第21章 その3 「組」の仕置きと仁義について
その3 「組」の仕置きや仁義について
「どりゃりゃりゃりゃりゃあああ~っ!」
クラス一の屈強な体格に加え、両手に持った大剣を振りまわし、当たるを幸いなぎ倒す。
そんな、魔術師と言う印象を大きく覆すジーナの戦闘ぶりは、心強いを通り越して見ないフリに徹したいというのが偽らざるところ。
これでは魔術師=戦闘狂と誤解されるに決まっているんです!
ゼッタイ世間に偏見をまき散らすこと必定なのです!
「またぁ?いつまでもこんなんじゃ先に進めないんだけど、でも始まっちゃったら仕方ないね。」
青く短い髪を一振りして、すぐに諦めたのはヒルデアです。
長剣と盾を構えてジーナの円援護に向うのは、現状には適応していますが根本的な解決にはならないのです。
そもそも魔術師が二人も前に出て、学生杖も構えないって……なんの冗談です?
まぁ、ヒルデアは魔法騎士志望で、ワンドなしでも術式は使えますけど。
「……ったく。これで四度目?さっきからぜんっぜん進まないよ。クラリス、あんた臨時でも組長なんだから仲間に言うことくらいきかせなさいよ。」
白い髪に赤味を帯びた地肌のアルユンです。
わたしにはいつも乱暴で投げやりな口調なのですが、言ってることは正論なのです。
ですが、いつもジーナと同じチームで仲も悪くないくせに、都合悪いことはわたしに「丸投げ」。
わたし、やっぱりこの子に嫌われているんでしょうか?
そして組長はやめて。
今は臨時のチームだからいつもの「班」はなくて「組」って呼ぶことになって、だから押し付けられたリーダーが「組長」……理には適っていますが、なんだかとっても悪い響きがするんです!
そんな口には出せない不満を押し殺し、再度ジーナとヒルデアに視線を向けます。
目に入るのは、無数の敵に取り囲まれ、苦戦している二人の姿。
「そりゃ、どんなに弱っちい怪物だからって、あんなに群れてるところに自分から飛び込めば、ああなるだろうけどさ。」
そうです。
「光」に照らされた二人が苦戦しているのは、体長10㎝にも満たないコウモリさんです!
吸血種のようではありますが、毒はどうでしょう?
「あたた、なんだか頭痛いな。」
なんて弱音を言い始めたヒルデアは、おそらくコウモリさんの集団超音波攻撃にさらされているからでしょう。
聞こえないけど、なんとなく空気にそんな波動を感じます。
「なに泣き言いってんだぁ?」
頭をコウモリさんにかまれ、もともと赤い髪の毛が血に染まってるジーナなのに、意にも介していない……いえ、あれは単に闘争本能が痛覚を無視してるだけでしょうけど。
かまれた傷口から赤いモノがタラリ。
そして流れた血が目に入って、さすがにそれには「うぉ、目つぶしか!」って気づいたみたい。
でも、なんか違う。
気づくポイントがおかしいんです。
頭のコウモリさんにはまだ気づかない!
まるでコウモリさんが頭部と一体化して、魔物と人の合体した魔物人間みたいな姿は根源的な恐ろしさを喚起するのです。
さすがは戦闘種族ノウキン……なんて命名に自画自賛している場合じゃないのはわかるんですけど。
「あれで少しは血の気が減ればいいんだけどね……組長、なんとかしなよ。」
「どりゃあああ!」
「頭痛いよぉ。」
……ヒルデアやジーナとは違う意味で、わたしだって……「頭痛い」ですよ。
土に囲まれた狭い迷宮は、未だ一階。他の組から大きく引き離され、これでは最下位決定でしょう……どうすればいいんでしょうか?
「……もう!……『眠りの雲!』」
とりあえず、範囲を拡大した術式で、白銀の魔法円がモクモクした雲に変り、それに包まれたコウモリさんはバタバタ地に落ちます。
落ちて目覚めないか不安でしたけど、大丈夫みたいです。
そして……あれれ?
ジーナとヒルデアまで寝ちゃいました?
魔術師ですから魔法抵抗は高いし、「眠りの雲」は術式でも初級で、威力を高めたわけでもない。
「指輪」は意識して使ってないし……減点されてしまうので……なのに?
「クラリス、あんた……仲間にも容赦しないんだね。恐ろしいヤツ。」
「違うんです!誤解です!」
なんて言ってもアルユンはわたしを一層白い目で見るのです。
なんだか不本意……。
「ま、いいさ。別にケガさせたわけじゃないし……やれやれ。」
それでもアルユンはサイドポーチから「体力回復」「気付け(アウエイク)」「毒消し(アンチトード)」などのポーションをとりだすのです。
まぁ、これでも彼女にしては協力的と言えるでしょう。
「あ、アルユン。アウエイクはおそらく規定量の四分の一程度でいいから。」
これはわたしの不本意な実体験に基づく助言なのです。
「ああん?何言ってるのよ。これ、フェルノウル教官殿の製品だからトリセツ通りが正しいにきまってるでしょ!」
やっぱりわたしの言葉は聞いてくれません。
彼女が尊敬する叔父様、しかもポーション製作者本人ですから、そっちの方を信頼するのは当然なのですが……。
後は二人の無事を願うばかりです。
死ななきゃいいけど。
「ぶべべべべべべべええ~!」
「ぎゃああ~~~!」
……まぁ、体験者としては、こうなるのは必定なのです。
目覚めるや否や、ジーナもヒルデアも口を押えてのたうつのです。
口から火が見えないのが不思議なのですが、多分呼気はすごい温度になってるでしょう。
「なんで?確かに目覚まし効果はすごいけど……副作用かい?」
まぁ、このポーションの原料は「ドラゴンブレス」という超高純度ブランデー……という触れ込みの錬金術の試料なのですから、人体に「無害」でも、「無害」の範囲はとっても狭いのです。
毒ではないにしても、ヒトの精神に与える影響は凶悪そのもの。
このポーションで起こされた思い出は、わたしのトラウマの一つです。
「なんでも一口飲んだらドラゴンのブレスを吐いたみたいに口内が超高温になるのです!」
そして二口目で全身が熱くなり、三口目で死ぬとか。
「へぇ~さすがは教官殿。錬金術にまで手を広げてるなんて……なんて多才な。」
なんだか、エリザさんみたいなことを言って……フェルノウル派でも相当重度の汚染者です。
褒める方向性がずれてるところもおんなじです。
「しぬしぬしぬぅ!」
「あつあつつつつっ!」
おっといけません。
まだ苦悶している「組員」に水を飲ませないと。
「あ~あ、ひどい目にあったよ。」
そう力なくつぶやくヒルデアです。
体中が土まみれで、それは彼女がいかに激しく転げ回ったかを物語るのです。
普段は上級騎士の出で、少年っぽいこの子は、臨機応変ではありますが一貫した主体性に乏しいという、まぁ言いたいことはありますが、それでも理解可能な常識人です。
「どりゃ、どりゃ、どりゃ!」
そして、水を飲むや、すぐさま地に落ちた小さなコウモリさんを一匹一匹大剣でとどめをさしてゆくジーナは、もう理解不能な異人種です!
これではファラファラとは別の地平の「向こう側」。
この二人と比べれば……まだこの子は「こっち側」なんでしょう。
「なによ、変な目でわたいを見て?」
「いいえ、なんでも……ジーナ、これだけいるコウモリさんにとどめをさしていたら、実習の時間がどんどんなくなっちゃいますよ!」
いくら人族に有害な怪物でも、地下迷宮にいる分には、害は少ないわけで、しかもレベル1にすら満たない、つまり群れ換算でやっと野獣レベル2の怪物なんて、ほとんど経験値にもお金にもならない……大げさに言えばこれ、時間消費トラップのようなものなんです!
「まあ、そうよね……仕方ないわね。」
あれ、いつもはわたしに厳しいアルユンですが、機嫌悪そうに、でもジーナのもとに向って言い聞かせてくれるのです。
意外に素直?
「いい、ジーナ。あんた、こんなとこでこんなザコにかまってたら……本当の楽しい戦闘ができないまま演習終わっちゃうわよ?」
まぁ、その論法はどうかと思いますが。
「コウモリやら迷宮ネズミやらを相手にさんざん時間使って、強敵に会えずじまい?あ~あ。それにあんた、こんなこと実家に知られたら義絶だわ。いいえ、部族総出であんたをボコリに来るわよ!フルボッコね。」
「アルユン、あんたそんな大事なこと……もっと早く教えやがれ!さぁ急いで下に行くぜ!目指すは最下層だ!こんなザコなんかかまってられるか!」
おかげで、ジーナもさっさと前に進んでくれるのです。
そんな怖いんですか、ジーナの部族って?
彼女は王国南西部の女性優位な狩猟民族で、多くの優秀な傭兵や冒険者も輩出しているって叔父様からお聞きしたことがありますけど。
「アルユン、ありがとう。」
わたしは彼女に並んでそう礼を言うのですが
「誤解しないで。あんたのためじゃないんだから。ただ、こんなとこで時間かけてたら評価が下がっちゃうし、何よりフェルノウル教官殿に失望されちゃうんだから。それだけなんだから!」
そう言ってさっさと先に行かれてしまうのです。やっぱり嫌われてるみたいです。
「洞窟吸血コウモリ23、迷宮ネズミ17……これじゃ、なかなか好成績には届かないね、どうしたらいいんだろう、クラリス?」
そして、判断は人任せなヒルデアです。
こんな群生モンスターの退治数をいちいち数えるところは真面目なんだか細かいんだかわかりませんけれど、それに費やした時間も実はもったいないんです。
クラス委員長なのに、リーダーシップというより調整役に徹するには、別に悪くはないけどこんな少人数パーティーじゃ、もっと能動的・効率的に動かないといけないのに。
「はぁ~」
なんだかため息が絶えません。
ジーナとヒルデアの頭痛は「体力回復薬」で治っても、わたしの頭痛は治らないのです。
そして……
「あんたたち!いい加減にして!」
まだ一階なのに、護符の使い魔が迷宮ネズミの群れを発見するや、四度めの突撃を敢行せんとしたジーナと、あっさりそれに追随するヒルデアです。
そして怒ったアルユンが術式を唱えるや、激しく転倒する二人。
その足元にはしっかり土色の小人がいて、しがみつき拘束しているのです!
「土精霊使役」……とっさに簡易詠唱で、しかも二体も制御するなんて、さすがはアルユン。
この子が前期認定でレベル3というのは何かの間違いとしか思えません。
「あんたもよ!組長!さっさと実力行使しないからこの筋肉バカと優等生ぶりっ子が暴走してばかりじゃないの!」
……確かにそうなのです。
仮にもイヤイヤでも戦闘チームのリーダーになったからには、時には実力行使してでも指揮権を確立しなければ部隊として機能しないのです。
今までの班ではリトはいて、デニー、リル、レンたちも言うことを聞いてくれるのが当たり前で、
クラスで戦う時も実力者シャルノがいて支えてくれたからそれでよかったのです。
いつもと違う、しかも慣れない少人数で、わたしがしっかりしないといけないのです。
そうじゃないと試験も叔父様の信頼も……そしてわたしの目標も失ってしまうのです!
……そうです!
覚悟を決めます!
でも「組長」はやめて!
「わかりました。その通りです……ゴメンなさい。」
「謝るんなら、さっさとやることやりなよ!」
わたしの前で仁王立ちしてにらむアルユンですけど、意外にイヤな気がしないんです。
「ありがとう、アルユン。」
だから、素直にお礼を言えるのです。
そしていつも不仲のはずの彼女が示してくれた好意に応えるべく、クルリと振り向き、起き上がろうとするジーナを見下ろすのです。
こんな時でもないと、長身の彼女を見下ろせませんけど。
「ジーナ!これ以上の命令違反は看過できません!以後、わたしの指示なく暴走した場合は、容赦なく置いて行きます!」
「なんだとぉ!エラソーに!」
「クラリス、それはあんまりだと思うよ。同じクラス、いや、組の仲間じゃないか!」
ジーナはもちろんですが、ヒルデアも反論してくるわけで、まぁ、これは予想済み。
「二人とも……組長の決定に文句があるなら、かかってきなさい。」
で、当然こうなるわけです。
これは実力主義のジーナには必要なこと。
だから望まないとはいえリーダーになったなら早々にやるべきことでした。
それを遠慮したツケが、さっきまでの失態なのです。
リトやレンに、人見知りとか引っ込み思案とか言えたものではないのでしょう。
「どりゃあああ!」
起き上がるや大剣を振りまわすジーナです。
「筋力増強」のせいで長さ2m、重さ5kgはくだらない両手剣ですら軽々と操るのです。
しかし広いとはいえ地下迷宮の通路で振りまわすとは、やはりノウキン。
なぜわたしが壁際に立っていたのかわかっていない。
そして……やはりリトの早さと比べれば、怖いけど怖すぎるほどではない。
大剣が壁にぶつかりはじかれたスキに懐に入るなんて簡単なことです。
小剣すら構えなかったわたしをなめたのか、バカにされたと思ったのか……でも勝負は勝負!
その一瞬で充分なのです。
「眠り(スリープ)!」
充分に魔力を込めた術式は、初級で使えないなんて思われてるにはもったいない。
使い勝手は意外に悪くないのです。
しかも接触で発動することで、威力は更に高まって。
「ぐうぐう……。」
あっさり眠ってくれました!
わたしは倒れる前にジーナを抱きかかえて、そっと横たえるんです。
「つきあい浅いジーナだけど、もう見切ったんだね、あんた。こいつの長所、完全に殺されちゃったよ。」
アルユンは決闘の審判として、冷静にわたしの勝利を告げてくれました。
「……へえ~。さすがは戦隊長。戦い慣れてるね。」
「二人一緒でもいいって言ったのに。あなたも構えて。」
「ボクはいいよ。キミに組長を押し付けたのはボクだし。だから指示に従うよ?」
両手を挙げて降参の仕草するヒルデアです。
確かに主体性に乏しい気はしますが、クラス委員長という立場を気にせず、指示はきいてくれるでしょう。
逆に言えば彼女にはもっと的確な指示を出していなかったわたしのミス、ということなのです。
本当にわたしは未熟者です。
「わかりました。では、ヒルデア。あなたはもしジーナが暴走しそうになったら、それを見逃さず止めてください!」
「了解だよ、組長。」
だから組長はやめて。
さて、遅れを挽回するために、わたしたちは打ち合わせをしました。
「いいのかい?話なんてしてて」
「アルユンが言うのももっともですが、いまさらジタバタするくらいで逆転は難しいのです。ならば起死回生の手をしっかり打つことです。」
「そうだね。他のみんなも初めての迷宮探索だから、ジーナほどではなくても目先の敵に夢中になってる可能性が高いんじゃないかな?」
「そうです……。」
そして、初めてであれ冷静に、効率的に行動できるのは……ここにいるメンバーのアルユン、他のチームではシャルノ、デニー、そして、ジェフィくらい。
意外に多くない。
エリザさんはどうかはわかりませんが、でもご正体を隠して控えめにふるまってるし。
「言われてみれば、そうかもね。」
「何か考えがあるんだね。さすがだね。」
「まあ、そんなたいしたものではありませんけど。」
「ぐうぐう……。」
そんな感じで、まずは護符の使い魔を三体放って充分に偵察させます。
一体は非常用として手元におきますけど。
使い魔は、以前叔父様が授業でお見せくださった小さな白い小鳥の姿で、低い通路の天井に沿って迷いなく飛んでいきました。
何か見つけると手元に戻って持ち主に知らせてくれるので、周囲の敵や迷宮の様子を聞いて「まっぴんぐぼぉど」に書き込むのです。
記入内容は記号化されて意外に簡単なんです。
「地図作成は冒険の基本。とは言えちゃんとまだ教わっていないだろうから、各チームにこれを貸すよ。」
なんて、出発直前に渡されたのは黒くて薄く加工された魔宝玉の石板です。
これに同じ魔宝玉を筆先にした石筆で書き込んでいくのです。
ホントに叔父様は過保護ですけど。
でも助かるのです。
それに……「地図作成は冒険の基本」。
当たり前のことかもしれませんけど、前の「魔道」の授業での叔父様の話を思い起こせば、きっと大事なことなんです。
「まあけてぃんぐ」がなにかは誰一人わかりませんでしたけど。
「いいからもう行こうぜ!そこにいる角モグラなら魔獣レベル1くらいはあるんだろ?一階の敵じゃ大物じゃねえか?」
「ジーナ、ダメだよ。ちゃんと指示を聞かないとね。」
「そうだよ。それにフェルノウル教官殿が貸してくれたんだから、護符もぼおどもちゃんと使い道があるに決まってるんだから。」
チームもそれなりにまとまった気はします。
まったく柄にもなく決闘なんかした甲斐があったみたいです。
「この区域……なんだか不自然だね。」
アルユンがまっぷを見て首をかしげています。
なんでも他の区域と比べ、彼女の指さす辺りが妙に……
「言われてみればそうだね。辺りはびっしり通路やら部屋やらがあるけど……。」
「はい。ここだけ何もない。妙な空間です……隠し部屋……そして」
「「「階段!」」」
「ああん?」
約一名を除いて意見は一致しました。
「では、ここに向って前進です……無用な戦闘は避けます。時間のムダですから。いいですね!」
目指す場所には土の壁。ですが……
「アヤシイね……『素材探査』!」
土の精霊系の探知術式でしょう。
アルユンは金属・非金属の組成や構造を走査できるようです……なんて便利。
「ここだけ、厚さが違って……隠し扉だね。こんとこに錠前がかかってる。」
「なら……『解錠』!」
これは昨年の夏に誘拐された時の反省から覚えることにした術式です。
軍の経営する魔法学校では誰も教えてはくれないので自力で覚えましたけど。
「なんだか二人とも、冒険者向きの術式なんか覚えてて。」
「ああ。これじゃ盗賊いらずだぜ。」
せめて偵察職って言って!
そんなわたしの悲鳴ですけど
「さて、中には何があるのかな?」
「おたから、おたから!」
「いやいや、何がいるのかな?だぜ。歯ごたえのある敵!」
当然のように、誰も聞いていないのです。
「光!」
「暗視」の方が相手に気づかせずに偵察できるのですが、難度が高いし、術者や対象者しか見えないのです。
結局魔力を温存するために、「光」を学生杖に投射して持ち歩くのですが、今みたいに部屋に投射することもできるのです。
強化した「光」は部屋全体を真昼のように明るく照らし……で、目と目があった次第です。
八目モグラと!
3mほどの巨大なモグラ。ですがその顔には大小八つの目があるんです。
そして土を掘る屈強なその大きな手は、人族なんかイチコロでしょう。
これは一階のボスキャラでしょうか?
「ええっと、あの目って確か……ノ、ノ、ノ、呪われるんだってさ、ぎゃはははは!」
そうです。
八目モグラは魔獣化したモグラの怪物ですが、少し、その何というか、愛嬌がありすぎるというか、怖くないというか、はっきり言えば見た目が情けないのですが、それに加えて機能しない六つの疑似眼があって、これににらまれると笑ってしまうという恐ろしいのかどうかわかりませんが面倒くさくはある怪物なのです!
あの垂れ目が!
垂れ目が……ぷぷっ!
そして……。
「ぎゃははははは、ぎゃははは!」
「ハハハハハハハハハハ!」
「………………『呪払』!」
みんなの足元には一刀両断された八目モグラの死体が転がっています。
笑いながらでもジーナの剛剣は一撃で一階の主?を葬り合ったのです。
さすがです。
もっとも殺しても呪いは解けず、結局アルユンの術式の出番となったわけですが。
「ボスクラスがこれじゃ、この階にゃろくなモンがいないね。さっさ下に行くよ。」
まったくです。
なんだか魔獣の姿もその戦いも気が抜ける展開でしたが、急ぐことに変りはないのです……。
「そうですね。急ぎますよ……ってアレ?」
アレ?
部屋の奥にある扉に向けて、踏み出した一歩の、その感覚が軽い?
スカって?
「あ、あんた、それ、落とし穴!」
「えええ!」
油断しました!
これ、まさかの罠!?
いえ、落とし穴が罠なんじゃなくて、情けない魔獣で笑って気が抜けたところに罠って言う、悪質な手口では!?
「なに分析してるんだい、このマヌケ!」
「すみません!」
「まあまあ、わざとじゃないし、仕方ないよ。ハハ。」
「手っ取り早く下に行けるんだからいいじゃねえか。ぎゃは。」
落とし穴はわたし足元だけではなく、あっと言う間にこの隠し部屋の床を全て消失させてしまったのです!
そんな落下の最中にしては、みんな冷静で寛大なのです。
これは「笑いの効果」、いえ、「笑いの降下」なんでしょうか?
「あんた……実は『呪い』にかかってたんじゃない?」
自覚はないんですけど……どうなんでしょう。
確かに笑うしかない状況なのはわかるのですけど。
次第に速くなる落下速度……このまま無事に「オチ」がつきますように。
そう願いながら、冷たいアルユンの視線に耐えるわたしです。