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第21章 その7 演習の終了と収集について

その7 演習の終了と収集について


 ここは下層の奥の大広間です。


大きな石の扉を開けて、そこに勇んで侵入したわたしたち!


広間の中央にいる敵は巨大な三頭犬ケルベロスと、そしてそれを守る多数の護衛獣です!


ご存じの通り、ケルベロスは大きな黒犬で頭が三つあるので三頭犬とも言われていますが、50の首をもつとか、まれに獅子の事もあるそうで、更には多くの竜種と兄弟にありその場合はイヌ種ではなく竜種、危険度は数段跳ねあがるのです。


目の前のケルベロスは、幸いにして普通(?)の三頭犬ですけど。


護衛獣は大きな魔犬の群れと、一匹ヘルハウンドが交じってます。


やっぱりこの階層は犬ばかり。


おそらく今日最後の戦闘です!


全力を尽くすのみ……なのに。


「俺様はこの試験が終わったら、倒したバケモンどもの賞金で大食いしてやるぜ!」


 なんてジーナが言い始めて……なんだかイヤな展開です。


「わたいは、魔法街のシレグの店のアイテムを買おうかな。ずっと狙ってたんだ。」


「ボクは実家に帰って、正式に魔法騎士になる許可をもらうことにするよ。」 


 これってあれですか?


「この戦いが終わったら」って言う……


「オレも冒険者になったけじめに、学園にあいさつに行くよ。」

 

まさかローディアまで!


いけません!


これは「死亡ふらぐ」じゃないですか!


しかも全員……まさかの「全滅ふらぐ」ですか?


そんなイヤ~な予感にかられたわたしです。


そしたら……案の定です!


 味方の動きがチグハグすぎて!


「ジャマすんな、この野蛮人!オレの前に出るんじゃねえ!」


「それは俺様のセリフだ、この耳とんがり!」


 ジーナはさっきの戦いではローディアを助けに入ったのに、ローディアは逆に自分が弱いとなめられたって感じたらしく……。


で、後は意地の張り合い、顔を突き合わせてにらみ合う二人です!


短気とか男勝りとか、ありきたりな言葉では表現不能。


 ジーナもローディアも、ホントに口が悪いです。


 そして態度もガサツでそこはどっちもどっち。


 でも女蛮スケバン族に森の妖精族……こんなに相性が悪いのは種族的なものなのでしょうか?


 いえ、そもそも妖精族の血脈が現存していたことが驚きなのに……。


「ええっと、二人とも、ケンカは止めようよ。ボクとしては敵の目の前で争う愚は侵すべきではないと思うんだけど。」


 で、例によって仲裁にはいるヒルデアです。


 盾を構えて二人の死角を守るのもいいんですけど……。


「回りくどいね、ヒルデア。あんたの言い方じゃ、こいつらには伝わらないよ。」


 そう言うアルユンは、いち早く説得を諦めたようです。


 互いの足の引っ張り合う前衛二人に見切りをつけて、「石僕ストーンサーバント」の召喚に入ります。


「バカにつける薬はないんだよ、組長。」


「そいつは俺様の獲物だったろ!」


「オレのだ、横取りする気かよ!」


「う~ん……どうしようか、クラリス?」


 頭痛い……。


 二度も決闘して、ジーナもローディアも一応わたしの指示を聞いてくれるようにはなりましたが、お互いのチームワークは絶望的です。


 やっぱり全滅なんでしょうか?


 救難信号がわりの護符をぎゅうって握りしめるわたしなんです。


 でも、せっかくここまで来たのに、みんな、あのローディアですらあれでも最初よりは随分マシになったはずで、それなのにここで終ったら、みんなと頑張ったこともムダになってしまいそうで。


 でも、もう一あがきくらいはできるはず!


 もうイチかバチか、です!


「ジーナ、ローディア、あなた方にケルベロスを任せます。雑魚はこちらで引き受けるから二人でボスを倒してください!」


「ええ?あの二人に?いいのかい、組長!?」


「闘争本能の向きを変えるんだろ?意外にいいんじゃない?」


 そうです。

 

 特にジーナは大雑把、いえいえ、些事にこだわらない器の大きさがありますし、闘う敵、特に強敵に向えば集中できるでしょう。


 そうなればローディアだって、敵の奪い合いなんかしてる場合じゃないでしょうし……でも不安は残るんです。


「だからわたしたちは充分に魔術で支援します!」


 まずは、わたしの「回避ミラージュ」にヒルデアの「防御プロテクション」と「魔力付与エンチャントウエポン」、アルユンの「沼生成クリエイトマルシュ」など、矢継ぎ早に投射です!


 白銀の魔法円がわたしたち三人の前に浮かんでは消え、ジーナとローディアを守護し、少し遅れてケルベロスの足元をドロドロした沼地に変え動きを鈍らせるのです!


「ククク……どうだ、沼にはまれ!はまってのたうつがいい、この犬っころ!」


 こんなに地味な術式をなんて楽しそうに……さすがはアルユンです。


 やっぱり偏屈です。


 そしてヒルデアの支援で、不可視の装甲と白銀に輝く武器を持った二人です。


 ジーナは両手剣ツーハンドソード、ローディア左右の「とんふぁあ」を構え、攻撃力過多、防御力過小ですが、支援術式で多少は補えるハズ。


 それに……ええっと、イヌ属系モンスターは、ネコ属系と比べれば関節の可動域が狭いので、足を使ったパンチやひっかきなどはほとんどしない、する場合でも予備動作が大きくなるから充分避けられる……だったかしら?


 以前、叔父様からお聞きした話です。


 あのケモノムスメ好きの変態ですけど、その派生知識には有用なモノもあるのです。


「だから基本は口に注意!かみつきと火炎吐息ファイアブレスだけ!わかってますね!」


「わあってるよ、組長!」


「しつけえぜ!」


 今、ケルベロスのかみつき攻撃をジーナが両手剣で受けました!


 その間にローディアが懐に飛び込み、お腹を下から殴り放題!


 意外にいい連携ですけど、でも……


「おい、そこはヤバイ。早く逃げろ!」


 ジーナの言う通りです。


 そこは沼地。


 自分からそこに入っては動きが……。


「へん、オレを誰だと思ってやがる!」

 

 はあ?


 なんです、その芝居がかった口上は?


「……なるほど、です。『水上歩行』みたいに精霊がローディアの足元にいて、沈ませない。」


 さすがは妖精族の血をひくせいか、精霊が自然に手助けしてる。


「あんたも精霊が見えるのかい?」


 そう言うアルユンは幻術の才能があるせいか、精霊がわりと普通に使えるみたいです。


 ですが……そう言えばそうです。


 今までわたしが精霊をはっきり見ることができたのはウィザーズハイになった時だけ……。


「ええい!……うわあ!」


 ヒルデアが一人で敵の攻撃を引き受け、苦戦しています。


 今も盾で護衛獣の攻撃を受けながし、長剣ロングソードで別な一匹ざっくし突き刺して、でもそれで左右が封じられてピンチです!

 

 考えてる場合じゃありませんでした!


 わたし、最近、緊張感なさ過ぎ、戦闘に慣れ過ぎなんです!


 乙女には偏りすぎた戦闘経験呪うべし!


 ですが!


「ゴメンなさい……『魔力矢マジックアロー』!」


 ヒルデアに襲い掛かろうとした魔犬を打ち抜きます!


 そのまま連射して数匹を葬るのです!


「なんて威力の魔力矢だい……『軽量化デクリーズウエイト』!」


 そんなアルユンは、何気に高度な重力系魔術を駆使。


 なんて優秀なんでしょう!


 これで装備が軽くなり、ヒルデアの動きが各段に向上します。


 「筋力増強マッスル」「敏捷力向上アギリティ」がわりにはなったみたいです。


「ありがとう、二人とも。」


「わたしも前に出ます!」


 ヒルデアと石僕ストーンサーバントだけに前衛を任せるには、数が多過ぎでした。


 わたしも小剣ショートソードを抜くのです。


 まぁ、戦闘経験豊富ですし。


「さすが武闘派組長。後衛はわたいに任せな、」


 なのに、なんですか、その異様な呼び方は!


 ゼッタイそれは止めて!


 ちなみに「かめら」は最初から入り口付近に置いて三脚で固定のままです。


 叔父様の理不尽な要求やら「きゃすてぃんぐ」やらに応えるにも限度があるんです。


 今は「ぼす戦」、それどころじゃないんです!


 


 激しい戦いの末、ジーナの巨大な両手剣がついにケルベロスの三本目の首を跳ね飛ばしました。


 沼に崩れるケルベロス!


 これで敵は全滅!


 勝利です!!


「やったじゃねえか、ジーナ!見直したぜ!」


「おめえのおかげだ、ローディア!」


 激戦を終えると、二人ががっしりと握手です。


 ホント、単純でうらやましいくらいです。


 見習いたいとはカケラも思いませんけど。


「そうかい?あんたが率先して仲間を認めてたから、こうなったとわたいは思うけど?」


「ボクもそう思うよ。」


 そ、そうですか?


 なんだかすごく恥ずかしいんですけど。


「武闘派組長、いや、たいしたもんだよ!」


「……ちっ、だが、ま、オレも少しは認めてやるよ。」


 ジーナたちが見てるのは、わたしの足元の死屍累々です。


 いえ、ヒルデアの近くにだってけっこうありますよ?


「だって、あんた、魔力回復薬も飲まずにどんだけ術式を使ってるんだい?」


「しかも小剣での戦いも見事だったよ。剣術を習って一年未満なんて思えないね。」


 そういうアルユンもポーション補充は一回くらいしかしてないで、攻防の術式を唱えっぱなし。


 剣と交互に使うわたしよりすごいんじゃ?


 ヒルデアだって全身に魔力付与して、剣と魔術、攻撃に防御と大車輪の活躍で、さすがは騎士なんです!

 

 力押しに思えたジーナの攻撃も、間近で見ればその威力も迫力もまるで段違い。


 妖精族の血を引き自由に精霊を使役できて、しかも叔父様の武器「りぼるばあ」「とんふぁあ」を使うローディアにも劣らない、いえ、それ以上……なんだか、みんな強過ぎです。

 

 そんな勝利に浸っていたわたしたち。


「……あれ?」


 突然です。


 なんだか足元がスカ?……さっきもこんなことがあったような?


「どわああ?」


「うわああ!」


「どうしたんだいって、わああ!」


 地面に大きな穴が足元が開き、わたしたち5人とも落ちていくのです!


 でも誰一人「きゃあ~」がいません。


 やっぱり女子力不足のパーティーです。


 ここは女子力担当(自称)のわたしが……。


 そう思って息を吸いこんだ時です。


「クラリス、あんた、まさか、またかい!?」


 アルユンが落下の最中なのにわたしをジトって見て!


「……ゲホゲホ!違います!濡れ衣です!」


 今度はわたしじゃありません!


 そう主張してもその視線は変わらず、ぐっすん、です。


 しかもゲホゲホって、わたし、全然かわいくない。


「まあまあ、まずは対処しようじゃないか……『防御』!」


 そして、こんな時でもしっかり現実的に対処してくれるヒルデアです。


 これで落下ダメージも最小限でしょう。


「まあ、そうなんだけどね……『落下制御』!」


 で、意外に物分かりがいいのがアルユンです。


「また?さっきも引っかかったのかよ、素人どもめ……風の精霊よ!」


 自分だって冒険者なり立てのくせに、上から目線のローディアはあっさり風の精霊を使役します。


 おかげで、びゅうううって落下の勢いが減殺し、ふんわりくらいです。


 落下制御と風の精霊の働きの相乗効果で落下が静止しそうです。


「これなら……『風の精霊制御シルフコントロール』!」


 ローディアの使役する風の精霊シルフとわたしが召喚し制御し始めた風の精霊がしっかり「たっぐ」を組んで、「oh!モーレツ」な勢いで回転、それでわたしたちはゆっくりと浮かび上がっていくのです。


「こいつぁ便利だぜ。『浮揚レビテーションみたいだな。』」


 何もしてないジーナはそんな気楽なことを言いますが、下級魔術師と精霊使いの三人がかりとは言え、中級術式の「浮揚」には及ばないのです。


 いえ、三人がかりでも浮かんでるのが奇跡みたいなものなんです!


 それでも、ゆったりとわたしたちは落とし穴から脱し、地面に戻るのです。


「……悪かったね。ボクの術式は浮かぶ役には立たなくて……うわっ!」


 ヒルデアの声にまぎれて聞こえたのはヒュウ~って微かな風を切る音です!


 カンカンカンカンカァン!


 地上についた瞬間、どこからか数本のダガーが飛んできて、それがヒルデアの「防御」に弾かれます!


 よく見れば剣先がなんかヌメって……毒?


 危ない危ない。


 ふう、です。


「思いっきり役に立ってますよ、ヒルデア、ありがとう。」


 そう言いながら、周りを見回し、身構えるわたしです。


「……で、あなた方はなんです!?」


 落とし穴から浮かび上がったわたしたちを取り囲んでいるのは、6人の男たちです!


 護符の警戒に反応しなかったのは、人族には反応しないのか、この人たちが「探知」「検知」を妨害する能力を持つのか、どちらかでしょう。

 

 金属ヨロイを着た戦士風が二人、ローブをまとった魔術師が二人、軽装で弓矢を構えた男が一人に……。


「あ、てめえ、ルーラさんの知り合いの偵察役スカウトかねえか!」


 同じく軽装の男がスカウトさん?


 一般的な冒険者の偵察・罠解除担当は確かにスカウトですけど。


「そのツラは、盗賊シーフじゃね?」


 そんな失礼なこと!


 人を外見で判断してはいけません……と言いたいのを飲み込んだわたしです。


 だって、この「しちゅ」、どう見たってわたしたち「はめられた」んですよね?


「そうだね、でも、他のヤツラも似たり寄ったりのツラのデキだし……ローディア、こいつらホントに冒険者なのかい?」


 で、その後のやり取りを要約すると、この人たちは新人冒険者から情報を聞き出したり、その後を尾行したりして、財宝を横取りする違法冒険者の一種みたいです。


「ハイエナ野郎!ルーラさんをだましてついてきやがったな!」


 なんだそうです!


「そして、ルーラたちが帰った後は……」


 ローディアと合流した、いかにも素人のわたしたちを尾行して。


 盗賊さんは検知妨害アイテムをお持ちだそうです。


「で、大物をやっつけた後に、この部屋にあった罠を作動させて、わたいらをはめた、と?」


「で、お宝を横取り……なるほど。きたねえじゃねえか。」


「……オレも人を見る目がねえな。」


「さすが世間は広いね。こんなこと授業じゃ教わらなかったよ、勉強になるなぁ。」


 と、まあ、わたしたちはようやく現状を理解したのですけど。


「あの、冒険者のみなさん。ここはわたしたちエスターセル女子魔法学園の管理する地下迷宮です。まだ整備中ですから、ここに迷いこむことはあるかもしれませんが、これ以上の違法な探索は……」


 で、無駄な戦闘をさけるべく説得を始めたわたしですけど。


「組長、何言ってるんだよぉ?」


「今更だね。あんた甘すぎ。」


「そうだね。こんな非道なヤツら、見逃せないよ!」


「このアマ、バカ?オレたち、殺されかけたんだぜ?」


 味方が全員戦闘もおどです。


 いえ、冒険者さんたちの方がよっぽどやる気まんまん……しかもなんだか血走ったイヤらしい目でわたしたちを……背筋にイヤ~なものが走るんです!


 これはダメです!


「……わかりました。では、おしおきです、みなさん、やっておしまいなさい!」




 キ~ン、コ~ン、カラ~ン……キ~ン、コ~ン、カラ~ン…………その後。


 終業をつげる学園のチャイムが鳴り響く中。


「……で、違法冒険者どもをぶちのめした、と。」


 なんだか、とっても冷たい視線にさらされるわたしたちです。


 ここは学園の主任教官室。


 召喚されたわたしたちが案内されたのは、イスオルン主任の前ではありませんか!?


 どういうことですか?


 あの人の悪い顔ナンバーワンの、更にそれを増幅する丸眼鏡のなんて恐ろしいことでしょう。


「はい、いいえ、主任!」


 否定したくても軍学校の生徒ですから、返事は常に「はい」からです。


「ですが、それは、つまり正当防衛で、仕方ないんです!」


「征討だろ。」


 うるさいです、この女蛮族!


 余計なこと言わないで!


「そうです、主任!これは正義の戦いの結果なんです。悪を成敗しただけなんです!」


 そこの騎士気どりも黙ってて!


「そう言えば主任、ローディア……あたいらの連れはどうなったんだい?」


「……彼女はあの男と一緒に、違法冒険者連行のためギルドに向った。」


 ええっ!?


 叔父様がわたしをさしおいて、この、わ、た、し!をさしおいて、あのオトコオンナを優先したんですか!


 そんなことアリエナイ!ゼッタイ許せません!


「おい、組長?落ち着けよ。」


 思わず拳をふるわせたわたしをジーナがなだめます。


 主任の人の悪さ感倍増アイテム丸眼鏡が冷たく光ってます。


 いけません、今は、ガマンです。


「……そもそもわたしの許可を得ず無断で魔術原理の授業を延長して、わたしの実習を潰し、更には勝手に地下迷宮での演習を行った……わたしが最初に行うはずの地下迷宮演習を!あの男め!」


 これは相当にお怒りなんです。


 しかも叔父様に向かうべき怒りの矛先がこっちに向いてます!


 これってズバリ八つ当たり……。


「ですが、主任!叔父様……フェルノウル教官殿は正式に大公殿下の御許可を戴いて、迷宮を使用しているのです。しかもセレーシェル超師のご協力も……」


「ああ、バカ。そんな正論、逆効果だってば。」


「そうだよ。どんなに理不尽でも上には従うのが騎士の美徳だよ。」


「知~らねっと。」


 アルユンのもっともな静止もヒルデアの建前の説諭もジーナの投げやりな諦観も、全ては手遅れ。


「……クラリス・フェルノウル、野外演習場50周を命じる!……復唱せんか!」


「はい!クラリス・フェルノウル、野外演習場50周に行ってまいります!」



 

 冬の日没は早く、その夕日は赤いのです。


 赤味を帯びた灰色の空を、カラスが三羽飛んでいくのです……。


 演習場の乾いた地面に横たわり、それを見上げるわたしです。


「あんたも大概タフだね。」


 そんなアルユンは、こっそりわたしに「軽量化デグリーズウエイト」をかけて支援してくれました。


 意外です!


 感謝です!


「まったくだぜ。迷宮あがりのなのに、全然手抜きしやがらねし。クソ真面目だな。」


 褒めてるのかけなしてるのかわかりにくいジーナですが、彼女も「筋力増強マッスル」「持久力向上タ・フマン」を使ってくれて、おかげで完走できました!


「本当だね。さすがは戦隊長!そして持久走ナンバーワン!」


 わたしに戦隊長やら組長を押し付けた張本人、ヒルデアです。


 なぜか一緒に走ってくれて、おかげでわたしも頑張れたのです。


 気付けば彼女は途中でやめてましましたけど、とってもうれしかったんです。


「……みんなのおかげで、下校時間前に終わることができました。ありがとう!」


 今日一日の急造パーティーでしたが、冒険を共にした仲間の絆は思いっきり強いんです!


 立ちあがったわたしは、三人に抱きつきます!


 真っ赤になって逃げるアルユン。


 もともと地肌が赤いのに、その上実は照れ屋さんなんでしょう。


 これではトマト人間です。


 普段の不愛想がもったいないくらいかわいいんです。

 

 長身で筋肉がっしりのジーナは、でも抱きつくとちゃんと抱き返してくれて、それが意外にあちこち女性らしくて柔らかい!


 これは思わず嫉妬です!


 そしてヒルデアは中性的な凛々しさがあって少年みたいなんです。


 抱きつくのはちょっとイケナイ気分です。


 向こうは平気っぽいんですけど。


 すると、校舎の方から声がします。


 みんな、待っててくれたみたいです。


「ああ!なんだ、クラリス、元気元気!リルも仲間に入れて!」


「ん。やはり無限体力。」


「レンもそう思うの。心配すること、なかったって思うの。」


「何言ってんのよ。意外に元気でも主任の懲罰の後なんだから、めっちゃ落ち込んでるって。」


「そうですわよ。主任のお怒りを一身に背負ってご苦労なさったのですから。」


「わが身を人柱として、クラス全員への懲罰を防ぐとは、さすがはクラリスです。」


 ……なんだか誤解されたみたいです。


 ただの自爆なのに、すごい評価になってます。


「あ、評価と言えば!?」


 そうです。


 もともとはわたしたちの休み明けの実力試験的な流れで今日の演習になったはず!


 当の試験監督は!?


 そしてわたしたちの評価はどうなるんでしょう!?


「……ん。これ。」


 リトが示したのは生徒用指輪。


 そして……わたしの指輪にも「魔伝信マジックメール」の着信があったのです。


 人差し指の指輪で起動操作をすると、宙に魔法文字が浮かび上がるのです。


「……評価は、総括は次の授業で。」


 メールは長文は送れないのでいくつかの短文が送信されていました。


「個人ごとには直接口頭で行う。」


 個人評価は、みんなには秘密ですが、あの霊獣騒動での体質変化も含まれるのです。


「明日から……放課後の指定時間に、各自教官室に来るように。」


 だから、こんな手間のかかる方法で行うのでしょう。


「なお、今日の放課後……学生食堂で打ち上げ!?」


 打ち上げ!?


 その時、わたしの脳裏に浮かんだのは、ガクエンサイ直後の、あのパーティーです!


「ん。希望者全員参加!」


「わたくしたち寮外生も参加いたしますわよ!」


「めっちゃ楽しみ!」


 それは少し遅い新年のお祝いであり、数日前に終わった冬季実習の慰労会でもあるのでしょう。


 叔父様にしてはアリエナイくらい気が利いているんです!


 明日はきっと大雨です!


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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