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第4章 クラリスの反抗期と「飛行事件」 その1 クラリスの反抗期

第4章 クラリスの反抗期と「飛行事件」


その1 クラリスの反抗期


 2学期が始まって2日目。それは光害事件の翌日という意味です。


 朝、寮の部屋で制服に着替えているとルームメイトの声がします。


「・・・クラリス・・・早起き?」


「起こしてごめんなさい。リト。昨日の一件で学園長に呼ばれています。急いでるの。」


「大変・・・zzz」


 リトはまた寝てしまいました・・・今日は少し遅い始業ですが遅刻しないでくださいね。


 わたしは身支度を整え終ると、急いで学園に向かいました。


 学園長室・・・入るのは初めてです。一生徒の身としては、気が重いです。


 わたしは一つ息をついて、覚悟を決めてノックしました。


「クラリス・フェルノウルです。」


「どうぞ。」

 

 セレーシェル学園長の少し低い、落ち着いた声がします。


 わたしは失礼のないように、ドアを開けて入室します。ですが・・・。


「あら・・・あなただけですか?」


 なぜか不思議そうな学園長です。


 そんなお顔でもとてもきれいで、いつもの紫色のスーツが赤い髪にお似合いです。


 コサージュまであつらえて、今日はおしゃれしてます。


「クラリスさん。叔父様は?一緒じゃないの?」


「・・・なぜわたしと叔父様が一緒に来なければいけないのですか!?」


 わたしは子どもじゃありません!叔父様とべったりだったのは子どもの頃です!


「それは・・・あなた、何も聞いていませんか?」


「・・・何をですか?学園長?」


 学園長が困っている様子ですが、そんな時にノックが聞こえました。


「フェルノウルです。入ります。」


 そのまま返事も聞かずに叔父様は入室しました・・・失礼です。


「フェルノウル教官・・・クラリスさんを一人にして、危険ではありませんか!」


「へ?それは誤解だ。ちゃんと寮から学園長室まで見てましたよ。今トイレに行っただけで・・・。」


 そこで叔父様も困った顔です。そして学園長がもっと困った顔になりました。


 この「困った」連鎖は何なのでしょう?・・・さては


「・・・何かわたしに隠してますね!」


 叔父様がこんな顔をするのはわたしに隠し事をする時です。


 ウソもつけないくせに隠し事はしようとするので、だいたいすぐばれるのですけど。




「では叔父様が教官を引き受けたのは・・・わたしのせいなのですか!?」


「それは違う。僕は・・・。」


 それはウソの顔です。珍しくわたしにウソをつこうとしましたけど、確か「もろバレ」というのです。


「フェルノウル教官。事情はきちんとお話しするべきです。」


 セレーシェル学園長は、叔父様に対し、やんわりと、しかし毅然と言います。


 そして直接わたしに「事情」を話してくれました・・・。

 

 それは、ある人たちが、あの怪眠事件を独自に調べた結果、現象が起こった時間に魔法を使う可能性が一番高いのが魔法学園の生徒であるわたしではないか、という推測を立てたというのです。


 確かにあの日走り回ったわたしが一番目立った気がします。


 もう少しちゃんと調べてくれれば「エクセスの怪人(ジャミル談)で奇人(エミル談)で変人(リト談)」である叔父様に着目したのでしょうけど。


 実は夏休み中も、わたしはその人たちに監視されていたとか・・・。


「気がつきませんでした・・・。」


「あなたの叔父様がいろいろ手を尽くしていたのです。」


 そう言う学園長に対し、叔父様の態度の失礼なこと。


 事情を話されて、あからさまに不愉快な様子です。


 不貞腐れて脇を見て、足をくんでいます。子どもですか。


「そして、叔父様は学園に事実を話してくださいました。」


 叔父様の態度を気にせず、話し続ける学園長は、大人です。見習ってほしいです。


「我々としても事件の真相を広めたくありませんし、何よりクラリスさんの安全確保も大切です・・・それに・・・」


 と、学園長は叔父様を見つめます・・・あれ?


 大概の女性が、叔父様に対して決して向けない、好意的な視線に感じるのは気のせいでしょうか?


「あなたの叔父様を、野に放っておくのは少々・・・。」


「物騒だって?やれやれ。人をなんだと思ってるのやら。」


 それは怪人で奇人で変人でしょう、普通は。あるいはひきこもりの穀つぶしとか。


「くすっ。素直にもったいないのですよ。」


 ・・・セレーシェル学園長が、今、叔父様に笑顔を向けました・・・ありえません。


 叔父様に対し、そういう態度を見せる女性は・・・しかも大人の・・・初めて見ました。


 これは、あのエスターセル湖にいるという噂の湖の主を見つけるより難しいです。希少生物です!


「まあ、そう言う事情で、叔父様には本学園の教官・・・と言っても講師ですけど。そして・・・クラリスさんの警護のお手伝いをお願いしたのですが・・・。」


 わたしは首を振ります。そして


「叔父様は・・・わたしに何も教えてくれませんでした。」


 叔父様を見つめます。叔父様はバツが悪そうにしています。


「昨日も、学園に隣接した家屋から授業の様子を監視している者が確保されました・・・フェルノウル教官が見つけてくださって。あの『光』の術式も、本当は監視員を捕まえるために行使なさったのですね。」


「外部からの魔法干渉を妨げる学園が監視されたのですか?学園長?」


「それが、魔法ではなく、遠眼鏡を使った古典的な手段だったので、わたしたちも盲点を突かれたの。」


 ・・・遠眼鏡で見ていた人にあの「光」を見せたのですか?他人事ながら、目が大変そうです。


 つい同情してしまいました。


 その後は、昨日の「光害事件」の顛末を改めて報告することになりました。


 この後シャルノたちクラス委員にも聞くそうです。


「すみませんでした。学園長。叔父様もちゃんと謝ってください。」


「・・・ゴメン。」


 わたしは叔父様の顔を両手でつかみ、理事長の方を向けさせます。まずそこから!


「生徒たちにはちゃんと謝れるのに、学園長にはできないんですか!叔父様!」


 続いて、叔父様の正面に立って、詰め寄りました。


「・・・・・・・・すみませんでした。以後気をつけま~す。」


 本当に35歳ですか!?ただの子どもです、まったく。


「いいえ。フェルノウル教官にはこれからもご尽力いただきますから。お気になさらず。それよりも、お二人、本当に仲がよろしいのですね。」


「そんなことはありません!」


 わたしは思わず立ち上がり「気をつけ」してしまいました。顔が赤い自覚があります。


「くすっ。」


 また学園長の笑顔・・・。なぜか、気になります。


「まるで、叔父と姪以上の関係みたい。」


 わたしは絶句しました。頭が真っ白で。それはいったいどんな関係なのでしょう?


 怖いです。想像することすら・・・。ですが、いいえ。本当は・・・。


 でも、わたしが固まっていることには全く気付かず、叔父様は平然と答えたのです。


「それって、この子が僕の隠し子にでも見えたってことかい?」


 ・・・・・・。


 その返答は「予想の斜め上」というのです、叔父様。


 セレーシェル学園長の上品な笑い声が聞こえます。そして不思議そうな叔父様の顔。


 次の瞬間、わたしはその場にいたたまれなくなって、学園長室を飛び出しました。


 その日から、わたしは叔父様と口を利かなくなりました。



 あれから3日後。今は、5時間目。魔術原理の授業中です。


 前回の事件があったにもかかわらず、なぜかみんな、叔父様に好意的な授業態度です。


 それが無性に腹ただしく感じます。なぜでしょう?わたしは子ども扱いされたままで・・・ですから


「ええと、次の構文を・・・フェルノウルくん。」


 無視します。するーです。


 「あのっ・・・フェルノウルくん?」


 カンムシなのです。目も合わせません。

 

「クラリス・・・ちょっと授業中のご指名よ?」


「うん。さすがに不自然。非礼。」


 クラス中の視線がわたしに集まりますが、気にしません。


 メルが楽し気に笑っているのが、わたしを一層頑なにします。


「教官殿!クラリスは喉の調子が悪いので、代わりにわたくしに読ませてください!」


 シャルノ・・・・普段ならありがたいのですが・・・でも、あなたもなんでそんなに叔父様に笑顔を向けるのですか!


 なぜかイライラが倍増します。


「いいえ、シャルノ。わたしの喉は正常です。」


 エミルとリトが顔を覆っています。周りのクラスメイトはザワザワ・・・。


「今の、めっちゃひどいよ、クラリス。シャルノがせっかく・・・。」


「うん。最悪。」


 心の中で謝ります。みんなに。特にシャルノに。でも、今は自分でもどうしようもないのです。


 これ以上ここにいては、もっとイヤな自分になってしまいそうで、だからわたしは立ち上がって、講義室から出て行くことにしました。


 みんながわたしを呼び止めます。ですが止まれません。


「えっと、クラリス?」


叔父様の戸惑った声がします。いい気味です。もっと困ればいいのです。ですが


「メル。クラリスを保健室に連れて行ってあげて。」


「はい。ご主人様。」


 ムカッ、です。半獣人になんて付き添われなくても平気です。わたしは大人なのです!


 わたしはそのまま走りだしました。そして慌てたメルが追いつく前に、玄関から外に出ます。


 これでもわたしは、運動神経はいいのです。


 2年生の進学で魔法騎士への転科を誘われているくらいで、足だって速いのです。


 いくら半獣人でも2本足で、これだけ距離があれば追いつけません。


 そして、わたしは誘拐されたのです。



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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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