第19章 その7 現れた怪人
その7 現れた怪人
「不甲斐なぁいですねぇ、あなたらぁ、それでも我らが同志ですかぁ?」
「光」に照らされた真夜中の雪原。
そこに浮かぶ白い軍服姿のやせた金髪の男から発せられるのは、聞き覚えのある変なアクセントの声。
「義父上、前回のような精鋭ではないんだ。仕方ないよ。」
答えるのは、同じ意匠の服を着た、紅金の髪の少年……いえ!
「あれは……サーデガルド・ラーディス大尉にロード言うオトコオンナやありまへんか。コアードも人手不足のようで、同じ顔触れとは、はばかりさん。ようおいでやしたわ。」
あれは学園を襲撃した時の隊長格です。
元コアードのスパイでなくても、知ってるのです。
「あのリーチという男がいません。それだけでも随分助かりますよ。」
超人的な身体能力の半獣人メルを一方的に打ちのめす剣士。
デニーではありませんが、確かにあんなのはゴメンです!
「それ言うたら『大佐』がおらんのが一番です。あの方にはもう会いとうありまへん。」
「大佐」。
ジェフィが言うにはコアードの党首で、とても「怖い人」らしいのです。
あのジェフィが怖がるなんて、きっとトロウルみたいな人なんでしょう。
ですが、そんなに警戒してはなんだか、そう、却って「フラグ」が立ってしまうのです。
いつの間にか、黒づくめの兵士たちは態勢を二人を中心に立て直しています。
「さぁてぇ……私が来ぃたからには、もう無様ぁは許しませんよぉ!……ロードォ、使いなぁさいぃ!」
「はい。義父上……供物はこれに!」
そしてロードと呼ばれた、おそらくはわたしたちと同年代の少女は一瞬だけためらい、しかし次の瞬間!
「ええ?なんでなんで!あの子、自分の腕を!」
そうです!
その少女は右手に持った短刀で、肘から下の左腕を斬り落としたのです!
真っ赤な血しぶきが雪原を染めていくんです。
ですが、そのロードは、苦痛を噛み殺し、短刀を掲げ、
「飢呪の王よ……我が血肉を以て願いに応えたまえ!」
と唱えました。
「飢呪の王?……禁じられた邪精霊への祈祷ですね。あの短曲刀も、一種の呪術具なのでしょう。」
ワグナス教官の声です!
先ほどまでセウルギーヌさんになすすべなく倒されたためかお静かにしておられたのですが、さすがは魔法学園でも博識な方です。
或いは前回は敵の国宝級アイテム「星の願い」に魔術を無効化されたこともあって、いろいろお調べになったのかもしれませんけど。
タバとは、鎌状に湾曲した刃と球状の柄頭で、切断するために刃を振るうには最適の形状とバランスを実現した、南方の短刀だそうです。
その柄や鞘はブラックウッドという黒褐色の木でつくられています。
しかし、今わたしたちの目前で掲げられたタバは、その上に小さな黒い渦を生み出したのです。
それは、飛び散ったはずの赤い血を、そして落とされた少女の腕をいつの間にか引き寄せ、呑み込んでいくのです。
邪精霊への供物として。
そして邪精霊とは、精霊の中でも、遥かな古代から人族に忌み嫌われる精霊だそうです。
地水火風の四大精霊など我々が親しんでいる精霊とは異なり、人族の負の感情を糧とする存在……。
「ワグナス教官。そんなものに祈祷して、あの人たちは何をするつもりなんですか!?」
「……おそらくは、供物をささげることにより、邪精霊の眷属を召喚するのでしょう。封印された空間から召喚するには、魔力だけでは不足なのです……それは生命の…‥いえ、これ以上はあなたたちも知らない方がいい。」
どうやら学生の身では知ってはいけない知識に触れるのでしょう。
「あ、あの短刀、いつのまにか赤黒い……気持ち悪いよぉ……。」
「……くっ……あ!」
「……レン?どうしたんです、レン?」
いけません。
あの子はなまじ感応力がすぐれているので、何かを感じ耐えられなくなったのでしょう。
デニーが呼び掛けているようですが、ダメなようです。
「デニーはん、その子はしばらく休ましときましょう。今は……やくたいな敵さんのお相手が先です。」
く……残念ですが、ジェフィの言う通り。
機甲馬車の中は教官もいますし、残ったみんなに任せます。
そしてわたしは……星の光までもが赤くなった夜空の下、機甲馬車を守る位置にゴラオンを動かすのです。
赤い。
雪原も赤い。
気のせいか、空気まで赤くなった世界の中。
「何が起きるというの?」
そんな不安でいっぱいです。
ですが握った手袋の下から、青い光が透けて見えます。
指輪が光ってる。
あの、大きな碧玉が飾られた銀の指輪。
なぜかはわかりませんが、きっとこれがわたしを護ってくれる、そんな確信が、今はわたしの勇気の源泉。
「リト、うかつに飛び込まないで。」
リトの機甲馬が突撃のスキをうかがっているのがわかります。
ですが、今は黒づくめの集団は秩序をとりもどし、あの二人を守っています。
まだ、機ではないのです。
「……承知。」
いったんリトもわたしのところに戻ってきます。
赤い世界の中、雪が、いえ、その下の土が、形をつくっていきます。
それはわたしたちの周りを囲むかのように、無数の小山となります。
「なになに?」
「あきまへん。なんやらしょうもない予感しかいたまへん。」
「みんな、警戒を続けてください。あ!敵検知に引っかかりました……あの小山全部敵です!」
「召喚されたモノが、形になったのでしょう。ですが、形になったからには、あの雪と土の塊さえ壊せば大丈夫ですよ。」
要は壊せばいい。
ならばかえってわかりやすくて安心です!
「ですが、一人の人間の腕一本にしては、召喚されたものが多過ぎますね。」
それはかえってわかりにくいのです。
後にして下さい、教官殿!
ボコボコ!ボコボコ!ボコボコ!ボコボコ!……、
そんな音とともに、小山がついに邪精霊の眷属とやらの血肉になったようです。
指輪の光のせいか、平常心にもどったわたしからすれば、音はかわいいんですけど、できたものは……全然かわいくない。亜人?
「あれは餓鬼でしょう。この世界の下位に位置する地界の住人です!」
地界とは、異世界ではなく、あくまでこの世界の一部だそうです。
同じく、本来霊獣がいる天界は、上位の世界。
ですが、どちらの世界も普通はこの世界とは行き来できないのですけど。
一介の魔法学園の生徒には、正直どちらも手に余る、と言いたいところです。
餓鬼はゴブリンに似ていますが、もっと小さくて、額に一本角がある灰色の小鬼です。
やせこけて、お腹だけ変に膨らんで、しわくちゃなヒフ。
その醜さはゴブリンよりひどいかも。
そして、そんな餓鬼が、先ほどの黒づくめの兵士よりはるかに多くの数で無秩序にわたしたちに向ってくるのです!
もう、とっても気味が悪い!
わたしはゴラオンの大剣を水平に振るわせるごとに数体切断し、近寄る敵は大盾で防ぎます。
でも数が多い。
時々剣も盾もすり抜けてゴラオンにかみつく餓鬼!
背中から食べられてる!
慌てて振り落とすのですが、どうもその噛みつかれた辺りは装甲が弱って……腐ってる?
盾にもかみつかれ、噛んでる餓鬼を地面にたたきつけましたが、衝撃で噛まれた盾の角がボロって!
リトは機甲馬で踏みつぶしています。
そして長剣を振りかざすのですが、そのスキに機甲馬の脚をかじられて……機甲馬は馬と違って嫌がりも痛がりもしませんけど、その分リトが激怒して、でも切りかかった剣まで時につかまれてかみつかれて……あ、折れちゃった。
リト、なんだか泣きそう。
今日これで二本も折っちゃったし。
そしても、今度は「風切」で攻撃しつつ、機甲馬車の方へ一旦逃れるのです。
そこに馬車からちゃんと「魔力矢」「火撃」の援護が飛びます。
みんなの息はピッタリです。
でも「眠りの雲クラウド」はきかないでしょ、リル……。
「みんな、その調子で。」
「ですが……どっちにしても、数が多過ぎます!これでは……」
「デニーはん、あきらめ早いですなぁ。クラリスはんが側におらへんとなんやほいないわ。そないあかんたれやあきまへん。」
「そうそう。デニー、もっとしっかりしてよ。」
なんだかジェフィがデニーを励ましてるようです。
ジェフィがいいこと言うなんてなんだか新鮮(少しうさんくさいくらい)。
リルもああ見えてさすがは最年長者、しっかりしてるし。
レンは……心配ですが、今はみんなに任せるしか。
「クラリスくん、ここは『地の妖精』もうまく働かない空間になってしまいました。『水の精霊』も怪しい。精霊系の術式は風か火がいいでしょう。機甲馬車は任せてください。あなたとリトくんは、行動をそのまま一任しますが、くれぐれもムリせずに!」
そしてワグナス教官です。
戦闘そのものは苦手分野のようですが、知識や魔術は何と言っても上級魔術師です!
大きな魔法円が浮かぶや馬車全体が白銀の光に包まれ「障壁」で覆われたようです!
その強固な魔力の防壁の前では餓鬼たちも跳ね飛ばされてます。
「ん。すごい。」
「うん、後はもう少し粘って、数を減らしたら、教官と連携して、あの二人を!」
できればわたしたちもあの「障壁」で守ってほしかった、なんて弱音は隠し、もう一度左中指を見るのです。
その微かな青い光を見ると、なぜだかとっても安心します。
しばらくの間、わたしたちと餓鬼の一進一退が続きます。
いえ、そう見せます。
「ええ、もうしばらくです。」
「……ワグナス教官、何かお考えがあるんですか?」
「まあ。それにここで力を使いはたしては、残るコアードたちに無力になってしまいますし。」
「ですが、班長、教官殿。ポーションも残り少ないですよ。」
「まあまあデニーはん。クラリスはんも。亀の甲より年の劫言いますし、教官のお考えに従いましょう。」
まったく、こんな時でもおもねる相手には素直なジェフィです。
信用していいんでしょうか?
いえ、ジェフィではなく、ワグナス教官を信用しましょう。
わたしたちのクラス担当官で、鬼の副主任を補佐するいつも穏和な副主任。
「戦闘には優柔不断で、術式を出し惜しみしがち。ジェフィなんかでもすぐに信用するお人よしで、そのうえセウルギーヌさんに一撃で気絶させられた方でも。」
「…………。」
「クラリス、声に出てる。」
「ええ!?……失礼いたしました!教官殿!」
なんて大失態!
これが主任相手ならどんな懲罰が待っているやら。
なんとかワグナス教官にお許しいただき……さすが人がいい教官ナンバー1なんです……戦闘に集中してるわたしたちですが……。
「く……『風切』!」
リトが苦戦してます。
リトにはわたしの小剣を預けましたが、馬上では長剣ですらリーチが短いのに小剣では気休めにしかなりません。
温存していたわたしの魔力回復薬を渡し回復はさせましたが、術式と機甲馬だけではどうしても餓鬼の接近を許してしまうのです。
また脚がかじられそうになって、「風切」って……あれでは彼女の消耗が激しくて、持久策は難しい……。
ひゅうううう。
ぱし!
「え?……リト?」
「ん……助太刀?」
そんな時、苦戦していたリトの元にどこからか刀剣が飛んできたのです!
それをつかむや、迷いもせずに鞘から抜き放ち、敵を一閃すると、まるで雷!?
数体の餓鬼が火花を散らしながら両断されるのです!
「銘は雷切……。」
それは、リトの愛刀「風切丸」によく似た拵えの曲刀なんです。
「ん、感謝。」
あの曲刀には「保護」でもかかっているのか、餓鬼に触れても腐食する恐れはないようです。
嬉々として「雷切」を振るうリトは、一閃ごとに餓鬼を切り捨て、機甲馬を走らせるその姿はまさに無敵にして無双!
「いいのかい、自分の刀を?」
「作ってくれたお主の許しを得ず、勝手な振る舞い。申し訳ない。」
「いやいや、そんなことは気にしちゃいない。ただ自分でもまだ碌に使っちゃいないのにって思っただけさ。」
「……うむ。しかし、己にふさわしい刀を持たず、故に思うがままに戦えぬ。そう苦しむさまは見ておれんのだ。」
「それ、自分に重ねすぎ。ま、いいさ。もともと今日一本折ったのは僕だしね。」
「パパぁ、退屈だよぉ。いつまでこんなの見てるの?」
あ?
今のは……また酉さんの声寄せでしょうか?
酉さん、また勝手にいろんな声をわたしに届けて……なんのつもりなんでしょう?
さすがはナゾのモノノケ、意味不明です。
そんなこんなで、随分敵の数も減らしたのですが、今だその数は多数。
おまけに目指すコアード一党は「高見の見物」状態で、なんだか癪に障るんです。
「どうです、みなさん。まだ戦えますか?」
「はい、教官殿。わたしとリトはまだまだ戦えます!」
「はい。私たちもです!ただ、ポーションはあまり残ってませんけど。」
「デニー、また弱気だよ!」
「そうですわ、リルはんから『魔力供与』受けたらよろしいんです。」
「そうそう。でもジェフィ、あたいに『はん』なんかつけなくていいから。リルって呼んで!」
「……それはうちのガラやありまへん。」
リルの無邪気な攻撃にはジェフィもたじたじ。
まあ、機甲馬車もまだまだ平気そう。
しかし……遠くから見かける「大尉」と「少女」。
ロードと呼ばれる少女は切断した腕に包帯を巻かれただけで「治癒」をかけられるまでもなく放置状態。
心配じゃないんでしょうか?
仮にも父娘なのに?
「このままではぁ、せっかくぅ呼び出した眷属もぉ全滅ですねぇ。ロォドォ~……もっと肩口から切ればぁ、大物が呼べたのではあぁりませんかぁ?」
「……義父上……申し訳ありません。」
なんですって!?
「ではぁ……もう片方もぉ切っちゃいますかぁ?ああ、片腕では自分で切れませんかぁ?ですがぁ自分で供物をささげないとぉいけませんから私がぁ斬るわけにもぉいきませんしねぇ?」
「承知しています。今度はこの、俺の足を捧げます。」
「ああ、健気なぁいい子ですねぇ、あなたはぁ。無事にぃあいつらを殺したらぁ、治してあげますからねぇ。」
なんて親子!?
いいえ、本当に親子ですか!?
自分の子どもになにをさせるっていうんでしょう!
許せません!
わたしは迷わずゴラオンの車輪を起動させるんです。
突撃です!
「クラリス?落ち着く。」
スキができたゴラオンに向かう餓鬼を、リトが斬り捨ててくれます。
それには感謝です。
でも目の前を塞ぐ機甲馬。
わたしを止めたリトの判断は正しい……今突撃しても……。
「……だけど!」
あの「大尉」とやら、許せない!
このままでは、あの子は今度は自分で足を切り落とす!
ギリギリ。歯噛みするわたしなんです!
どおおおおおん!
轟音とともに、何十という炎が舞い上がります。
高く燃え上がる炎は無数とも思えた餓鬼を焼きながら空へ運び、そして地に叩き落すのです。
「『火柱⦆』さ。昔とは言えちゃんと目の前で見せてもらったから今でもすぐ唱えられたんだけど……やれやれ。僕も修行が足りないな。まだ出番には早いのに。」
あたりにいた餓鬼は、ことごとくその火柱で焼き尽くされ、地面にたたきつけられ、殺しつくされたのです。
わずか一瞬で!
そして、炎が消え、煙りの中から現れた、その声の主は!
「あなたはシーフさん!?」
そう。
その男は、さっきわたしたちを裏切った謎の男。
そしてその傍らにはセウルギーヌさんも!
なんであのシーフが、わたしとコアードの前に?
「あなた方は、コアードに雇われたんじゃ?それになんで魔術を、しかもあんな強力な……」
あんな魔術は見たことも聞いたこともないのです!
それはおそらく、わたしたちが所属するヘクストス魔術協会では未知の術式。
「……お前、バカだろ?」
「こら、人にそんなことを言っちゃんいけない。ええと、クラリス、クン。ホントに気づいてない?」
気づくって、何をでしょう?
なんでコアードに雇われた泥棒さんがコアードの邪魔をして、しかもこんなに強力な魔術を使うなんて、わからないことだらけです。
もう、首を振るしかできないわたしなんです。
「うわぁ……この女、天然だ。」
「だからダメだって……でも、そうか……ならば!」
そう言って、そのシーフ、パルシウスは芝居っけたっぷりに大仰な仕草で身をひるがえすのです。
そこでなぜか高笑い?
「ハハハハハ!ある時はミステリアスシーフ!ある時はマッドエンジニア!ある時はクレイジーアルケミスト!そしてまたある時はイリーガルソーサラー!……しかあぁし、その正体は!」
正体?
びっくりです!
「あなたはシーフのパルシウスではないのですか!?」
なのに、周りから聞こえる仲間の声が?
「クラリスはん、それ本気で言うてます?」
「まさか。あれだけ私たちに警戒を促しておいて。」
「ん。」
「ええ?あたいもわかんないよ?」
「……リルは仕方ないけど、クラリスはあの人が絡むと感情的になってホントに気づいてないってレンは思うの。」
「レン?いつ気がついたのですか?」
さっきまで意識がなかったのに、目覚めたらもう?
「だから気づいてないのはあなただけなの。」
「……ええと、いいかな?続けても?」
そんな声の方をふり向くと!
そこには、黒いシャツに黒いマント!
それにユルイ表情の男が!
「その黒い髪に瞳。何よりそんなふざけた表情はあなたしかいません!…‥‥あなたが怪人黒マントだったんですね!」
どて。
なのに。
わたしがせっかく大真面目に反応したのに、その男はなぜか転倒しています。
どこまでふざけた人なんでしょう!
「なんでそんな名前になってるんだい?ホントに記憶がどこでどうなってるやら。後で超師に文句言ってやる……僕はジローだ。アンティノウス・ジロー・アシカガ!」
「パパ、だからこんな女に構うのはもう止めようよ。」
パパ?
セウルギーヌさんが、黒マントをパパって?
「黒マント、あなたには何人娘さんがいるんですか?それとも……まさか違う意味のパパなんですか!?」
まったく、男はみんな狼族類なんです。
それでもセウルギーヌさんはわたしと同年代。
30歳くらいに見える黒マントなら娘でも奥さんでもおかしくはないけれど。
「だから、ホントにお前はバカ女だ。まだ気づかないなんて。」
ですがセウルギーヌさんは、その金の髪を引きちぎり(!)、顔をゴシゴシこすって。
「これでわかるだろ!」
そこにいたのは、白銀の髪に、紅玉のような瞳をした、ですがやはりわたしたちと同じ年代の少女です。
「……あなた、フィアちゃんのお姉さん?あなたもサクメイ、白麒麟なんですか?」
「バカバカ、もうバカしか言葉が出ない!あたしがフィアだよ!」
ええ?
だってこの前会った時は、まだ8歳くらいで!
ですが、黒マントはそのフィアちゃん(?)の頭を優しく撫でながら諭すのです。
「それはわからなくてもしかたないさ。僕だってまさか一週間かそこらで倍も成長するなんてびっくりしたんだから。」
「だって、フィアとパパの時間は大切なんだから、早く大人になんなきゃって……大人のフィアはキライ?パパ?」
「そんなことはないよ。大きくなったフィアはとってもきれいで、かわいいよ。ただ、僕としてはもっとゆっくり大人になってもよかったんじゃないかなって思ってるだけさ……。」
そこに「パパァ」と甘え抱きつくフィアちゃん……ですが以前と違って年頃の娘姿で抱きついているのを見ると、なんだか……なんだか?
「おっと、いつまでもこんな話をしてる場合じゃなかったね。」
そして。
それまで、フィアちゃん(さん?)と話していた黒マントは、しかしその表情も態度も一変させます。
「おい、ラーディス大尉……きさま、その子をどうした?その子は確かに妖精族の血は引いているが、ロデリアさんとは無関係だぞ。」
その声。
それはさっき吹き上げた火柱で熱くなっていた空気を、一気に、まさに冷え冷えとした空間に変えたのです。
その中心にいるのがアンティノウス。
なぜか、その姿から、一挙一動から目が離せないわたしです。




