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第19章 その13 屋根の上の二人

その13 屋根の上の二人


 タラスクの呪いに侵された主任と副主任でしたが、フィアちゃんのおかげで無事解呪されました。


 黒マントに言いたいことも後回しにして、まずは一号車から出て、シャルノとヒルデアを呼び出すのです。


不安を押し殺してやってきた二人に、わたしは小さく、でもはっきりとささやくのです。


「主任と副主任の解呪は成功しました。」

 

次の瞬間、安堵のあまり、膝から崩れ落ちる二人です。


そしてわたしもついに耐えきれず、二人に抱きつくのです。


「シャルノ~!ヒルデア~!もう大丈夫なんです!」


 もう、他の子は何があったかわからないでしょうけど、この時ばかりはこらえきれなくて。


「よかったですわ!本当によかったですわ!」


「ボクはもうどうしようか本気で悩んだよ!」


 こんなわたしたちを、リトもエミルも不思議そうに眺めていて。


 そして2班のみんなも。


 遠巻きにして誰も近づかないのは、秘密保守の面から言えば悪いことではないのですけど……なんか微妙です

 

 そして、こんな時には秘密の臭いを嗅ぎつけるこの子が!


「これには深い事情がありますね。この私がきっと突き止めて見せましょう!」


 また、あのメガネを怪しくぎらつかせているのです。


「デニー?またビョーキ?」


「それ、きっとみんなに言えないことをクラリスたちがガマンしてたんだってレンは思うの。なら教えてくれないうちは知らない方がいいの。」


 なんて、言ってくれるレンはやっぱり無垢ないい子です。


「うんうん。あたいもそう思うよ!」


 そして、すぐに同意してくれるリルも、無邪気ないい子です……年上ですけど。


「そやなぁ。ほんにリルはんレンはんはいい子らですなぁ。デニーはん、今度ばかりはガマンせなあきまへんえ。」


 で、不思議とリルやレンにはなんだか優しい目を向けてるジェフィです。


 糸みたいな細目ですけど。


 でも、リルが年上って知ったらどんな反応するんでしょう?

 

 


 数分後。


 べったりとしがみついたままのフィアちゃんをつれて、一号車から外へ出てきた黒マントの姿。


 わたしは、いえ、わたしたち生徒はその周りを取り囲むのです。


「なんだ、お前たち。まさかパパになにかしようなんて考えてるじゃないだろうな!」


 紅い瞳に敵意を浮かべ、わたしたちをにらむフィアちゃんです。


「こら、フィア。そんなケンカ腰な言い方はよくないよ。」


 黒マントは、そんなフィアちゃんの頭を撫で、優しく諭すようにそう言います。


「だってパパぁ」


 不満そうに、かわいく口をとがらせるフィアちゃん。


「だってじゃないよ。いい子だから、ね。」


 今度は肩を抱いて頭をナデナデの黒マント。


「……ゴメンなさぁい。」


 そしてギュウっと幸せそうに抱きつき甘え始めたフィアちゃん。


 ……いけません!


 この一連のアットホームな会話で、わたしたちは戦わずして戦意を喪失しそうです。


 さすがは卑劣な黒マントなのです!


 わたしは戦況を立て直すべく、彼の前に一人出るのです。


「怪人黒マント、お二人の件はお礼をいいますが……」

 

 ここまでは小声です。


 人として最低限お礼くらいは言わなければなりません。


 でもここからは、声を大にして訴えるのです!


「わたしたちとコアードを戦わせ、ここで何を企んでいるのです!それに、この空飛ぶ地面!この場ですべて話してもらいます!ことと次第によっては……」


 ザっと構えるわたしたち総勢20名の学生杖ワンドです!


 なのに、怪人はびくともしないんです。


「え~っと、20人?2人いないけど?いいのかい、レンさんの『精神結合マインドリンク』でもなきゃ、この人数でも僕は倒せないと思うけど。」


 ギクリ、です。


 見透かされてます。


 なにしろリトやエクスェイル教官を初級術式「眠り(スリープ)」だけで戦闘不能にできる黒マント。


「眠りのスリープクラウド」を範囲拡大すれば、わたしたちのほとんどは抵抗できないでしょう。


 ですが、レンは断固として参戦拒否。


 彼女の術式なしでは各個に戦うしかないのです。


 わたしたちが得意な集団詠唱も、彼の無詠唱や簡易詠唱の前では無力なのですから。


 ならば威圧で話だけでも、と思ったのですが、一瞬で見破られてしまいました。


 しかし、勝機はわたしたち全員で総がかりできる今しかないのです。


 なのに。


「それに……だいたいさぁ、ここで僕に挑むなんて、キミたち、まさかもう安全、なんて思ってる?」


 今度はドキリ、です。


 まさか!?


 ですが、今、空中に浮いてる状態で、これ以上の怪異があるとは思いたくないのです。


「忘れたのかい?僕は霊獣の解放にやってきた。そして、前の時、封印された土地の周りで何が起きていた?」


 いやああ、って悲鳴を上げたくなったわたしです。


 だって頭に中に思い浮かんだのは、巨大なミ……とかゴ……とかの群れ!


 霊獣の霊力のせいで巨大化した生物たちです!


 もうあんなの見たくないんです。


 ホントは思い出したくもないんですけど。


「ま、地底湖や地表から離れてるせいで、そんなに多くは出現しないだろうけど……ほうら」


 そうです。


 黒マントが言うや否や、地表から、小さな塊が飛び出してくる光景が見えたんです!


「浮島に生息していた生き物……こんなに大きくなっちゃって。」


 巨大カニ、固そうです。


 巨大ヘビ、わたしなんか一飲みされそうです。


 巨大トカゲに巨大ムシ、そしてまた巨大ミ……もう話したくもありません!


 でも、そんなのがウジャウジャ……初めて見るみんなは、さっきの餓鬼やらタラスクに続いての出現に、もう大慌てです。


 いけません!


 でも、わたしも思わずミ……とかに動揺しちゃって。


「エスターセル女子魔法学園の諸君、さぁ、これが冬季実習の総仕上げだ!」


 そこで、なぜか大きな声でみんなに呼びかけたのが、黒マント?


 こんなことをするのは慣れていないらしく、いつものユルイ表情が消えうせ緊張してる様子です。


 なんだか新鮮ですけど、おそらくそれがかえってみんなには受け入れられたのかもしれません。


 目を塞いでいた子は目を開けて、へたり込んでいた子は立ち上がり、震えていた子も震えが止まったようで、一斉に彼を見つめるのです。


 わたしだって思わず背筋が伸びていたのです。


「これが実習最後の戦闘さ。さっきのタラスクみたいな強敵じゃないし、餓鬼のように精霊魔術の相性を考える必要もない、単純な敵だ。オマケにこの場所は魔力炉が危ないくらい、魔力が増幅する場所なんだ。さっきのコアードよりは強くて数は多いし、なかなか死なないヤツもいるだろうけど、落ち着いて、みんなで連携して、ちゃんと守れば大丈夫さ。頑張りたまえ。」


 そんな少し硬い、でも優しく心強い励ましに


「「はい、教官殿!!」」


 反射的に魔法兵式の敬礼を返してしまうわたしたち22名……なんでこんな怪しい人に?


 でも今はなぜか不思議じゃないんです。


 みんなもテンション上がってます。


 そして……なぜか両手を組んでうっとりしてるエリザさん?


「なんて生徒思いの、素敵なお方……」


 なんです?


 その浸ったカンジ?


 でも、リトも予備の長剣を抱きしめてニヤニヤ。


 レンに至っては赤くなってボ~っとなってます。


 あれ?アルユンまで?さっきまで、いつも赤い肌が青ざめて紫みたいだったのに、もういつも以上に赤い?


「さぁ、クラリス、クン。後は任せるよ。なにしろ僕はミリタリー音痴の万年二等兵だ。ここからはキミの仕事、しっかりね。」


 そしてわたしも。


 まさか直接この男にこんなことを言われるなんて。


 思わず、てへ、です。


「やれやれ、生徒に檄を飛ばすなんて僕の趣味じゃないね。いい加減疲れちゃったけど……ま、あと一仕事か。」


 確かに人前で話すのは苦手そうなこの人は、妙に疲れています。


 なのに、あと一仕事?


「……あなたは?」


「ん?知ってるだろ?僕がここに何しに来たか?」


 だけど、ここでその悪い笑顔!


 それを見ると、さっきとはまるで別人……まさか!


「あなたは、自分が霊獣の封印を解く邪魔をされないために……あの敵をわたしたちに押し付けるんですか!あれはわたしたちの足止めですか!」


 さっきの激励はとても心に響きました。


 一緒に戦った時は、心強いとも思ってしまいました。


 魔術だけじゃない。


 その博識も、わたしたちに投げかけた言葉も。


 でも、それは全部ウソ!


 すべてはわたしたちを利用するだけの!


 思わず涙が浮かびそう。


「この、悪辣卑怯な怪人!」


 なのに、この男は何も言い返さずに背中を向けたのです。


「……そうだよ。僕は卑怯者さ。」

 

 黒マントは顔も見せず、そのまま宙に浮き、飛んでいきます。


「パパぁ、ホントにフィアたち、行かなくていいの?」


「ああ。キミのママとの約束を果たすんだ。これは僕の役目だよ。」


「世界を賭けた道楽でござろう。どうせやるならうまくやるでござる。」


「やれやれ……すまないね。ここは頼んだよ。」


 フィアちゃんとサムライさんの二人は、一号車の上に座ったまま、飛び立った黒マントを見送っているのです。


 そして黒マントは浮島の前方に向って飛び、地表に向かって沈んで、ついに見えなくなったのです。


「クラリス、戦闘指揮を!」


「閣下ぁ!」


 シャルノとデニーが呼んでいます。


 わたしは一度だけ頭をふって、何かを振り払うのです。


 そしてみんなの元に駆け寄るのです。


「おい、お前。戦闘が終わったら話がある。」


 そんなフィアちゃんの声を背中に受けながら。




 全員、機甲馬車に乗車しているのですが、一号車は閉鎖中……そこで戦力の再編成です。


 ゴラオンも機甲馬もない今、油断はカケラもできません。


「各班は各自の機甲馬車へ。ただし死角から迫る敵を牽制する為にも外で戦う遊撃隊が必要です。白兵が得意な……シャルノ、リト、ジーナ!……他に」


 自分も、と思ったのですが、シャルノたちと比べれば剣技は劣る自覚があります。


 それに総指揮は……ふっとヒルデアと目が遭います。


 すると凛々しく笑うヒルデア。


「ボクが出るよ。戦隊長が総指揮。そこはぶれないでよ。」


 わたしの迷いを断ち切ってくれる一言!


 魔法騎士を目指し魔術と剣の双方を得意とする彼女なら安心です。


 あと、できればもう一人くらいは……でも。


「わたくしも、参りますわ。」


「いけません!」


 エリザさんは……だって、レリューシア王女殿下です!


 そんなお方に万が一のことがあれば!


 いえ、怪物相手の実戦では、いかに腕に覚えがあっても万が一どころではありません。


 危険です。


「いいえ、クラリス。ここは戦場であなたは戦隊長、ならば部下に命じることは一つ。わたくしはお客さんではありませんわ。」


 エリザさんがコートから抜き出したのは、細剣レイピアを一回り華奢にしたような剣、ドレスソードです!


 貴族の方々が儀礼用に帯びる剣ではありますが、実際は決闘に用いられることもあり、軽量細身で使いやすいんです。


 ただし固い相手には向かない……。


 ですがキラリと光るその輝きは……銀?


 いえ、真銀ミスリル!?


 わたしの未熟な鑑定眼では、その装飾も含めて金貨100枚くらいはしそうです。


 そんな宝剣を自在に振るうエリザさんの腕前は、確かにシャルノにも劣らない……。


「わかりました。エリザ!遊撃任務を命じます。でも隊長はシャルノだから、ちゃんと言うことを聞いてくださいね。」


 敢えていつもの「さん」づけではなく呼び捨て。


 その意味を知って怒るどころかニッコリのエリザさんです。


「感謝します、戦隊長。」


 きれいな敬礼をしてくださるエリザさんです。


 だけど、事情を知ってるシャルノとヒルデアの顔は真っ青!


 困った顔でわたしに助け船をもとめてくるのですが。


「……性別とか身分とか、それだけで戦う権利も認められないんなら、それはコアードたちと一緒です!」


 そう、この場合は逆差別っていうんでしょうか?


 わたしが女の身ながら学生に、兵士になることを頭から否定されたように、孤児のダン少年が子どもだから連れて行ってもらえないことを悔しがったように、王女殿下も身分が高いからって戦うべき時に戦えないのでは、悔い残る。


 そして、戦場にいながら彼女のような戦力を放置できるほど、わたしたちには余裕がない。


 なにしろ魔術も剣もおそらくはシャルノと同等な彼女ですから。


「彼女を戦わせることをためらって、他の生徒が死んだら、それはやはりおかしいんです……だから、誰一人死なないで、みんなで帰るために、みんなで戦いましょう!」

 

 エリザさんが王女殿下ということを知らないみんなは、王家に連なる公爵家の令嬢だと思っています。

 

 それでも彼女を戦闘から遠ざけたがっていたくらいですけど、それは彼女の実力を知らないせいでもあります。


「だからエリザさん、思いっきりやってきて!でも、ケガしたらダメです。みんなもよ。わたしたち、全員で生きて帰るんですから!これは命令!」


「「「「はい、戦隊長!!」」」」




「ならば、遊撃隊隊長の任、わたくしも全力で務めさせていただきますわ。」


 シャルノは袖に隠していた腕輪をあらわにするのです。


 その大きな宝玉が、炎のように光ります。


「あ!それは!?」


 そうです。


 あの三択ロースからのプレゼント。


 でも実習中に、しかもわたしたち7人以外の前で見せるのは!?


「みんなも随分魔力を消耗しています。特にあなたたち2班はまだ戦えるのが不思議なほど。それでも戦うからには……まあ、わたくしは『家宝』で済みますから。」


 なるほど、です。


 エリザさんの真銀ミスリルのドレスソードを見た後なら、伯爵令嬢ならこれくらい持っててもって思ってくれるかも。


「そして……紅炎剣プロミネンスソード!これがあれば、魔力も最低限度で再生不能の大ダメージですわ!」


 手にもったレイピアが炎に包まれます!


 そんな見事な術式に「さすがシャルノ!」「やっぱり一味違う!」とかみんな大歓声です。


 戦意は更に上昇!


 まさに炎の如く。


 なのですが、ゴラオンに乗っていたみんなは……


「クラリス、あれ、名前こそちゃうけど……」


「はい。おそらくはシャルノの趣味です。」


「でもあの術式は火炎剣ファイアウエポンなのぉ~♡」


「なんでシャルノが黒マントと同じ魔術を?」


 ……三択ロースからプレゼントをもらったのは、7人。


 わたしの指輪、リトの風切丸、デニーのメガネ、リルのマジカルペイントペンにレンのマジカルステッキ、そしてシャルノの炎の精霊力を宿した腕輪にエミルは……なんでしたっけ?


 まだナイショ?なんだか商会の債券だったような……。


 


 戦闘開始です!


 わたしはデニーに「集中コンセントレーション」をかけてもらいました。


 「平穏アタラクシア」の下位魔術ではありますが、意識が澄んで、思考がはっきりするのがわかります。


 そうでもしないと……頭の中の考えがグルグル回って集中できない。


「一号車は……閉鎖したままで。その代わり一班は手分けして他の班の支援を!エミル、ミュシファを二号車に。後は……」


 わたしたちのプレゼントのかなりが、黒マントには知られている?


「デニー、ジェフィ、三号車、四号車の戦況にも気を配って。気づいたことはすぐ報告して!」


 デニーのメガネの「平穏」も。


「リルとレンは遊撃隊の支援を中心に!魔力が少ないんだから、疲れたらもらったポーションで補充して!」


 シャルノの「紅炎剣」も、炎の精霊力のこもった腕輪のおかげ。


「エミル、ミュシファは近づく怪物を攻撃!」


 リトの風切丸は、あのサムライさんのカタナそっくり。


「いい、みんな。相手はムシとか爬虫類とかが大きくなっただけだから、特別な能力はないわ。落ち着いて、効率よく、連携して、戦って。機甲馬車の装甲はかなり丈夫だからね。」


 わたしの指輪のことも、知ってるような気がしたし……。


「シャルノ!一号車の死角にカニさんが向かったわ!お願い!」


 だから……きっと!


「みんな、もう少しよ!敵の数が減ってるし、逃げ始めたり同士討ちしてる!」


 そう!


 三択ロースは、黒マント!!


「でも、まだ手を緩めないで!魔力の少なくなった者は、弓矢でもいいから攻撃続行!」


 でも、わたしたちにプレゼントしたのは、なぜ?


 わたしたちが彼の敵に回ったのは偶然。


 その前になんでプレゼント?


 なぜわたしたちを知っていたの?


「敵が退却してます!遊撃隊、ムリな追撃は不要です!姿が見えなくなったら機甲馬車に引き揚げて……ええ、勝ちました!みんな、勝鬨よ!」


 あなたはダレなの!?


 アンティノウス・ジロー・アシカガ!


 


 もちろん、答える者はいません。


 ただ、みんなの勝鬨の声が、辺りに、そう、宙に浮いたこの浮島の上に響いている。


 そして、わたしもみんなと一緒に勝鬨を上げるのです。


 まだ夜は明けない。




「やっと来た。フィアは待ちくたびれたよ。」


 戦闘の後、負傷者の確認、休憩と見張りのローテーションなどは全てデニーたちに任せ、わたしは一号車に向ったのです。


 足元はいろんな怪物の死骸だらけ。


 なのに、二つの影は最初から小動もせず、風に吹かれて座ったままです。


「タイトはどっか行ってて。フィアはこの女に話がある。」


「女同士の話など拙者も興味がござらぬが……乱暴なことはジロー殿も許さぬでござろう。」


「何もしない!約束する!」


「フッ。」


 肩をすくめ、一号車の上からとびおりるサムライさんです。


 そのままどこかへと歩き去っていきます。


「よいしょ。」


 サムライさんと入れ替わるように、なんとか苦労して一号車の上によじ登ったわたしです。


 もちろんフィアちゃんは手伝ってくれるわけもなく、よたよた登るわたしを冷ややかにみてるだけ。


「こんなトコにも飛び上がれないの?ホント、お前はダメな生き物だな。」


 ……それは吉祥獣の中でも最高位の麒麟からすれば、そうでしょう。


 わたしだって人族の学生の身にしては、ちょっとしたものではあるんですけど。


 背中まで伸びた白銀の髪に、透き通るような真っ白い肌。


 本当に繊細な女の子。


 これが人族ではないなんて、なかなか信じられませんけど。


 ですが、その印象を撃ち砕くのは、強く紅く輝くその瞳。


 その紅い光が真っすぐわたしに向けられているのです。


 わたしは恐る恐る、彼女の隣に腰掛けます。


 少し高い視点になって、もともと宙に浮いた浮島ですが、更に遠くまで広がる星明りの下の雪原が一望です。


 わたしが座るまで、前を向いて足をブラブラさせて待っていたフィアちゃんは、やっぱり中身は幼いままなんだって感じさせます。


 一号車の屋根の上で、二人並んでわたしたち。


 するとフィアちゃんが前を向いたままポツリと話し始めるのです。


「パパは今、ゲンブを鎮めに行ってる。」


 って。


「ゲンブ?」


「……本来の吉祥獣霊亀としての在り方をゆがめられた、封印獣としての霊獣の姿。」


「ゆがめられた?」


「むぅ!」


 ひたすら聞いた言葉を繰り返すだけのわたしを、忌々しそうににらみながらも、いつものような罵倒の言葉を発しないフィアちゃんです。


 わたしには、それがかえって彼女の押し込めた怒りを感じさせてしまうのです。


「…………天界から引きずり降ろされ、その存在まで変成されて、人族に奉仕させられた。だから人族を憎んでるのは、ママだけじゃない!」


「え?でも、麒麟さんは、とても穏和な方で、最後も……」


 そう、とても穏やかな目でわたしたちを見つめて天に帰っていったのです。


「だから!それはママがパパを認めて許してあげただけなの!人界の功罪を裁く、それをパパに任せただけ!」


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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