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第19章 その16 文殊の知恵の召喚者(サモナーズ)

その16 文殊の知恵の召喚者サモナーズ


 頭上には真っ赤な目をこちらに向ける、体長100mにも及ぼうかと言う巨大な霊獣。


神々しさと同時に、いえ、それ以上に、今は禍々しさをまき散らし、宙に浮かんでいるのです。


姿かたちこそ亀に似ていますが、古代の人族が封印し、守護結界をはらせるために使役していた存在です。


数百年、あるいは千年以上の屈辱が霊獣本来の性質をゆがめているのです。


「この女、頭悪っ!ゲンブに変成された霊亀だぞ!歪めたのは人族じゃないか!」


 こんな感じで、わたしにいつも怒ってるのはフィアちゃん。


外見こそ人族でわたしたちと同い年くらいの少女に見えますが、その正体は白い麒麟の子。頭上の亀の同類です。


「こら、フィア。そんな口の利き方しちゃいけないよ。」


「だって、パパぁ……。」

 

叔父様に甘えて胸に顔をこすりつけるフィア(もう「ちゃん」づけはしません!)です。


それを見ると、思わず舌打ちしたくなります。


時と場をわきまえず、それに、それ、わたしのなんですけど!って。


なんとなくレンもおんなじなのでしょうか、ムスって顔。


叔父様は自分では礼儀も作法も気にしないくせに、幼少時のわたしやメル、そして「娘」を自称するフィアには意外にもお行儀よくふるまうことを強要する人です!


まぁ、人を育てるということで言えば当然ですが、ご自身を棚に上げて、とは子どもながらにもうすうす感じたわたしでした。


もっともこと叔父様に対してはひたすら素直なフィアは、散々ごねながらも最後は納得しているのです。


 というより、この子が叔父様に甘えるためのプロセスの一つ、と言う気すらします。


 ただ、本来の在り方をゆがめたのは人族、というのはおそらく正しく、間違ったのはわたしだって自覚はあります。


 反省です。


「クラリス?……それ、おじさん?」


 この中では唯一「記憶置換」の影響を受けたままのリトです。


 この子も、以前は風変りでも親切でかつ詠唱や呪符に優れた叔父様を教官としてあんなに慕っていたのに。


「あなたにも後で思い出してもらいますけど……今は呉越同舟でかまいません。目的はあの霊獣を鎮めることです!」


 今の、起動して間もない魔術回路を濫用した叔父様に、術式を解いてもらうわけにはいきませんし、話を聞いてると、なんだかこの人が行使した魔術ではないようです。


 ですから術を解除するのは、落ち着いてから……。


「ん?んん~~……ん。」


 さすがのリトもなかなか納得しきれない様子でしたけど。


「フン。うるさい女たちだ……ところで、パパぁ。」


「なんだい、フィア。」


「ゲンブ、どうする?」


「どうしようかなぁ?」


 怒ってる霊獣を今の状態で鎮めることは、そんな今夜のオカズなに?みたいな気軽な悩みではないのです!


 なのになんでしょう、この親子!?


 いえ、偽父娘!


「でもパパぁ。パパは魔術、もう使えないよ?」


「そうみたいだなぁ……もう魔術回路はズタズタだし……ああっ!作りだめした呪符巻物スクロールも全部燃えてる!あ~あ……。」


 ですから!


 漬けておいたピクルスが食べる前に腐っちゃったみたいな問題でもないのです!


 あるいは、霊獣の子であるフィアには些細な問題かもしれませんけど、人族にとっては深刻な事態のハズなんです!

 

「叔父様!もっと真剣にお考えください!」


「キミは相変わらず堅苦しいなぁ。僕の姪とは思えないくらい。」


「あなたこそ昔からいつもいい加減で!わたしの叔父様とは……あ?」


 そこでつい言い淀んでしまったわたし。


 だって、術が解けたわたしは、あの冬至の日の叔父様の告白も思い出してしまったのです。


 わたしと叔父様には「血縁」はない、ということも。


「……やれやれ。」


 うつむいてしまったわたしを、ちょっと寂しそうに見る叔父様。


「パパぁ。こんな女なんかシカトでいいから、ゲンブどうするか考えようよ。今はあいつ、さっきまでの鎮めの影響が残ってて寝ぼけてる程度だけど、起きたら本気で怒っちゃうよ?タイトなんか今でも限界なのに。」

 

 まだ寝ぼけてるんですか!


 それなのにこんな、辺りは吹雪で覆われ、時々氷塊まで吐いて。こっちにらんでるように見えますよ?


「ちっ。」


 フィアに腕をとられた叔父様は、ですが表情を多少改めます。


 普段から緩すぎるお顔ですから、こんな時でも深刻には程遠いのですが、まぁ、公平に見て悪くないお顔だと思います。


「タイト氏……もう少しだけ頼む。」


 頭上から降りかかる氷塊を、次々線で、いえ、閃で切り裂いているサムライさん。


「それはいいのでござるが……コヤツ、これで寝ぼけているのでござるか?」


「うん。この氷だってあくびみたいなもんだよ。」


 5m以上はありそうな氷塊を吐きっぱなしで、あれ、アクビ?

 

 ……それは目覚める前になんとかしないと、それこそ人族の、少なくともこの王国北方地域では大きな被害になること、間違いなしでしょう。

 

 なのに。


「ふっ。それではぜひ目を覚まして本気になってもらいたいでござるな。」

 

 そんな楽しそうに笑う、このサムライさん!


 やっぱり変です!さすがは「そぉどはっぴぃ」な方なのです!


 半ば本気で、閃撃をゲンブに飛ばし、起こしてしまいそう……。


「やるならよそでやれ。僕の姪たちを巻き込まないでくれ。」


 姪。


 血縁はなくても叔父様はわたしを「姪」として大切にしてくれることに変りはないのです。


 それがうれしい反面、「姪」としか思われていないのかもしれない、そんな悔しさも、いえ、むしろ悔しさの方こそ強く感じている。


 これはワガママなんでしょうか?




「僕の魔術回路は、当分使えない。ま、前に戻ったって考えればいいだけさ。」


 そんなわたしの心の動きにはまったく気づかない。


 かわりにレンが側に寄り添ってくれます。


 内気で小柄な子ですけど、こんなわたしの心情を感じてくれるのです。


 リトも隣に来てくれましたが、サムライさんの戦いぶりを凝視しています。


 さすがは、その可憐な外見を裏切る武闘派。


 自分に近い戦闘スタイルの超達人を観て感動もしてるようです。


 それこそさっきからまばたき一つしない。


 それにしても……叔父様。


 あんなに憧れた魔術師になれたのに、意外にあっさり?


「へ?だって、もう二度と使えないってわけじゃないだろうし、慣れないことをしたおかげで失敗したって気もするからね。」


「パパぁ?失敗は、こんな女の言うこと聞いて儀式を中断したからだよ!」


 不満そうなフィアですが、この人はホントにタンパクです。


「それでも他にやりようはあったかもしれない。あそこで相手が不十分で、こっちが魔術を使えるからって、正面から、しかも一人で挑んだのは、まあ……あれだな。」


「あれ?」


 首をかしげるフィアですが、わたしにはわかってしましました!


 もう、こんなことわかりたくないのに!


「あれだよ。自分自身の、若さゆえの過ちってやつさ。認めたくないけどね。」


 やっぱし!


 もう、この人の言う、こんな「チュウニビョウ」めいたことががわかってしまう自分がイヤなんです!


「しかも、何が若さですか!もう35、いいえ、36にもなって!堕ちる前の彗星さんは、まだ二十歳ですけど、叔父様はもう40近いんですから!」


「ぐっさぁ!」


 そこで胸を押さえるこの人。


 見た目は若く30そこそこか、ギリギリ20代の青期末せいきまつって見えるかもしれませんけど、それは苦労がないからです!


 お気楽で怠けてばかりのひきこもりだからなんです!


「こら、お前!パパをいじめるな!」


「あなたこそこの人を甘やかしすぎです!叔父様はもっと世間にもまれなきゃいけないんです!」


 にらみあうわたしとフィア!


 かたや血縁のない姪?で、かたや明らかにウソの娘!


 そこに、その間にどかあ~ん!って落ちた氷塊。


 とは言え1mくらいですけど。


 でも当たったら死んじゃうレベル!


 飛び散った氷のカケラだって直撃したら重傷必至!


「こらタイト氏!危ないじゃないか!」


「そうだ!」


「この子と違ってわたしたち人族は華奢なんですよ!」


 レンをかばったわたしと、更にそのわたしをかばってくれたリトです。


 当のサムライさんは、そんなわたしたちをチラリ。


「ふっ。手が滑ったでござる。」


「お前、わざとだろ?」


 叔父様の指摘に、サムライさんはとても自然に目をそらしました。


 図星みたい。


「でも、まぁ、せっかく守ってくださるサムライさんが、ああなるお気持ちはわかります。」

 

 とりあえず場を前向きにしなければなりませんし。


「それ、言う?」


「当事者のクラリスがぬけぬけとって、レンは思うの。」


 そんな親友たちの声も聞こえません。


「叔父様。何かお考えはおありなのですか?」


 相変わらずフィアがべったりですが、目に入りません!


 気にしなきゃいいんです!


「クラリス、なんか怒ってる?」


「怒ってません!」


 もう、そんな場合じゃなんです。


 今さらですけど。拳をぎゅうって握るわたし。


「ええっと……前にゴラオンでやったけど、あれ。」


 あれ。


 あの時はゴラオンに乗って、地面に疑似魔術回路をお描きなって、更に空間に術式を刻印して……思い出しただけで、なんて非常識!


 そして……なんてすごい技術。


 即興で巨大なスクロールを、地面と空間にお描きになるなんて、どんな呪符巻物製作者スクロールライターでも不可能でしょう。


「なら!」


「でもさぁ……インクがない。」




 叔父様はいつも羽ペン(ロック鳥の若鳥の!)とインク(しかも高価で特殊な!)と持ち歩いている人です。


 これだけで変わった人ですけど、他の面がもっと変わってるので誰も気にしません。


「だけど、さっきの熱で多分変質した。これじゃスクロールの効力はない。」

 

 インク!?


 叔父様がいつもスクロール用に持ち歩いていたのは闇鉱インクで、巨人災禍の時にゴラオン零式改に背負わせていたのは魔銀虹インクという、もはやわたしには成分やら組成やらまったく不明なシロモノなんです。


 そのどちらも今はない?


 なら、もうどうしようも……。


「パパぁ……フィアを使って。」



 

 言い出したフィアは、麒麟の子。


 その血はわずか一滴で竜亀の呪いを解き、唾液を口移しすれば傷が全快!


 って、あれはキスでしょ!


 あんな医療行為なんて認めません!


 せめて血を飲ませたらよかったじゃありませんか!


 そんなわたしの怒りに、叔父様が気づくはずもなく。


「確かに下手なエリクサーよりも効くキミの体液は、無精製でも、スクロール用のインクとしては効力に問題はないだろう。」


 ならば問題解決!


 にしては……叔父様?全然うれしそうじゃないんです。


「だけど、そんなことは絶対にしない。キミをこれ以上人界の問題に関わらせるつもりはない。」


「それも……この子たちと契約違反になって、叔父様が食べられちゃうってことですか?」


 うっかり聞いてしまったわたしのバカ!


 叔父様は、こんな時、とっても冷え冷えとした目で人を見るのです。


 それは、わたしを軽蔑するということではなくて、もっと深刻な、この人は本当に人族そのものがお嫌いなんだって、そう感じさせるほど。


 何よりも、おそらく叔父様はご自分の命をとても軽くお考えで、そんなものを大事にして守るべきものを見捨てるなんて思われると、自分と世界の両方が疎ましくて仕方がなくなるのではないでしょうか?


 何度かの失敗で、わたしなりにそう感じるのですが、これはわたしにとっては取り返しのつかない失態。


 この冷たいお顔は、わたしにとっては悲しいお顔です。


 もう泣きたいわたし。


「僕は、フィアに食べられることは決してイヤじゃない。ある意味、理想の死に方だ。」


 ザワ。


 この人、さっき炎に包まれて、フィアにも言ってました。


 本気なんです。


 本気で、今の人生を終わりにしたがってるんです。


 でも……でも!


 声は出ませんが視線で必死に訴えます。


「わかってるよ。クラリス。ここで放り投げだせるような、そんな問題じゃないって。だから、これはこの子の存在に関わることだ。霊獣にとって契約は存在に関わること。僕の命なんてちっぽけなモノじゃないんだ。ま、人族の存亡くらいとはつりあってるかもしれないけど。」


 叔父様の命はちっぽけじゃない!


 そう叫びたいわたしです。


 でも、今はガマン……歯をかみしめるだけ。


 この人自身の死生観は、今、ここで話してなんとかなるような問題ではないのです。


 相当、病んでいるです。


「だけどこれ以上この子を関わらせるわけにはいかない。僕はこの子のママと約束したし……何より、あの玄武を鎮めるためのスクロールをつくるのに、どれくらいの材料が必要だと思う?前回は地面に描いたけど、あの地はあの後、一時、虚数空間につながり、今も完全には回復していない。」

 

 あの時、変質する空間からゴラオンで必死に逃げたわたしたちです。


 今はゴラオンもなく、逃げることすら危ういのかもしれません。


「それに、それだけのインクをどうするって?この子の、フィアの体を切り裂いて全身の血を使うってことか?そんなの僕はゼッタイにイヤだ!」


「パパぁ?フィアはそれくらいじゃ死なないよ?」

 

 不思議そうに聞くフィア。


 どんな存在なんでしょう?


 そもそも痛くないんでしょうか?


 そして、叔父様。


「それでもイヤなんだ!イヤなものはイヤだ!!」


 って子どもですか?


 ……やれやれです。


 最後はイヤって感情なんです、この人。


 どんなにそれが最善であっても、それが世界を救うための正答でも、きっとフィアちゃん(やっぱり子ども!)は死ななくても、おそらく契約違反じゃなくたって、そんなことはゼッタイしない。


 これがわたしの困った叔父様。でも、誰よりも尊敬する、そしてきっと愛してしまった、わたしのアンティノウス。


 もちろん、わたしもそんなのイヤです。


 ですから、まだまだ不服気なフィアちゃんをいったん放置して、わたしは善処する方向で考えるわけです。


 この絶望的な状況では、ため息の一つくらいは見逃してもらいましょう。


 もっともリトとレンは「クラリスもうれしそう?」「口元がゆるんでるの」って。


 ふん、です。


「叔父様。それでは、スクロール案以外にお考えはありますか?」


「ない。」


 さすがに無責任では?と言いたいのをこらえます。


 この人と話すときは、時にわたしが「大人」にならないといけないのです。


「なら、材料の代替案は?」


「それはちゃんとあるよ。あれさ!」


 なあんだ。


 あるんじゃありませんか。


 さすがはわたしの……。


「あれ?」


「うん。あれ。」


 叔父様の視線を追ったその先にあるもの……。


「あれ!?」


「だから、あれだよ。あいつの体液を使ってあいつの体に描いて、そのまま封じてやる!」

 

 ……あれ。


 その空中に浮き、今も氷塊を履き続ける黒く巨大な姿は!


 それは今、実際に対峙している、空飛ぶ大怪獣ガ……いえいえ、霊獣ゲンブなのです!


 叔父様の突拍子さに慣れてるはずのわたしでも、今は顔がひきつってる自覚があります!


 武闘派のリトですら固まって、大人しいレンなんか、なんだか白くなってます。


 本気でヤメテ!「あれ」はないでしょう!「ムリです」って、でも、あまりのことに声も出ません!


「大丈夫さ。固いヒフでも、まだ寝ぼけてる今のうちに、こいつで切り裂いて、その血を使って……」


「パパのバカ!大バカの超バカ!」


 そこで怒ってるのが、お父さん大好きっ子のはずのフィアちゃんです。


「大丈夫だよ、フィア。あいつのヒフがいくら硬くても、僕のつくったこの『至空』は!」

 

 どこからともなくヒョイって、曲刀を取り出す叔父様です。


 こういうところを見ると、ホントにどんな魔術師より魔法使いって見えるんです。


 でもそんなにヒョイヒョイ出すんならインク、出てこないんでしょうか?


 ちなみにでてきたのは、リトの「風切丸」やサムライさんの「雷切」にそっくり。


 カタナって言うヒノモト族の刀剣なんだそうです。


「こいつは、魔術との併用もできるし、僕みたいな素人でも扱いやすいよう、いろいろバランスやら素材に気を配った、まあ、邪道のカタナモドキなんだけど、実は生成の段階で錬金術の技術もかなり入ってる。最近ようやく本格的に使えるようになったんだ。20年近くかかったね。」


 叔父様、錬金術にまで手を出してたんですか!?


 この人は魔術師になれるまでの時間も、おそらくまったく無駄にしてなかったんです。


 呪符巻物や魔呪具制作に、符術に錬金術まで!


「まったく、僕はここ最近働きすぎた。この一件が終わったら半年はひきこもるよ。」


 ……訂正。


 無駄だらけです。


 もっとまじめに働いてください!


「そんな問題じゃないよ!いい、パパ!あんなのから血を出すくらい切ったら、あいつだって起きちゃうよ!」


「あ!」


「今の状態で起きたら、人族の力で鎮めるなんて絶対ムリ!」


 血を出すためには切らなくちゃいけない。


 切ったらゲンブが起きる。


 起きたら、もう鎮められない。


 これは……お手上げなんでしょうか?


「どうしよう?」


 その困ったお顔は、素です……どうやら、本当に詰んでるみたいな状況です。




「貸して!」


 その時、リトがいきなり叔父様を突き飛ばします。


 そしてその手にあったカタナを奪ったのです!


「リト!何するの!」


 なんて、いう間もなく。


 スラリとカタナを抜き放ち、リトは大きく飛び上がるのです。


「風切……斬!」


 頭上を見るや、またも1mくらいの氷塊が!


 しかも今度は直撃コース!


 しかしそれを切り裂くリトの剣撃です!


 氷塊は真っ二つになって叔父様の足元へ落ちて、さらに砕けます。


 そのかけらで切り傷を負った叔父様ですが、気にしてません。


「さすがリーデルンくん、お見事。」


「パパの刀返せ!」


 思わず胸を撫でおろします。

 

 最近、周囲監視をデニーに頼り過ぎていたって、反省です。


「すまぬ。」


 え?


 そこにサムライさんの声がポツリ。


 思わず見上げた視界には、更に大きな氷塊が何個も!


 サムライさんは肩で息しながら、アシカガ流刀術「飛閃」で切り裂き、ですが、もう限界なんでしょうか?


 確かに、いくら半分寝てるとは言え、一人であんな大きな霊獣に向かわせるにはいくら達人でも過酷だったかも。


 そしてまたもこっちに飛来する氷が!


 あれがここに落ちたら?


 少しずつ迫る氷塊が妙にはっきり見えます。


 視界の隅には、いくつもの氷塊を切り裂くので手いっぱいのサムライさんの必死の姿。


 「衝撃ショックウエーブ」?


 「酸性風ルストハリケーン」?


 わたしは半ばムダと知りながら少しでも被害を減らすために得意術式を唱えようと意識を集中するのです。


「ん!……やってみる!」


 そこにまた響くリトの声。


 リトは今度は飛ばず、姿勢を低く構えたまま、カタナを構えて……その構えは!?


「んぅ!」


 そしてリトの持ったカタナは、わたしの目には負えないほどの速さでなんどか閃いて!


 飛んでいった線、いえ、閃が氷塊を切り裂いたのです!


「まさか!」


「『飛閃』かい、見ただけでとは驚いたな。」


 そうです。


 まさにリトのはなった数撃はアシカガ流刀術「飛閃」!


 サムライさんが先祖返りとも言える特殊な体質と磨き上げたスキルで身につけたという技!


 リトの閃撃は、サムライさんその人に比べれば、威力も速度も大いに劣りはしますが、氷塊は形を残したまま六つくらいに分断、でもその一つはレンの頭上に!


衝撃ショックウェーブ!遠当て!」


 あ、来ました!


 今日二度目のウィザーズハイ!


 放ったわたしの目の前から、風の精霊さんがすごい勢いで飛んでいって、小さくなった氷塊に体当たり!


 レンに当たる前に氷を粉微塵にします。


 その後の、精霊さんがわたしを見てどや顔するところまでくっきり見えちゃいました。


 精霊さんが粉になった氷をキラキラと身にまとって、そしてうっすらと消えていく。


 その光景はこんな場合なのにとっても幻想的です。


「ふふ。ありがとう、精霊さん。」


 精霊さんもにっこり。


 そして消えて。その時です。


 わたしの頭に中にある考えが閃いたのです!


 氷塊!


 水!


 霊獣の霊力を吸って大きくなった虫や小動物たち!


 ならば!


「ありました!霊獣の体液じゃないけど、きっとスクロールの材料になるモノが!」


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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