第16章 その6 お知らせは突然に
その6 お知らせは突然に
「アンティノウス・フェルノウル講師・・・三日間の謹慎に処す。」
セレーシェル学園長が冷然と告げたのは、次の日の朝のことでした。
場所は学園長室。
わたしと叔父様は始業前に呼びだされ、ソファに並んで座り、学園長に向かい合っています。
学園長は昨夜の襲撃事件で徹夜明けなのに、相変わらずおきれいで、そんなことをまったく伺わせません。
そういうところはやっぱり大人。
叔父様なんて、わたしが直すまで昨夜の破けて血まみれのシャツのままでしたし。
「三日も休んでいいの?昨日は休講禁止なんて言ったじゃん?」
『謹慎』って、決して『お休み』ではないのですが、叔父様にとっては同じ『くくり』なのでしょう。
三日間ひきこもる気満々のようです。
「・・・イスオルンは、施設管理責任者で機密漏洩、処分は必要だ、どうせあの男は気にしないが形式は必要だって言うだけ言って飛びだしちゃって行っちゃったし・・・ワグナスにいたっては、どうせメル助手が完治するまで仕事しないでしょうって言うし・・・みんな甘過ぎよ!」
・・・『大人』の学園長が、こんな逆上しやすくなったのは最近です。
特に叔父様相手には、こうなりやすいと感じるのは、わたしの考えすぎなんでしょうか?
非常識な人を相手にしてお疲れと思いますけど。
「ちょっと待ってくれ?なんだい、その機密漏洩って?」
怪訝な顔をする叔父様の質問に、人差し指でお答えする学園長ですけど・・・なんでわたしを指すんでしょう?
「あなた、この子たちにもらしたでしょう?昨夜、なんか起きるって。」
昨夜のうちにだいたいの事情は把握なさったようです。
さすがに手早いのです。
「それはおっさんが悪い!この子に変な任務をさせるな!身近に内通者がいたのはわかったけどさぁ・・・それにしたって生徒を巻き込んだのはおっさんが先だ。何より僕は機密漏洩なんてしてないぞ!僕がクラリスたちを危険に巻き込むようなことを言うハズないだろう!むしろ、何が起こってもゼッタイ寮から出るなって言ったくらいだよ!」
・・・・・・・・・すみません、それ、漏洩です。
それでわたしもリトもわかっちゃたんですから。
本当に物事をごまかすのが致命的に下手な叔父様なんです。
「それで、クラリス・フェルノウルさん。」
「僕の話、聞いてる?」
そんな叔父様を『スルー』する学園長は、今度はわたしに向かって厳かに告げるのです。
「あなたは三日間の停学です。」
「クラリス?大丈夫?・・・停学なんか大したことないよ?それにみんなには当分風邪ってことにするみたいだし・・・ま、停学なんて言ったら昨夜すごいことがあったってクラスのみんなにばらしちゃうようなもんで、言えないし。せっかくヒュンレイを夜中たたき起こして襲撃の痕跡を全部モミケシたんだからね。」
叔父様が一生懸命わたしをなぐさめてくれますけれど・・・正直、右から左状態です。
「しっかしなぁ、キミたちが頑張ってくれたから僕も学園もなんとかなったってのに、『その功績よりも無断での戦闘行為は許されない』?そんな軍法あったか?軍属でも所属する施設の防衛は正当な気がするし、おっさんも黙認したような流れに聞こえたんだけどなぁ・・・軍隊音痴の僕が知るわけないけど、現場の勝手な解釈のいきすぎじゃないか?あげくに『班長自らの誤った判断で班員を危険な戦闘行為に巻きこんだ』?やれやれだよ。不幸中の幸いかな、リーデルンくんやデニスくんたちは、指揮官のキミの指示に従っただけっていうことで、譴責だけですむみたいだし・・・班長はツライけど、責任感の強いキミらしい・・・」
朝一緒に学園に来てくれたリトは、何も知られずそのまま教室へ。
わたしは学園長室を出て、寮に帰ろうとして・・・盛大にずっこけて、とりあえず叔父様の教官室に一時退避です。
おんぶされちゃいましたけど、その間のことはよく覚えていません。
「まぁ、一応、保護者代理の僕に事情を伝えたから、実家にも知らせてないって、ワグ氏、気が利いてるね。で、その僕は実家から出禁くらってるから、兄さんたちに知らせる術がない。結局キミの停学を知ってる者はほとんどいない。」
停・学・・・て・い・が・く・・・テ・イ・ガ・ク・・・TEIGAKU・・・。
「だから、クラリス・・・ねえったらねえ・・・キミも僕の話を聞かなくなっちゃったの?意識、いっちゃってるねぇ。早く戻っておいてよ。」
わたしが茫然としているうちに、叔父様は最近マイブームのミルクティーを淹れてくださいます。
まだ片腕のままなのに、相変わらず器用な方です。
「ゴメン。少しここでゆっくりしてて。」
叔父様はめずらしくわたしを放置して、教官室の準備室・・・という建前の、居間兼寝室にいったん引っ込むのです。
虚ろなわたしにとって、空白の時間が過ぎていきます。
しかし、しばらくして扉の向こうから聞こえてくるのは、ファラファラも負けそうな、ピンクハート一色の声!
虚ろなはずのわたしの脳を直撃です。
「ご主人様ぁ♡もうメルから離れないでくださぁい♡メルはもう一秒たりともご主人様と離れては生きていけないのですぅ♡」
「起きたのかい、メル・・・全身見回したけど、もう元通りだよ。」
あんな声を聴いても、意外と平静な叔父様は、相手がメルだからです。
叔父様にとってメルは『家族枠』なんだと思います・・・多分。
でも・・・全身見回す?
わたしの胸がザワつくんです。
「いいえ、ご主人様。もう一度隅々まで見てください。メルがちゃんと戻ったか、何度でも確認していただきたいのです。」
診察?
ぶちっ、です。
まさか『医療行為』だから!?
だからわたしが頬に口づけしただけで大騒ぎする叔父様が、平気でメルに口移しで薬や水を飲ませたりできるんでしょうか?
どかぁんって扉を開いたわたしが見た光景は、犬耳姿にもどったメルが毛布をまとったまま、叔父様に抱きついている有様なんです!
あ、でも毛布がずり落ちて・・・。
なんてハレンチな!
羞恥心のない、犬娘メイド!
メイド服も着てないくせに!
「だったらさっさと『あの世』とやらに行けばいでしょう!一人で、さっさと、今すぐにでも!」
思わず怒鳴り込むわたしです。
何なら手伝ってあげるにヤブサカでないのです!
「クラリス様・・・今日くらいはご遠慮してほしいのです。今日はご主人様にメルの全てをささげる記念すべき日になるはずなのです。うふ♡」
毛布が落ちてしまった今、お尻の少し上からブンブン振り回されている犬の尻尾も丸見え。
でも頭の上の犬耳と尻尾以外は人族のものと変わらない、年頃の少女の裸身です。
その白い肌、ふくらみ始めた胸やくびれ始めた腰も本人には隠す気はないようです。
「ちっ・・・もう十年くらいあの姿のままならよかったのに。」
思わずそう毒づくわたしです。
「クラリス・・・メルがせっかく一晩で戻ったのに、そんないじわるなこと言わないでおくれ。」
そう振り向く叔父様。
ですが、その残された左手はメルの腰にまわったままなんです。
「叔父様の変質者!少女の敵!『ショクバナイレンアイ』は禁止じゃないんですか!?」
もうめちゃくちゃ言うわたしなんです。
それなのに
「ああ、クラリスもなんだか元気になってよかったよ。」
そんなセリフがありますか!
相変わらず人の気持ちがわからな過ぎな叔父様なんです。
それでも、体力はまだ回復していないらしく、メルは再び叔父様に眠らされます・・・薬、せめて術式でさっさと眠らせればいいのに、わざわざ抱っこして頭を撫でて・・・時間かかり過ぎです!
その後でようやく眠りを深くするお香を焚く叔父様。
「叔父様、そんな手のかかることばかりなさって。」
すっかり心が狭くなっているわたしは、そんな非難めいたことを言ってしまうんです。
さすがに準備室を出るまではガマンしましたけど。
「・・・最近さぁ、メル。あまり夜に寝たがらないんだ。今まではとっても寝つきのいい子だったのに。」
「・・・今回の襲撃事件を感じていたとか?あの子、勘のいいところはありますから。」
「それもあるかもしれないんだけど・・・なんか、妙に僕の心配してるっていうか・・・うまく言えないけどそんな感じ。」
「それは、叔父様が人に心配かけるようなことばかりなさるからでしょう?」
「ぐさっ!・・・でもやっぱりそうなのかな。」
こういう時は、不本意ながらメルの気持ちがわかる、そんな気がします。
叔父様を挟んで鏡写しのようなわたしたちなんですから。
だから、この無念そうな叔父様をわたしもこれ以上責めることはできないのです。
「叔父様。しばらくメルとゆっくりお過ごしください。」
『敵に塩を送る』というより『敵国に岩塩の鉱山を譲渡する』ような無念さを隠し、そう言うわたしです。
なにしろ救護室のベッドも『獣人化が一般生徒に知られる』って言われて使えないのです。
ここ以外にメルの居場所はありません。
「叔父様もせっかく謹慎中なのですし。」
複雑な気持ちのせいか、そんな皮肉めいたことが口から出てしまいます。
「まぁ、それはキミも一緒なんだけどね。」
ぐっさぁっ、です。
でも、これは叔父様の皮肉ではないのです。
「・・・わたし、やっと忘れかけていたのに!」
叔父様は素で言ってるだけ、無神経なだけ。
だからこそ余計に始末が悪いのですけれど。
「あれ、学園長から?」
「魔伝信ですか、叔父様?」
その左手の人差し指にはめた指輪から、宙にメッセージが浮かび上がっています。
「なんだいあの人は。人を謹慎にしておいていきなり呼び出し?・・・クラリスがここにいるってバレたかな?」
どき、です。
それって・・・
「やっぱりまずいんでしょうか?」
つい恐る恐る聞くわたしです。
「一応停学だから・・・校内にいるのは不自然だけど、でも朝のキミを放ってもおけなかったし、そもそも謹慎中って言っても僕はここ住んでるんだから・・・。」
愚痴をこぼしながらも叔父様は、「メルを頼む。まだ当分は寝てると思うけど。」と言って教官室から出ていかれました。
わたしは自分で自分のためのお茶を淹れて、本棚から一冊の書物をお借りすることにします。
『人族の亜種たち』・・・アンティ・ノーチラス著って叔父様のペンネーム!?
メルを引き取ってからもう4年。
叔父様がこの手の専門家になるには充分な月日が経っていたのでしょう・・・ありました、半獣人の獣人化現象・・・。
「・・・調査の結果、母方の人族の姿に近い半獣人が、父方の姿である獣人と化すには・・・」
以前お話ししてくださった推測・・・人族に虐待された半獣人が獣人化して、その相手に復讐している・・・を、幾つかの例を挙げて検証しておられます。
推測は概ね正しかったようです。
そして・・・
「・・・憎しみや怒りで獣人化現象を起こした半獣人は、もとの姿に戻ることはない。」
・・・この結論。
でも叔父様は昨夜のうちにメルはすぐ戻るとおっしゃったのです。
なぜ・・・あ、これですか?
「・・・しかし、一例だけ例外があった。母親を救うために盗賊を皆殺しにした幼い少女は、三日後に元の姿に戻ったのだ。ただし・・・戻った時には、それまで少女をかわいがっていた人々も、助けられた母親も、その少女を恐れるようになっていた。少女はその後、姿を消した。」
怒りや憎しみではなく、大切な誰かを守るために獣人になった場合は、戻ることがある。
でも、その後、その子を取り巻く環境が変わってしまえば・・・やはり不幸なのでは。
「ご主人様!?ご主人様は!?メルを一人にしないでください!」
目が覚めた?
叔父様が側にいなければ眠れないのは相変わらずのようです。
こんな時でも、薬や香の効果も長くはもたないのです。
あるいは、彼女も不安なのかもしれません。
急いで隣の部屋に行けば、裸のまま部屋から飛び出す寸前のメルがいます
「クラリス様!?・・・ご主人様は?メルをお見捨てになったのですか?」
心細げなメルは、その犬の耳も尻尾もしょんぼりとさがってます。
「バカなことを言わないで。わたしですらここにいるのに、叔父様があなたを見捨てる訳がないのです。」
これでは『敵国に、製塩所のある沿岸領を割譲する』ようなモノではありませんか。
まったく、なんでわたしがメルにこんなこと言わなきゃなんないんでしょう。
ですが、それ聞いて安心したのか、メル表情がみるみる緩みます。
そのまま床に崩れ落ちて。
「メル。叔父様は御用があって・・・でもすぐに戻りますから。」
わたしは不本意ながらも、弱った彼女を抱き起し、ベッドに寝かせるのです。
「・・・ありがとうございます、クラリス様・・・メルが怖くないのですか?」
上目づかいでわたしを見上げるメルは、少し新鮮です。
「今さらわたしがあなたを怖がる?朝、叔父様に裸で抱きついておいて、そんなものを見せられたわたしがここであなたを怖がって引き下がったら、叔父様があなたに何をされるやら・・・まったく、あなたももう年頃なのですから少しは慎みをお持ちなさい、年中発情してるばかりがトリエですか!?」
ベッドの横でメルに言い聞かせるのですが、あまり効き目がないのはわかりきっています。
「・・・クラリス様、発情してるというのは、つまりメルがもう年頃という証拠!つまりは大人として当然なのです。」
しかもこの減らず口、屁理屈・・・これは叔父様の悪い影響でしょう。
「思春期は発情期とは違うんです!」
もう少し人生に悩むところが人族の思春期です。
複雑なのです。
わたしの思春期なんてその最たるもの。
結局悩んだ挙句叔父様から離れて、その間、この犬娘メイドにいい様にされていたのですから。
それを考えると、メルはぶれることなく、ひたすら叔父様を慕い続けています・・・単純なのも悪いとはいえないかもしれません。
「それで・・・メル、眠れないのなら少し話を聞いてもいいですか?」
「はい、クラリス様。」
メルにもお茶を淹れたのですが、やはり叔父様の淹れたものと比べると数段落ちるのです。
メルの微妙な表情・・・イヤなら飲まなきゃいいんです。
「あなたは、昨日の襲撃に気づいていたんですか?最近、夜眠らないようにしていたって聞いたのですけど。」
「・・・いいえ。それは違う理由なのです。」
「違う理由?」
「メルは・・・ご主人様の寝顔を見たことがないのです。」
叔父様と毎晩ベッドを共にしている・・・字義通りです!決してそれイジョウではないのです!・・・メルが、叔父様の寝顔を見たことがない?
それはアリエナイと思うのです。
「・・・クラリス様。ご主人様は、普段は睡眠をさほど必要とされていません。一日に二時間も眠れば充分なのです。」
「それでは草食動物です!それに・・・わたしと一緒の時はいつも朝までグッスリ・・・」
「そうなのです。昔、ご主人様がクラリス様とお昼寝していた時のご様子を見て、メルはとても驚いたのです。」
お昼寝なんて、いつのことやら。
幼いころならともかく、叔父様がメルを引き取ったのは4年前。
わたしはもう11歳で、お昼寝、しかも叔父様と一緒なんて記憶には残っていません。
当時はまだ思春期前でしたから・・・ないとも言いきれませんけど。
「ご主人様は、メルが寝付くまで、いつも優しく抱いてくださいます。ですがメルが寝てしまうと・・・大概ベッドから抜け出して、お仕事をしたり、趣味のモノをおつくりしたり・・・朝にはメルが目覚める前に朝食を用意してくださいます。ですからメルはご主人様がお眠りになっているお顔を見たことはないのです。クラリス様がご一緒の時に休まれるご主人様の、あんなに安らかなお顔は・・・。」
主人に朝食をつくらせる使用人って、問題多過ぎですけど、叔父様のことですから気にもしないでしょう。
むしろそんなに勤勉な人だったかしらって驚きです。
それはわたしが知っている叔父様の『睡眠』とは全く違うご様子なのです。
叔父様は寝つきがよいお方で、子どもの頃も、数か月前も、わたしが一緒に寝た時はわたしより先に熟睡。
その寝顔の無邪気さというか能天気さといいますか、到底大人のモノとは思われないのです。
そんな叔父様が?
「ですが・・・一番つらいのはご主人様がお一人でお酒をお飲みの時なのです。この前も、あんなに強いお酒をお一人で・・・それは憂鬱そうにお飲みなのです。メルはそのお顔を見るだけで・・・」
ほんの時々。
叔父様は普段お見せにならない表情を浮かべます。
わたしにすら滅多にお見せしない憂鬱そうなお顔。
なまじ普段のんびりとしたお方ですから、そんなお顔を見ると、わたしもやるせない気持ちになるのです。
それはきっとメルも同じ。
こういう感情は、ホントにわたしと鏡写しのよう。
「先日、ご主人様が起きている様子を見ていたことに気づかれてしまいまして・・・それ以来、ご主人様はメルを眠らせようと・・・」
寝る子は育つ、とか、成長期にはちゃんと寝ようよ、とかありきたりなお話をなさるそうです。
挙句にメルが寝不足になると・・・ああ、それで最近お昼寝させようとあんなことを・・・。
「メルは・・・悔しいのです。ご主人様はクラリス様と一緒の時はあんなにゆっくりと休まれるのに・・・メルとではお休みになれない。メルにはあんな・・・あんなお顔を見せてはくださらないのです。」
・・・わたしには返す言葉が浮かびませんでした。
メルは、しばらく声もなく泣いて。
そしてまた疲れて寝てしまって・・・お茶と一緒に飲ませた薬に気づかなかったのはやはり本調子には程遠いのでしょう。
完全に熟睡です。
叔父様は、睡眠をあまり必要としない?
それは、わたしの体験とは真逆の、信じがたい話です。
しかも、わたしといらっしゃる時だけが例外。
メルの様子では虚言ではなく、少なくともあの子はそのことで心を痛めているのです。
わたしは・・・正直に言って、あのだらしない寝顔がわたしと一緒の時だけ、と言われて・・・どう反応していいか、ムズカしいのです。
夜にこっそり起きて働く勤勉な叔父様なんてありえませんし、叔父様が草食動物くらいしか眠らないない人と言われても信じがたい。
そのくせメルを悔しがらせたことに優越感を感じた自分が情けなくもあり、それでも気に病んでるメルの様子が気になります。
あんなことを、獣人化なんてことまでして叔父様を・・・ついでにわたしたちを?・・・守ってくれたメルなんですから。
「やぁ、待たせたね。メルはまだ寝てるだろ?」
それなりの時間が経って。
ようやくお戻りです。
わたしは待っている間の、メルとの重い会話のおかげで少々暗くなっていたのでしょう。
当の叔父様に聞くのも気が引けますし・・・「叔父様って、キリンさんやウマさんのお仲間で、同じくらいしかお眠りにならないのですか?」・・・なんて、ねぇ?
「クラリス?・・・なんだか暗いね。そんなに気にしなくてもいいのに。停学なんてたいしたことないって。」
ぐっさし、です。
思わず胸をおさえてうずくまるわたしなんです。
「せっかく忘れていたのに・・・ひどいです。」
「ああ、ゴメンよ・・・そうだね、キミだってせっかくの停学なんだから少しは気晴らしをしないと。どうせ試験は終わったんだ。」
せっかくの停学。
そう言われても、それがどうして気晴らしに結びつくのかわたしにはわかりません。
そもそも停学という処分に、「せっかく」という言葉をわざわざ名詞的用法で使う必然性がどこにあるんでしょうか?
「・・・僕はこれから急ぎの用事があるけど、一緒に来るかい?今ならまだメルも寝てるし留守にできそうだ。」
「叔父様・・・ですが、謹慎と停学ですよ?外出なんてとんでもないです!まして叔父様は何をしでかすかわからないんですから!」
「そうさ。だから何かしでかすかもしれない僕を、誰かが見張ってなきゃいけないんじゃないかな?」
「そ・・・それは卑怯なのです!」
時々この人は、こんなふうに「悪魔」のような狡猾さを発揮するのです!
結局、メルが寝ていることを確認し、眠りを深めるお香をまた焚いて、叔父様とわたしは外出することになったのです。
突然の叔父様のお誘い。
どこに行くのか、少し楽しみなんですけど・・・不安も。