第21章 その4 意外な遭遇、その導入と展開について
その4 意外な遭遇、その導入と展開について
落とし穴から落下すること数秒。
落下速度はますます速くなって!
「防御!」
ヒルデアがわたしたち4人全員に「防御」を投射します。
本来一人が対称の術式をこれだけ拡大、しかも簡易詠唱ですからさすがは魔法騎士志望なだけのことはあるんです。
瞬間的に戦闘系術式を唱えた速度と威力には、わたし少し彼女を見くびってましたって反省です!
「…………アルユンが願い奉る!いざ、『落下制御』!」
そしてアルユンは「落下制御」!?
下級術式の中では数少ない重力系です。
重力魔術は難易度が高く、クラスでもその使い手はファラファラだけかと思っていました。
さすがは彼女のチームメイトです。
しかし「加力」以上に使いどころの難しいこんな術式、それをよくもまぁ、実際に落下の真っ最中に暗唱できるものです。
さすがは優秀だけどちょっと偏屈なアルユンです。
実力の割りに前期のレベルは低かったはこのせいでしょうか?
でも落下しながら動じず切れ目なく詠唱を続けるなんて、なんて冷静さと度胸でしょうか。
「すごいです、二人とも!……ってあれ?でもアルユン……」
そうです。
先日の冬季実習の時は「精神結合」をしていたにも関わらず、彼女がこの術式を覚えているなんてことは……。
「そうさ。覚えたて。」
「たった二、三日で重力系の術式を?すごいです、アルユン!」
「本当だね!」
「……なんか最近、物覚えが良くなってさ。」
「おお、地面だぜ!」
「落下速度は抑えたけど、衝撃に備えて!」
で、どすううううん!っと着地です。
ずいぶん上から落ちた割には抑えめの速度での落下でした。
とはいえ、それでもかなりの衝撃で、でも、そのダメージも、ヒルデアの「防御」がほとんど打ち消してくれたみたいです。
「いてて……ってほどじゃねえな。やるじゃねえか、ヒルデア。こんなに頑丈な『防御』、初めてだぜ。俺様の自前より効きやがる!」
「すごいです、ヒルデア。さすが魔法騎士!」
「ははは。まだ転科してないよ。それにこんなに術式が効くなんて自分でもびっくりだよ!」
「確かに。防御のダメージ吸収って、こんなすごかったっけ?」
「たまたまじゃないかな?」
アルユンもヒルデアも謙虚です。
二人とも、実力者ってわかってたつもりだけど、これは予想以上です!
それで安心したわたしは、
「一気に下の階に降りたことですし、ここから挽回しましょう!」
なんて景気よく叫ぶのです。
「降りた?あれは落ちたって言うんだよ!あんたのドジのせいで!」
「まあ、客観的にそうかな。無傷なのはたまたまだね。」
ぐぐ……その通りなのです。
落ちたのはわたしがうっかりしてたせいなんです。
「ホントにごめんなさい。」
「まあ、いいじゃねえか。おかげでかなり下の階層に来たんだぜ。これで他の組のモンに差をつけられるってもんじゃねえか。」
ジーナの楽天主義に、ここで助けられる?
少し意外です。
「このシマは俺様がもらったぜえ!」
シマがなにかはわかりませんが、感謝です!
「で、組長。これからどうすんだよ?」
「まっぴんぐぼぉど」は新しい階層に入ったせいで真っ黒に戻りました。
いえ、一階の表示も記憶はしてます。
この階は最初からってだけなんですけど……でも組長はやめて。
「まずは……ここから出ましょうか?」
「あ~あ。」
「ま、そうだよね。」
思わず全員でため息です。
ここは何しろ落とし穴の先ですから、ただの床だったのが幸運なのか迷宮主の手抜きなのかわかりませんが、普通なら落ちてきた冒険者さんにとどめをさすべく、毒の沼になってるとか杭がびっしり並んでるとか食べ物がなくてもなぜかここでじっと待ってる大きな怪物とかの追加の罠があって当たり前なのです。
それでもさすがに周囲は壁、しかも石の壁でかこまれて、出るにも一苦労なのです。
「アルユン、お願い。」
「人使いが荒いわね……でも仕方ないか……って、あんたのためじゃないんだからね。」
そうこぼしながらも、彼女は「素材探査」を使い、周囲の組織・構成を走査してくれます。
「ここ。こっちが一番薄い。そっから通路に通じてる。」
薄いとは言え、石の壁です。
みんなで魔術を駆使するとしても一撃では……あ、集団詠唱なら!
「どりゃああああ!」
って、ジーナ?
彼女は両手に持った大剣を、その長身の頭上に大きく振りかぶるんですけど、さすがは戦闘種族ノウキンです。
筋肉がモリモリ、ムキムキと一気にふくれあがりすごい迫力……でも。
「ジーナ、いくらなんでもムリに決まってますよ。」
て言っても聞かないのはわかってはいます。
あの筋肉は頭の中まで侵食してるんでしょうか。
一気に振り下ろされた彼女の両手剣です。
そして、どかあああんという轟音と共に砕かれたのは、分厚い石の壁とわたしの常識なのです!
飛び散るガレキと立ちのぼる粉塵。
それが晴れると壁の向こうに通路が見えて、なんとまさかの一撃突破!?
ああ、そうですか……あなたの生まれ持った体格と怪力と「筋力増強」の相乗効果は、魔術を超えるんですね……。
「魔術って何?」
思わずこんな根源的な疑問に囚われたわたしです。
「へええ?こんなにスゴイなんて想像以上だね。クラリス、さっきの決闘でよく勝ったね。」
「相変わらず……って言いたいとこだけど、前より強くなってんじゃない、あんたのバカ力?」
「おおよ!最近、絶好調だぜえ!ぎゃははは。」
そんな絶好調の一言で砕かれるには、粉々になったものはいろいろと大きすぎるのですけど。
「この先で戦闘中!?」
使い魔が戻って来て、そんな情報を告げるのです。
人族の一団と黒くて大きな犬……ヘルハウンドでしょう……の群れがこの先の十字路で戦闘しているとか。
「人族……他のチームか?」
「そうだろうね。シャルノたちかな?」
その確率が一番高そうです。
なにしろ指揮にも魔術にも剣撃にも最高クラスのシャルノが率い、白兵一番のリトに参謀デニーまでいて、不確定要素のファラファラは別にしても、これは反則チームです。
あんな落とし穴で急降下したわたしたちより先行できるとすれば、彼女たちくらいでしょう。
「手伝うのかい?」
ジーナは走りだすのを我慢して聞いてきます。
一瞬だけ迷って答えるわたしです。
「はい。苦戦中のようですから。」
「お人よしだねぇ、足を引っ張るチャンスなんだよ?」
試験ですから、アルユンの考えも正しいのはわかるんです。
万が一の場合でも試験官の叔父様がちゃんと救出してくれると信じてもいます。
でもわたしにはそれを選べないのです。
「まぁいいじゃないか。ボクもクラリスに賛成だ。仲間の危機を救うのは騎士の義務……多分魔術師でも正解だよ!」
ヒルデアは先日の「魔道」の授業で叔父様に指摘され、騎士道と魔道の二つの道とどう向き合うか悩んでるみたいです。
それでも彼女なりの答えをとっさに導き出している。
「ヒルデア、ありがとう。」
「当然だよ。」
にっこりとさわやかに笑うヒルデア。
「決まりなら急ごうぜ!へっへっへ。」
いかにも戦闘大好きな危ない「うぉーじゃんきぃ」ジーナ。
「……わたいだって別に反対とは言ってないのに。」
なぜかちょっぴり不満げなアユルン。
そんな仲間と急行するのです。
そして組のみんなに「俊足!」です。
この階層は、一階とは違って床も壁も天井も全部石で覆われています。
通路の幅も高さも3mほど。
走るわたしたちの長軍靴の足音がコンコンコンと小気味よく響くのです。
「あれだ!」
先頭のジーナが見つけたのは赤い炎の光です。
ヘルハウンド、別名ブラックハウンドと呼ばれる黒くて巨大な犬型の魔獣は硫黄の臭いのする炎のブレスを吐くそうです。
通路が交差する場所に突如出現し、襲ってくる奇襲を得意とするのです。
それが群れで襲ってくるのなら、襲われた者はひとたまりもないでしょう。
「きゃああ!」
「熱い!」
悲鳴?
おそらくはヘルハウンドの奇襲を支えていたのに、さっきのブレス攻撃で大ダメージを受けたのでしょう。
この場所でブレスを避けるのは難しいのです。
再びヒルデアの「防御!」がわたしたちに投射されます。
魔法の効果はブレスも減殺しますから、彼女のさっきみたいな頑強な装甲は心強いんです。
さっきと言えば、ジーナはさっきからいつ「筋力増強」を唱えてるんでしょう……?
「詠唱なんかいらねえよ。この間から。」
無詠唱!?
そんな超高等技術を、ノウキンが!?
先ほどの怪力と言い、こと戦闘に関しては驚くべき能力です!
戦闘種族おそるべし!
「あんたら、集中しなよ。特に組長、さっきみたいなドジはもうなしだよ!」
うう……確かに。
でも組長はやめて。
「回避!」
ごまかすわけじゃないけど、わたしもみんなに支援術式です。
これで回避力も上昇です!
そしてもう十字路です!
「戦闘開始!」
「どりゃあああ!」
「了解!」
「あいよ。」
打ち合わせ通りにジーナとヒルデアが前衛です。
しなくてもどうせこうなるけど……ホント、魔術師って何、です。
わたしは中衛で、指揮と支援、場合によっては前線に出るのです!
で、アルユンは「わたいは頭脳労働担当」って後方支援。
「……助けに来ました!傷ついた人は後ろに……!?」
そこにいたのは、3匹のヘルハウンドに4人の女性。
黒い犬型魔獣はイヌ属にしては小さい耳と長い足、そして真っ赤な目で恐ろしい形相で女性たちをにらんでいます。
でもにらまれているのは、予想と違って知らない人たちです。
エス女の生徒じゃない?
斧と盾を構えた厚い金属ヨロイの重戦士に、革ヨロイだけの軽戦士、魔術杖を構えたオレンジのローブの魔術師に、弓矢を構えた偵察役の4人組の……冒険者さん。
なんで学園が所有する迷宮に冒険者さんが……って詮索は後回し!
重戦士さんとスカウトさんがブレスの直撃を受けたのか、装備が焦げてボロボロです。
重戦士さんが引き受けていたヘルハウンドにはジーナが向かい、もう一匹の敵にはヒルデアが接敵します。
「魔力付与」の効果で彼女の全身が白銀に輝いています。
これで攻防一体の能力上昇、そして彼女の武器には魔法のダメージが加わるのです。
で、残る一匹は軽戦士さんがそのまま相手をします。
でも……武器を持ってない?
なら
「わたしが引き受けます!あなたも下がって!」
負担を引き受けようと中衛から前衛に上がったわたしです。
「……お前!?お前なんかに助けられてたまるかよ!」
って、え?
なんでわたし、初対面の人に嫌われてるのでしょう?
革のヘルメットで顔は見えませんが、思いっきりにらまれているのはわかります。
「ちっ……こんなものに頼るつもりはなかったが!」
そう言った軽戦士さんは、腰のベルトにさしていた変わったワンド?をぬくのです。
「それ、どこかで……あ?」
それは、昔、叔父様がわたしにくれた絵本の中にあった武器。
そう、帽子をかぶった「がんまん」さんの!?
「拳銃!?」
確か、「こんばっとまぐなむ」って名前までついた拳銃なんです。
そして「がんまん」さんは早打ちの名手……なのですが、わたしがもらった絵本の中では、拳銃は敵に通用しなくてほとんど役立たずの武器という印象です。
ですが、右手に構えた拳銃を連射する軽戦士さん。
その度に大きな銃声が……響きません?
そして、銃口から放たれたのは白銀の輝きで、そしてそれが形を成したのは炎の弾丸!
これは「火撃」です!
六発の『火撃』が次々とヘルハウンドを襲い、ヘルハウンドは大きくよろめきます。
「……『火撃』を呪符したアイテム?」
「危ないよ、組長!……『魔力矢』!」
いけません。
よろめいたはずのヘルハウンドが襲ってきて、それを魔力矢が牽制して防いでくれました。でもなんて大きな魔力矢でしょう。
さすがはアルユンの得意術式です。
でも組長はやめて。
「ありがとう。」
「ありがとうじゃないわよ!戦闘中に脇見すんな!」
もっともです。
正論です。
反論できないんです。
でも驚くでしょう!?
異世界転生者の叔父様の絵本にあった武器に、でもそっくりなだけで別なアイテムなんですよ?
「こいつはオートスクロールリーダーのリボルバー……回転弾倉式自動魔術巻物詠唱器さ。」
中折れ式の拳銃型ワンドから薄い金属版がポロポロと落ちるんです。
金属板は表面がギザギザでデコボコしてます。
「で、この金属製のスクロールは、すぐに交換。」
素早く丸めた小さな金属版を詰め替える軽戦士さん……ですが、その乱暴な口調、そして、なによりも叔父様の世界の武器そっくりなアイテム……誰?
まさか転生者?
「ああ、もうクラリス!だから、あんた戦闘中だってば!……『石僕』!」
きっとこんなわたしが役立たずと見たのか、アルユンは前衛役に「使い魔」を召喚したのです。
白銀の魔法円が地面に現れ、それが消えるやあたりの石が合体して、1mちょっとくらいの人型になって、わたしたちの前に立ってくれるのです。
ストーンサーバントは、ゴーレムと比べれば小さく弱い魔法生物ですが、それでも石ですから、頑丈で力もそれなりにあるのでカベ役にはピッタリです。
傷ついたヘルハウンドは、見慣れない敵にもひるまずかみつくのですが、ストーンサーバントはまだ耐えています。
そのおかげで軽戦士さんは余裕をもって回転弾倉式自動魔……って長いです!
「りぼるばあ」でヘルハウンドを攻撃しています。
でも……こんどは氷の弾丸「氷撃」?
あの薄い金属板はスクロールで、スクロールを変えれば魔術も変わる……魔術師でない人間が魔術で攻撃するには、なんて便利なアイテム!
氷弾が顔に命中し、ひるんでかみつきもやめたヘルハウンドです。
そこに、わたしも気を取り直し、攻撃です!
左手の学生杖に魔力を集中!
「魔力矢……展開!」
そして、わたしの眼前に出現する5本の大きな魔力矢です!
以前は5本の展開で気絶してしまいましたが、今はもう平気です!
「撃ちます!」
もちろん5本とも完全に制御!
そのまま敵に命中し、ヘルハウンドはようやく倒れるのです。
倒したことを見届けるや、わたしはジーナの援護に向かいます。
「5本同時?」「学生じゃないの?」「さすがだね。」とか周りの声なんか聴いてません!
「あなたは右の援護へ向かってください!」
軽戦士さんにはそう告げたのですが。
「お前なんかの言うことを、なんでオレが聞くんだ!」
この人、なんでわたしを嫌ってるんでしょう?
わたし、意外にいろんな人から嫌われまくりです……。
「まあまあ、今は戦闘中だし、込み入った話は後にしてよ。」
軽戦士さんをオレンジ色の魔術師さんがなだめてくれます。
わたしも割り切るしかありません。
ジーナの一撃はすごい威力ですが、ヘルハウンドは巨体の割りに敏捷で、やや広い十字路で援護なしでは手ごわいんです。
それでもわたしの魔力矢の牽制で動きが鈍ったところにジーナのマッスルパワーが炸裂!
一度大ダメージを負わせた後は、一方的に仕留めたのですけど。
もう一匹のヘルハウンドが、ヒルデア、軽戦士さん、オレンジの魔術師さんの攻撃のもと、崩れ落ちたのは、すぐあとのことです。
「いやあ、たすかりました。クラリスさん。」
戦闘後、わたしたちはジーナが軽傷を負ったくらいですが、冒険者さんたちは重傷2名。
軽い傷には塗り薬ですませ、重傷にはポーションで手当てをするのです。
手当はアルユンたちに任せ、その間、向こうのリーダーと事情の確認を、そう思った矢先に話しかけられたのです。
オレンジ色のとんがり帽子を脱いだ、その人は……。
「ルル・ルーラさん!?」
確かパン女の卒業生で、冒険者養成学校の魔法科の生徒です!
そして……ジェフィとも仲良しさん!
……まさかこれもあの腹黒陰険謀略女の策謀ですか?
「ジェフィ様?いいえ、あの方とはガクエンサイ以来お目にかかってませんけど……」
ルーラさんは二十歳前後の、茶髪で随分と痩せた方なのです。
ジェフィとは親しい関係に見えたので、つい疑ってしまうんです。
だから、そんな怪訝な顔をされると、わたしも被害妄想かもって申し訳なく思うのですけど。
「実は……」
そう事情を話しかけたルーラさんを遮ったのは、軽戦士さんです。
「おい、こんな女に話すことはない。」
怒ったような乱暴な口調で言われる、そんな非礼をしたつもりはありません。
何より仮にも……
「命の恩人さんに失礼です。いい、あなたが新米で常識知らずなのは仕方ないけど、冒険者にだって礼儀もあるんです!」
「ちっ!」
ルーラさんがたしなめると、それでも軽戦士さんは引き下がって、さっきの「りぼるばあ」から落とした金属板を拾いに行くのです。
スクロールなのに再利用できるのでしょうか?
「ごめんさないね、あの子、まだ躾が終わってない素人で……。」
「いいえ。ですが、ここはエスターセル女子魔法学園が所有する地下迷宮のはずです。どうして冒険者のルーラさんたちが?」
ルーラさんが話してくれたことによれば、この迷宮を学園が整備するにあたって、未調査の区域を探索する冒険者を雇ったそうなんです。
もちろん学園の教官方も調査した区域もあるのですが、一部は冒険者ギルドとの付き合いもあって下請けに出したとか。
「そのついでに、あの子を鍛えてくれなんて注文されたんです。本来は危険な冒険に不慣れな、しかも見知らぬ人を参加させたくないんだけど、ま、雇用条件だし……。」
「どなたですか、あなた方にそんなことをお願いした教官は?」
「ドワイト・ワグナスって言う、ちょっと太った魔術師さんです。」
……それはわたしたちのクラス担当でもあるワグナス副主任です。
いつも穏やかな、学園一いい人ですけど。
「あと、フェルノウル教官って変な人。」
ぐさっ!
思わず胸を押さえるわたしです。
ここでも「変な人」呼ばわりされて。
「……あの人、また何かしでかしたんですか?」
「なんか怖いですよ、クラリスさん?……だって、あの子にすっごく嫌われてるのに、いちいち細かい注意して……拾い食いするなとか生水は飲んじゃダメだよとか……」
言いそうです。
わたしたちには生徒相手ということであれでも押さえていたのでしょうけど、変なところで心配性。
「あと……ゴニョゴニョ……」
そこで口ごもるルーラさんです。
まさか叔父様、口には出せないような不埒な要求を!
「いや、そんな深刻なことじゃあ……それに、もしもの為にって、いろんなアイテムも貸してくれて。おかげで随分楽できたんだけど……」
わたしたち生徒ほどではありませんが、緊急用の救援信号とかポーションとかはお貸しになったとか。
プロ相手に、なんてお節介。
「でも調子にのって、予定区域が終わっても、もう少しいっちゃえって……」
それでもプロですか!?
ルーラさんは昨年パントネー魔法女子学園卒業したばかりの新米冒険者で、お仲間もまだ同年代の若い女性ばかりだそうで、たまたま今回は欠員がいたから依頼で素人を参加させたそうですけど……。
「で、そのフェルノウル教官って人が貸してくれた武器が、あのええっと……かいてん……なんだっけ?」
確かにあんな長い名前なんか覚えられないのです。
「りぼるばあ」で充分です。
「回転弾倉式自動魔術巻物詠唱器だよ、ルーラ。」
あ、そんな名前?
「忌々しい。アントの野郎なんかの武器に頼るなんてよ!」
むか!です。
わたしの叔父様を、「アントの野郎」を呼ぶ憎々し気な口調は……あの軽戦士さん、いいえ、軽戦士です!
戻ってきた彼女をわたしはにらみつけるのです。
「お前もだ!アントの姪のくそアマ!お前なんかに助けてくれなんて言ってねえぞ!」
ヘルメットを脱ぐと、その紅金の髪がその肩に零れ落ちます。
そしてわたしをにらむその顔は!
「ロード……」
そうです。
コアードの一党で叔父様を「母の仇」と呼び、一度ならず襲撃してきた、妖精族の血を引く少女です!
「ああ~ローディアちゃん、その因縁、後にしてくれない?クラリスちゃんもここは見逃して、ね?」
冬季実習の後、身柄を押さえた彼女を教官の皆様がどう扱ったのかは誰も教えてくれませんでした。
正直、叔父様をだまし討ちし、さらには危険な魔獣を召喚した彼女に同情は感じません。
ですが、叔父様を「仇」と呼び、妖精族の血を引くという彼女がどうなったか、興味がなかったわけでもありません。
ですが叔父様ですらこの件は秘密厳守のままだったのです。
そして、その彼女が、今は冒険者の一人として地下迷宮でわたしと対峙している。
……これは偶然?
或いは誰かの、例によって叔父様の計画なんでしょうか?
ロード(ローディア?)とにらみ合いながら、そんなことを考えてしまうわたしです。




