第22章 その2 極秘指令……学園の秘密をさぐれ!
その2 極秘指令……学園の秘密をさぐれ!
「叔父様……夜も更けましたし、邪魔者も乱入してきたので、今夜はこれで帰ります。」
あの後、叔父様の部屋を辞去することにしたわたしですが、しかし去り際に最低限のことは伝えたつもりでした。
「叔父様が退官なされるまではまだ二か月以上ありますし、今度ゆっくりお話しの続きをいたしましょう。」
つまりは今度は落ち着いて話し合おうということなのです。
ところが、叔父様から離れたわたしに代わって、メルが叔父様しがみつく様子が見えます。
「ご主人様ぁ……メルはご主人様から離れては生きていけないのです!もうメルを置いてベッドから抜けださないでください!メルの耳も尻尾も身も心もすべてはご主人様の……」
思わずその下着から飛び出ている犬の尻尾を引っ張るわたしです!
「クラリス様ひどいのです!ご主人様、クラリス様がメルの大事な尻尾を……」
なんにも聞こえません!
「で、す、か、ら、お、じ、さ、ま!」
「……なにかな?」
悲鳴を上げて自分に抱きつくメルを撫でながら、わたしに困ったお顔を向ける叔父様です。
昔からわたしとメルが仲たがいする度にこんな顔して、でもどちらにも肩入れはしないのです。
なんでわたしの味方じゃないんでしょう?
「学徒出陣も、叔父様の退官も……突然すぎてまだ整理できません!納得いくまでは辞めさせませんから!今度勝手にいなくなったら、絶対追いかけますから!」
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…………ようやくそこまで話を終えて、ひと息つくわたしです。
食堂から持ってきたお茶を含みため息をつくのです。
ここはお昼休みの中庭の東屋、一緒にいるのは、もはや親友以上の義姉妹、リトとレンの二人です。
リトは叔父様の血縁上の姪ですし、レンはさっきわたしの代わりに泣いてくれました。
そんな二人には叔父様の退官のことを隠せないのです。
「叔父上……なんで?」
昨夜部屋に帰った時は、わたしが夜這いを決行したと怒っていた彼女です。
「……アントのバカ。」
そして消灯時間を過ぎたのにわたしたちの部屋にいた寮則違反者のレンでした。
昨夜はわたし自身混乱していて、いぶかるレンを追い出し怪しむリトの声に毛布をかぶって聞こえないふりしたわたしです。
ですが、今はもう大丈夫……わたしの代わりにレンが泣いてくれたおかげで少し落ち着いて話せるのです。
もちろん二人ともショックを受けて、あんな一言もらした後は重い沈黙が冬の東屋を包むのです。
「探しましたよ、クラリス。」
「なんで今日はリルたちと一緒じゃないの?」
そんな静かな東屋に訪れたのはデニーとリルです。
だいたいいつも食事は一緒だったのですが、さすがに今日は秘密が重くて。
「ほんとよ。最近あたしたちを避けてない?」
「そうですわ。年末から三人きりで……」
そして親友エミルとシャルノまで……その後ろに更にもう一人の影が?
「なにやら隠してはります?」
……なんでジェフィまで?
ジェフィの腰まで届く濃緑色の髪が微かに風に揺れています。
わたしの……まぁ天敵だったのは過去のことでもう水に流したつもりで、同じチームの戦友認定はしてますけど。
それでもあの糸のように細い目が何やら不穏な気配をもたらすのです。
「実はクラリスにご相談したいことがありまして。」
自称わたしの参謀役デニーです。
ほとんど男の子みたいにやせている、白に近い灰色の髪が特徴で、いえ、何よりも冬の陽光を怪しく跳ね返すメガネのオカゲで、相変わらず妙な違和感が漂うのです。
メガネを外した素顔は実はわたしも未見ですなんけど。
「相談ですか?」
「はい……実は主任の授業の後、ジェフィと話していて気になったことがありまして。」
ジェフィと?
クラスでは孤立しがちなジェフィですが、デニーとは気があうらしく、一緒にいることが多いのです。
無邪気なリルもジェフィに隔意なく話しかけて、チームアルバトロスはみんな仲良しですが、最近では敢えて分かれる時は、わたし、リト、レンと、デニー、リル、ジェフィとなりがち。
特に麒麟の一件以来、人に言えない秘密を共有し義姉妹みたいになったわたしたちは、つい3人でナイショに集まることがあって……そのおかげで班の仲間ともですけど、エミルとシャルノ、特に元々親友だったエミルには不義理が続いてしまったのです。
エミルは細かいことは気にしない明るい子なので怒ってはいないけど、気にしてはいたのが、さっきの発言でもわかるのです。
「クラリス……?」
「あ、デニー、ごめんなさい。続けてください。」
デニーとジェフィの疑問。
最初に気づいたのはジェフィのようでした。
「こん学園だけであんな装備やら戦術やらを練って訓練しはる意味がわかりまへんのです。卒業すればウチたちは他の部隊に配属です。」
「そうなんです。主任が異民であるフェルノウル教官殿から刺激を受けて、独自の戦術理論を考えたのは理解しました。それはおそらく戦場では効果的だと思うのですが……」
「えええ~?ただ敵を眠らせるだけだよ?やっつけないんだよ?」
一般にはリルの感想が正しいのでしょう。
敵を殺傷する攻撃術式ではなく、敵の行動を拘束する制圧術式という概念は、個人の戦闘ならまだしも王国軍の戦術としては異質なのです。
「ですから、敵の行動の自由を奪って、その間に突入部隊が……」
そんなリルにデニーが説明をし始めます。
もう何度も繰り返したからでしょうか、なかなか簡潔で要領を得ています。
しかもイヤな顔一つしてない親切なデニーなんです。
繰り返し説明することで、自分自身の考えが深まることを知ったのでしょう。
ですが、わたしやデニーのように考える人は、世間では少数派です。
まして現役の軍人が、学園の教官の理論を聞いてそれを採用するとは……思えない。
なるほど。
「つまりデニーとジェフィは、この主任の戦術理論もそのための訓練も、この学園内でのみ有効であって、卒業すれば一般部隊に配属するわたしたちには大きな意味はない。そう言いたいんですね。」
戦闘用有人式ゴーレム、通称ゴラオン。
その量産型で簡易ゴーレムである機甲馬。
そして、それらとわたしたち魔法兵を運ぶ戦闘用装甲馬車、いわゆる機甲馬車。
この学園の制式兵装があってこそのわたしたちです。
そしてこの兵装は開発者である叔父様の強い意向で王国や軍にすらその製造技術を秘匿したまま。
「そのとおりです!それなのに、なぜ主任はあんな訓練を私たちに行うのでしょうか?」
……それはわたしたちの出陣が近いことに関係しているのでしょう。
でもそれだけでは確かにアリエナイ。
他の部隊と共有しえない独自の訓練なんかされたって、確かにいざ卒業してしまえば無意味になってしまうのではないでしょうか?
「エスターセル女子魔法学園独自の制式装備は……エミル、シャルノ。あなたがたのお家が叔父様と共同開発したのでしょう?何か知っていないのですか?」
王国屈指のアドテクノ商会と王国軍や政府にも影響力をもつテラシルシーフェレッソ伯爵が結託、いえいえ協力して開発したからには、その令嬢たちも……。
「それ、今さっきコイツに聞かれたばかりやがな。」
で、実家が絡むとその妙ななまりで話し始めて、気品ある美貌をいっそう台無しにするエミルです。
あの見事な金髪碧眼の、ホントになんてムダ使い。
「そうなのですわ。それで……クラリスならば何か、と思いまして。」
一方こちらはプラチナブロンドの髪をたなびかせる玲瓏な美少女ぶり。
どこから見てもスキがありません。
「言われたら気になるちゅうねん。なんやデニーも迫ってきよるし。」
「それで……このジェフィに誘われて、あなたが何か存じていないのか一緒にお聞きしたいと思いまして。」
「…………ジェフィが?」
それはアヤしいのです。
そもそもジェフィは、ガクエンサイをきっかけにエミルとシャルノを巻き込んで「展嫁三分の計」なんて策謀を企み、叔父様と……け、け、結婚しようとしていたのです!
しかもそれは、叔父様の持ってるはずの利権目当て!
政略結婚だったんです!
「ああ……そんなこわい目でにらまんでください。もうあの計画はおじゃんです。だいたいあんお人はええお人ですけど、ウチの趣味ではありまへん。家から追い出されたウチには、もう家格にも富貴にも興味はありまへんし……。」
叔父様に一瞬でふられた癖に、なに趣味じゃないなんて失礼なことを言うんでしょう、このメギツネは!
なのに!
「まあ、そうですわね。よ~ぉくわかりますわ。」
「……シャルノ。何を言いたいんです!わたしが、あなたみたいな残念イケメン趣味じゃないからって!」
「誰が残念イケメンですの!?エクスェイル教官は立派なお方ではありませんか!」
「あ~~……確かにあの教官殿は残念系ですね。」
「うんうん。メルメル教官殿に頭上がんないし」
そうです。
この場はフェルノウル派の巣窟!
クラスでは最大派閥のエクスェイル派であっても、この場だけは少数派なのです!
「そうかな?顔がいいのは捨てきれないよ?」
なのにエミル!
この子は意外に惚れっぽいというか気が多いというか……家の事情とはいえ叔父様との結婚すらイヤとは言わなかったし、不確定な危険要素です!
「ん、エミル、尻軽。」
「そうよ。それにアントだって良く見れば……悪くない顔だってレンは思うの。」
そして、まぁ、わたしの義姉妹二人は叔父様一筋……これはこれでわたしとしては微妙ですけど、ですがリトは肉親として慕ってるという気がしますし、レンは少年時代の叔父様アントがメイン。
今の叔父様には……子どもがなついてるって感じです、多分?
「あのう……それで……クラリス。何かご存じありませんか?」
なんだか申し訳なさそうに本題に戻すデニーです。
それで我に返って見れば、わたしが知っているのは、叔父様が3月に退官なされること。
そしてわたしたちの卒業と出陣が一年早まるということ。
おそらく来年の四月には……わたしたちはバラバラになって、それぞれの部隊に配属され、戦場に行くのです。
ですが、それをここで話すのはためらいがありますし、叔父様にはまだまだ秘密がおありだと思います。
昨夜のメルの乱入が悔やまれるのですが……わたしだって混乱して感情的になって、ちゃんと話できなかったって自覚はあるのです。
「知っていることがない、とは言いません。ですが、この一件にどこまで関係があるかは不明ですし……それに、デニー。わたしに聞いて、この謎を解明できるなんて、そんな安易なことを考えていませんよね?」
わたしだって叔父様とまだ話足りないのです。
聞いてしまった秘密の衝撃を昇華で来てもいない。
そんな簡単にみんなに話せない……年末以来の共犯者ならともかく。
(クラリス、教えてあげないのはイジワルだって思うの。)
(レン?ですが……ここで学徒出陣なんて伝えては影響が強すぎます。)
優れた感応力を持つレンは、至近距離ならわたしともこうして直接思念を送って会話できるようになっています。
(ん。同意。)
そして、いつの間にかリトも含む三人での念話なんて……やはりレンも力が強まっていたのです。
「そうか!そうですよね!フフフフフ、わかりましたよ、クラリス!……このデニス・スクルディルが必ずこの謎を解き明かしてみせるわ!」
そしてうまいことひっかかってわたしへの追求をやめてくれたデニーです。
再び不自然に光るメガネの奥ではどんな目をしてるやら。
「デニーはん……こないに簡単にごまかされたんでは、参謀失格です。」
しかし、そうです。素直なデニーとは違ってやっぱり騙されてはない、性格の悪さでは天下一品のジェフィです。
「ですけど…‥‥言い出しっぺはウチですし、お手伝いくらいはさせてもらいます。」
なのに……ええ?
ジェフィの方からデニーに協力を申し出る……いえいえ、これもきっと策略にきまってるのです!
おそらくは……
「自分、秘密を探り出して、またもうけ話でもたくらんどるんやろ!?」
「そうですわ、しかも危険になったらデニーに責任を押し付けてご自分はお逃げになるおつもりでしょう!」
そうです!
……以前のジェフィなら間違いなくそのとおり。
だけど……今は?
リルと一緒の時の、レンに話しかける時の、そんなジェフィは違う表情に見えるんです。
ましてデニーには……。
あの頭がよさそうでどこかお人よしのデニーは、実は参謀としては適性が乏しいのです。
地形や敵情を読むという点では非常に優秀なのですが、反面、基本的に素直なためか「人脈をつくる」「人の裏を読む」と言った、世間知という部分では年齢相応、いえ、それ以下……わたしも人のことは言えませんけど。
そしてデニーは、ミステリー好きなせいか、いざ疑い始めれば謎を追究し裏を読み始めるのですけれど、実生活の中では今回のように誰かに指摘されなければ疑うこともあまり知らない。
要は、基本的には受動的、と言えるのかもしれません。
事件があってから動き始める探偵とは違って、常在戦場であるべき軍人、特に作戦参謀としてはそれは良いことではないのです。
特に、戦場では戦機をつかみ窮地を脱するのは、ある種主導権を握るための主体性が不可欠だとわたしは思うのです。
「主導権を握れ」というのが、わたしが得た数少ない戦訓。
「いいでしょう。戦隊長としてジェフィとデニーに極秘命令です。この学園の秘密の解明を命じます!」
「え?ウソやろ?こないな腹黒女にそんな名分与えたらあかんやろ?」
「あなた、ジェフィとはあんなに不仲ですのに?何かあったらあなたの責任にされますわよ?」
エミルとシャルノの二人がそう言うのは、実に正しいのですけど……でも一緒に戦ったアルバトロスのメンバーは、リルはもちろんリトやレンですら文句を言わないのです。
「それはこの際関係ありません。それに正規の命令ですから、わたしにちゃんと報告してもらいますし…‥」
「はいな。班長はんには、いちはなたつにご報告させていただきます。」
そして、この時ばかりは殊勝に一礼するジェフィです。
それはわずか1センチくらいですけど、元次期男爵家当主としては市民のわたしに向って形式でも頭をさげるのはアリエナイのです。
そして顔を上げた時には、意外にきれいな緑色の瞳が見開かれて、わたしを見つめていたのです。
「ジェフィ、あなたにはお人よしで暴走しがちなデニーの補佐をしっかりお願いします。」
「クラリス閣下ぁ~私ってそんなに頼りないんですかぁ?」
そんなデニーは無視して、そのジェフィの瞳から目をそらさないのです。
だからきっとわたしの本気も伝わっているなのです!
「あなたの性格の悪さに期待してるんですから。」
「……それは言わんといてくださいな。」
なのに、なんだかジェフィがげんなりしてるんです
「ん。同意。」
「なんだかいい場面が台無しだってレンも思うの。」
そしてリトもレンもなんだか不満そうに首を振っています。
「ええ?ジェフィって性格悪いの?」
隠れた最年長者でけっこう苦労人のくせにリルは、やっぱり無邪気です。
その揺れるム……は無邪気さとは程遠いのですが。
「……まあええわ。うちは知らんで。」
で、現金エミルはこんな薄情な言葉。
もっともこの子の薄情さなんて皮一枚ですけど。
「なるほどですわ。デニーをクラスの参謀に育てるためには、我が子を千尋の谷に突き落とすのにも全力を尽くす獅子の覚悟が必要、ということですわね。」
そしてシャルノ。
ライオンって、そんな過酷な生物でしたっけ?
それから数日。
デニーとジェフィは暇あるごとに秘密調査のために学園の内外を動きまわっています。
その間、叔父様は以前の「魔伝信」で送った予定通りに、クラスのみんなに地下迷宮演習の結果とその報酬、そして一人一人に評価と助言をしていったのです。
毎日、毎日……あの人嫌いで面倒くさがりが、感心なくらいです。
まだ半数くらいしか終えてはいないのですが、その丁寧で詳細なアドバイスは、受け取った生徒たちが驚いたり感動したりするほどでした。
わたしたちの仲間では、先日エミルが面接を終えていました。
「約束通りギョーサン銭もらえたし、うちの直観力、めっちゃ褒めてもらえたで。」
お金をもらったエミルの感想ですから、著しく信用性に欠けますけど。
それでも「秋以来の座学の取り組みや地道な自習もしっかり詠唱技術に表れているよ」なんて、エミルの努力を見逃さずに……。
「ああ、なんて誠実なお方……。」
なんてエリザさん(ことレリューシア王女殿下)がいつものように浸ってしまうのも仕方のないことでしょう。
そして今日の放課後はシャルノの面接の日ですけど……。
「クラリス。あなたのチームメイトを連行をいたしましたわ。」
優雅にふるまってはいますが、その奥にある「もうあきれ果てましたわ」というため息は隠せません。
そしてシャルノに首根っこをつかまれているのはデニーです。
まるでつまみ食いを見つけられて捕まえられたネコみたいですけど。
「この方、わたしの面接中に学園の地下研究室に忍び込もうとして、捕獲されたんですのよ!」
「「「「あ~あ……。」」」」
下校時間まで東屋で待っていたわたしたちは一斉にため息です。
調査に行き詰ったデニーが短絡的に暴走して、という予想される事態。
「それで、拘束されて。わたくしの面接が終わるや、フェルノウル教官殿がこの方を持っていってくれ、と。おとがめらしいおとがめをなさらないのはあのお方らしいのですけれど。」
まったく叔父様は甘いのです。
あれでも学園の警備主任らしいのがとっても心配です。
「……で、ジェフィは?」
「さあ?……この子を囮に逃げたのではないですか?」
「「「「はあ~……。」」」」
デニーがつかまってる間に逃げ出した、という、これまた予想される事態です。
「違いますよ!ジェフィは私を止めたんです!だけど……」
止めるジェフィを振り切って?
それはどこまで追いつめられたのやら……あの極意指令はやりすぎだってでしょうか?
ここまでデニーを追い詰めるとは、反省です。
更に謝るデニーに、もう指令の解除を言い渡そうか、そう考え始めていた時です。
「ほんに申し訳ございまへん。」
いつの間にやら、やって来たのは、当事者二号のジェフィです。
ですが……いつになく謙虚に頭をさげる姿。
今日は3センチくらいさがってます。
「あなた……今までどこにいたんです?」
「はい……フェルノウル教官はんの元に。」
叔父様の元にって、まさか……
「ねえねえ、それって色仕掛けぇ?」
ドキリ。
警戒心がユルイうえに女の子は苦手でもケッシテ嫌いではない叔父様です!
それを狙っての「はにぃとらっぷ」?
はたまた、秘密の解明にかこつけて、再び結婚を迫るとか!?
リルの問題発言に、次々妄想を刺戟され、思わずジェフィを見る目が険しくなったわたしです!
「ほほほ……リルはんもそんなてんごう言わはる?」
わたしには全然冗談には聞こえないんですけど!
「ウチはですなぁ。デニーはんが、いえ、教官はんにはクラリス班長はんたちがなんや学園のことアヤシイ思うてお調べになってる言うて……」
「仲間を裏切ったんですか!」
さすがは腹黒陰険謀略女です!
呼吸するように策謀を巡らし……
「違うとります。内部告発のフリして、教官はんに取り入って秘密に迫ろう思いましてなぁ……あくまで戦隊長の命令に従ったまでのことです。」
それって二重スパイでは?
さすがは鉄面皮のメギツネなのです。
そういうところもデニーには明らかに欠けていますが、でもそっちの方向には進んでほしくない!
「ですけど……教官はん、なにやらお考えになられてしもうて……今度ばかりは手助けできないから、知りたいことがあるのならキミたち自身で何とかしなさい、と。」
……叔父様は、おそらくご自分が去られた後のことを案じているのでしょう。
だから忙しいはずなのに時間を割いてわたしたちと面接しているのも、みんなの成長を促しているからなのです。
そう考えると、これもジェフィを通しての、わたしたちへの伝言なのかもしれないのです。
「そいで……教官はん、こんなこと言うてはりました。デニーはん宛てにですけど……本当に大切なものは隠し切れないものだ。だから目に見えるものからだけでも、実は判断できる……かもしれないよ、そう言うてはりました。」
どて。
かもしれないってなんですか!?
思わず力が抜けるわたしたちなんです。
ですが言葉は更に続きがあって……。
「特に魔術師たるものならば、論理と推測の力はバカにできないはずだ……あんゆるいお人が、そん時ばかりは妙に……真面目言うか深刻言うか……あないお顔もされるんですなぁ。」
……叔父様だって真面目な時くらいはあるんです!
そう怒りたかったわたしですが、
「そうでした!尊敬するミスターのお言葉通りです!わたしは道を誤るところでした!」
懲りずに暴走する、この感激屋のメガネが先に叫びだして!
ある意味叔父様を純粋に尊敬しているのは、わたしよりもデニーかもしれないのです。
「推理に不可能はないのです!スパイめいたことばかりしていた私が愚かでした!やはり探偵たるもの、最後は推理こそを頼りにするべきなのです!それは単純な事実の積み重ねすら時に上回って、真実を開く扉のカギになるのです!」
「「「「あ~あ……。」」」」
そんなデニーの再暴走を見て、半ばあきらめの交じったため息が一斉にもれるのです……。
「まぁ、デニーはんがそう言わはるんなら、ウチはこん後も推理のお手伝いさせてもらいます……ええですね、班長はん。」
おまけに、なんだかジェフィまで正攻法でやる気です。
これはこれで期待通りなはずなのに、なぜか意外な展開に思えてしまうわたしです。