第17章 その3 訪問の日
その3 訪問の日
ここはエクサスの共同墓地の傍らにある、林の中。
地面には冬にも関わらず下生えが生い茂り、多少はこの人たちの足の痛みを和らげているでしょう・・・叔父様は甘いんです!
だから、今は、少し離れた場所に移動してもらっています。
向こうで心配そうに見てますけど今だけは放置です。
こっちはこっちで決着をつけなくてはいけないのです!
「・・・で、あなたたち、何か言い分はあるのですか?」
わたしの前には、そうそうたる面々が正座しています。
「ない。」
いつも通り、淡々と答えたのはリト。
ですが黒曜石のような瞳は、親友のわたしからそらされています。
この子は教室からずっとわたしを追跡してきたんです!
よくもまぁ・・・しかも「転送門」を使ってまで!
「それはクラリスの様子が気になってたからですよ。」
デニーはリトと「魔伝信」で連絡を取り合って、指示を出していたようです。
つまりはリトの情報に基づいて、みんなをここに誘導した張本人。
あの曇ってすりガラスのようになったメガネをかち割ってやりたい衝動に駆られます。
「だから、そんなめっちゃ怒んなくても・・・。」
窮屈そうに身をかがめ、普段は笑顔を浮かべている顔を俯かせているのはエミルです。
あんなにきれいな顔で情けないトホホな表情をするのは資源の損失ではありますが、だからって許したりはしないのです。
「・・・レンはア・・・フェルノウル教官が心配だったの。」
このメンバーの中で、レンはただ一人不満そう。
かわいい顔でムスっとしてます。
いつもはわたしになついてるのに珍しいんです。
でも叔父様がからむとちょっとだけ反抗的な時があったかも。
いろいろお年頃なのでしょう。
「ゴメンゴメン。あたい反省してる。だから許して、クラリス、ね?」
リルはこんな時でも明るく無邪気です。
だからといって、いつもそれでわたしの怒りが収まるわけでもないのです。
だいたい正座しても、その童顔に似合わない立派な胸が、なんだかとっても気に障るのです。
思わずにらんでしまうと、さすがのリルも口をつぐむのです。
そして・・・
「・・・あなた、わたしの尾行なんかに付き合って・・・クラス委員自らなにやってるんですか!みんなを止める立場でしょうに!学園から抜け出したりして処分が下ったら家名に傷がつきますよ!」
まさかのシャルノまで!
そのシャルノは、背筋をピンとたてたお手本のような正座姿です。
恐るべし伯爵令嬢・・・いえいえ、そんなことで感心なんかしてられません。
「クラリス、何をおっしゃるやら。真っ先に学園を抜け出したあなたにそんなことを言われる筋合いではありません。あなたなんか、『飛行事件』の時で既に授業抜け出し・学園脱走の前科があるではありませんか。」
ぐっさぁ!
その言葉はわたしの古傷を的確にえぐります。
さすがはクラス一の美少女で優等生、レイピアの使い手で認定魔術師レベル5なんです。
「それはそうですけど・・・だからって、あなた方まで学園を抜け出すなんて・・・なんでみんなを止めなかったんですか!」
そうです。
わたしの処罰は覚悟してます。
でもみんなを巻き込むつもりなんて全然考えてませんでしたし。
「それは大丈夫ですわ。行方不明の教官と生徒の捜索ということで、正規の許可は得ております。メル助手を通して、学園長やワグナス教官からお許しいただきました。」
メル!
叔父様の指示で自らが動けないから、わたしたちを使って叔父様を捜索するとは・・・あの子らしからぬ策謀です。
叔父様のためならなんでもできるあざとさ。
さすがは半畜生・・・心の中でそうメルをののしるわたしです。
そして、その間に、シャルノの口舌に勢いを得たのでしょう。
「だから、わたしたちを案じて怒ってるなら、そんな心配はいらないんですよ。」
デニーが言い出すと
「ん。だからこの扱いは不当。」
リトは正座の刑を抗議しはじめ
「そうそう。あたいもう足が痛くて。もう赦してよ。」
リルはいっそう無邪気に解放を要求し
「・・・レンは教官が心配なだっただけなのに。」
レンはさらに反発を強めるのです。
さすがに反論に窮するわたし・・・ですが
「だいたい自分じゃ、こんなところでフェルノウル教官といちゃいちゃしてたくせに・・・」
ギロ。
その一言をつぶやいた直後、エミルの口はシャルノとリトに塞がれるのですが、それはもう手遅れなのです。
デニーはもちろん、無邪気なリルも反抗的だったレンも、この事態に気づき、顔面蒼白。
そして、わたしは怒り心頭の極致なのです!
「・・・要するに、みんなでわたしたちをノゾイテいたんですね・・・捜索という名目で、こんなところまでやってきて・・・ノゾキ!」
「ち、ちがいますわ!」
「誤解!」
いいえ、碁会もロッカーもありません!
結局、わたしの怒りは収まらず、さすがに不穏な気配を感じた叔父様が仲裁に入るまで彼女らの正座が解かれることはなかったのです。
「よくわかんないんだけど、学園長が許可したんなら、いいじゃないか。わざわざ学園の『転送門』の使用許可を出したくらいだし、任務扱いなんだろ。」
うんうんって、叔父様の言葉にそろってうなずく笑顔いっぱいの仲間たち。
なんだか面白くないんですけど。
「で、どうする?キミたちは昼食はすんでるんだろうけど、クラリス、クンはまだなんだ。学園に帰るにしても昼食くらいは・・・」
「フェルノウル教官殿!それに関しては、学園長から文書を預かっております。こちらをご一読ください。」
シャルノが差し出す羊皮紙を見て、叔父様はイヤそうなお顔です。
「最近の学園長、どうも信用できないんだよなぁ・・・先日の僕の謹慎だって裏がありまくりで・・・ホ~ラ。」
そして、読んだ後は書類をヒラヒラさせて、あきれ顔。
「今日の午後は臨時に社会見学だって?僕に引率を命じる?・・・どうせ学期末やら冬季実習の準備やらで忙しいから僕に押し付けたんだろ・・・教育者としての自覚を問いただしたいね。」
・・・みんな無言ですが「真っ先に講義をすっぽかして失踪した方がどの口で」ってその顔に書いているように見えるのは、わたしだけではないのです。
きっとわたしもおんなじ顔してるでしょうし。
「じゃあ、せっかくの機会だ。ちっぽけな町だけど・・・まずは二班に分かれて町内散策と物資調達、その後指定された施設に集合だ。今日はそこでちょっとしたパーティがあるから参加してもらおう。」
みんな一斉に歓声を上げます。
「予定外の行動だ。必要物資の調達費の他に、特別に一人銀貨一枚の活動費を供与しよう・・・ま、お小遣いだ。好きに使っていい。」
こんな墓地のハズレですけど大はしゃぎです。
メンバーの中には貴族の令嬢シャルノや大商人の娘エミルがいますが、一方でリルのように軍から支給されるお給料すらほぼすべて実家に仕送りしてる子もいます。デニーだってそこは似たようなもの。
そんな貧富の差を感じさせないため、この活動費以上の支出は厳禁。
叔父様のそういう配慮はキライじゃありません。
ですから、ご自身のお金はかかりますけど、浪費と言って責める気にはなれないのです。
「A班はシャルノくんをリーダーにエミルくん、リーデルンくん。B班はデニスくんをリーダにーにリルルくんにレンさん。リーダーには・・・おいしょっと。」
エクサスの地図を「複写」し、物資の品目をメモして渡す叔父様です。
意外に段取りがいいのは「シュウガクリョコウ」の経験値だそうです。
「質問があります・・・クラリスは?A班B班のどちらですか?」
ニヤニヤ笑いながら質問するデニーは確信犯です。
「この子・・・クラリス、クンは、この町出身者で土地勘がある。彼女が入ったら町内散策の意味がないだろう・・・それに昼食もまだだし。彼女は僕と同行し、昼食後、臨時に僕の補佐として当該施設に同行してもらう。」
えへ、ふたりっきりです。
思わず口元がニマニマ・・・。
するとそんなわたしを見るみんなの目が冷たかったり、ニヤニヤ笑っていたり。
わたしは慌てて口元を隠すのです。
「・・・集合はアバウトに夕方で。困った時は、僕へのメールを許可する。では解散!」
「叔父様、ここでしょうか?」
昼食の後、わたしは叔父様の指定した場所にやってきました。
もちろん迷うことはありませんが、あまり来たことのない場所・・・西の雑居区なんです。
そして、そこにある建物は・・・
「・・・豆の木の館?」
買ってきた魔法の豆は捨てられたけど、一晩で天を衝く巨木になった・・・そんなお話を叔父様から聞いたことがあります。
もっとも天上には人食い鬼がいるという、ありえない話で、
「オーガ族は洞窟に澄む亜人です!天上になんかいません!」
って、幼いわたしは叔父様を叱ったものです。
今にして思えば、あれも叔父様の「元の世界」のお話なのでしょう。
最後まで聞いておけばよかったかも。
わたしの目の前には、低いながらも柵に囲まれ、飾り気はないながらも頑丈な石造りの建物があります。
門は開け放たれていて、よく見ると壁に落書きが、庭には走り回る子どもたちの姿も見えます。
それは、叔父様が苦手にしてる光景に見えます。
この人、子どもが嫌い・・・というより苦手で、昔からたいていの子どもは、人前が苦手なこの人をバカにするんです。
相性が悪いんでしょう。
ホラ、やっぱり。
「あ!黒い変人だ!」
案の定、というにも、更にその予想の上をいく展開ですけど。
「ホントだ!みんな、ヤツを入れるな!」
・・・何をしたんでしょう、この人?
子どもたち、尋常じゃない勢いで、情けないお顔の叔父様を取り囲み責めたてます。
わたしはこの場を治めようと間に入るんです。
「誰だ、お前?」
「一緒に来たのか?」
「コイツ、黒い変人をかばおうとしてる!」
「あんなアヤシイヤツと一緒なんて・・・変人の恋人か?」
「じゃあ黒い恋人?」
え?
それ、わたしですか?
いえ、そのセリフの後半だけなら大歓迎なんですけど、前半部分が全てを台無しにするんです!
なんだか子どもたちに囲まれて、指を指されるわたしたちです。
子どもたちは10人くらいで、10歳くらいの見るからに生意気そうな男の子が仕切っています。
ほとんどは男の子で、でも女の子も2,3人。
「いいか、黒い変人に黒い恋人!この平和な豆の木の館に、お前らみたいなアヤシクテアブナイヤツラを決して入れないぞ!」
わたし、別に黒い服なんか着てないのに。
いえ、恋人扱いはいいんですけど。
「このオレ、ダン・ダダンは、決して悪を許さない!」
すっかり悪者呼ばわりで、小さくなって頭を抱える叔父様と、一緒に額を押さえるわたしです。
そしてそんなわたしたちの眼前に、すっくと立ちふさがるダン少年。
まさに正義の味方っていう雰囲気です。
ですが
「バッカじゃないの、ダンにあんたらって?」
そこに響く女の子の声。
今度は4,5人の女の子たちがやってきます。
こっちの子たちも元気です。
どちらの集団も、孤児とは思えないくらい元気で、服も質素だけど清潔です。
いえ、子どもらしく縫いつくろった後とか泥とかはついてますけど。
「いい?そのおじさんは、この館の持ち主なのよ。しかも時々お土産もって来てくれたりするいい人で、何よりあたいらを引き取った恩人。それになに難癖つけてるのよ!この恩知らず!」
「アンヌ、お前裏切るのか!」
ダン少年とアンヌ少女は真っ向からにらみ合います。
鼻と鼻がぶつかりそうなくらいです。
「いいか、この変人は俺たちをどっかに売り飛ばそうとしてるに決まってるんだ!人前でろくに話もできないし、たまに話せばわけわかんないことばかりだし、エクサスじゃ昔からいろいろ事件を起こす怪人とか言われてるんだぜ!何より、その黒づくめのアヤシイカッコーが証拠だ!」
ダン少年に糾弾される度に、ぐさ、ぐさって胸に手を当てる面倒くさい叔父様です。
まさに旧悪の報いといいましょうか、日ごろの行いというべきなのでしょうか?
「ホントにバカだね、ダン。いい?この人を怪人とか呼んでる大人たちはあたいたち孤児をどう扱ってるの?だれかあたいたちをひきとって面倒見てくれようとしたの?」
ダン少年に負けない大声と堂々としたアンヌ少女の態度は、小さいながらも女勇者の貫禄です。
「正義の正しさは声の大きさと比例する」っていうのは、叔父様の教えの一つなんですけど。
随分歪んだ考えだな、ってその時は思ったものですが、この二人には浸透しているようです。
「それが罠なんだ、騙されるな。いいか、そうやって俺たちを油断させて、大きくなったら・・・。」
「だから!もしどっかに売られたりしたとしても、このおじさんがひきとってくれなければその前にみんな死んでるの、あたいらは!そんなこともわかんないなら、あんたらは大バカ、いや、超バカよ!!」
アンヌ少女はダン少年を圧倒します。
叔父様の味方をしてくれてる子もいるんです。
でも叔父様は不満そうなんです。
「いや、待ってくれ、アンヌくん。僕はキミたちを売る気なんかはないし、そもそもおじさんじゃあ・・・」
「はあ?お・じ・さ・ん!あんた35でしょ?オジサンよばわりになんの不満があるのよ!いいから黙ってて、ややこしくなるから!」
「・・・。」
今度はなにやら口をとがらせてブツブツつぶやいてる叔父様です。
これでは子ども相手に、叔父様の方が子どもみたいです。
「ああ、もう・・・おじさん。わかってるから。おじさんがあたいらを売るような人じゃないって。・・・だって、あたいらなんかをこんなに大事に育ててくれて、これじゃ売っても勘定あわないって。」
アンヌ少女を取り巻く女の子たちはみんなウンウンうなずいてます。
なんだかこっちの陣営はみんな大人びてます。
いっぽう相手側陣営は子どもらしく、顔をプンプン、両腕をジタバタ、いっそう怒ってます。
「騙されるな、アンヌ!こいつは俺たちを・・・そのぅ・・・教育するのは、貴族とか金持ちとかに高い値で売って・・・ええっと・・・特にお前なんか賢いからきっともうすぐ売られちゃうんだぞ!」
なんだかダン少年は必死でアンヌ少女を説得しようとますますムキになってるみたい・・・ああ、なるほど。
この子が叔父様をかばう(?)ようなことをするたびに、その勢いは増すのですが、一方で論理は破綻・・・要はそういうことなんですね?
「だから、おじさんがそんな人なら、こんな損得勘定の合わないことなんかしないって。それにもしも貴族やら金持ちやらに売られたら、それはそれでラッキーじゃん。」
なんだか、アンヌ少女はドライです。
見かけの愛らしさからは想像もつかないくらい。
いえ、これも境遇を考えれば致し方ないことかもしれませんけど・・・。
「待ってくれよ!だから、僕はキミたちを売ったりしないよ!」
「変人は黙ってろ!」
「おじさん、黙っててくんない?」
もう、話の主役はわたしたちじゃないんです。
これ、この少年少女の戦いが終わるのを待つしかないのでしょうか?
途方に暮れるわたし。
どうしましょうって。
そう思った時です。
「騒がしいね。なんだい?」
門の中から子どもたちにかける声がします。
それで両陣営に別れていた子どもたちも、同時にピタリと動きを止めて、そちらに注目するんです。
そして姿を見せたのは・・・
「おや、だれかと思えばクラリスの嬢ちゃんじゃないか?」
そのオジサン臭のする茶色のベレー帽と背広・・・は着けてないけど、女装してるけど、いえ、年頃の女性がスカート姿は当たり前なんですけど・・・
「・・・どうしたんだい?あ?まさか、こんな格好じゃわかんない?」
美人です!
女性にしては短か過ぎるけど、その艶やかな紺色の髪は・・・なによりいたずらっぽくキラキラ光る瞳は!
「なんだい、今さら。オレだって、いつもあんなダサい服着てるわけじゃない。」
・・・ダサいって自覚はあったんですね。
「あれは男の中で働くためのオレの武装だよ。別に隠すことでも自慢することでもないけど、単なる事実・・・で、学生のあんたがなんでこんなとこに?」
わたしが答えようとする前に、門とわたしの影になっていた叔父様がその人の前に姿を見せるんです。
「やぁ、クレオ、よく来てくれたね。」
「アンティパパ!」
叔父様を見つけると、クレオさんは一瞬で頬を紅潮させ、まっすぐ駆け寄って、なんと、そのまま抱きつくんです!
もう、それは乙女そのもの!
「クレオ・・・もう17なんだから、こういうことは慎まないと。」
「パパ・・・17だからこうしてるんだよ。わかんないかなぁ・・・ねえ、わかるよね、クラリスの嬢ちゃんなら。」
それに答えるのは、わたしにとって気分的に難しいことなのです。
だいたい、その「パパ」の意味が問題なんです・・・どっちなんですか!?
「だんまりかい?ま、いいけど。・・・さて、ダンにアンヌ。あんたら、アンティパパの前で大騒ぎしたこの落とし前・・・ちゃんととる覚悟はあるんだろうね?」
二人を始め、全ての子どもたちは一瞬で完全に沈黙、戦意喪失します。
クレオさんはこの場の支配者。
なんだか獅子の女王様って風格なんです。
ここ「豆の木の館」はクレオさんのお母さんが館長をしていらっしゃるそうです。
ここに工房で働く職人用集合住宅が建てられたのが8年前。
その後、工房がつぶれ、廃屋になりそうなここを叔父様が買い取り、孤児院にしたのは4年前。
あの邪赤竜襲撃の直後のことだそうです。
「もともとオレたちみたいな戦争孤児が多かったんだけど、5年前のギュキルゲスフェの敗戦や4年前の邪竜の一件で、エクサスはおろか、ヘクストスも大変でね・・・そんな時にアンティパパがここの館長をやってくれないかってうちの母ちゃんに・・・女が働くなんてなかなか認められない時勢だったけど・・・アンティパパったら、『あなたしかいないんだ』なんて母ちゃんを口説いたんだよ。ホントにプロポーズかってオレは思ったんだけどね。」
どうやら当時、今以上に人見知りだった叔父様は、他に人材の当てがなかったようですが、もっと言い様はあると思うのです。
その後も、ここの経営資金は叔父様が出資していらっしゃるとか、そんな説明の合間にも「しっ」とか「それは言わないで」とか「たいしたことじゃない」とか、いちいち面倒くさい叔父様です。
「謙譲の美徳」?
単に恥ずかしいんでしょう?
「エクスェイル教官とクレオさんは、ここでお育ちになったのですか?」
館長室に案内され、館長さんが来るまでの間、クレオさんが事情を話してくれます。
二人掛けのソファで叔父様の隣をちゃっかり占有したクレオさんですけど。
「いいや。オレとバカ兄貴は一応家があるし。母ちゃんがアンティパパにここの仕事を紹介してもらったから、昔から時々手伝いに来てたんだよ。」
エクスェイル教官と、その妹でヘクストスガゼットの記者であるクレオさんは、叔父様のかつての戦友の遺児なんです。
叔父様はこの家族に昔から支援をしていたのですが、そうですか。
今も・・・。
「母ちゃんは、ここの館長になって、最初は大変だったけどすぐに楽しく働くようになってね。ここで働くのは多かれ少なかれ、世間じゃ働きにくい身の上の女たちさ。オレが自分で働いて稼げるようになろうって思ったのも、働くようになった母ちゃんがイキイキしてたからかもね。ま、それもこれもアンティパパのおかげ。」
こんな時のクレオさんは、まるで叔父様に憧れる乙女なんです。
なまじ身近過ぎるわたしはここまで無条件にこの人を褒められないんですけど。
なんだかうらやましいくらい。
もっとも褒められてる当の叔父様はとっても居心地悪そうです。
この人、褒められることが本当に苦手なんです。
それでもお兄さんのセイン・エクスェイル教官みたいに褒めたことで虐待されないだけ、クレオさんは好待遇なんですけど。
「お待たせしました。フェルノウルさん!そちらは?クレオのお知り合いかしら?」
入ってきたのは、クレオさんによく似てる、でも少し年月を重ねて落ち着きと思慮深さを身にまとった女性です。
かあさんにも見習って欲しいくらい。
「突然お邪魔して申し訳ありません。わたし、クラリス・フェルノウルと言います。」
「フェルノウル?では・・・」
「母ちゃん、この子、アンティパパの姪なんだ。」
「あの、あなたやセインが話してた?・・・全然話と違うじゃない。」
・・・なんでもエクスェイル教官やクレオさんは、わたしを「トロウルの群れにも飛び込む」とか「巨人をぶち倒した」とか紹介していたそうで・・・それ、間違いじゃないけど言い方がひどすぎるんです!
叔父様、なんでお顔をヒクヒクしてるんですか!?
「そう。フェルノウルさんにこんなかわいい姪御さんがいらしたのね・・・じゃあ、今日は一緒に?」
「うん・・・いつもは今日のパーティは顔もだしてなかったけど・・・今年はなんとなく。それに・・・学園の生徒たちも呼んでいる。参加させてほしいんだ。いいかな?」