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第21章 感傷冒険(センチメンタル・アドベンチャー)  その1 突然の実習、その発端の裏側について 

第21章 感傷冒険センチメンタル・アドベンチャー

 

その1 突然の実習、その発端の裏側について


「「「ええ~!」」」

 

 狭い教室に一斉に響く不満の声です。


「魔術原理」の授業中ですが、人格的には問題多い叔父様でも授業そのものは魔術の深淵に迫る奥深い内容で、かつ用意した資料も正確で豊富。


 おかげでみんな、みるみる実力がついて、楽しみにしてるんですけど……いつもなら。


 だって、新学期早々。


「今日はテストをするよ!」


 なんて切り出されては、何も知らないみんなは絶叫必至なんです。


「皆様、ご主人様のお話中なのです!」


 ですが、叔父様の側に控えるメイド姿の助手……ホントはもう講師なんですけど……


メルに一喝されてしまいます。あの犬の耳も尻尾もイライラとみんなを威嚇してるんです。


「うわっ、メルッち、めっちゃ怒ってる!やばっ!」


「みなさん、メル教官殿を本気で怒らせてはいけません!」


 エミルもシャルノも慌てて周囲に声をかけるのですが、もちろんみんなとっくに静まり返っているのです。


 女性に、まして生徒に甘い叔父様はともかく、叔父様を擁護するメルには「容赦」も「躊躇」もないのですから当然すぎる反応と言っていいでしょう。


「怒ってるメル教官殿もかわいいの~♡」


 まぁ、一部の物好きは少し違う方向にいってますけど、あれは無視でいいでしょう。


「メル、いつもすまないね。ゴホゴホ。」


「それは言わない約束なのです、ご主人様。」


 でも、なんなんです、この無駄な小芝居は?


「……んじゃ、みんな、静かに移動するよ。」

 



 そんなわけで、ひきこもりの叔父様がとっても珍しくやる気を出して、なんと「テスト」は実戦形式だそうです!


 なんでこんなことになったのか……それはみんなに決して知られてはいけない、こんないきさつから始まったのです……。

  



 それはまだ新学期が始まった二日目の、昨日の事。


 さっきまで「叔父上に告白する」なんて、別に恋愛を打ち明けるわけでもないのに、顔を真っ赤にしてガチガチだったリトです。


 それがソファの上で甘えてるフィアちゃんにメロメロになってた叔父様を見て「やっぱりこんなの違う~!」って逃げ出したのは、数秒前。


 あまりの急展開に後を追いそびれたわたしです。


 ところがその元凶のフィアちゃんは「あ、呼ばれてる。もう……すぐ帰らないとママに叱られちゃうんだ」ってあっさり消えて……本当に人騒がせな子です。


 吉祥獣の子のはずなのに、騒動のタネにしかなってないんじゃあ?

 

 ソファの上で座りなおした叔父様をにらんでしまうのは、別に八つ当たりではないのです。


「だいたい天界と人界の往復って、こんなに簡単なんですか、叔父様?」


「いいや。ただ、あの子はまだ小さいから人界への影響はほとんどない。でも、それにしても簡単すぎるけどね。」


 おそらく麒麟という種族そのものが世界間転移に適しているんだろうなんて解説を受けましたが、それにしても天界に帰るって、晩御飯の時間だから遅れたら怒られるみたいなものではないはずなんです。


「あんなワガママな子は、もう来なくていいのです。」


 そして、叔父様をフィアちゃんにとられて半ばベソをかいていたメルでしたが、ようやくわたしから離れて、お茶の用意をし始めたのです。


 頭の上の犬の耳も、お尻の上の犬の尻尾も勢いよくルンルンと揺れて、なんてわかりやすい。


 これだけすぐ機嫌が直るのですから、この子にとって世間は意外に生きやすいところなのかもしれません。


 それはうらやましくすらあるんです。


 見習いたいとは決して思いませんけど。


「キミたち、座って待ってくれたまえ……今、お菓子を用意するから。」


 叔父様のお部屋でお茶とお菓子!


「はい、ごちそうになります!」


 久し振りの期待が膨らむわたしに、リト、レンなんです。


 あ、リトはレンに連れ戻されて、二人とも今、部屋にはいったばかり。


 なのに、なんていいタイミングでしょう!


「ん。ラッキー。」


「アントのお菓子は何でもおいしいってレンも楽しみなの。」


 そしてワゴンを押したメルがわたしたちの前にティーカップを並べてくれます。


 お茶とミルクのいい香り……ミルクティーです。


「月並みだけど、冬はこっちの方がいいだろ?ココアもあるけどね。」


「あんな無礼な子に飲ませるには、ご主人様のお茶はもったいないのです!ココアで充分なのです!」


 ……ココアはお子様向け?


 メルの中の偏見はこうして出来上がったみたいです。


 わたしは子どもじゃないけどココアも好きですけどね。


「でも、ジャムも懐かしい。」


「うん。ジャムをなめて飲むお茶!おいしかったってレンも思うの!」


 ネサイアのお店でいただいたお茶は一風変わって、でも、お茶の香り高い風味と、ジャムの、果実を煮詰め砂糖を融かした自然な甘さとが……思い出しただけで真似して飲みたくなるくらいおいしかったのです。


「へえ?……でも、それはネサイアみたいな寒い土地独特の飲み方だから、そこまで寒くないここで真似しても、同じ味にはならないだろうな。」


 きっとそうなんです。


 だから、もうあの風味を味わうには、一年後の冬季実習を待つしかないんでしょう……。


「一年後?…‥‥ま、まあそうかな。」


 そんな、少しおかしい叔父様……なんだか、この前は二年後の卒業のことで微妙なお顔をしていましたけどなんでしょう?


 異世界転生者の叔父様にとって、未来のお話は邪悪な怪物の笑い話みたいな、不吉なことなんでしょうか?


「これは!」


「こんなお菓子、レンは見たことないの。」


 そこに並べられたのは、銀縁で飾られた瀟洒なお皿。


 その真ん中に乗ってるのは、金色の紙に包まれた不思議な……カップケーキ?


 話題を忘れ、思わずそれに見入ってしまうのは、仕方ないことですけど。


 なんだか薄い黄色の細いひもが、グルグル巻かれて……まさか「どりる」じゃありませんよね?


 この人、以前は「どりるは男のロマンだぁ」って言ってたし、「耳掃除は男のロマン」とか「かわいい女の子に叔父様って呼ばれるのが男のロマン」とかも言ってたし、男のロマンって何個あるんでしょう?


 こんな妄言を並べる変人……姪として、いえ、そんな「立場」を越えて、わたしとしてはいろいろと不安なのです!


 ですが、そんなささやかな不安も、ケーキをよく見れば吹き飛んでしまうのです。


 生クリームがちらっと見えたり粉砂糖がかかっていたり、なんてきれいでおいしそう……。


「これは、冬の山を模したお菓子でね。シロップにつけておいた栗がようやく食べごろになったみたいだからつくってみたんだ。栗のケーキ、モンブランさ。ああ、でも上に乗ってるのは甘露煮さ。マロングラッセだと……誤解されることはないとは思うんだけどね。」


 見えない「はてな」を頭上に浮かべたわたしたちです。


 栗をシロップに漬けて、そのまま食べるって、そんな「いみしん」でしたっけ?


「ああ……実はね。」


 前世の大昔の西方世界では、マロングラッセを女性に贈るのは「愛の告白」みたいな時代があった、ということなのです。


 ……って告白ですか!?


 リトとレンにはともかく、なんでわたしに出さないんですか、もう!


  そんなわたしの気持ちに気づくのは、じ~っと見つめてるレンくらいで、リトはケーキに夢中。


 叔父様に至っては、自分用の黒湯の香りを楽しんでるし……あんな苦いだけのモノ、ホントなんでお飲みになるんでしょう?


「ご主人様のお菓子づくりの腕前は、長足の進歩をとげているのです。」

 

 確かにメルの言う通りですけど、こんなに手間のかかるお菓子なんかつくる人じゃなかったのに……あ!?


「相変わらず勘がいいね、キミは……。そうさ。これもレドガーの野郎から頼まれてね。冬の菓子が食いたいとか、言いやがって。あの野郎、僕をなんだと思ってるんだ!しかし、ま、今回の一件じゃあ借りをつくっちゃったしな。」


 今回の一件とは、冬季実習での事件の後始末のことなんでしょう。


 そして「レドガーの〇×△(ピ~)」なんてとんでもない!


 王弟であられるサーガノス大公殿下になんて不敬なんでしょう!


 思わず目でたしなめるんですけど、叔父様には全然効果なし。


 このコミュ障には理解もされず「クラリス、ケーキおいしくなかった?」なんて悲しいお顔をされて。


「そんなことはありません!とってもおいしいです。」


「ん。上品な甘さ。」


「栗の香りがステキだってレンは思うの。」


 なんて流されて、結局叱ることができませんでした。


 ですが……いつしかリトを中心に、次第にこの場には緊張感が広がっていくのです。




「あの……教官殿。」


 そして、リトが、いつも大胆で勇敢なあのリトが、微かな声でようやく話しかけて。


 わたしとレンは思わず息をのむのです。


 この張りつめた空気に気づかないのは、叔父様しか見えない半獣人と当の叔父様ご本人くらいでしょう。


「あの……あの……」


 こんなに硬く小さくなって……小さいのはもともとですけど……なんだかかわいいですけど。


 リトって思わず手を握ってあげるわたしです!


 昨日は決闘までした仲ですが今ではもう仲直りどころか親友を通り越して義兄弟、いえ、義姉妹の関係ですから!


 そして、もう片方の手をレンが握って!


 リトはわたしを、ついでレンを見つめて微かにうなずいて。


「ん……教官殿。あの時、気づいたの。教官殿は、教官殿は……リデルの父上の双子の弟!」

 

 そして一気に伝えたリトです。


 そしてそのまま叔父様の反応を何一つ見逃すまいと食い入るように見つめているのです。


 それなのに!


「リデルって誰だっけ?」


 それくらい話の流れでわかりそうなものなのに、この人はホントに鈍感!


 ですがいざ勝負(?)が始まると一気に突きすすむのがリトの流儀です!


「リデルって愛称はクラリスがつけてくれた。リデルの真名はリーデルン・アスキス。父上は……リードバルグ・アスキス。生まれてすぐに両親は死んで、双子の弟と生き別れた。」


 一息で言い切って、叔父様をにらむリトです。


「叔父様!ちゃんと認知してください!」


「アントも気づいてたんでしょう!」


 そして、リトの左右からそれを援護するわたしとレンです!


「認知ってなんだよ!僕の隠し子みたいな言い方して!」


「そんなことは誰も言ってませんけど……まさか!」


 隠し子の心当たりでも!?


「ないにきまってるだろ!」


 まぁ、それはそうなんです。


 この人、女性が苦手ですし。


 前世と今生の、二つの世界で生涯DT聖人とやらを気取ってますし。


「なら、リトの話を受けとめてください!叔父様!」


「ん!だからリデルも姪!教官殿の姪!」


「そうなの。今はリトのことを認めて欲しいだけなの。」


 で、三人で連携して集中砲火を浴びせるのです!


 ですが、相手は物分かりの悪さでは人後に落ちないのです。


 時に無神経は鉄壁にまさるのでしょうか?


「待ってくれよ、落ち着いて。」


 なんて、往生際の悪い時間稼ぎです!


「いやいや、こんな唐突な展開で理解しろってのが無茶苦茶だろ?」


「いいえ。叔父様は、そしてあのサムライさんもリトとあなたのかかわりに気付いていらっしゃいました。」


 リーチという剣士やゲンブと戦っていた時の二人のやり取りは、今にして思えば明らかにそうなのです!


「そうよ。クラリスが気絶した後も、コソコソ話してたのレンは聞いてたんだから。ちゃんとしてって思うの、アント。」


 それは初耳。


 ですがそれはリトも聞いていたのでしょう。


「ん!そう!それに……叔父上がいてうれしい!んん、教官殿みたいな人が叔父上でうれしい!リデルはそれだけ!」


 相変わらずわかりにくいリトの言葉ですが、この子は別に「姪」として特別扱いしてほしいわけでもないし何かを要求するわけでもないのです。


 ただ、教官として尊敬し親しみを感じていた相手が肉親と知ってうれしい、そう言っているんだと思います。


「どうです、叔父様。こんな健気なリトを、姪として受け入れないのは人として間違ってるんじゃありませんか!」


 思わずそう詰め寄るわたしです。


 昨日は叔父様の取り合いみたいになって、決闘までしたリトですけど、やっぱりこの子はわたしの大事な友達で、今となっては無二の義姉妹みたいな関係で、それを叔父様にも分かってほしいわたしなんです!


「まったく……これもタイト氏が悪い……。」

 

 なんて責任転嫁したがる叔父様ですけど。


「まぁ……タイト氏もそんなことを言っていた。僕の実の父はリンドー・アシカガって言う異世界転生者二世のヒノモト族で、男子が二人いたそうだ。その兄の方が……リーデルンくんの……で弟の方が僕らしいんだけど、ねえ?」

 

 タイト氏と叔父様が呼ぶのは、タイト・アシカガというサムライさんです。


「雷切」というカタナを自在に振るい、アシカガ流刀術を究めた達人なんです。


「達人?そんなことタイト氏に言ったら怒られるぞ。拙者なぞまだまだ未熟者でござるってな。……で、ちなみにタイト氏は僕の従弟にあたるらしい。祖父が一緒なんだってさ。」


 ええ?そこでもつながりが?


「彼の父親と僕の実父は兄弟なんだとさ。僕にはアシカガ氏の身内判定スキルはないし、実感もないし、なにそれって眉唾物だったんだけどね……で、彼が言うには、リーデルンくんも彼の従姪じゅうめい、キミからすればタイト氏は従妹叔父いとこおじってことになるらしい……そんな面倒な用語、初めて聞かされたけどね。」


「タイト……あの使い手もリデルの……。」


「ああ。だから今度会ったら、ちゃんと剣術を教えてもらいたまえ。もっともキミやキミの父上は生まれつき刀術の才能があるみたいだから、基本は独学で習得しちゃってるけどね。」


「それで……風切丸をつくってくれたの?」


 風切丸とはリトの愛刀です。


 カタナという、ヒノモト族特有の刀剣で、リトの太刀筋にピッタリなんです。


「ま……そうなるかな?」


 つまり、叔父様はリトがご自分の血縁であることはあのころから、遅くても昨年の末以前には察していらしたのです。


「ではなんで肉親ってことをリトにもお隠しになっていたのですか、叔父様?」


 わたしの疑問は、リトやレンにも興味深かったようで、特にリトはそれこそ食い入るように叔父様を、そして彼女にとっても叔父にあたる人を見つめているのです。


「そりゃ当たり前だろ?こんなろくでもない男が突然、僕はキミの叔父さんだよ~なんて言ったら、通報されちゃうにきまってる!」


 ええっと……「つーほー」がなにかはわかりませんが、なんとなくイヤなことだってことだけは察したわたしたちです。


「リーデルンくんはクラリスの大事な友達だし、学園でも優秀な生徒だ。僕なんかのことで、しかも根拠不明なことで困らせたくなかっただけさ。」


 リトを気遣うのは、叔父様にしては上出来ですけど、この人、ホントにご自分への評価が低すぎです。


「だから、まぁ、黙ってたほうが彼女のためだって……それが当り前じゃないか?」


 自分が嫌われて当たり前。


 親しくなったら迷惑かけるのは当たり前。


 だから人から遠ざかって、稀に、本当にまれ~にでも好意を持たれてることにも気づかない。


 まったく。


「そう思われるなら、少しはご自分の言動を省みられてはいかがです?」


「ぐさ!」


 そこで胸を刺される仕草はやめて!


 わたしがいじめてるみたいじゃないですか!


「ふふ……二人、仲がいい。うらやましい。」


「レンもそう思うの。でも、リトもアントの姪だから、甘えればいいって思うの。」


 まぁ、二人とも叔父様がふざけてるように思ってくれたみたいですけど。


「いきなりはムリ。でも……」


 そんな少し赤いリトは、いつもの武闘派のリトじゃありません。


 見かけ通りの可憐な少女。


「リトはお兄さん欲しがってたし……ウンと年上の、できの悪いお兄さんって思えばいいんじゃありませんか。」


 今年生まれるわたしの弟か妹も、わたしとは15歳違い。


 これくらい年の離れた兄弟も珍しくありませんし。


「ぐさ!ぐさ!できの悪いってその通りだけどさぁ、クラリス、言い方ぁ!ひどくない?」


「くすくす……でも、兄上、欲しかった。丁度いいかも。叔父上って呼んでいい?それとも兄上がいい?」


 そう言って叔父様の隣に腰掛けるリトです。


 わたしに弟か妹ができるって聞いた時、「自分はお兄さんが欲しい」みたいなことを言ってたリトですから、年上の男性に甘えることはイヤじゃないはず。


 お父さんは厳しそうで難しいみたいですから、「こんな人」で、そう、ちょうどいいんです。


 リト、ちょっと近いけど、今だけ見ないふりです!


「でも、いいの?リデルが甘えても……クラリス、ヤキモキやき。」


 グサ、です。


 ですが違うのです!


 違わないけど違うんです!


「そうなの。クラリスは女の嫉妬の醜さをレンとリルに教えた張本人なの。今はああいってるけど、リトもほどほどにしておかないと……。」


 なんて言われようでしょう!


 思わず二人をにらむわたしです。


 なのに。


「その通りなのです。クラリス様は嫉妬心の塊なのです!リト様もレン様も度を過ぎれば背中になぜかナイフが生えるのです!」


 そこで事実ムコンの証言が!


 ……まぁ、幼いころはメル相手にいろいろありましたけれど、わたしはもう大人だし、そもそも当の叔父様自身がいけないんです!


「へっ?僕?なんの話?」


 そんな、心から不思議そうなお顔が全部悪いに決まってるんです!




「さて、っと……せっかく関係者がそろったし……聞きたいんだろ?」


 どきっ!


 場が落ち着いた頃、いきなり叔父様が切り出したのです。


 こんな、サッシのいい人でしたか?


 ……いえ、ご自身に直接かかわらないことに関しては、意外によかったかもしれません。


「クラリス、リーデルンく」


「リデル!」


 叔父様の他人行儀な言い方に怒ったリトです。


 今にして思えば、ほとんど初対面の時からリトは「リトって呼んで」ってらしくもなく迫ってましたし、叔父様は叔父様でなぜかリトにだけは頑なに愛称で呼ぶことはせず……シャルノやエミル、特にレリューシア王女殿下ですらすぐだったのに……リーデルンくん、とかアスキスくんとか距離を保とうとしていました。


 その頃から、何か二人とも気付いていたのかもしれません……って、あらためてムカッ!


「リ、デ、ル!」


「……リデル。」


「それでいい。ふふ。」


 だから、とっても複雑です。


 でも、、いえ、嫉妬じゃありまスん!


「レンさん。」


 で、レンは「さん」づけ。


 これも一人だけ不自然なんですけど16歳当時の叔父様「アント」としてレンに会った時の記憶がどこかに残ってるからでしょう。


 こうしてみると、この人って、人の呼び方だけでもいろいろ暴露してしまってる、うかつな人なんです。


「三人には、一度ちゃんと伝えなきゃいけないことがある……聞いてくれ。」


 そう。


 わたしたち三人にだけ伝えること。それは……


「叔父様、霊獣の加護についてでしょうか?」


 それは、フィアちゃんから漏らされた話なのです。


 麒麟の昇天やゲンブの解放に立ち会ったわたしたちは、他の学園生徒とくらべても……。


「ああ、そうだ。キミたちは……少々体質が変化したと思う。キミたち自身、なんか感じているだろう?」


 おそらく一番変化したのはリト。


 だって、いきなりアシカガ流刀術を使いはじめ、そして自分と叔父様との血縁に気づいたくらいヒノモト族としての体質に戻ったくらいですから。

 

 わたしは……自覚はありませんが、フィアちゃんに言わせれば体力も魔力も増えて、その回復力も上がったみたい……ってタフになっただけ?


 なんだか乙女らしくないんですけど!


 そして、レンは……正直わかりません。


 もともと共感力・感応力に優れた「夢見の一族」で、その上ミレイルトロウルの変種ミライとの結びつきで変わった力をふるえる子なんです。


 だからわかりにくいんですけど……でも、考えれば、あんな事件の後なのに、クラスで一番小さく実際年下なレンが全然疲れた様子もない。

 

 なんて考えていたんですけど。


「クラリス、無限体力。」


「そうなの。あれだけ連戦で、最後にあんな魔術まで使ったのにすぐ回復して、もう尋常じゃないってレンも思うの。」


 なんですか、その不当な評価は!


 わたしだけバケモノみたいに言わないでください!


「それはこの指輪のおかげです!」


 叔父様から頂いた青い宝玉のついた銀の指輪は、今もわたしの左薬指で輝いているのです!


「クラリス……なんでそんなところにその指輪を?」


 なんておっしゃるこの人は殴ってやりたいんですけど!


 ですが、この指輪の力でわたしの魔力は消費を抑えられ回復も早く、かつ術式の威力も増大してるのです!


 ただそれだけ!


 尋常じゃないなんて言い過ぎです!


 無限体力なんてありえない!


「……まぁ、なかなか認めたくないよね。三人ともだけど、自分自身の変化なんかさ。」


 なんて澄ましたお顔でおっしゃる叔父様!


 他人事みたいに!


「叔父様だって、霊獣の加護とやらはお受けになってるでしょう!?だってあの時もわたしたちと一緒でしたし……それに魔術回路!」


 そうでした!


 そもそもなんで30年以上も起動しなかった叔父様の魔術回路が急に開いたのか!?


 それも加護か何かなのでは!?


「……あ、それ?それはね……霊獣とは関係ない。キミのおかげさ。」


「わたしですか!?わたし何かしました?」


 まさかわたしがつくった料理で、幽体離脱したとか、「ちゃくら」が開いたとか、仙骨が伸びたとか、そんな体験の繰り返しで……って、あの前後にそんなことはなかったと思い出すのです……幼いころのことは忘れました!


「あのね……キミが僕を認めてくれたんじゃないか……アンティノウスって僕のことを。だから、僕はようやく自分がアンティノウスと呼ばれることを受け容れることができた……なんてことはない。僕が魔術師になれなかったのは、僕自身が僕を否定していたから。アイデンティティってやつさ。まぁ、己の意志を刻むのが魔術なのに、当の本人が自我を確立していなくて、魔術回路もなにもあったもんじゃない。あの日、キミに手を引かれて、ようやく僕は長い葛藤から抜け出した。」


 その後、叔父様は「アンティノウスなんて、最近気づいたけど、ろーま皇帝の愛人の美少年の名前じゃないか、まったく」なんてぐちグチをこぼして、真名を受け入れたとは全然思えない妄言を繰り返すのです。

 

 愛人の美少年って、それは確かに全く、ぜんぜん、少しもちっとも似合わないと思うんですけど。


 ですが……あの日?


 わたしが手を引いた?


 いけません、やっぱりそんな特別な記憶は思い出せなくて。


「ええっと……わたし、ホントに何をしたんでしっけ?」

 

 首をかしげるしかないんですけど。


「ははは。ま、覚えてなくてもいいんだよ。僕は絶対に忘れないから。」


 叔父様は、そんな、いたずらっ子みたいなお顔でわたしを見て……どきり、です。


「ええ~ちゃんと教えてください、叔父様ぁ。」


 それで、つい子どもの頃みたいに甘えた声まで出しちゃうわたしです。


「仲良過ぎ……やける。」


「……レンも。」


 え?


 なんで二人とも、そんな責めるような目でわたしを見るんでしょう!?


 まぁ、あの犬メイドがお皿洗いでいないのが幸いですけど。




「で、本題だ……キミたちの体質がどうなったか、ちょっとテストしようか?」


 少し間を置いて、そう結論を出した叔父様です。


 ですがテスト、と聞いて思いっきりイヤな顔になるのは学生の本能みたいなものなんです!


「まぁまぁ……ちょうど今度の授業で冬休み明けの成長具合を試そうって思ってたし、それならキミたちだけじゃないし、いまさら試験勉強に追われることもないだろう?」


 それはそうかもしれませんけど……ねえ?


 ってリトとレンと三人で顔を見合わせるのです。


 そして……冒頭にいたるのです!


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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