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第16章 その10 発表は突然に

その10 発表は突然に 


 長~い2学期も、残りわずか数日になりました。


 そんな中で突然転入生がやってきて・・・しかも二人も・・・なんだかあわただしいのです。

 

 しかも一人は王族にもゆかりのある公爵令嬢、のフリをしたレリューシア王女殿下その人。


 もう一人は先日の学園襲撃事件にスパイとして潜入していた元男爵令嬢ジェフィ。

 

 二人ともすんごくウラがあるのです。


 学園長もいろいろお考えのことと思うんですけど、事情の一部を知っているわたしからしても、こんな非常の決断をすることに密かな驚きと戸惑いを禁じ得ないのです。


 しかし、これは、これから始まるはずのわたしたちの年末年始休暇に大きな影響を与える出来事の、そのほんの前触れに過ぎなかったのです。

 



「クラリス、昨日の歓迎会、随分大人しかったね。」


「本当ですわ。結局最後まで実行員長を引き受けてくださらなかったし。」


 朝食を終えて登校し、教室に入るとすぐに、エミルとシャルノに言われてしまいます。


 ですが、ジェフィの歓迎会に出席しただけでも、わたしとしては忍耐の限界を超えていたのです。


 昨日は幾度逃げ出そうとしたことか!


 「敵前逃亡?」なんてリトに言われて、なんとか踏み留まったんですから!!


「そう言えば、クラリスはどうしても委員長にさせられるんなら、BBDKパーティーにするなんて言ってましたけど・・・BBDKってなんなんです、シャルノ?」


「そうそう。あたいも知りたいな。」


「・・・あのジェフィがあんなに嫌がるなんて。」


「毒?」


 デニー、リル、レンにリトの、一緒に登校し朝食を食べた仲間たちです。


 あの晩共に襲撃者たちと戦った2班のメンバーまでも首をかしげてます。


 シャルノは、それを聞くと、クラス一の美少女らしからぬイヤ~な顔をして目を背けるんです。


「それは・・・まぁ、知らないほうが健全ですわ。ただ、わたしたちの間では、ニコニコ笑いながらそれを供されることは、野暮の極み・・・ジェフィに言わせれば『もっさい』ことなんですわ。」


 要は「これを食べたらとっとと帰れ」ってことなんですけどね。


「なんや、ほんまややこしいなぁ、自分ら。」


 素直、というより単純なエミルからすれば、上流階級の方々の振る舞いは回りくどく感じるし、わたしだって同感なんです。


 ただ・・・相手が相手ですから手段を選べなかったのです。




 そんなこんなでいつもの仲間たちとの楽しい・・・内容そのものは微妙ですけど・・・歓談もチャイムで終わり、わたしたちは静かに席に着くのです。


 そして教室に入ってきたクラス担当のワグナス教官です。


「なんか、変?」


「うん。顔、強張ってない?」


 そうです。


 いつも穏やかな笑みを浮かべている副主任なんです。


 あの鬼の主任や変人の叔父様たちのような困った人たちとは違って、見るからに親しみやすさと信頼感を抱かせているお方が?


 しかも・・・


「・・・おはようございます。昨日からクラスも増員されて、22人体制になりました。最終的には今年度中に24名に増員されるかもしれませんが・・・それはまだ未定です。」


「ワグナス!」


「あ・・・失礼しました、学園長。」


 朝のホームルームにセレーシェル学園長自らいらっしゃるなんて、異例なのです。


 それに、まだ二人転入生が増えるかも?


 一体何が起こっているのでしょう?


 そう思ったのは、もちろんわたしだけではありません。


 教室がザワついているんです。


 学園長は上品な紫色のスーツの装いで、いつもどおりにふるまっておられます。


「はいはい、みんな静かにしてね。これから大事な話をしますからね。」


 ワグナス教官は、学園長を入れ替わるように教壇から降りると、用意していた紙を配ります。


 その紙・・・白羊皮紙です。公式な文書、ということなのでしょう。


 上質なインクに丁寧に筆写されたモノ・・・入学通知や戦場実習の通知、成績表と同程度の重要文書、ということなのです。


 ガクエンサイの通知ですらこんな文書ではありませんでした。


「では、みなさん。転入生の二人もね。よく聞いてください・・・我がエスターセル女子魔法学園は、もうすぐ年末年始休暇に入ります。ただ、今年は秋の南方戦線の一時的な崩壊に加え、先日の巨人災禍、人族は二度にわたり危機的状況に陥りました。その結果、王国は急速に国力の低下が見られます。」


 シ~ン・・・。


 教室は水を打ったかのような重苦しい沈黙に包まれます。


 うすうす察してはいたものの、あらためて聞かされると、冷たく厳しい現実が、急激にわたしたちに迫って来るんです。


 それはエリザさんやジェフィも同じ。


 いえ、或いは彼女たちこそわたしたちよりも・・・。


「我がエスターセル女子魔法学園は軍の管理する魔法学校です。このような現状の中でも、みなさんの多くは卒業後、軍に所属し、魔法兵として前線で人族を守る精兵となり、民衆の盾となって戦うことになるのですが・・・まだその決意ができていない者がいるのも確かです。」


 わたしの座席から少し離れた席のデニーやリル、レンたちが気まずそうに身じろぎしています。


 彼女たちは、わたしとともにキッシュリア事変で、戦場実習で、巨人災禍で、そして学園襲撃事件で共に戦ってくれました。


 本当に死ぬかもしれないのに。


 それはわたしとの友情のため。本当にかけがえのない友達なんです。


 でも、それでも、まだ軍人としての道を進む覚悟はできていないのです。


「そこで・・・わたしたちは、より実戦に近い経験をみなさんに与えます。今より優秀な魔法学生に、優秀な人材になって人族の役に立てるよう、その機会を増やします・・・ただし、その都度問いかけ、覚悟を決めて欲しいのです。そう、みなさん一人一人の覚悟です。」


 より厳しい環境にわたしたちを追い込む。


 ただし、それは覚悟のある者のみに。では覚悟なき者は?


「これから、『冬季実習』の説明をします。」

 

 教室中に、無言の、しかし明らかに聞こえる息をのむ音が響きます。


「冬季実習は2学期終了後に行われる実戦形式の訓練です・・・ただし、その参加は任意。これからお話する内容はみなさんの保護者の方々にも既に送られています。みなさんは、年末休暇中に保護者の方とよく話し合ってください。そして自分の参加意志と保護者の同意を得た者のみ、年始休暇中に三泊四日で行われる『冬季実習』に同行してもらいます。」


 結局一校時は、この冬季実習の説明の時間となりました。


 


 冬季実習は、1月の3日から7日までの三泊四日で行われます。


 その実習場所は北方の大森林。


 ここには旧帝国時代から多くの怪獣、怪物が生息していて、時折周辺の集落を襲います。


 その退治は、いつもは住民に依頼された冒険者さんが行っているんです。


 なにしろ軍の主力は南方に集中しているのですから。


「だから戦闘の対象は、この怪獣、怪物たちね。」


 それは本当の戦闘ということなんです!


「もちろん、無用の危険は冒しませんし、学園の教官は無論、冒険者を雇用しています。それでも・・・100%安全、ではありません。」


 それは、実は密かに旅団規模の支援があった戦場実習とは異なる、ということなのです。


 一旦説明が中断した中、わたしは挙手します。


「学園長、質問してよろしいでしょうか?」


「どうぞ、クラリスさん。」


 学園長は質問を歓迎してくれる様子でした。


「休暇中に、参加意志をどうやって伝えればいいんでしょう?中には遠方に帰省する子もいます。」


 わたし自身はこの突然の訓練に参加する意志なんです。


 自分を鍛え強くなって、人族を守る。


 そのために入学した、と言えるのですから。


「それは・・・この文書は、ある加工がされています。『符術』・・・使い魔みたいなもので、必要な事項を記入すれば自動的に学園に戻ってくるようになっています。」


 さすがは魔法学園・・・というより、これって・・・


「フェルノウル教官の?」


「まちがいないわね、あれ。最初の日に見たヤツでしょ。」


 リトやエミル以外も、ほぼ転入生以外の全員が思い当ったようです。


 ふと目をやるとリト、エミルに劣らず上気したアルユンの顔・・・地肌が赤いのに、それでも赤くなってるのがわかるくらい。


 それだけ彼女はあの「符術」に感動し、教官としての叔父様を尊敬しているのです。


 おそらく事情を知れば、エリザさんに扮したレリューシア王女殿下も両手を前で組んで叔父様を絶賛されることでしょう。


 なんだか目に浮かびそうです。


「学園長?」


 デニーが挙手します。


 ちょっと珍しいんです。


 顔は・・・真剣。


 でもメガネは曇ったまま。


「あの・・・もしも全員が不参加の場合は中止になるんでしょうか?」


 それは、思わず力が抜けそうな・・・なんて後ろ向きな質問でしょう?


「・・・全員不参加はありえません・・・ここは軍の学校です。わたしはそこに入学したみなさんを信じてます。」


 そうお答えになった学園長ですが・・・後半はとってつけたような印象をぬぐえないのです。


 ふと教室内を・・・新たに設けられた二人の座席に目を向けます。


 二人ともさっきから全く動じてない・・・あ、エリザさんに気づかれて微笑まれてしまいました。


 ジェフィにはフンってうっすらと笑われた感じですけど。


 そうなんだ、二人は知っていて、参加も決まってるんだ。


 胸中複雑なわたしです。


 でも・・・それって実はこの国の王女が実戦に参加するって一大事・・・学園長も気づいてないんです!


 頭を抱えたくなります。


「あの、あの・・・」


 うずくまるのを妨げるのは、リルの声です。


 いつもは弾むような明るい声なのに、今は切羽詰まった声。


「それって、参加しないと・・・退学になっちゃうの?」


 ザワザワ。


 みんなその質問を聞くと、顔を見合わせたりヒソヒソって。


「リルルさん・・・あなたは参加しないんですか?」


「え!?あたいは・・・あの・・・・まだわかんないです。」


 こんなしょんぼりしたリルなんて、久しぶりに見ます。


 軍に入る覚悟はなく、それでもここで学んでいれば小さい妹たちに仕送りができる。


 リルにはそんな大きな葛藤があるのです。


 もともとは「お嫁さん」なんかになりたくない一心で入学した彼女なんです。


 デニーもそこは似たようなもの。


 困ってる友達を見かね


「学園長、個別の生徒に参加意志を尋ねるより、質問にお答えしていただけませんか?」


 そう発言すると、リルやデニーたちはほっとした顔でわたしを振り返り、学園長もきつくなっていた表情を少しゆるめたのです。


「そうですね・・・いいえ、いきなり退学になんかしません。ただ、今後、こういう機会は何度もあります。その度にみなさんには覚悟の有無を確認します。そして、もし、自分が軍人として戦うという未来に不向きである、そう思った者には別な道を勧めることになるでしょう。その判断はあくまで自分、その生徒本人です。」


 別な道?


 そこに引っかかった生徒は何人もいて


「あの・・・別な道って何なんです?」


 真っ先に質問したのは、またもデニー。


 学園長はワグナス教官と目くばせします。


「いろいろな選択肢がありますよ。退学以外にも・・・。」


 そしてこう続けられたのです。


「学園内にも、非戦闘員部門を編成する可能性があります。戦闘が苦手であったとしても、それ以外の手段での支援をする部門です。今はまだ詳細は言えませんが。」




 セレーシェル学園長とワグナス教官は、その後もわたしたちの質問にできるだけ答えてくださいました。


 そして一校時のチャイムが鳴り


「一旦説明は終わりますが、他に聞きたい者は個別にわたしの教官室に来てください。」


 そう教官がおっしゃって、説明会は終わるのです。




「ジェフィ・・・あなた、知ってたんでしょ。」


「なんことやら・・・なに言うてますの、クラリスはん?」


 お昼休みにいつもの東屋ガゼボ、ではなく研究棟の裏で、あの学園襲撃の日一緒だった仲間と一緒にいるわたしなんですけど、にらんでるわたしなんかどこ吹く風のジェフィです。


 相変わらずの重装甲の鉄面皮。


 とても人族の皮膚とは思えません。


「あなたとエリザさん・・・この時期に二人も転入したなんて、おかしいって思ってたんです!」


 それでも追及をやめないわたしに、さすがのジェフィも辟易したみたい。


 普段ならわたしが興奮すると止めに入るリトやデニーも、今日はまだ見逃してくれてます。


 真相究明を優先してるのでしょう。


「あの、ジェラルフィ様。」


 おそるおそる話しかけたデニーには


「デニスさんでしたな、まんざら知らぬ仲でもなし、昨日言った通りジェフィ呼んでください。」


 意外に気さくなジェフィなんです。


 一度家まで送った仲、ということもあるし、クラスメイトの中でもデニーはジェフィについては理解があるからでしょうか。


「では、ジェフィさん、クラリスの聞いたこと、できれば教えていただきたいんです。その・・・どんな事情があってもこんな突然の実習、私たちにはけっこう大事なことでして。」


「あたいもお願い。ジェフジェフ。」


「・・・リル、レンはリルの愛称のつけ方はかなりおかしいって思うの。」


 そんなひたむきな(?)リルの様子に閉口したのか、あっさりと


「ああ・・・すんまへんなぁ。こいでもうちはまだ自由の身ではありませんのや。なにしろ・・・保護観察中の身言いますの?フェルノウル教官様やワグナス教官はんのおかげで、罪人として引き渡されんかったのはありがたいんですけど・・・話せんことは多いんです。」


 そう告げるのです。


 つまりは知っていたけどはっきり言えない。


 だから彼女にしては最大限の譲歩なのでしょう・・・こう付け加えることは。


「ですが、エリザ様なら・・・なぁ?」


 しかも「様」付け。


 それは・・・その事情にも気づいているということなのでしょうか。


 ホントに抜け目のない。


 ま、昨日一緒に登校した時点で怪しいとは思ってましたけど。




「エリザさんですか・・・ちょっと聞きづらいですね。」


 デニーがつぶやくのは、ジェフィが立ち去った後です。


 まだまだ調査続行中。


 このメンバーはわたしとリトを除けば士道不覚悟・・・いえいえ、軍人になるという道を未だ選んでいない者たちです。


 今回の『冬季実習』の不参加で即退学にはならないとは聞いたものの、将来が不安になるのは仕方ないんです。


「でも・・・クラリスもリトも参加するんでしょ。あたいらに付き合ってこんなこと聞いて回ったりして・・・」


「・・・怒られない?ムリしなくてもいいよ?」


「そうですね。考えがたりませんでした。お二人はここで・・・」


 なんて、今更怖気づく三人です。


 でも、それは「ミズクサイ」って言うんでしょうか?


「何を言うのかと思えば・・・あなた方はわたしの死地に何度も付き合ってくれたじゃありませんか。冬季実習なんかに参加しなくったって、もう立派な『戦友』です。」


「クラリスの言う通り。棄権したって友達!」


 もう「死なばもろとも」「一蓮托生」なんです。


 その勢いでエリザさんのもとへ強襲です!




 エリザさんを探してるわたしたちが見つけたのは、一昨日から彼女たちと一緒にいる子なんです。


 今は独りですけど。


「ねえ、ミュシファ。エリザさんは一緒じゃなかったんですか?」


 ミュシファンダ・デ・ルミエンターディアは薄いピンク色の髪をした、はかなげな少女です。


 いちおう子爵家の令嬢なんですけど、実は庶子・・・つまり奥さん以外の女性が産んだ子ということで、長い間市井で庶民として暮らしていたとか。


 それが4年まえのトレデリューナ臨時法の公布によって、その女性が内妻として認められ、子爵家に嫡子がいなかったことから彼女自身も急に令嬢として引き取られることになって・・・なかなか複雑な立場の子なんです。


 本人は貴族扱いされることがとても苦手で、そのせいか、大人しい印象があります。


 むしろわたしたち市民と一緒にいるときの方が落ち着くみたい。だから、わたしはなるべく貴族扱いしないように気を遣ってるくらいです。


「ええ!?ワタシなんか、エリザ様とご一緒なんて、到底ムリなんですぅ~」


 エリザさん自身は、子爵令嬢の彼女とも面識があり、シャルノやヒルデアと同じくらい彼女を頼りにしてるみたいですけど・・・なにぶん本人の自己評価がとっても低いのでそう感じているみたいです。


「だから、途中までシャルノ様やヒルデアさんと4人で一緒だったけど・・・逃げちゃったんですぅ~」

 

 なんだか泣き出しそう。


 これではわたしが意地悪してるみたい。


「さすがに逃げたというのはよくないですよ。エリザさんはそんなことでお気を悪くしないとは思いますけど・・・わたしたちもエリザさんを探しているんです。一緒に戻りませんか?」


「一緒に謝ってくれる?」


 上目遣いながら、少し安心したミュシファはなかなかの美少女・・・なんですけど、あまりビクビク、オドオドしてるので、そう見られることも少ないようです。


 エミルとは違う意味で、もったいないのです。


「わたしでお役にたつなら・・・ですけど、ミュシファ、なんで逃げたりなんか?」


 いくらなんでも、それは不自然過ぎるんです。


「・・・だって、3人とも『冬季実習』に参加するってすごい盛り上がってたんですぅ~。ワタシなんか、もう怪獣相手に戦闘なんか怖くて、どうやってお父様を説得して棄権しようかってそればかり考えているんですぅ~。」


 ミュシファは父君である子爵様に強引に勧められ、落ちるつもりでこの学園を受験したのに「なぜか合格してしまったんですぅ~」という子です。


 本人の低すぎる自己評価なんかより、実はかなり優秀なんですけど、「これ」のおかげで肝心な場面では力を発揮できないんです。


 それでも巨人災禍の時は逃げずに一緒に戦ってくれたし、ガクエンサイの対抗魔術戦の時も主力部隊の一員を務めてくれました。


 それでも避けられる戦いは避けたいのでしょう。


 今もエリザさんたちに参加を勧められたら断り切れないと思って、その前に必死で逃げたとか。


 ちなみに、この自信のなさの反動か、推しの教官は無駄に自信家だったジャーネルン。


 あんな人でも、突然いなくなって、その動揺もクラスの中に潜んでいるんです。


「三人ともイヤっていうミュシファをムリヤリ引き込もうってする人じゃないと思うけど・・・でも、それもちゃんと自分で断らなきゃ。一緒にいてあげるから。」


 わたしがそう言うとミュシファは「クラリスぅ~感謝ですぅ~」って縋り付かんばかりの勢いで・・・これじゃ、今度はなんだか別な誤解をされそうです。


 一方、参加不参加を悩んでいるデニーたちにとっては他人ごとではないらしく


「わたしたちだけ不参加・・・なんてことになったら・・・」


 今日は朝からメガネがくもりっぱなしなしのデニーです。


「みんな、あたいらをバカにしたりするのかな・・・あたいバカで劣等生で、その上臆病者なんて言われたら・・・どうしよどうしよ?」


 ふるふると首を振る度に、その童顔には立派過ぎるム・・・が揺れるリル。


「・・・レンも・・・まだ決められないよ。」


 シュンとうつむくレンは、思わず抱きしめたくなるくらいかわいいんですけど。


 そんなつぶやきを聞いて逆に元気づくミュシファ。


「リルたちも不参加なんです?なら四人で一緒に棄権するんですぅ~」


 もっとも、それにも簡単に同意しかねているデニーたちでした。


「ん~あたいらはどうするどうする?」


「そうですね・・・少し自分たちだけで落ち着いて考えてみたいですね。」


「・・・レンもそう思うの。」


 わたしとリト、それにミュシファは、デニーたちと一度別れ、エリザさんたちを探すことにしたのです。




「ミュシファ、エリザさんたちって、食堂の後どこに向かったのですか?」


「うぅ~わかんないんですぅ~。」


「かなり探した・・・変。」


 教室を始め、多くの場所を探したのですが、どこにもいないし何処に行ったか知っている子も誰もいません。


「もう諦めたら?もうすぐ5時間目だよ?」


 ヒマだからって、教室からついてきたエミルです。


「5時間目は鬼の主任の実習だし・・・遅れたりしたらミュシファなんて泣いちゃうよ?」


「ゴメンナサイですぅ~それにワタシのせいでみんなにご迷惑を・・・」


「エミル、ミュシファをいじめないで・・・ミュシファも、あなたのせいなんかじゃないんだから気にしすぎです。」


 ミュシファがオドオドするのをからかうエミルをたしなめ、ミュシファを慰めるわたしです。


「ん!?いた!」


 さすが、目もいいリトは概ね探し者の第一発見者なんです。


 エリザさんが出て来た場所・・・そこは休憩室です?


「あ、誰か男の人と・・・って!?」


 エミルが指さしたのは、隣にいた叔父様!?


 どうして人目も少ない区画に、二人っきりで・・・しかも遠目からもお二人の距離が近く、エリザさんが叔父様に向ける表情はいつになく親し気に見えます。


 まるで禁断の一線を越えることを許したかのような信頼感・・・まさか!


「叔父様!エリザさんと二人っきりで、こんなところで何をしてらしたんですか!まさか、休憩室でまさかの『ご休憩』なんですか!?」


 思わずお二人に詰めよるわたしなんです!


「クラリス、どうどう。」 


「めっちゃ勢い強いんや、この暴れ馬!」


 リトもエミルも振り切って、わたしはお叔父様の前に仁王立ちです!


 それなのに


「クラリス?なに言ってるんだい?」


「・・・どうしたのですか?そんなに怒ったりして。」


 二人とも怪訝な顔をするだけ。


 しかも


「あなた、妄想のし過ぎではありませんか?」


「そうだね。ボクたちの姿、目に入ってないしね。」


 ・・・・・・・・・後ろからシャルノとヒルデアの姿が。


 角度的に見えてませんでした。


 精神的に、かもしれませんけど。


 つい一時的な視野狭窄になっていたわたしでした。


「だから落ち着け言うたやんけ。」


 わたしを止めようとしたせいか、肩で息してるエミルはまた、あのおかしなナマリになってます。


 でもなんだか素直に聞けなくて


「落ち着けなんて言われてません。」


 思わずぶすって口答えするんです。


「言う前に暴走すんな言うとるんや、自分!」 


「ん。確かに。まず落ち着く。」

 

 エミルに続いてリトまでがわたしの興奮状態をたしなめます。


 仕方なく、す~は~す~は~、って深呼吸します。


 こうしてわたしが落ち着くと、エリザさんは品よく微笑まれながらお答えくださいます。


「わたくしはフェルノウル師にお願いして、生徒だけで立ち入りできない区画を案内していただいていただけですわ・・・なにかいけなかったのですか?」


 ですが、そう言いながらもエリザさんはチラチラと叔父様をうかがう様子。


 そえは、やはりなにかあったような雰囲気なんです。


「え?何してたかだったっけ?休憩室や足湯の効能を説明がてら、足をマッサージしただけだよ。」


「・・・はい、男性に素足をさらして、まして手でマッサージなんて・・・なんて刺激的なお方・・・」


 手を組み、頬を上気させ、うっとりしているエリザさんことレリューシア王女殿下です。


 殿下もそうなのですが、わたしたちは、日常的に靴を履いている生活をしているせいで、異性に素足を見せるのはなかなかに恥ずかしいのです。


 素足の小ささは胸の大きさと同じくらい美人の条件という人もいるくらい。


 叔父様の行為は、下手をすれば無礼打ちされたかもしれなかったのです・・・本人は気づいてないようですけど。


 叔父様がかつていらした「元の世界」では素足の風習が色濃く残っていて、「家では裸足が割と当たり前」だそうなので、こんなことになったのでしょう。


「まぁ、これも必要なことだったし、いい機会だったよ。」


 自分の非常識さと生命の危機を乗り越えた僥倖にまったく気づかず、こう言って立ち去る叔父様を、わたしは無言で見送るしかなかったのです。




「あら、ミュシファ。どこに行ったか気にかけていたのですよ?」


「うううぅ・・・ご心配おかけしたんですぅ~」


 べつに迷子になったわけでもないのですが、転入したてのエリザさんにここまで心配させるミュシファは、確かに目を離せない存在です・・・なんかいつも不安そうで。


「ミュシファ、さ、今なら・・・」


 そう彼女に冬季実習の件を話すよう促そうとしたのですが。


 キ~ン、コ~ン、カラ~ン・・・予鈴です。


 タイミングを外されてしまい、それだけで泣きべそをかきそうなミュシファ。


「いけません!でん・・・エリザさん、急ぎましょう!」


「そうだね、主任の実習に遅れると、ひどいことになるよ、ミュシファも!」


 わたしとリト、エミルに手を振りながらも、シャルノとヒルデアはそれぞれエリザさんとミュシファの手をひいて走り出すのです。


「あたしらも急がないと。」


「ん。行こう。」


「・・・はい。」


 もちろん間を置かず、わたしたちも更衣室に急ぐんです。


 しかし・・・冬季実習の突然の発表が、わたしたちのクラスに新たな波風をたてています。


 少々波乱含みで、2学期は穏やかに終わりそうにないのです。


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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