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第19章 その14 高貴なる質問者(クエスチョナー)

その14 高貴なる質問者クエスチョナー


 あの日。


 今から一週間ほど前の昨年の末に近い日。


 わたしの故郷エクサスの近くに眠っていた麒麟という吉祥獣が目覚め、封印を解かれて天に帰りました。


 そしてわたしとリトとレンはその神々しい光景を、麒麟の昇天を目の当たりにしたのです。


 しかし、その後、麒麟を解放した黒マントが話したのは、解かれた封印とは、人族を守護する結界でもあり、それは現在亜人たちが直接この大陸に転移することを防ぐものということ。


 つまり、麒麟を解放することは、亜人の転移を許し、人族の危機を、最悪その滅亡を招きかねないことなのです。

 

 そして黒マントは言うのです。


 「僕は、この大陸の結界の為に封じられた全ての霊獣を解放する」と。


 そして、どこからか、わたしたちの冬季実習を聞きつけて、「キミたちが北方にいる間にね!その目の前で解放してやるよ!」なんて犯行予告まで!


 どう考えても人族の命運を自分の趣味でもて遊んでいる様にしか思えない!


 それでなくても、エクサスやヘクストスでは、どうも黒マントは多くの騒動を巻き起こした張本人らしいのです。


 そんな悪趣味で悪辣で悪賢い黒マント。


 怪人ではなく悪人!と言いたいところですが、時折、妙に親切で親しみやすく、だからこそ少し助力されたり励まされたりしただけでわたしはおろかみんなもコロッと騙されて、だからこそ余計に腹ただしい。


 そう、あれもこれも、全ては黒マントの手口なんです!


 わたしたちを油断させて、利用するための!


 それなのに!


 麒麟さんの娘であるフィアちゃんはこう言うのです。


「ママがパパを認めて許してあげただけなの!人界の功罪を裁く、それをパパに任せただけ!」


 あんな人を信用した?自分たち霊獣を封印した人族を、麒麟さんも怒っていた?


「その麒麟さんが、あんな卑怯な黒マントを認めて?彼のおかげで人族が許された?」

 

 アリエナイのです。


 それはあの青く美しい冬のエスターセル湖の湖面が、汚染され赤茶色に化したかのようにありえない、


 いえ、あってはならないのです!


「……お前、頭悪いだろ?」


 なのに、フィアちゃんにはあっさり全否定!


 黒マントをパパと慕うだけあって、あの歪んだ人間性を直視できないのかもしれません。


 わたしたちと同年代の人族少女に見えるけど、中身は、少なくても一種間前までは8歳くらいでしたし、やはりまだ子どもなのでしょう。


 

 わたしのすぐ隣で、並んで機甲馬車の屋根に座ってはいますが、いつもは何かとわたしを敵視するこの子です。


 こんな嫌いな相手と距離感なく一緒にいること自体が、幼さを感じさせます。


 わたしとジェフィのように、ある程度相手を認めるようになってもまだ距離を取りたがるのとは全然違うんです。


「だから、頭悪っ。パパはバカだから人をだましたり利用したりなんかできないけど。そんなことができるくらい賢かったら、最初から人族なんか見捨ててる。」

 

 その表現は父親をかばってるようには到底聞こえませんけど。


「見捨てますよ!見捨ててるから、霊獣を解放して、人族を守護する結界を消滅させて、亜人が転移してきても人族が滅んでもそれは自業自得なんて言ってるんです!」

 

 そうです!


 わたし宛てにわざわざあの歪みきったメッセージをおくりつけて、自分の犯行を予告して!


 実際にここに誘導して魔獣やコアードと戦わせて!


 その挙句、ここで霊獣を解放するんでしょう!


「……ああ、もう、頭悪いヤツと話しするのは、ホントに時間のムダ。なんでパパはこんなヤツらを助けたり守ったりするんだろ?やっぱりパパってバカ……だからフィアもママも大好きなんだけど。」


 ……なんだかフィアちゃんの言う、「バカ」と「頭悪い」という響きには、とても大きな間隙が広がっているようです。


 「バカ」って響きは、とっても深くて甘い。


「いいか、一つだけ教えてやる。もしもパパが人族なんかどうなってもいいなんか思ってるんなら、なんでわざわざゲンブを鎮めに行くんだ?……ホントに危ないのに。多分死んじゃう。」


「死んでしまう!?そんな危険なことをなんで?」


 なぜか急に胸騒ぎがします。


 なのに返ってきた答えはあっさり。


「知らない。」

 

 の一言というか、他人事というか、仮にもあんなになついていた父親を案じる響きはまったく感じない。


「だって、それもパパとママの契約の中だから。」

 

 契約。


 それは魔術師にとってもただの人より神聖なものです。


 まして霊獣と呼ばれる麒麟さんであれば、人界に存在する上でも欠かせないものなのでしょう。


「契約に従って、パパを食い殺すのがフィアの役目。パパはバカで、その上自虐趣味の死にたがりだから、きっと魂をフィアに食べられたらうれしいに決まってる。」

 

 パパと慕う相手を食い殺す!?


 あんなに甘えていたのに?


 わたしを見もせず、当たり前のようにそう告げるフィアちゃんは、やはり人外の霊獣。


 そんなことを当たり前のように話す少女の声に、わたしは背筋が凍りつくような思いです。


 驚いて、圧倒されて声も出ないのです。


「いいか。ママだって無条件にパパを信じたいけど、契約だから罰則が必要なんだ。だから、パパのイメージを受けて人化したフィアが人界に残ってお目付け役をしてる。もちろんフィアはパパが大好きだけど、パパがママとの契約を守れなかったら、罰としてその魂をフィアが食べることになってる。フィアにとってもパパにとってもそれはご褒美。」

 

 食い殺すのが愛情なんでしょうか?


 そして、食い殺されて喜ぶんですか、あの怪人は?


 ……そこは変態ですからあるかもしれませんけど、なぜか違うって叫びたいわたしもいます。


「……それは、どんな契約なんですか?」

 

 どうしてフィアちゃんがわたしにこんな大事なことを教えてくれるのかわかりません。


 いつも睨むだけのわたしに。


 でも、だからこそ声を、いえ、勇気を振り絞ってこの恐るべき契約を聞くのです。


「ママとパパは契約した。人族に封印された霊獣、変成され四神となった守護獣を解放するって。」


 それは黒マントから聞いていたこと。


 彼がやろうとしていることです。


「でも、それは人にはムリなこと。だって、たまたまママが穏やかで優しい麒麟だからって、他の霊獣みんながそうじゃない。」


「なんでそんなムリな契約をしたんですか!?黒マントも麒麟さんも!」


 そこでようやくフィアちゃんはわたしに目を向けるのです。


 あの、強く紅く輝く瞳を。


「知らない。でもお前のせいだと思う。」


「わたし!?」


 なんでここにわたしが出てくるのかわかりません。


 もちろんわたしは魔法学校の生徒であり、自分自身「魔法兵になってみんなを助ける」と誓った身。


 人族を救う、いえ、この世界を救うためには今までもこれからも努力を惜しみません。


 ですが、今はあくまでわたし個人の決意であり未だ未熟者、黒マントや麒麟さんとは無縁なのです。


 まして大物には程遠い。


 なのに、なんでわたし?


「パパは人族なのに、人族は好きじゃない。そこはママとおんなじ。なのに、封印から解放した後、四神たちが人界で暴れないようにわざわざ鎮めるって言った。わけわかんないだろ?」


 人族を憎む霊獣とやらが暴れたらどうなるか、想像なんかしたくもありませんが、きっと邪竜や邪巨人の襲撃以上の惨劇が訪れるのでしょう。


「何よりも、パパが初めて魔術を使えたのは……あの日、お前を助けた時だったんだ。」


 あの日?


 わたしたちが初めて出会った日?


 わたしが地割れに落ちて、黒マントに助けられた時?


 あの時わたしを抱えて、使った「浮揚レビテーション」が初めての魔術?


 ……ってウソです!


 だって、いきなり簡易詠唱ですよ!?


 その後もバンバン簡易詠唱や無詠唱の術式を使いまくって!


「パパは、何十年も魔術師を目指しながら、魔術回路が起動できなくて、だからずっとただ人のままだったんだって。でも、フィアと会った時は魔術回路がもう開いてた。なのにパパは臆病だから魔術が本当に使えるか怖くて試せなかったって。なまじ実現すると怖いなんて、ホントに弱虫。そこがかわいいんだけど。」


 かわいいの使い方がおかしい気がしますけど、怖いのは少しわかります。


 魔術師が初めて術式を行使する時は、この世の理に感じつつ、かつそれを超える強い意思、勇気が必要なのです。


 とくに、その一歩目をどう踏み出すかがその後の魔術師としての在り方に深く影響してしまうんです。


 わたしの場合は……だれかが優しく長い時間をかけて、でも最後は思いっきりけしかけられて、とってもうまく踏み出せたのを……あ、いつもの黒い霧です。


 わたしの思い出の景色は、なぜか半分黒い霞がかった景色のまま。


 そして……魔術回路が定着するまではしばらく不安定で……でもあの時も、あの人が。


 いつも、黒く霞がかった人。


 そう、わたしの思い出の景色に浮かぶのは、いつもこの人。


「……フィアはお前に聞きたい。お前はパパの何なんだ!なんでパパはお前なんかを気にするんだ!?」




 グラッ。


 フィアちゃんの声と共にわたしの視界が大きく揺れます。


 これは、この子の問いかけの衝撃なんでしょうか?


 あんな人、知りませんって、なんで即答できないんでしょう?


「わ、わたしは……」


 そこにまたグラグラ。


 あれ?


 ホントに揺れてます?


 揺れてるのはわたし?


 それとも世界?


 顔を見上げて、改めて機甲馬車の上から見下ろします。


 すると……揺れているのは、この浮島!?


 土塊やら岩やらがあちこちらはがれて落ちて、地面に激突しています。


「あ、やっぱりゲンブのヤツ、怒ってるんだ。パパ、失敗したみたい。」

 

 こんなに揺れて、わたしが屋根のヘリにしがみついてるのに、どんなバランス感覚なのか、平然と座ったままのフィアちゃんですが、そのままヒョイって、地面に飛び降りたのです。


「ま、いいや。お前がパパの何かは知らないけど、パパが失敗したなら契約通り、フィアがパパを食い殺す。後は怒ったゲンブが暴れるだけだ。お前らなんか、ゲンブから振り落とされて死んじゃえばいい。」


「え?ちょっと、フィアちゃん?」


 そのままフィアちゃんはどんどん歩いていきます。揺れる地面を、いえ、浮島の上ということを全く感じさせず歩いて、そして、そこは浮島の端っこ。


「んじゃね。これでお前の顔を見るのも最後。せいせいする。いつもパパの気持ちを乱して、ホントはフィアだけのパパのはずなのに、お前のせいでいつもパパは……。」


 そして、やはりわたしも見もせずにそのまま端っこに進んで、すっと落ちて、見えなくなります。


 それでも麒麟の子ですから、きっと落ちても死んじゃうわけはない。


 わたしもようやく揺れる機甲馬車から降りるのです。そしてみんなの元へかけるのです。


 でも……でも、本当はもっとすべきことがある。


 そんな不安が消えないのです。




「ああ、閣下ぁ~。」


「ほんにデニーはん、班長はんがいませんとあかんたれですなぁ。」


「こんな異常事態は私では対処不能なんです!閣下ぁ!」


 わたしが二号車に駆け込むと、デニーがしがみついてビックリです。


「クラリス!?やっとお戻りですの?こちらは全員無事ですわ。」


「これでここから撤退、と行きたいけど、どうしようか?ボクたちじゃいい考えが浮かばなくてね。」


 シャルノとヒルデアは、揺れる浮島から逃げることを考えていますし、それは正解なのです。


 ですが、そう、宙に浮いた浮島からどうやって?


 機甲馬車やゴラオンを放棄するのは止むを得ないとしても、未熟なわたしたちでは「飛行」はむろん、「浮揚」も行使できません。


 重力魔術はファラファラが下級術式の「加力」を使えますけど、そんなに威力はありません。


 四人の教官方は、みなさん意識不明のままです。


 ムリに起こしても、きっと魔術を使うどころではありませんし。


 グラグラグラ!


 ギシギシ。


 浮島が大きく揺れる度に軋みをあげる機甲馬車です。


 このままではここから振り落とされてしまうでしょう。


 フィアちゃんが言った通り……でも!


 下では、地面ではきっとフィアちゃんが……黒マントを?


 そして、わたしたちはゲンブから落ちて?


 そうか、ここはゲンブという霊獣の上なんだ……。


 この浮島がゲンブなんだ。


 今さらながら、なんて大きな霊獣でしょう。


 あの、去年見た特大種の邪巨人より、5年前にヘウストスを襲った邪赤竜よりも大きい。


 こんなのがこのまま人の世界で暴れ続けたら……、いえ、なによりも、わたしたちはもちろん、あの黒マントも、もう……!?


「レン!」


 一つだけ、可能性がありました!


 やらないで諦めるよりはきっとマシ。


 そんな可能性でも、きっと試さないよりははるかにマシです!


 そして、きっとなんとかできるのがわたしたちです!


 この半年の経験がそんな自信をくれるのです。




精神結合マインドリンク!……クラリス、成功したの。」

 

 大きな魔法円の元、わたたちは輪になって手をつないでいます。

 

 左隣にいるレンの、いつもは緑がかった金の瞳も、今は深い蒼。


 同調しているミライという女王種トロウルの変種の影響なんです。


 でも、そのおかげでレンは、本来は中級レベルのこの術式を、しかもいろいろな付帯効果までついて行使できるのです。


 それになにより、わたしたち20名の団結力があれば、いえ!


「22名なの。エリザさんはともかくジェフィまで同調できるとはレンも思わなかったの。」


それはきっと、オシャカサマでも思わないのです。


 オシャカサマがなにかは知りませんけど。


「それは先ほどの戦闘でみなさんがわたくしを受け入れてくださったからですわ。」


 エリザさんの遊撃隊に交じっての奮戦ぶりは、転入して一月に満たない彼女をすっかり頼れる仲間として認めさせたのでしょう。


「それにしても、こんな術式、やはりガクエンサイで禁止しといて正解でした。こんなん使われとったら試合になりまへん……あれ、どないしはりました?」


 今その発言で思わず、みんなの同調が切れかかったんですけどね!


 あの時の怒りと屈辱がよみがえって、みんなジェフィをにらんでます!


 この表裏比興の戦友を。


「ダメダメ!みんな仲良くしないとダメ!」


 そこにリルの無邪気な叱咤です。


 最年長者のお叱りとあっては仕方ありません。


「クラリス、歳のことは、リルもデニーも、レンだって秘密なの。気をつけて欲しいの。」


 そして最年少者レンの無垢なお願いです。


 これで頭を冷やすわたしです。


 いけません……セーフのようですけど、リンク中は表層部分の思念はみんなにダダモレする可能性があります。


 特に術者レンと戦隊長として隊の中心のわたしは注意が必要なのです。


「クラリス?」


「なに考えとるんや?」


 リトとエミルが変な雰囲気を察して思念を送ってきます。


「いいえ別に……いい、みんなも、集中してね!」


 そして、わたしの右隣のファラファラに目を向けます。


 ファラファラはいつもどおりユルカワな仕草で小首をかしげ、にっこり。


 その笑みもいつも通り……だからこそ不安なんですけど。


 この子の意味不明な言動が、今回は「紙一重のこっち側でありますように」って思わず祈ってるわたしなんです。


 神も仏もいないと言われたこの世界で、足元に暴れる霊獣がいる環境ですけど、何かに祈らずにいられません!


「まかせてなの~『加力フォース』ゥ~♡!」


 ファラファラから放たれた術式は、わたしを通って左周りで全員の魔力回路を通り、一人一人の回路を駆け巡る度に共振し、増幅していゆのです。


 そして一周した時には、最初の魔力の何十倍にもなって彼女に戻ってきます。


 思わず安心のため息です。


 大きなまぶしい白銀の魔法円が浮かび、ファラファラの唱えた術が発動します。


 そして、その力は今、隊の中心のあるわたしの意志のまま!


 ぐううううん!


 「浮揚レビテーション」以上の重力を全身に感じます。


「大丈夫、これなら!」


 わたしは力の範囲を広げ、連結したままの一号車と二号車に広げます。


 その中には教官のみなさんと、魔力を停止させたままのゴラオンと機甲馬を数体収納しています。


 三号車・四号車にも広げてみましたが、やや不安定。


 こちらは潔く諦めることにします。


 グラグラグラッ!


 その揺れに合わせて、わたしは、わたしたちと一・二号車を重力制御!


 フワリと浮かんで、浮島から振り落とされ、そこからゆっくりと降下するよう力を加え続けるのです。


「ひい!」


「浮かんでるよぉ……」


「いけない、怖い!」


「だめ、ち×っちゃう……」


 いけません!


 みんな空を飛ぶのが、いえ、浮くのが初めてで、恐怖やら不安やら。


 幸いなことにわたしは、レンもですけど空を飛んだことがあり、術者のファラファラは「あっち側」なのでむしろ喜んでますから、術式の中心は安定したまま。


「みんな落ち着いて……デニー。」


「はい、閣下。『集中コンセントレーション!』」


 デニーの術式を併用し、精神を鎮静化させます。


「さすがに宙から舞い降りる経験は初めてですわね、エリザさん。」


「ええ、シャルノ。なかなか刺激的な体験ですわ。あの方ほどではありませんけれど。」


 あの方?


 エリザさん?


 いえいえ、今はわたしも集中です。


「そうそう、あたいはもっと飛んでいたい!」


「ん。同意。風を感じる。」


「オレはゴメンや。もう伯母ちゃんなんかに会うからこんな目にしかあわへん!」


 エミルは出発の時に会ったエルミウル伯母さんのことがよっぽど苦手みたいです。




 そんな悲喜こもごもの降下体験も無事終わり、両足が地面につくと一斉に大きなため息をつくわたしたちです。


「あ、頭上から!」


「平気なの~♡」


 探知が得意なデニーと機転が利く(?)ファラファラがいち早く「加力」で落下する土くれをそらします。


 あの二人、意外な組み合わせでしたけど、考えてみればデニーも冷静なようでかなり「向こう側」な子ですから、相性がいいのは当然かもしれません。


「閣下、向こう側ってなんです?」


 いけません、思念がもれてました。


「だからデニー、閣下は禁止です。」


 こう言って話題をそらすわたしなんです。


 いえ、それどころではありませんでした!


 今の一個くらいではすまない。


 頭上の浮島は激しく揺れて、多くの土塊や岩を次々落としていきます……え?


「あれは……島じゃない!?」


 あ、みんなまだ知らないままでした。


 それではおどろいて当たり前です。


「浮いてるけど……手足がある?」


「尻尾っ!」


「あれ顔じゃない!?」


 悲鳴が次々とあがります。


 ですが、さっきの「集中」のおかげか、悲鳴ですんでいるとも言えそうなんです。


 だって、おそらくは体長100m以上はあった浮島の正体が、こんな巨大な亀だったなんて知ったんですから。


 下から見上げた巨大な亀は、獰猛な顔で、尻尾はとっても長い……いえ、クネクネ動いて、まるでヘビみたいです。

 

 わたしたちの頭上を塞ぎ、大空を占める、まさに霊獣と呼ぶにふさわしい威容です。


 わたしはそんな姿に畏怖を感じながらも、みんなの未知への不安を和らげるべく遅ればせながらも知ってることを伝えるのです。


「みんな、あれはこの地に封印されていた霊獣で、ゲンブというそうです。黒マントはあの封印を解くために……あ!?」


 黒マントは?


 フィアちゃんは?


 思わずそのまま脳裏に浮かべてしまったわたしです。


 無事に地上に降りたち、あらためて二人のことが心配になってしまい、リンクを解こうとするわたし。


「……ねえ、クラリス。こんな時ですけれど、何故なにゆえあなた方は先ほどからそのお方をクロマントなどと呼んでいるのです?わたくしには内緒の、何かの余興なのですか?」


「え?エリザさん……今はそういう場合ではなくて。」


「どういう場合であれ、わたくしは尊敬する教官を誹謗する呼び方は聞きたくありません。」


 ソンケースルキョウカン……なぜかわたしたちは時折あの男の言動に反射的に耳を傾け敬礼をしてしまうのです。


 そのナゾを……エリザさんが知っている?


「ひょっとして、エリザさんのご存じの、高名な方なんでしょうか?」


「あ?まさかエリザさんも?」


「レン?」


 レンの動揺が伝わってきます。


 これは、おそらくリンク中のみんなにもわかるくらい。


「クラリスにレンネルさんも?なんでそんなにおとぼけになるのか……フェルノウル師とまたケンカでもなさったのですか?」


 思念はウソはつけず、素直にそのまま伝えるだけ。


 だから、このエリザさんの思念は本物で、ですが……


「フェルノウル?」


 それはわたしの家名と同じ。


 エクサスの一介の製本業を営む職人一家の家名。


「まだそんな……あなた、自分の叔父で教官にあたる方に失礼過ぎですよ。」


 ……その声は、今のわたしにとっては何の意味を持たない音でしかないのです。


 わたしはなぜか強い衝撃に包まれて、リンクを断ち切られ、動けないまま。


 さんざんフィアちゃんに疑問を投げつけられ、そして今はエリザさんことレリューシア王女殿下その人に直接思念で告げられ。


 怪人黒マントは誰なのか、いえ、わたしにとって、どんな存在なのか?


 わたしの思い出の景色にいる、あの黒い霞に包まれた人の正体……それが?


 でも、でも!


「……そんなはずはありません!あんな人、知らないったら、知らないんです!」


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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