつくためか、メルの淹れたお茶を再び含んで……やっぱり渋い顔。
その間、言葉を続けたのは、それまで静かだったジェフィです。
「……心配言うんなら、ウチも以前からぎょうさん不安でした……卒業したら、ウチら、男だらけの実戦部隊に配属される思うて……そしたら着替えも寝床も、みぃんな男と一緒ですやろ?パン女の教官は当然そうや言うて、パン女の校舎はすべて男女共用仕様です。」
そのジェフィの話は、今まで思いもよらなかったのです!
パントネー魔法女子学園では、着替えなども男性教官の目の前で当たり前にしていたとか!
ガクエンサイ前にパン女に侵入調査を試みて失敗したわたしたちでは校舎のつくりには気づかなかったけど、それではセクハラ以前です!
「中には……イヤな目におうた学生もおりんしたんや……。」
わたしもデニーもそれには言葉もなく、そして叔父様は危険な目になって……
「ああ、教官はん。落ち着いてください。パン女の生徒は、少数ですが先輩が後方部隊に入隊して、そいでもいろんな悔しい目におうたのも知ってますし、軍隊いう男社会におなごが入るには、そういうことも覚悟せなあきまへん思うてます……。」
ちなみに名門であるエスターセル魔法学院を卒業した男子でも、魔法兵はすべて実戦部隊に配属されるそうです。
これが他兵科であれば、参謀とか後方とかに回ることもあるのですが、魔法兵は最も厚遇されても要塞勤務の通信兵らしく、出世の望みがないのは、わたしも先日叔父様から聞いたばかり。
「ですが、こんエス女では、そんなこと、まったくお考えになっておりまへん。教官はんしかり、主任はんしかり、軍にいた経験がおありなら、自分らが教えてる女生徒が一般部隊に配属されたらどうなるんかは、ご想像にたやすいはずです……なのにそういう対応は一切ありまへん。」
柔らかな、しかし淡々と告げるジェフィの声は、それでもいつの間にか強い説得力をもたらすのです。
聞いてるわたしも、思わず一般部隊に配属される苦労とやらを想像したり、逆に想像した叔父様がお苦しみになったり、そんな有様です。
「そうです。ミスターのように、これほど私たちを案じてくれる方にしては不自然なのです!一般部隊に配属されてしまえば支給されない装備、理解されない戦術。そして……起こりうるべき卒業後の問題への無関心。これから導き出される結論……それは、私たちは、卒業してもバラバラに配属されない。まして、一般部隊には配属されない、ということです!」
これがデニーとジェフィの結論です。
これは軍学校としてはアリエナイ結論。
ですが……わたしたち、エスターセル女子魔法学園の生徒たちは、他校と比較しても異常に魔力が高い。
おそらくは知識よりも技能よりも、そういう生徒を優先していたはずのです。
魔法文字どころか現代文字の読み書きすらあやふやだったリルが、しかも規定の受験年齢から逸脱していたにもかかわらずの合格。
それだって、何かの理由があったはず。
そう考えれば……。
「一見不可解に見えても、素直に考えればこれがもっとも合理的なんです。これが論理と推理でたどりついた、私の結論です。」
「そして……本当に大切なものは隠し切れないものだ。だから目に見えるものでも、実は判断できる……教官はんがそうおっしゃられたことです。」
デニーのメガネ越しでも感じる強い視線。
そしてジェフィのきれいな緑色の瞳が現れて。
そんな二人に負けじと、わたしも叔父様の反応を息をのんで待つだけなんです!




