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第19章 その9 集合、合体、箱入り娘!

その9 集合、合体、箱入り娘!


 コアード一党の黒兵士に達人の剣士。


 更にわたしの目の前には赤い渦が周りの妖気を飲み込みいよいよ実体化しはじめています。

 

 なのに、どうもさっきから気になってしまうのです。


「逃げるのは相変わらず見事だな。だが攻め手に欠ける。槍はどうした?」


「師匠に折られたよ、人相が悪くなったってね。自分で教えといて勝手なもんさ。」


 ガキィィン!


 リーチ曹長の鋭い長剣バスタードソードの一撃を、逆手で握る二本の短剣でかろうじて受け止めている黒マントこと、アンティノウス・ジロー・アシカガ。

 

 右のソードブレイカーと左のメイルブレイカー。


 自称ブレイカーズは見た目よりはるかに頑強で、リーチの長剣を受けきっています。


 ですが、短剣は呪符を刻んだ業物でも、リーチの剣圧を受けとめることはできず、次々と傷を増やす黒い怪人。


 いえ、怪人と呼ぶには今は普通の人にしか見えないのに。


「ほお。俺の剣を受け流すとはな。」


 受け流す?


 受け止めているんじゃなくて?


「だてに冒険者の先輩や師匠に鍛えられちゃいない。ま、昔のことだけどね。」


 この男、どうもただの違法魔術師ではないようです。


 ならば今回の騒動も、相当な修行をしてからの周到な計画的犯行でしょう、やっぱり。


「ほざけ。剣は止めても、剣風は防げず、傷が増える一方だ。術を使おうにも一瞬のスキも与えぬ。これが限界か?」


「歳のせいか無駄口が増えたんじゃないか?曹長殿。」


 カカカカカ!


 カキィィン!


 カカカカカ!


 連続する金属音は、わたしには見えないほどの剣撃を受けている証。


 魔術士であるわたしには、黒マントが己自身に「防御」などの支援術式を行使していたのがわかるのですが、その魔力の護りでも、剣風は防げず、右肩、左わき腹、左もも、右腕、右頬と次々と傷が増え、どんどん血が流れていきます。


「パパぁ!」


 フィアちゃんがさけんだのは、先ほどロードという少女の自害を妨げた時の右腕の傷が再び開き、大量の血をあふれさせた時です。


「来るなよ、フィア。キミは人族の争いに関わっちゃいけないんだからね。」




「クラリス、集中しないとだめなの!」


 レンです。


 目覚めたレンが、黒マントの戦いに気をとられるわたしを叱ってくれたのです。


 頭を振って意識を赤い渦に集中させるわたしです。


「機甲馬車は!?」


「班長!コアードの主力はさっき叩いたので、あれじゃ教官の『障壁』を破れませんよ。」


「こちらさん、どうも前の方々とは練度が違いすぎますなぁ。あんじょう戦えてません。」


「だから、クラリスとリトは召喚される邪精霊の眷属を押さえてほしいの。」


 それはわかっているんです。


 だから渦の前で待機してるんです。


 ですが。


「そろそろ詰んだな。短剣で受けに回って粘ったが、それだけだ。だが、しばらくぶりに10合以上剣をふるえたぞ。では…これで終わりだ、アント!」


「ちぃぃい!」


 長身のリーチがその長剣を両手に持って振り下ろします!


 見えない剣風を伴った一撃は、黒マントの二刀の短剣を撃ち砕き、なおも勢い余って彼をズタズタにしていくのです!


「ぐうううう!」


 ボボボロになって飛ばされ、それでもまだ倒れない黒マント。


 もう全身から血を噴き出していて!


 そこに振るわれるとどめの一撃!


「魔力矢!」


 思わず唱えた術式は、しかしあっさりと彼の長剣にかき消されます。


「術式を……剣で!?」

 

 しかも魔剣でもない。


 なんという技でしょう……。


「邪魔するな、小娘!」


 離れた間合いから、しかし繰り出された一撃の風圧は、ゴラオンをも揺るがし、吹き飛ばします。


 ですが……壊れていない!


 そう、その一撃を受けとめた人がいるのです!


「遅いよ、タイト氏。危うく僕もその子もお陀仏だったよ。」


「すまぬ。しかし、お主が出るにはまだ間があったはず。」


「……ゴメン。ガマンできなかった。」


「それであんなモノまで呼びだされた、と?……お主らしい。」


「こら、タイト!パパと仲良くするな。男同士のくせにパパのことを分かってる感出して、アヤシイんだから!」


「やれやれ、安心してよ、フィア。僕はそっちの趣味はない。なんで女の子ってそっちに話を持ってきたがるんだ?」


「娘心など、知らぬよ。」


 やせた男です。


 灰色の変わった服を着ています。


 足なんか冬なのにほとんど素足!


 なんだか細いロープで編んだみたいな変な履物。


 寒くないんでしょうか?


 でも……この人、見覚えがあります。


「あなたは『北西街の暴動未遂』事件のサムライさん!」

 

 異民です!


 ナゾの閃撃をふるう剣士!


 その手にもつのは、あの時の半曲刀サーベルではなく、リトが振るう曲刀を短くしたようなこれまた変わったショートソード?


「……ここは拙者に任せ、下がるでござる。」


 でもあんな強敵を任せていいんでしょうか?


 黒マントは武器もくだかれて……なのに当の本人はお気楽な顔。


 なんだかムカッ、ですけど。


「適材適所だよ。バトルジャンキーにはソードハッピーさ。それでみんなが幸せになれる。」


 仮にもお仲間らしい相手になんて失礼な言い様でしょう?


「ふっ。」


 なのに、そのサムライさんは一瞬さわやかな笑顔を浮かべ、飄々とリーチに向っていくのです。


 怪人とサムライ、確かにお互いわかり合ってる感、バリバリです。


 アヤシイです。


「拙者、タイト・アシカガ。サムライでござる。」


 細い目。


 細い顔。体格的には大きくないサムライさんは、やや短い曲刀を正面に構えます。


 でも……アシカガ?このサムライさん、怪人と同じ家名!?


「……リーチ特務曹長。」


 そして、さっきまで余裕で構えもしなかったリーチもまた、初めて長剣を構えるのです。


 その長身は2m近く、武器も長大なバスタードソード。


 その体格や間合いは圧倒的に有利。


 そして立ち上がる闘気はさっきとは段違い……。


 向き合い、互いに名乗るや次の瞬間!


 サムライが放つ線、いえ、閃が孤を描いてリーチに迫り!


 リーチが振り下ろした一撃が、剣風をまとってサムライを襲う!


 そこは閃撃が飛び剣風が吹き狂う危険な領域と化したのです!!




「前!」


 リト?


 あ!?いけません。


 いつの間にか赤い渦が形を変え、巨大な赤黒いモノになっていきます。


 機甲馬車よりもはるかに大きい。


 昼間の雪トカゲよりもずっと大きい。


 その黒い体の背には、トゲでびっしり覆われた甲羅。


 ワニのような六本の足。


 そしてその顔はヤマネコのように狂暴で牙をむき出し、わたしを威嚇します!


 意識をよそに取られていたわたしはその重量感に押され、自然に後ずさるゴラオンです。

 

 その時、その口から吐かれた息は……気味悪い灰色。


 毒息ポイズンブレス!?


 ゴラオンの装甲が……腐ってます!


 さっきの餓鬼といい、こいつといい!

 

 慌てて更にゴラオンを後退させ、肩の弩弓で牽制射撃。


 ですが背中に命中した短矢クォレルはあっさりと弾かれます。


魔力矢マジックアロー!」


 続いて放った術式もあまり効いたようには見えません。


 ちぇ、です。


 いえ、舌打ちはしませんけれど。


風切エアカッター!」


 そこにリトの術式が命中。


 リトは機甲馬の機動力を活かし、ヤツのブレスや手足の範囲に入らず、距離を保ち術式を、そしてスキを見るや接近して曲刀をふるうのです。


 その変わった刀の銘は雷切。


 彼女の愛刀とよく似た刀。


 その切れ味は、ワニのような厚いウロコとヒフをも切り裂いていきます。


 切り口からパチパチと見えるのは火花。


 雷属性のダメージでしょう。


「リト、さすがです!」


「んん。クラリスが散漫。」


 ……レンに続いてリトにまでお説教されたわたしです。


 いけません。


 奮起したわたしはゴラオンの大剣をかざし、リトに気をとられた敵の後ろに突撃!


 尻尾を切りつけるのですが……カィインという音とともに大剣は弾かれてしまうのです。


「わたしが未熟だから?」


 でもゴラオンの力と重量を叩きつけたのに!


「……武器。」


 武器……それは魔力を付与した武器でなきゃダメージにならないってことですか!?


 さすがは魔獣です。


 ようやく本格的な魔獣退治になった感じ、集中できそう!


「冒険者さんたちって、いつもこんな敵を戦ってるんでしょう?わたしも冒険者になった気分です。」


「強敵に燃える?さすが。」


「ええ、やっと班長らしくなってきましたね。」


「デニーはんも、さっきまでいらちでしたんに、ころっとほっこりしてます?」


「デニーもクラリスが気になってたんだ。あたいもだけど。」


「みんなが心配してたの。だからもっとしっかりしてほしいってレンは思うの。」


「ゴメンなさい。もう大丈夫。」


「……それはきっと、今、あの人が戦ってないからなの。」


 え?なんですか、レン?


 何を言われたのかわからないわたしです。


「ううん……教官殿。意見具申です。」


 内気なレンが教官に意見具申?


 特定の授業以外は質問すらできない子なのに?


「あの……休戦中のあの人に、ポーションを持っていきたいの。『敵の敵は味方』って習ったし、今は休戦中だし……。」


 しかも、あの怪人に治療!?


 まあ戦略的にも戦術的にも間違ってはいませんけど……レン一人じゃ危なくないですか?

 

 なんて言ってる余裕は、実はわたしにはなく。


 ブレスやら尻尾やらを避けながら、「魔力付与」した大剣をふるうのが精いっぱい!


 これが弐式でよかった。


 単座の参式だったら魔術を使う仕様になっていないから、ヒルデアみたいに一発で干上がっちゃいます。


「……なんだって?せっかく助けにきた仲間になんて失礼な!」


 え?


 ヒルデアの声がします。


 幻聴でしょうか。


 それともアルユンのつくる悪趣味な「幻術」でしょうか?


「ホントだよ。あたいら帰らしてもらうよ。」


 ええ?


 アルユンの声まで!?


「あなた方、苦戦して気が高ぶってるクラスメイトの失言くらいで目くじらたてないで。クラリスも、戦闘中だからって何でも言ってると、そのうちお友達が減りますわよ。」

 

 シャルノ!


「遅くなってごめんね。でもあたしらだって、こんな作戦さっき聞いたばかりで、これでも慌てて機甲馬走らせたんだから!」


 エミル!


 みんなきてくれた!


 でもどうして?


「やれやれ。おっさん、ようやくご登場か。いい身分だな、苦しいところは部下と生徒に、自分はおいしい所どりなんて、上司の鑑だね。」


「そんな上司なぞ、貴様の腐った脳内にしか住んどらん!…‥が、まぁ、囮役、よくやってくれた。」


「礼には及ばない。僕は僕で企んでるんだから。」


「パパ!言っちゃダメだよ。」


「おっと。」


 ……この男、悪だくみばかりの怪人のくせに、人をだますとか隠し事をするとか下手そうです。


 だけど、どうやら主任とこの男、わたしたちを最初から利用していたんじゃ?

 

 それも、ほっとけばあっさり言ってしまいそうなんですけど。


「アント。ポーションなの……痛くない?」


「ありがとう、レンさん。もう平気さ。」


 そのくせ、女の子の前で年がいもなくいい格好したがる……子どもですか?


 ですが、そこに響きわたる主任の厳しい声。


 いろいろ思うところはあっても、この数か月の軍人教育の成果で、思いっきり背筋が伸びてしまうわたしたちです。


「エスターセル女子魔法学園の全生徒に告げる。これは、我が学園と敵対する勢力との闘いである!演習ではない、実戦だ!敵は人族だが、野盗の類だ!生死は気にするな……と言いたいところだが、お前らにはムリだ。故にその無力化を心掛けろ。攻撃よりも防御を優先しろ!あの雑魚どもを引き付けてくれればそれでいい。」


 ホッです。


 さすがは女性差別主義者のイスオルン主任。


 わたしたちに人殺しをさせまいと、その武骨な物言いとは裏腹にこんな局面でも生徒を気遣ってくれるのです。


 もともとは戦場に女生徒を送り出したくないという点で、コアードとも通じていた方ですが、今は間違いなくわたしたちの教官です。


「ならば……主任!意見具申です!」


「クラリス戦隊長か……許可する。」


「実は……機甲馬車を見た時から考えていたことがあります!……」




 ガラガラガラ。


 二頭の機甲馬が勢いよく馬車を牽引します。


 その数は3両。


 それはわたしたち2班の機甲馬車に音を立てて迫るのです。


「各班、ゴラオン出撃!」



 

「一班、参式エミル、出撃!」


 親友のエミル。


 魔力量も充分だし、魔術士のくせに直感的なところもゴラオンの操縦には向いてるかも。


「三班、ファラなの~♡」


 ファラファラ……彼女の言動は常にわたしの理解を越えてます。


 でもたどった思考はわかりませんが、気が付けば結論はわたしに近い……こともあるのです。


 なんとかと紙一重的な才能かもしれません。


「四班、同じくピピュル、出ます。」


 ピピュルは、実はちゃんと話したことがない子です。


 もともとわたしは社交的な生徒ではなかったし、あの子もそんな感じ。


 クラスで3番目に背が低い、オレンジの髪の、レンとは違う意味で目立とうとしない子……。


 でも、ゴラオンの操縦は苦手じゃないみたい。


 わたしの指示で、各機甲馬車の後部格納庫からゴラオン参式が降車します。


 そして機甲馬車を護衛しながら、その位置を手で調整していきます。


「各班機甲馬、切り離して。機甲馬はそのまま小隊編成。隊長はヒルデア!お願い!」


 本来クラス委員長の彼女が戦隊長になるべき。


 でも戦闘関係はちゃっかりわたしに押し付けて、それでもわたしを支えてくれる。


 一班の機甲馬には、なんとエリザさん!


 その実体は、レリューシア王女殿下その人なんですけど、いいんでしょうか?


 ですが騎乗経験は豊富そうですし、非常時です!


 いいことにします。


 三班はジーナとソニエラ。


 クラス一長身で怪力の赤毛の戦闘種族ジーナはともかく、ソニエラ、大丈夫でしょうか?

 

 で、四班はヒルデアにユイのクラス委員コンビ。


 リトも入れて、合計6騎の機甲馬小隊は、後はヒルデアに一任、丸投げです。


「ええ?戦隊長、最低限の戦闘方針だけでも決めてよ?」


「はいはい、では機甲馬隊は機甲馬車の援護を。敵の黒い人たちがまとまって行動しないよう、牽制するのが役割。攻撃もあくまで牽制の念頭に。中には魔術師もいたけどさっきわたしたちが戦闘不能にしたはずだから……でも注意はしておいて。」


「了解だよ。」


 小気味いい返事のヒルデアを先頭に、鋼鉄の機甲馬は隊列を組み、黒兵士たち向かう様子が見えます。

 

 機甲馬で隊を組むのは初めてですが、9か月も戦闘訓練され共に暮らした仲間たち。


 もう息はピッタリ。


 その間もゴラオン各機が馬車を押し、丁度いい位置に固定していきます。


「1班、準備よろしいですわ。」


「3班、終わり。」


「4班、定位置確保。」


 3両の機甲馬車が2班の馬車と隣接しました。


 それはきっと上から見れば細長い棒がつくった正方形に見えるはず。


 そう、これは機甲馬車を連結してつくった鉄の要塞!


 そして機甲馬とゴラオンの機動戦力。


 わたしたたち魔法兵に足りない装甲と機動力を補った新しい戦術なんです!


「各車、固定!連結!戦闘態勢に入って!」


 車輪を固定し、窓を開き、鉄扉の一部を繋げます。


 ガシャン!という音をたて、4両の機甲馬車が連結します!


「クラリス、成功ですわ!今、各車両と連結終了。戦闘中も自由に行き来出来ます。」


「すごいです、班長閣下!これなら四方囲まれても防衛可能です!」


「すごいすごい!あたい感激!」


「ほんにまぁ、こないなぜんないもん、いつこさえたんやら。」


「なに浮かれてるのよ。こんなの外側だけ、どうせ戦うのはあたいら任せなんだろ!」

 

 アルユンを怒らせちゃいました。


 あの子はわたしを嫌ってるみたいで、いつもこんな感じ。


 でも「幻術師」の才能もあるしアイテム製作も得意な器用な子です。


「うん。ごめんなさい。でもその中からあくまで黒い兵士から身を守ることを優先して!指揮官はシャルノにお願い!」


「お引き受けいたします……ところでクラリス。この連結した機甲馬車、なんというのでしょうか?お名前はあるのですか?」


「えへ。実は考えてたんです。箱入り娘!」




「やれやれ、あんな風にするとはね。つくった僕もびっくりだよ。」


「……命名はともかく、兵器の運用としては、見事なものだ。」


「これでは教官の出る幕がありませんね。」


「…………。」


「どうしたんです、メル師匠?」


「なんだ、そこの犬みたいな小娘!パパを変な目で見て!これはフィアのパパだ。あげないし分けないぞ!」


「こら!フィア!ちょっと自分が成長したからって、しかも自分がうまく化けてるからって、人にそんな言い方しちゃいけない!」


「パパぁ……ごめんなさい。そんなに怒らないで。」


「じゃあ、いい子にしてるんだよ、フィア。で、セイ……そこの若い教官さん。レンさんを連れて箱入り娘とやらに戻ってくれ。」


「え、アント!?」


「確かにここは危険です。行きますよ、レンネルさん。」


「……おい、茶番はさておいて、教官一同を集めたのはなぜだ?」


「わかってるだろ。あいつは、大人が相手しないとね。ありゃヤバイ。生徒に任せてたら半分は、いや、下手すりゃ全員死ぬ。」


「知ってるのですか、怪人黒マントくん?」


「ワグ氏までその呼び方かよ……絶対超師、なんかやったな……こほん、あれはタラスク。別命、竜亀だ!でも……ここは亀とは縁のある場所でね。最悪、牛鬼うしおにに化けるかもしれないし、そうなったらほとんど不死身だ。」


「なんでそんな場所に連れ出した!」


「……そこは僕の都合かな。ま、一時休戦だし、責任がてら僕も手伝うよ。」


 おそらくは、これも酉さんの声寄せなのか、少し離れた位置での教官方……と黒マント……の相談が丸聞こえです。


 でも主任、怪人のこと知ってるみたいな雰囲気です。


 まさかやっぱりコアードの……いえ、いまさらイスオルン主任がコアードと組む訳がありませんし、怪人もコアードとは敵です。


 ならば、やはり単なる呉越同中なんでしょうか。


「クラリス戦隊長、ゴラオン各機を指揮し、敵大魔獣に対し前衛になれ!」


 ですから主任の命令にわたしは迷わず答えるのです。


「はい、主任!ゴラオン各機、敵大魔獣を包囲、教官方の盾になります!」


 魔術師である教官方のカベ役。


 それはとても重要な任務です。なのに


「おい、おっさん!生徒になにさせるんだよ!」


 怪人が猛抗議です。


 あの主任に真正面から?


 怖くないんですか?


 いえ、そもそもなんであなたがわたしたちの心配をしてるんでしょう?


「お前は過保護にもほどがある。あいつらは軍人として自分の役割を理解し、実践できる。」


「その通りです!女だから、生徒だからってバカにしないでください!」


 これでは怪人もコアードも、わたしたち女性が学生として、兵士として王国の為に尽くすことを認めないことではおんなじ。


 さっきは魔獣を呼び寄せて、散々戦わせておいて!


 この人が理解できません。


 なんでコアードと戦ってるのか……実は仲間割れですか?


 ……そう言えばこの怪人、あのリーチ曹長と昔馴染みのようですし、やはり信用できないんです。


 いえいえ、こんな怪しい人、一度たりとも信用なんかしてませんけど。




「ピピュル、ムリしないで後ろに回って。ファラファラは右、エミルは左。手足もだけど尻尾や背中のトゲもどう動くかわからないから気を付けて。」


「うん、わかった。」


「ブレスよりマシなのぉ~♡」


 そしてわたしが正面、ファラファラではありませんが最も避けがたいのがあの毒息ポイズンブレス


 いえ、装甲を腐食させたからには酸息アシッドブレスでしょうか?

 

 そんな警戒をするわたしたち。


 その機体が一斉に薄く白銀に輝きます……「防御プロテクション」・「回避ミラージュ」・「酸耐性レジストアシッド」……各種の支援魔術?


 あの怪人!?


「余計なお世話です!そんな暇や魔力があったら、攻撃に費やして!」


 ホントに、なんて過保護な怪人でしょう?


「ええ?あたしは助かるんだけど!」


 そう言って、竜亀タラクスの左中脚の攻撃を避けたエミル。


「そうよ~ファンからのプレゼントはちゃあんと笑顔で受け取らないといけないんだから~♡」


 スキをついて右前足に切りかかるファラファラです。


 でも、なんのファン対応ですか!?


「きゃあ!……あ?まだ動いてる?」

 

 そして尻尾の攻撃を受けてしまったピピュルのゴラオンですが、「防御」のおかげか、左肩の小破で済んだようです。


 でも、悲鳴はやはり「きゃあ」に限ります。


 いつもは目立たないピピュルもさすがに女の子、かわいい悲鳴をさせれば、人後に落ちないのです。


「クラリス様。それはさすがに自分の女子力不足に自覚がありすぎではありませんか。」


 うるさいです、この犬娘!


 そんな中、イスオルン主任とワグナス副主任の教官方は、思念を集中しつつ術式の詠唱です。


 お二人、少し離れた位置から強力な攻撃魔術で一気に仕留めるおつもりです。

 

 そしてメルと怪人の二人の中級魔術師は、熟達した無詠唱や簡易詠唱でわたしたちの支援です。


 でも……そう。


 この二人の術式、いえ、魔術師としての動きはそっくり。


 そして、その連携も完璧……。


 メルと同じ流派のわたしですら、実力不足のせいか、こうはいかないのに……ううん。


 あんな生意気なのと、一緒に戦ったことすらありませんけど。


 


 一方、遠くではサムライさんとリーチ曹長がまだ激戦中です。


 でも……サムライさん、押されてる?


「見事な腕だ。だが、そんな間合いではな!」


「……余計なお世話でござるよ。」


 確かに体格でも武器でも劣るサムライさんです。


 かろうじて技は互角でも、この間合いの差は致命的……せめてあの中途半端な曲刀がもう少し長ければ。

 

 長剣が振るわれるたびに起こる剣風は、次第に閃撃でも打ち消せずにサムライさんの体を傷つけていくのです。




「ヒルデア、左に回って!」


「わかってるよ、シャルノ。ボクに任せてよ。」


 連結した機甲馬車こと箱入り娘ですが、戦闘用の窓にも死角があります。


 中にはそこを狙って接近する黒い兵士もいるのです。


 しかし、ヒルデアたちの機甲馬小隊は、そんな敵を見つけるとすかさずその後背から術式を投射、さらには切り込んで混乱させます。


 そしてサッサと離脱。


 騎士志望とは思えないほど姑息な……いえいえ、柔軟な戦い方です。


 そして隊列を乱したところで機甲馬車から「眠りのスリープクラウド」やら「魔力矢」やら「火撃ファイアボルト」やらが飛んでくるのです。


 この流れも絶妙。


 さすがはシャルノ。


 堅実な戦術指揮は安心です。


「班長閣下、ですからこっちは気になさらずに。」


「うちらは敵さんも生かさず殺さずで、まがねの中からゆるりとやっとります。」


 これはこれでなんだか他の戦線との落差が激し過ぎ。


「ヒルデア……いい?」


「リト?どうしたんだい?」


「恩返し。」


「……わかんないけど、止めても聞かないよね?いってらっしゃい。」


「感謝。」


 リトもこの場は余裕と見たか、馬首を返して、別な戦線に向かうのです。




「ああ、もお、危ないだろ、キミは!」


 え?


 よそみはしてませんよ。


 ちゃんと距離を取りつつ戦況を確認していただけで……。


 バキィィィ!


 あ。いけません!


 いつの間にか……ちゃんと見てたんです。よそ見はしてません!……背中のとげがこっちを向いていて、飛んできて、慌てて左腕の大盾で防いだわたしです。


 盾は、半壊。


 もう使えません。


 わたしは盾を捨て、両手で大剣を握る操作をするんです。


 だけど、さっきから切ってもすぐ回復する手ごわい魔獣です。


 再生リジェネレーションがすごく早い。


 そんな時、黒マントは


「魔力付与か……でもそれよりは……へへへ、みんな、驚いて剣を落とすなよ。」


 なんて言いながら、その手袋に包まれた拳を突き上げたのです。


「……キミのツルギが真っ赤に燃える!ヤツを倒せと轟き叫ぶ!しゃあああくねつっ!『火炎剣ファイアウエポン!』」


 なんと、目の前の大剣が白銀に包まれるや、光がはじけて、その直後にボボ~ッと燃え上がる炎に!


 わっ、です、いえ、とっさに口は押えましたけど。


「これも術式なんですか!」


 だって今の前口上、ゼッタイ術式じゃありませんよね!?


 それにこんな術式も聞いたことがありません。


 うかつな推測はそれこそ魔術師たちの間で「炎上」を招きそうですけど。


 でも、この人、精霊とのコミュニケーションがろくにとれてないくせに、なんで炎の精霊系の術式(?)に詳しいんでしょう?


「きゃっ。」


「俺の剣が燃えとる。なにしてくれるんじゃ、自分!」


「すごいの~ファラもこの術式覚えてキャンプで使うの~♡」


 しかし、わたしも含め、ゴラオン隊でリアクションがかわいいのはピピュルだけみたい。


 それでも、この火炎剣で形勢はこっちが有利。


 火炎剣で切りつけられた跡は、簡単には再生しない!


 とは言え、暴れ回る六本の手足に尻尾、おまけにトゲは飛ばすはブレスは吐くわ……うかつに勝負を急ぐと危ないのです。


 やはり教官方の術式の完成を待つだけです!


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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