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第20章 その5 親友たちの決闘(後篇)

その5 親友たちの決闘(後篇)


「……メル。この棒はなんですか?」

 

 手に持たされたのは、先ほどの耳かき棒よりは長くて太い、二本で一組の謎のアイテムです。


「これはハシという道具なのです。」


 それを二本まとめて拳でにぎりしめたわたしを、涼し気に眺めるメルです。


 なんだかピクピク動く犬の耳が癪に障るんです。


「……これで食事をする。クラリス、無知。」


 うねぬぬ……その上から目線の視線!


 わたしより背が低いくせに、なんだかリトに見下されるわたしです。


「決闘の第二試合はこれなのです!」


 そして、目の前にはお皿に山もりになった、無数の半透明の白い粒々……見慣れませんけど穀物の一種でしょうか?


 そしてこんなもので何をやらされるのでしょうか?


 不安に思ったわたしの代わりに、レンが決闘見届け人として


「メルちゃん教官、これってどういう勝負なの?」


 って律儀に聞いてくれるのです。


「これは白米なのです。これを一粒ずつハシでつまんで、目の前のお椀に何粒移したかを競うのが二戦目の勝負なのです!」


 なんて地味な決闘でしょう?


 これは一体何を競う種目なのでしょうか?


「白米も知らない?叔父上はヒノモト族だから、きっと大好物。」


「そうなのです。これはご主人様のとっておきの御馳走なのです。メルもご一緒にいただいたことがあるのですが、これを召し上がる時のご主人様は、それはそれは幸せそうなのです。」


「ん。白米は魂のふるさと。父上もそう言っていた。」

 

 それで、わたしを無視して盛り上がる二人……どこが中立なのやら、明らかに不正のにおい漂う審判メルです。


 絶対アシカガ衆ゆかりのリトに有利な勝負になってるんです!

 

 ちなみに当の叔父様は、両耳のダメージからか、単に引きこもりの本性からか、もう教官室の奥の準備室にこもっています。


 まぁ、あの人はだいたいこんなものですけど。


 でもちょっと違和感が残ります。


 叔父様も、冬季実習のダメージが残っていてもおかしくは、いえ、むしろ残っていて当然ですし、「魔道」の授業で柄にもなくあんなに人前で熱弁を振るわれて気疲れしていないわけがないのですけれども……。


「クラリス様、もう戦意喪失なのですか?」


「降参?ふふふ。んじゃあ、叔父上はリデルのもの。」


 なんですかリトも……今までろくに使ってなかったその一人称を、昨日から何度も連発して!


 アピールも過ぎれば「でふれぇしょん」になるのです!


 値打ちが下がりますよ!


「むっ!いいの、勝てば官軍!」


「いいえ、勝敗は兵家の常。ですが正義や道理は不変のはずです!」


「クラリス様、それは負けた時の言い訳なのです。」


 ギロっと犬耳メイドをにらんだつもりのわたしですが、完全に黙殺されます。


 この半獣人、叔父様に血縁はないと知ってからは完全にわたしをなめているみたいです!

 

 イヌ属ってもっと節度があると思っていましたが……いえ、所詮は主との関係を中心にしか考えない犬畜生です!


 ペットの駄犬なんです!




「では、第二戦開始、なのです!」

 

 そして問答無用で始まった米米対決!


 白米をハシで移し替えるなんて言われても、こんなものでモノをつまめるはずもなく、次々とこぼれ落ちる白米をどうにもできないわたしです。

 

 それを意地わるく眺め、ほくそえむメル……ギリギリ。


 もう、歯軋りが止まりません。


「ふ。楽勝。」


 そして、そんな勝ち誇ったつぶやきが、リトの可憐な口からもれるのです。


 悔しい!


「ええっと、時間なの。」


「では、そこまで、なのです!」


 長くない試合時間ですが、怪しげな棒を操作していたわたしの手は痛みで限界。


 その手からすぐにハシがこぼれ落ちたのです。


 結局白米は一粒たりとも移せず……そして、勝負は……。


「……………………引き分け、なのです。」


 そう。


 リトもわたし同様、一粒たりともつまめないまま、時間終了。


 あれえ?


「……ハシ、見たことはあるけど、使ったこと、ない。」


 で、悔し気にハシを、やっぱり不器用に落としたリトなのでした。


 そして痛そうに自分の手をマッサージするわたしたちです。


 それを見ていたレンが


「ねぇ、クラリス、リト。二人とも、もう決闘なんてやめたらってレンは思うの。」


 無垢な表情で話しかけるのです。


「仲良しの二人がケンカなんて、レンは悲しいって感じるてるの。」


 ぐっ……妹のようなレンにそんな顔で言われると、急に戦意が下がるわたしです。


 リトも、ふっと考える表情になって……思わず見つめ合うわたしたち。


「いいえ、わだかまりがのこっては、本当の解決にはならないのです!最後まで続けないと、いけないのです!…‥‥それとも、クラリス様、リト様……結着が怖いのですか?」


 なのに!


 この、裏切り者の恩知らずの卑怯者の犬娘が!


 おかげで見つめ合っていたわたしたちの視線は、あっという間に灼熱の怪光線となって互いの目を射んとほとばしるのです!


 わたしもですが、リトも相当に負けず嫌い。


 そして戦いは最終決戦になだれ込むのです!


「あ~あ……二人とも、見た目と違って血の気が多過ぎってレンは思うの。」


 そんなレンのつぶやきは、全然聞こえないのです!




 思えばリトは、入学したわたしの一番最初にできたお友達で、今では最大の親友です。


 もう一人の親友エミルですら、仲良くなった時期や一緒にいる時間のせいもあって、そこはわずかに及ばないのです。


 まぁ、同じ部屋に起居してる間柄、当然とも言えるのですけど。


 叔父様と全く同じ黒い髪、そしてよく似た、でもちょっと違う黒曜石のようなきれいな瞳。


 小柄で口数少なくて、誤解されやすい子ですけど、素直で真っすぐな性格は本当に大好きです。


 そしてどんな時もわたしの味方でした。

 

 二人ともあまり社交的ではないせいもあって、クラスでは二人ボッチの時期も短くはなかったですが、それでも寂しくなかったのはリトがいてくれたから……。




「それでは、第三戦目、針の穴にどちらが先に糸を通すか、なのです!」


 しかしそんな感傷は、メルの開戦の宣言で一瞬で消え去ってしまうのです。


 決闘も第三戦目。


 これで勝敗が決まるのですから!


「うぬぬぬぬぅ!」


「んんんんんっ!」


 手元の針の小さな穴に、ひたすら糸先をぶつけては弾かれ続けるわたしたち。


 それはまるで巨大な城壁に卵を投げるつけるような行いにも似て、ことごとく妨げられる無謀で無駄な行いの如く。


 しかし、時に己の指先に針が刺さろうと、微塵もためらわず続けるわたしたちは、まるで報われない「じゅんきょうしゃ」なのです!


 何に「じゅんきょう」してるかは、未だにわかりませんけど。


「そこまでなの。」


 そんなわたしたちに告げられるレンの言葉は、妙に平たく聞こえるのですけれど。


「引き分けなのです。ならば延長戦なのです!これからは先に勝った者が勝者、ご主人様の真の姪なのです!」


 そしてメルの宣言に乗せらて、わたしとリトは更なる戦いに向かうのです!


「いい加減止めたらいいのに。」


 ですからレンの声は聞こえません!




 そして激闘は続くのです!


「第四戦目、もつれた糸を切らずに先にほどいた方の勝ちなのです。」


「うおぉぉぉぉ!」


「んんんんんんっ!」


 ……………………


「そこまでなの。」


「引き分けなのです。では……」


「第五戦目……」


「うらららららぁ!」


「んんんんんんっ!」


 ……………………


「そこまで、なの。」


「引き分けなのです。では……」




 こんな勝敗定かならない……端的に言って未だどちらも無得点……戦いが続き。


 ついに「こんな地味な戦いはこうコリゴリ!」。そう思いガマンできなくなっていたのは、わたしだけではありません。


「もういい!勝負は……本当の決闘あるのみ!」


 立ち上がり、わたしを射貫くような黒曜石の瞳の、強い輝き。


 わたしも負けじと立ち上がり、親友を、いえ、親友だった少女をにらみつけるのです。


「わかりました。では一対一の個人戦!勝った者が……」


「ん。叔父上のホントの姪!」


 ようやく、わたしたちの決闘は本当の最終局面へと向かったのです。




 そして、ここは室内演習場の一室、仮想戦闘訓練室です。


 メルの教官権限で時間外なのに利用を許可されたわたしたちは、新設されたばかりのこの部屋で、同じ条件での仮想戦闘、すなわち決闘に及ぶことになったのです。


 その条件とは、仮想戦闘では叔父様からいただいた互いのアイテムは使用できない、ということです。

 

 わたしはあの青い宝玉で飾られた銀の指輪が使えず、精神の集中や多大な魔力の消費なくして得意術式の簡易詠唱などは難しくなりますし、リトは風切丸が使えずサムライさんの刀術スキルなど攻撃力に大きな制限ができるのです。


「別にかまいません。わたしの魔術はこの指輪なしでもリトには負けませんし。」


「こっちこそ、風切丸がなくたって、白兵でクラリスに負けるわけがない。」


 わたしたちの視線は、またも飛び散る火花でバチバチ。


「それでは戦闘の場所、日時はメルが選ばせていただくのです。」


 自称厳正中立の審判メルですが、もうわたしは期待してません!


 どうせわたしが不利な……そう、遠距離の魔術戦よりは至近距離の白兵に向いた、隠れたり地形効果が乏しい……ホラ。

 

 ここは荒野。


 見晴らし全開のまっ平らな、地平線まで見えてしまう場所なんです。


 しかも太陽がギラギラかがやく、間違っても霧とか霞とかがかからない視界良好な真夏の真昼。


 そして、すぐ近くにリトがいるのです。


「クラリス、いざ、尋常に勝負!」


 随分偏よった「尋常」なのですが、リトに非がないのはわかるのです。


 この子は本当に真っ正直で一直線なんですから。


 だからわたしが返す言葉も、当たり前!


「望むところです、リト!」

 

 カキィィィン!


 リトの長剣ロングソードを迎え撃ったのはわたしの小剣ショートソードです。


 余裕、とはウソでも言えないギリギリでしたけど。

 

 体格ではリトにやや勝るわたしですが、剣の間合いで軽く帳消しされ、何よりも剣技では思いっきり経験不足。


 エスターセル女子魔法学園の受験前から護身術として学び始めてようやく一年程度のわたしです。


 生まれつき騎士の修行を積んでいるリトに比べれば雲泥の差と言えるのです。


 ですが!


 このまま剣を通して「衝撃ショックウェーブ」の連続技で!


「おっと。」


 思った矢先に、すぐ長剣をひくリトです。


 いけません、手の内は知られているのです。


 それならイメージをそのまま「遠当て」に切りかえ……


「甘い!」


 で、すぐに二撃目をふるうリトです!


 これもなんとか受け止めるわたし!


 ですが勢いに押されてふらつくのです……なんてね!


「ぐ……ずるい!」


 きれいに脇腹に決められて、そんなことを口走るリトなんです!


「ずるくありません!これは決闘、魔術と剣の総合武術です!ならば、手足を使うのも当たり前でしょう!」


 ホントにずるくないんですよ!


 押されて倒れそうなフリをして、横から足蹴りをいれただけですから!


 ただ、リトは騎士の修行時代からの「剣には剣」という固定観念がしみついているので、体術と剣術の組み合わせはそれほどではない。


 最初からメル相手になんでもありで鍛えられたわたしにも付け入るスキがあるのです!


 まぁ、そう何度も通用する相手じゃないのも確かですけど。


 蹴られた脇腹を押さえもせずに、いったん離れて態勢を立て直すリトです。


 わたしもそれを好機と攻めるほどの余裕はなく、やはり態勢を立て直すので精一杯。


 これが授業の模擬戦なら一本くらいはとったかもしれない今の攻防も、実戦形式の決闘では、軽い牽制程度です。


「ならば……風甲エアアーマー!」


 リトはわたしの手足を警戒してか、得意の防御術式を唱えます。


 風の精霊の力で周囲に風圧をまとい、攻撃をそらし威力を弱めるのです。


 風の精霊と相性抜群の彼女ですから、手足の打撃くらいではほとんど無効化されてしまうでしょう。


 小剣だってその威力はかなり減殺されそう……ちっ、いえ、舌打ちはしませんけれど。


 わたしは小剣を受け専門と割りきることにして、攻め手は「魔術」とあらためて決意するのです。


魔力矢マジックアロー!」


 簡易詠唱で展開された魔法円が一瞬で白銀の矢と化して、リトを襲い命中します!


「くっ!『風切エアカッター』!」


「『防御プロテクション』!『回避ミラージュ』!……『風甲エアアーマー!』」


 魔力矢を放ち、すぐさま矢継ぎ早に防御術式を展開し続けたわたしです!


 装甲を上乗せする「防御」、回避力を上げる「回避」はむろんのこと、リトの得意術式だって、わたしは使える!


 「風甲」を上乗せしたわたしの防御力は、下手なヨロイを上回るでしょう!


「ず、ずるい!それ、リトの術式!」


「別にあなたのじゃありません!……『風切』!」


 あえてリトが得意とする攻防の術式を立て続けに使ってみせるわたしです!


 魔術には一日の長があるということを見せつけ威圧するとともに、中、遠距離戦ではわたしに勝てない、と思わせるために!


 「魔力矢」に続き、「風切」をも受けきれず、ダメージを受け悔しがるリトです。


 もう、模擬戦なら二本先取で、わたしが勝ってるでしょう。


「でも……これは決闘!……『風切……斬』!」


 低い姿勢から大きく切り付けるのはリトの、長剣と魔術の合成技です!


 白銀の弧がわたしを襲う!


 これはダメ!


 その威力は「ハンパナイ」んです!


 防ぎきれず、それでも小剣で受けて直撃は避けて、でも吹き飛ばされるわたしです。


 さっきまでの優勢なんか、一瞬で吹き飛んでしまうのです。


 そしてそのスキに距離を詰め、立ち上がったわたしに切りかかる高速の剣撃!


 これでは受けながら「衝撃」を唱える暇もないんです!


 追い詰められていくわたしです!


「しぶとい……剣はまだ初心者のくせに!」


「あなたこそ。あんな魔術と剣術の合成技なんか、もう覚えて!」


 切り合い、いえ、一方的に斬りつけられながら、なんとか防ぐわたしですが、反撃の間もなく、魔術の障壁すら抜けるダメージで傷はどんどん増えるのです。


 いけません……やはり白兵ではかなわない……なんてね!


 ガキィィイン!


 なんとか受け止め、せめぎ合うわたしたち。


 しかし、ここがチャンスなのです!


 右手の小剣と左手の学生杖ワンド


 一瞬で双方に魔力を伝わらせて!


「わたしの……わたしの剣が真っ赤に燃える!敵を倒せと輝き、叫ぶぅ!」


「な……クラリス、何言ってる?」


 まぁ、つばぜり合いの最中に当の相手がこんな口上めいたことを口ばしれば、敵ながら心配にもなるでしょうけど……。


「しゃああくねつっ!……火炎剣バァーニングゥブレイドォ!!」


「……ず、ずるい!そんな術式知らない!」


 そう驚くリトの眼前で、わたしの小剣は今真っ赤に燃え上がっているのです!




 火炎剣。


 それは叔父様が竜亀タラスクと戦うわたしたちの剣に投射してくださった強力な攻撃支援術式です。


 叔父様はファイアウエポンって呼んでましたけど、シャルノはプロミネンスソードなんてかっこよく名付けてました。


 だからわたしはバーニングブレイドです!


 叔父様はもともと火の精霊とは相性が悪いらしく……というよりコミュ障の叔父様は精霊さんにちゃんと意志を伝えることがそもそも苦手で……ムダに魔力を浪費したそうですが、逆に言えば火の精霊はやや苦手なわたしでも、使えなくはないのです。


 ですが魔力の消費は予想以上……頭もちょっと痛いんです。


 これは短期決戦に持ち込まなければ!


 火炎に包まれた小剣は、その長さも太さも炎で二回りは大きく見えるんです。


 その視覚的効果の影響もあって、ジリジリと押し負けるリトです!


 その目は完全に剣に、いえ、炎に釘付け……。


「えい。」


「ずるい!」


 で、ひょい、と放たれた足払いは見事に成功。


 リトはスッテンと転んでしまうのです。


「風の精霊術式ではわたしと互角以上だとしても、それ以外の術式はまだまだ甘いです、リト!」


「……クラリスだって、火の精霊系は苦手なはずなのに……それにそんな術式どこで?」


 倒れたまま、わたしに剣を突きつけられて、悔やしそうに長剣と学生杖を手放すリトです。


「それは……」


 叔父様から。


 ですがその言葉を、今、この場で言うことにためらいを覚えたわたしと、それですぐに察したリトです。


「やっぱり……クラリスはずるい!」


「え?足払いは油断したリトが……」


「違う!あんな、優しくて頼りになる叔父上がいて。いつも甘えて、助けてもらって……ずるい!」


 優しくて?


 頼りになる?


 ……それ、誰?


 なんて思わず言いそうになって首をかしげるわたしです。


 甘えてないとは言いませんが、そんなにいつもじゃないし、助けられたことはあるけどこっちが助けたり迷惑かけられたりしたことの方が、体感的にはよっぽど多い……って!


「スキあり!」


「ずるいです、リト!」


 いきなり小剣を蹴り飛ばされ、そのまま地面に引き倒されて!




 もう、その後は寝技の応酬、と言えば聞こえはいいのですが、はっきり言って泥仕合。


 土にまみれて年頃の乙女二人が組み合い押し合い……そして、最後には二人とも疲れ果てて。


「はぁ……はぁ……リト、強情!」


「ぜぇ……ぜぇ……クラリス、負けず嫌い!」


 力なく相手を叩いても、既に痛くもかゆくもないのです。


「提案です……。」


「ん……一時、休戦。」


 で、仰向けになって、並んで寝転ぶわたしたちなのです。


 そして荒野に照りつける真夏の太陽が、なんだかわたしたちの間にあった余計なものを焼き尽くしていって。


 そんな気がするのはきっと気のせいではないでのす。




「まさか、二人をけしかけていたのは……とことん争った後、こうして二人が仲直りすることを狙っていたのかい?」


 どこかで叔父様の声がします。


 なんだか安心してるみたい。


 ですが仲直りなんてしてません!


 疲れて休戦してるだけです。


「さすがはメルちゃん教官なの。アントのために一番いい方法を考える、メイドの鑑だってレンは思うの!」


 なのに、レンの声も不安から解放されたようなホッとした響きが隠せません。


「も、もちろんなのです。大切なご主人様のためですから。それに今さら姪が一人増えたくらいでやきもちをやくメルではないのです……所詮は姪なのです!」


 妙に白々しいメルの声は、無視スルーしたいのです……でも…‥姪が増える?


「そっか。姪って、別に一人じゃなくてもいいんですね。」


「え?」


 わたしを見る、土埃にまみれた、それでも可憐なリトの顔は驚きでいっぱい。


「ですから……別に姪ですから一人だけじゃなくてもいいじゃありませんか。わたしは血はつながってないけどずっと姪で、リトもこれからは叔父様に確認して姪って名乗ればいいんです。そしたらわたしたちは……」


「ん!姉妹みたい!」


 そうです!


 リトと姉妹みたいな関係じゃないですか!


 それはとっても嬉しいことなんです!

 

 思わず抱きあうわたしたちなんです。


「ええ~ずるい!レンも!レンもアントの姪になって、二人の姉妹になるの!」


 だからって、そんな急に増殖するものでもない気がしますけど……妹が増殖することはよくある?


 それはいつもの異世界の非常識な話なのです。


 


 翌日の放課後のこと。


 リトは叔父様に告白するって勢い込んで教官室に向ったのです!

 

 しかし、扉を開けたのは、今日も不機嫌全開な犬娘。


 そしてソファで戯れる二人の姿!


「パパぁ~フィアのこと、好き?」


「ああ、大好きだよ。」


「パパぁ~フィアもパパが大好きぃ!」


 ………………………………………はっ。


 ということで、すっかりやる気をそがれ、ついでに叔父様への憧れも大いに減じたリトはそのまま帰ってしまいました。


 これでは、あの決闘は結局なんだったのでしょうか?


 泣きじゃくるメルをなぜかなだめる羽目になりながら、激しい頭痛に襲われるわたしなのでした。


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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