第20章 その3 親友たちの決闘(前篇)
その3 親友たちの決闘(前篇)
照りつけるのは真夏の太陽。
風が砂塵を巻き起こす、ここは草木も生えない荒野なのです。
そして、目の前にいるのは、さきほどまでは戦うなど思いもよらない強敵!
「……クラリス、覚悟。」
小柄で可憐な姿にはまったく不似合いな長剣を右手に、学生にふさわしい学生杖を左手に構える黒髪の美少女は……そうです。
わたしの大親友リト!
「負けません、たとえあなたでも。」
わたしは、クラス一の武闘派の視線を臆せず正面から受け止めます。
そして小剣と学生杖で対抗するのです。
「血のつながりは何より強い。だから家族は大切!」
「いいえ、例え血縁がなくとも、一緒に暮した思い出は、それを上回るのです!」
ぶつかり合うのは、既に言葉ではなく意志!
そしてそれを代弁するのは、もはや魔術と剣の暴力しか残されていなかったのです。
その時、一陣の風が二人の間を拭き抜け、開戦を告げました。
わたしとリトの、親友同士の決闘の開始の時を。
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なんで、こんなことになったのでしょうか?
わたしたち親友が争うほどの大事件。
そのきっかけは一つではなく、今にして思えば複雑に絡み合った糸のようなものなのかもしれません。
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年末年始休暇あけの、新学期最初のお昼休み。
いつもの学生食堂でみんなと一緒の昼食です。
今日のメニューは魚介のクリームパスタに生ハム、サラダ、カボチャのスープ。
軍の方針で毎食メニューはみんな一緒ですが、日替わりのメニューは豊富で、味も量も充分です。
だから貴族出身のクラスメイトたちも、今ではけっこう気に入ってるのです。
「……お、教官殿の話、すごかった。」
また「お」ですか。
「いらない」なんて言ってたのに……。
すっかりフェルノウル派に戻ったリトです。
さっきから話すのは「魔道」の授業の感想ばかり。
まぁ、魔法騎士を目指すリトであれば、騎士道と魔道の相克なんて突きつけられて、自分を見つめなおすきっかけをもらったのですから当然かもしれません。
「そうだね。ボクももっと考えて、覚悟しないと。」
そしてそれはヒルデアも同じなのです。
で、ちゃっかりわたしたちのテーブルにやってきたところは彼女らしいのですけど。
二人とも極端なショートカットなので、遠目には男の子に間違えられそう。
「あたしも考えちゃったな~来年度どうしよう?」
「わたくしもですわ。幼い頃より学んできた魔術ですが、世界を変えるなんて、そんなこと考えもしませんでした。」
エミルにシャルノ。
あの人が奇人で変人で怪人なのを知ってる二人ですらこの有様。
「ああ、なんて思慮深いお方……あのような魔術の、いえ、世界へのかかわり方を聞いては尊敬の念をひときわ深めずにはいられません。」
両手を組んで、なぜかうっとりと宙を見上げるのはエリザさんです。
エリザさんが学生食堂でわたしたちと一緒になるのは初めてです!
正体を知らないクラスメイトでも、公爵令嬢相手に固くなるのに、王女殿下という正体を知ってるわたしなんか、もうテーブルマナーが気になってしまいます。
朝食に続いて昼食も味がわからないのです。
「あんなけったいなお人、パン女では絶対お目にかかれませんし、正直言うて、よう教官してられますなぁ思うてましたけど……どうしてどうして懐の深いお方やないですか。」
それにジェフィ!
授業では発言一つしなかったくせに……。
このキツネ女もわたしたちと同じテーブルにつくのは実習以来です。
どういう風の吹き回しでしょう。
「あたいには難しくてよくわかんなかったよぉ。」
首を振りまわすとそれ以上にム……が大きく揺れるのはリルです。
無邪気なようで、そのム……はその童顔をも裏切っているのです。
「お前にはそうでも、わたいらには、そう、フェルノウル教官殿の言葉は下手な幻術や麻薬よりアリエナイくらい魅力的なのさ。」
向こうのテーブルから飛んできたのはアルユンの声です!
わたしとは一番とっつきにくい彼女ですが、なぜか叔父様を尊敬している子です。
リルとも仲がいいので、今日はリルつながりで近くにいるのでしょうけれど……今日の学食がとても気づまりなのは、間違いなく、この子やジェフィたちのせいです。
さっきからずうっとこっちをうかがっていたのでしょう。
でも、今日はみんな、「魔道」の授業で、いえ、叔父様の話題でもちきりなのです。
一番人気のエクスェイル教官派も旧ジャーネルン教官派も、今日だけはフェルノウル教官の、叔父様の話題で盛り上がって……なんだか複雑なわたしです。
「『魔道』という授業の内容ではありえない展開でしたが……そういう常識論は飛んでしまいましたね。あの圧倒的な情熱の前では。さすがはアンティ・ノーチラス師。私の心の先生です!ああ、ミスター!」
で、デニーまでこんな告白して!
絵本作家時代のペンネームは叔父様にとっては黒歴史そのものなのですが、デニーにとってはもう崇拝の対象そのもの。
この子のメガネ趣味も「メガネの魔術師は名探偵」という叔父様の作品が原因なのです。
ただ、あの主人公のメガネはこの子ほどアヤシク輝いたりはしないはずですけど。
「はぁ~~」
思わずため息が出るわたしです。
叔父様がみんなに慕われるのが、なんだか受け入れがたいのです。
魔術も使えないのに怪しげな実験と奇行を繰り返す奇人で変人で怪人で、誰にも理解されない妄言を口走る狂人で、おまけにケモノムスメとメイドが好きな変態なのに。
昔はわたし以外には、それこそ家族すら近寄れなかったひきこもりで、わたしだけの叔父様だったのに。
「クラリス、不機嫌?」
わたしの隣の座る、小柄な黒髪の美少女は、その黒曜石のような瞳も相まって、叔父様の面影と少しかぶるのです。
「え?……そうですね。なんで叔父様なんかをみんなこんなにほめるのか不思議です。」
この時、思わずリトにこぼしたのが、発端の一つだったのかもしれません。
リトは珍しくわたしに向って不満をあらわにしたのです。
「クラリス、お、教官殿のこと、わかってない。」
わたしが叔父様のことをわかってない?
二つの世界で最も叔父様を知るわたしに、知り合って半年くらいのリトが何を言うのか。
口には出しませんが、そういう想いがわたしの胸の奥に沈殿していったのです。
「ああ、今日のご主人様はひときわ凛々しかったのです。」
……で、よりにもよって、今日の五校時は、この犬娘の授業!
叔父様がひきこもりのせいで二つある授業のうち「術式の書方」はすっかりメルの担当になったのです。
もう一つの「魔術原理」をかろうじて休講しないのは、感心していいのか、悩むところですけど。
「ご主人様は、メルにとって、水よりも清らかで空気よりも大切で、あの太陽よりも暖かい存在なのです。」
ですが、この犬メイド教官の授業は、いつもかなりの部分が「メルの御主人様講座」に費やされて、なんの授業だかわからなくなるのです。
それでも叔父様のまとめた「魔術教典」のおかげもあり、メル自身の実力も高く……はっきり言えば師匠の叔父様よりも要点はわかりやすいんです……不思議と不評ではありません。
今ではまた以前のメイド服姿に戻って、ですがあの魔術宝杖はしっかり持参という、新スタイルですけど。
「メル教官殿ぉ~今、フェルノウル教官殿は何を研究なさってるんですのぉ~♡」
そして、ファラファラのような一部のメルファンまでいる始末。
世の中って、不可思議です。
もっともファラファラは授業の中身よりも脱線の方が目的のような気がしますけど。
「……ご主人様は、今朝の授業の後からひきこもっておいでなのです。ぐっすんなのです。」
で、いきなりトーンダウンしたメルです。
リトはなんでって驚いてますけど、まぁ、あの叔父様が柄にもなく人前で恥ずかしいことを力説して後悔していることは、わたしには想像に難くないのです。
なんて少し自慢げに解説しちゃうのです。
でも、なぜか表情を見せないリト?
「それはクラリス様のおっしゃる通りなのです。ご主人様はご自身の言動を省みられて真っ赤になっておいでなのです。そのお顔もメルとしては可愛らしくてずっと見ていたかったのですけど、ご主人様が授業には行きなさいと強くおっしゃられるのでやむを得ずここに来たのです。」
やむを得ずじゃないでしょうに!
この半使い魔メイド!
叔父様の言うことならなんでもきくんだから。
「……メル。あなたも正規の教官になったのですから、叔父様のことは少し放置してちゃんと仕事をしなさい。どうせひきこもりなんていつものことでしょう。」
まったく。
それで、みんなに代わってついそんなことまで言ってしまったのですが。
「クラリス、冷たい。薄情。」
え?
なのにリトの、この一言が皮切りになって。
「そうね、今のはちょっと言い過ぎよ。いくら姪でも少しは心配してあげないと。」
ええ?
エミルも?
「本当ですわ。フェルノウル教官殿はわたくしたちにとっても大切なことを教え導いてくださる方です。もっと大切になさるべきですわ。」
えええええ?
シャルノまで?
「……メルちゃん教官殿。レンは放課後アントのお見舞いに行きたいって思うの。いい?」
ええええええええええ?
内気なレンはどこにいったのですか!?
「尊敬するフェルノウル師がご心痛でお苦しみとあらば、わたくしも、ぜひ!」
ええええええええええええええええ?
いけません、一国の王女殿下がお忍びとは言えあんな場所に!
それは国家の一大事です!
「私も!メガネの同志として!」
「あたいも!教官のお菓子大好きだし!」
「じゃあボクも。」
「ファラも~♡」
「わたいも!」
そして、なんだかおかしなことを吐く者どもまで次々現れて、教室は混沌と化したのです。
「申し訳ございません。ですが」
そんな雰囲気に屈しないのは、さすがはメルです。
「ご主人様は、人に会われることがそもそも苦手で、下手な精神系術式よりもダメージを受ける繊細なお方なのです。こんな大勢に来られては二、三日で済むひきこもりが一週間くらいに伸びてしまうのです。」
そして、叔父様のことをわかってます。
ですが……あれを「繊細」とは装飾過剰にもほどがあるのです。
「あれ?ですが、そんな長い期間、あの教官室にひきこもってるとは……少しムリがあるのではありませんか?食事はどうしてるんですか?それに……その、トイレ、とかは?」
で、ナゾとみれば場もわきまえず追究を始めるメガネです。
今日も怪しく光ってます。
「さすがに食事はメルが届け……」
そこでハタと気づいたのです。
デニーの疑問の方が正しいって。
だって、叔父様が本当にひきこもる時は「隔離結界」をつくって外との往来はおろか連絡すらとらないのです!
「その通りなのです。ご主人様は……実は禁断の術式をお使いになっているのです。」
ザワザワ……文字通り教室がザワつくのです。
だって、今日の「魔道」の課題も禁断の術式についてだったのです。
まさか叔父様自身、禁呪に手をお出しになって、それでツライ経験がおありなのでは。
そう考えると、あの授業で暴走した理由も少しわかりますし……だとしたら、わたし、あんなに禁呪の話題を繰り返して、なんて無神経だったんでしょう。
思わずうつむいて舌をかむわたしなのです。
そんな中、メルの声が続きます。
「一言で禁断の術式を申しましても、禁じられるには実はいろいろな理由があるのです。」
ガイエルさんの場合は、術者の生命を対価とするがゆえに、ある場合は威力が大きすぎるがゆえに。
「そして。ご主人様がスクロール化に成功したこの術式は……」
ごくり。教室中のみんなが息をのみ、その瞬間を待つのです。
「魔術協会にとって、いえ、街のギルドにとって、誠に有害極まりないがゆえに秘匿され、禁止された術式なのです。」
まさか、それは食事すら不要にする、永遠の生命の実現!
或いは、自らを不死化、つまりアンデッド化する、それこそ呪われた術式!?
「ご主人様はお考えになられました。この世界には破壊の術式が満ち溢れている。しかし、そんな破壊の力を、より有効に使う術式はないのだろうか、と。」
そして叔父様は実験を積み重ねたそうです。
あ、初期の実験のいくつかは、幼いわたしも関わっていて、胸が痛くなったのは内緒です。
「そして、様々なものを生み出す魔力の源、マナを生存に必要なエネルギーに転換する術はないのかお探しになられたのです。」
例えば「水生成」。
水の精霊系では基礎的な術式ですが、それによって生み出された水は人の生存に必要なもの。
「ならば……食料、いえ、生命活動を支えるエネルギーそのものに転換できないか?」
……はぁ、なのです。
それは『治癒』や『治療』と、どう違うのでしょう?
「ご飯をつくるの?クリエイトブレッドとか!」
「パンがなければケーキでもいい!」
「肉!」
みんなも少しがっかりしたのか、或いはわかりやすく食べ物の話題にのったのか、好きな食べ物を言い合ってますけど。
「いいえ、違うのです。御主人様は、損傷した肉体の修復ではなく、魔力をそのまま人体の栄養と活動に転換する術式を発見したのです。」
……やっぱりご飯?
「食事では、ありません。物質として出現させるものではないのです。皆様の、サイドポーチの中にあった、アレを、アイテムではなく魔術として完成させたのです!」
サイドポーチの、アレ?
「体力回復」「魔力回復」「毒消し(アンチトード)」……「疲労回復」は近いかも。
「気付け(アウェイク)」は論外!あんな致死性の錬金術試料……って「活力付与」!
「そうです。活力付与のポーションは、様々な魔草、霊草を使用、調合しておりますが、一時的に食事の代替になるものです。そして、ご主人様は術式によってそれを再現し、スクロールやアイテムに付与することができるのです!」
……食事がいらない。
自慢そうなメルには悪いけど、なんだかあまりありがたくない術式なんです。
それに、聞けばやはり長期間これだけではやはり衰弱していくのだそうで。
「理論的にはともかく、やはり魔力で転換される活力だけでは、未だ不死は実現はできておりません。」
「なぁんだ。それならご飯たべてたほうがいいよ。おいしいし。」
そんな無邪気なリルの発言には、みんなも大いに賛成するです。
「それはメルも同意するのです。ご主人様が極めて稀におつくりになるお食事は、本当においしくて、メルはつい食べ過ぎてしまうのです。」
昼食直後の5校時です。
にもかかわらず、みんな一斉に思い出したのです。
あの、ガクエンサイ後の叔父様の料理を。
転入生歓迎会でいただいた、あのきれいな、冬の森のケーキを……。
このメイド、メイドのくせに主に料理をふるまってもらうなんて、メイド失格です!
まぁ、「極めて稀」なのがせめてもの、ですが。
「ただ、その代わり、この術式で得た活力には大きな利点があるのです!」
再び走る緊張です。
みんなメルの次の言葉に集中してしまうのです。
「この活力付与で生活する間、体は適正な栄養と活力を得ているのです……それは、すなわち、理想的な体形に近づいていくのです!」
「おおおおおお~!」
思わずみんな大きな声!
わたしだって一緒に叫んじゃいます!
「にもかかわらず、体重は自然に減少!」
「おおおおおおおおおお~!!」
さらにそんな特典まで!
もう、これ、乙女にとって必要不可欠な術式じゃないですか!
禁呪、そんな多少の危険は冒しても叔父様を問い詰めようと心に誓うわたしです!
「さらには、不要なモノを廃棄することはないのです!」
「お、おおお?」
ええっと?
急に話題が変わって、みんな反応に困っちゃいます。
「つまりは、その、ひきこもり中のご主人様は、食事も……トイレも心配ないのです。」
「ああ~……。」
思わずみんな、納得です。
デニーは自分の疑問が解決されて満足そう……でもないようです。
「あのぅ、メル教官殿。ですが、それではフェルノウル教官殿のひきこもり中のナゾは解けても、なんでこの術式が禁断の呪文に指定されてるのか、わからないのですが?」
確かに。
多少の問題はあるにしても、これでは「水生成」とさほど変わらないのです。
水はよくてエネルギーはダメ?
正直わからないのです。
「……これは、古代、かつて実際に起こったことなのです。」
そう言うメルの話とは、大昔の冒険者の一行の話です。
ろくに事前調査もしないまま地下迷宮に挑んだ彼らは、いつしか迷宮の仕掛けに惑わされ、方角はおろか階層すら把握できなくなり、いつしか水も食料もなくなってしまったのです。
そんな時、ようやくみつけた宝箱の中にあったスクロール。
それが「活力付与」だったとか。
「一行は仲間の新米魔術師にその内容を暗記させて九死に一生を得、更にその後迷宮から脱出するまでこの術式で生きのびたのです。」
まあ、いいお話ですけど、それが何かって感じです。
「しかし、問題はこの後起こったのです……。」
メルの表情が、やや暗く哀し気なものに変り、わたしたちは再びその話に引き込まれてしまうのです。
この子、コミュ障の叔父様相手に世間のことを聞かせるためか、意外に話し上手かも。
「以来、この冒険者一行は水も食料もほとんど持たず、長期間身軽に活動して莫大な財宝を何度か手に入れるのですが……その間、仲間の魔術師はひたすらこの術式を唱えるだけの存在になり果てたのです。」
……冒険者の一行は、一般的には4人~6人くらいです。
かなりの重労働ですし、確かに、そのエネルギーのほとんどを術式に頼っては、魔術師の魔力は枯渇しかねないのです。
少なくとも一日中唱えっぱなし。
他の魔術を使う余力はほとんどないでしょう。
「そして、いつしか仲間たちは魔術師を食事係、非戦闘員として扱うようになり、報酬は数分の一しか割り当てなくなったとか。そんな待遇に耐えられなくなった魔術師は一行から逃げ出して、冒険者ギルドと魔術協会に訴えたのです。こんな術式なんか……と。」
で、これでは魔術師の地位が下がってしまうと危惧した魔術協会と、冒険者に水や食料を売って利益を得ていた関連ギルドが、
「これは、禁断の術式に指定する!」
って……。
なんだか、「禁断」の意味がとってもスケールダウンしたのです。
「ですから、みなさんも。このお話は、ごく一部の魔術師しか知らないことなのです。外部にもらしては絶対にいけないのです。」
って、そんな危ない話、軽々しく生徒にしないで!
この犬娘!
メルの耳と尻尾がとっても不自然にピクピクしてるのがなんだかとっても腹ただしいのです。
「メルちゃん教官、絶対レンたちをからかってたって思うの。」
「あれ、叔父様の悪い影響に決まってます……あれではあの話、どこまで本当かわからなくなってしまうのです。」
「ん……でも面白かった。」
メルの授業が、今日の最後だったこともあり、わたしたちはホームルームの後、叔父様の教官室に向かうことにしたのです。
でも、それこそメルに釘をさされていたので、行くのは最小限。
わたしは当然として(ちょっとエッヘン)、なるべくいつものメンバーということで、リトとレンです。
まぁ、このメンバーは、年末以来の事件にも深く関わっていますし、いろいろ聞きたいことがつきないのです。
シャルノは「お父様に呼ばれているのです」、エミルは「これから西区の商店街で年始の大売り出しなんや」って、二人とも残念そうにあきらめました。
リルとデニーも来たがってたのですが、彼女らはワグナス教官にレポートの書き直しを命じられて居残りです。
エリザさんやアルユンたち初顔勢は、さすがに遠慮してもらいました。
「今度だけよ。次は絶対わたいも行くから!」
思いっきり目つきが悪いアユルンです。
「……一目お会いしたかったのですけれど……お元気になられたらまた遊びにいらしてください。」
そして、ゴメンなさい、エリザさん。
ですが、あの湖畔の別荘はまだしも王宮は事前の準備がないとムリです!
コン、コン、コン、コン、コン。
ここは学園の北校舎3階はずれの一番小さな教官室。
五回のノックは「わ、た、し、が、来たぁ!」の合図です。
これなしでは、わたしですら無条件に入れてくれない偏屈な叔父様なんです。
しかも、家族の誰かが真似しても叔父様はちゃんとわたしとの違いを聞き分けるのです!
「……それ、自慢?」
「そんなことありまスん。」
「あ、今のクラリスの顔、ウソっぽかったよ。」
ううう。
自然に自慢してたんでしょうか?
おまけに友人相手には無自覚なウソすら見抜かれる、乙女としては未熟なわたしです。
レンが人の感情に敏感なせいもあるにしても。
でも、なんだか今日のリトは、いつもと少し違う。
今にして思えば、やはりわたしたちの感情もまた、昨夜から完全には回復していなかったのです。
そして、そのせいでしょうか?
……それでも、この後わたしたちが決闘することになろうとは、この時もまだ想像もしていなかったのです。




