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第16章 その2 襲撃は突然に

その2 襲撃は突然に  


「クラリス様・・・ご懸念の通りです。本当に始まりましたぞ。」 


 その日の深夜・・・体内の魔術時計によれば0200です。


 わたしは酉さんの声で目覚めたのです。


 こんなこともあろうかと今夜は運動着のままベッドに入っていました。


 もちろん学生杖ワンド小剣ショートソードも。


「ありがとう。酉さん。よく知らせてくれました。」


「いえいえ。クラリス様のたっての仰せとあらば、この酉、どんな苦労も厭いませんぞ。多少主の指示とは異なることかもしれませんが、その「ふれきしぶる」な判断こそがそれがしの持味、他の愚直で蒙昧なだけの同輩どもとは一味も二味も違うのです。」


 正直、叔父様の使い魔が叔父様の指示通り動かなきゃダメでしょうって突っ込みたくもなるのですが、きっと「ツッコンダラマケ」という状況なのです。


 都合がいいのも事実ですし。


 わたしはまだ自画自賛を続ける酉さんを放置して部屋から出・・・


「待って。一緒にいく。」


「リト!?」


 なんと、リトまで運動着のままベッドから出てきます。


 左手には学生杖ワンドと右手には愛用の長剣ロングソードまで。


 もともと小柄なリトには不似合いなくらい大きいその剣です。


 そんなものをベッドに持ち込んでいたなんて、さすがは武闘派・・・いえ、そうじゃなくて!?


「誰が襲ってきたのか、まだ不明です。さすがに危険すぎます!リトはここにいて。」


「死ぬときは一緒。何度もそう言った。あれは全部本気。今もそう。」


 もう、この子は・・・何も返す言葉が浮かばなくて、わたしはただ抱きつくだけで。


「ん・・・でもクラリス。急ごう。」


「・・・はい、親友さん。」


「それは照れる。やめて。」


 


 リトはわたしが運動着のままベッドに入ったのを見て、もう覚悟を決めていたそうです。


 おまけに


「みんなもやる気。」


 玄関には


「班長、抜け駆けはいけません。」


「そうそう。あたいらも連れてって。」


「・・・胸騒ぎがしてたの。ファラにはアルユンたちと寮の警備をしてってお願いしておいたの・・・ジーナはまだ寝てるけど。」


 デニーにリル、レンまで。


 何かあるって気づいたリトがみんなにも教えていたようです。


「ん。ジーナ、寝たら起きない。」

 

 当たり前のように、2班のみんなは運動着にワンドでやる気です。


「・・・もうこの班は全員・・・おバカです!」


 だからわたしがそう言っても


「ん。」


 リトは平気で


「ええ!?メガネの知恵はお役に立ちますよ?」


 デニーはメガネのアピールで


「あたいは、ホントにバカだけど。」


 リルは言葉のまま反応しちゃって


「・・・レンもクラリスには言われたくないの。」


 レンはかわいく拗ねて。


 それでも、そんな四者四葉の返事も心強いのです。




「酉さん、状況を。」


 わたしたちは急いで学園校舎に向かいます。


 いえ、おそらく場所は・・・


「はい、現在、研究棟の裏手にある、転送館付近で戦闘が発生しておりますぞ。敵戦力は・・・おそらくは一個小隊以上かと。」

 

 30人以上の大規模襲撃!?


 ここからは戦闘の音も気配も感じないのに。


 デニーの「検知」も結界に邪魔されているみたいです。


 予想を大幅に上回る事態です。


 ゴラオンや新しい術式を調査するための、間者が学園に侵入するという、その予想を。


「おそらく学園の結界が強化されているのでしょう。班長、このままでは我々も入れないのでは?」


 デニーが心配するのは当然ですが、わたしはもう走り出しています。


「いいえ、敵の侵入経路をそのまま使います!」


「なるほど、さすが、閣下です!」


 そこなら敵が無効化しているはずですし、その背後を奇襲できます。


 ただし当然敵の後衛部隊が居るかもしれません。


「閣下はヤメテ!・・・みんな、手を!レン!」

 

 全員が走りながら手をつなぎます。


 一旦剣は鞘ごと剣帯に収め、両端のわたしとレンだけがワンドを持ちます。


「・・・いくよ!「精神結合マインドリンク!」


 大きな魔法円の後、白銀の光に包まれるわたしたちです。


 背後から奇襲バックアタックと言っても、警戒する魔術師が居ればどうせすぐに露見します。


 だったら最初から全力で強襲ストライクする覚悟です。


「敵の侵入路はわかった?」


「クラリス様、転送門を利用して内部に少数が侵入。その者らが手引きして」


「班長!東の通用門前に不審な人物数名・・・ステータスが「検知妨害」で読めません!」


 酉さんの情報とデニーの「検知」を総合して侵入路が把握出来ました。


 幸いここからはすぐなんです!


「待っててください!叔父様・・・それに教官方。」

 ・

 ・

 ・

 思い返せば、やはりあの特殊任務が気になっていたんです。


 それに学園には今、外部に知られたくない事情があるのです。


 そして、当然それを狙う人たちもいるのですから。


 わたしは自然に、夕方、叔父様のもとを訪れた時のことを思い出しました。

 ・

 ・

 ・

 今週、既に三度目となる叔父様の教官室への訪問です。


 さすがに「たまに」ではすまない気がします。


 ですが、これは用事が重なったための・・・「たまたま」なんです。


 「いつも」じゃありません。


 そんな理論武装を固めてからの五回のノック。


 「わ、た、し、が、きたぁ」は実家の叔父様の私室に尋ねる時と同じなんです。

 

 なのに・・・・・・・・・?


「反応なし?」


「これは予想外です。」


 主任から仰せつかった特殊任務のための訪問とは言え、それを知らないはずの叔父様がわたしに扉を閉ざすなんて・・・ありえないのです。


 それは冬の冷気に覆われたエスターセル湖が、一夜明けたら温泉になってるくらいありえない。


「クラリス様。主は手が離せないのでそのままお入りくださいと仰せですぞ。」


 酉さんです。


 叔父様がわたしにつけてくれてる「使い魔」の。先日もこんな感じでした。


「リト、叔父様は手が離せないから勝手に入ってくれって・・・酉さんが。」


 それで、事情を察したリトがためらいもなく扉を開けて・・・叫びます、「ハレンチ!」って。


 リトのお人形さんのような顔が真っ赤。


 これは怒っているのか恥ずかしいのか、どっちでしょう?


 わたしも、そのまま何があるのか勢い込んで室内に入るのです。


 意外にも、部屋の中には、ソファに座った叔父様がちゃんといらっしゃいました。


 ですが問題は、その膝の上!


 そこには横抱きになって叔父様に縋り付いている犬耳犬尻尾のメイド・・・メルがいます!


 なんということでしょう!?


「叔父様。これはどういう、どういうコトなんですか!?いつの間にメルとそんな関係に!イヤです!もう叔父様を殺してわたしも死にます!」


 叫ぶわたしを「殺人はダメ」ってリトが必死に止めていますけど、だって、叔父様はご自分に抱き付いているメルの腰に左手をまわし、髪を右手で優しく撫でつけているんです!


 もう、ミッチャクしてるんです!


 イチャイチャなんです!


「イチャラブ」ってるんです!!


「叔父様・・・わたし、一緒に逝きますから!一思いに!!」


 もう小柄なリトをひきずって、叔父様の眼前に迫るわたしです。


 しかし叔父様は悠然として人差し指で「し~っ」って・・・。


「静かにして。やっと寝付いたんだから。」


 瞬きをしてから、落ち着いてよく見ると、メルはスヤスヤと寝息を立てているんです。


「最近メルは夜あまり寝ないようにしてるみたいでね・・・でもずっと働きづめだし、このままじゃよくないから、こうやって眠らせてるんだ。」


 「こうやって」というのは軽く抱っこして頭を撫でてあげるっていう、この格好です。


 この子にとって、なんてご褒美でしょう。


「教官殿、甘やかし過ぎ。」


 リトまで口をとがらせる始末。


 わたしに至っては思わずメルを叩き起こそうとして、叔父様にたしなめられます。


「ダメだよ、やっと寝付いたんだから、かわいそうだよ。眠らせてあげてよ、クラリス・・・少し待ってて。ちゃんとベッドに寝かせてくるから。」


 そう言って叔父様はメルを「お姫様だっこ」のまま準備室・・・その実態は極狭な居間兼寝室・・・に運んでいかれます。


 ですが、その半獣人をなんでそんなに優しく抱いてあげるのでしょうか?


 ・・・つい差別的になるのはつまらない嫉妬だってわかってますけど。




「遅い。」


「けっこう経ちましたね。」


 珍しくお茶も出されずにソファで座ったままのわたしたちです。


 単にベッドに運ぶだけならすぐに終わるはずなのに・・・


「お待たせ。」


「随分長かったですね、叔父様。」


 自分の声がとがっているのがわかります。


「すまないね。でもちゃんと夜着に着替えさせて、睡眠を誘う香を・・・」


「着替え!?」


 リトの顔がまた赤くなってます。


「え、ああ?メイド服って結構窮屈で、そのまま寝たんじゃ疲れがとれないし・・・」


 そこじゃないんですけどね。


 事情を知ってるわたしでも、さすがに少しイラっとする鈍感さです。


 もう12歳の、一応は年頃の娘を着替えさせるって聞けば、普通は驚くでしょう。


 ま、叔父様がいなければ夜も眠れないメルです。


 いつもあの小さいベッドで一緒に寝ているからには当然、着替え程度はありうること。


「教官殿、おかしい!変質者!?」


 常識から言えば、リトは正しいのです。


 ですが・・・。


「リト、その辺でやめて。叔父様相手であれば、メルは全然気にしないんですから。むしろお気遣いを感謝するでしょう。」


「そうなの?・・・ん。」


 固く口を結んで納得しようとするリトを、叔父様は不思議そうに見ておられました。


 ホントに・・・少しは人の気持ちを分かってほしいんです。




 少し気まずい雰囲気にも気づかず、いつも通りお茶を淹れてくれる叔父様です。


 その合間にはまたあの仕草・・・右手を開いたり閉じたり・・・もう無意識のくせになってるみたい

です。


「はい。冬お薦めのミルクティー。お伴は作り置きのクッキーで勘弁。」


「いいえ、クッキーもおいしいから大好きです。ありがとうございます。」


「ん・・・うれしい。感謝。」


 あっさりと機嫌を直して、お茶をいただくのは自分たちでも現金だなって思いますけど。


「おいしいです、叔父様。」


「ホント。」


 叔父様は、最近お気に入りの黒湯をお飲みです・・・ホントに真っ黒。


 わたしは以前一度飲んで、あの苦さにコリゴリしたのに。


 なんかの果実を乾燥させて豆みたいにしたものをひいて粉にして、お湯を入れながら布で濾すんですけど、粉の時の香りは独特の香ばしさがあるのに、完成したらもうその香りもとんでいて・・・残念な飲み物なんです。

 

 そんなものを飲んで満足げな叔父様の表情を見ながら、わたしは首をかしげてしまいます。


「ところで今日は二人?珍しいね。」


 叔父様の教官室に訪れる時は、だいたいエミルにシャルノも入った4人。


 次に多いのはわたし一人。


 まれに2班のみんなと5人で。


 リトとのふたりというのは確かに初めてのケーズです。


「はい。今日は実は特殊任務でやってまいりました。」


「・・・特殊任務?あ~あ、可憐なクラリスが、いかにも軍人ポイセリフを言うようになっちゃって・・・僕は悲しいよ。」


「教官殿、過保護。」


「リトの言う通りです!」


 ホントにこの人は軍も軍人も、そもそも人嫌いなんです。


 いくらわたしのためとはいえ、こんな人がよくも軍の管理する魔法学校で働いてると思います。


「イスオルン主任から仰せつかったんです。この封筒の中の書面をお読みいただいて、署名をお願いします。」


 胡散臭そうに封筒を見つめる叔父様に、半ば強引に封筒を押し付けます。


「なんだこれ?・・・ま、キミの任務なら仕方ない。」


「あ!?ダメです、ちゃんとお読みください!」


「いいよ、面倒くさい。」


 ヒュンレイ教官もそうでしたが、ロクに書面を見ようともせずに愛用のロック鳥の羽ペンを取り出し署名を・・・する寸前でした。


「なんだ、この紙は?」


 銀縁の眼鏡をお外しになって、書面、いえ、紙そのものをしげしげとご覧になるのです。


「表面は一般的な公文書や契約書に使ってる白羊皮紙だけど・・・巧妙に・・・そう、かなり巧妙に細工されている。中にはおそらく・・・」

 

 さすが、叔父様はヘクストスでも屈指と言われる製本・写本師・・・ホントだったんですね・・・主任による儀式魔術そのものより、その触媒となる紙の材質に気づかれたようです。


「やや厚い書面・・・このインクは・・・黒鯨の血をもとに調合したものだ。なんらかの儀式魔術か?」

 

 ・・・ホント、魔術師でもないのによく気づくんです。


 こういうことには。


「で、表面の書面の用件は・・・クラリスにリーデルンくん。この中身については?」


 わたしたちはそろって首を振ります。


「これを見ると僕が最後か。やれやれ・・・キミたちはこのまま帰り給え。これは僕が直接おっさんに届けるから。」

 

 叔父様は怒りっぽく見える人ですが、その実本当に怒っている時は、一見そうは見えません。


 ですが、そんな時ほど・・・


「叔父様、ケンカはいけませんよ。」


 つい心配するわたしですが


「僕は非暴力主義者だよ。そんな野蛮なことはしない。」


 そう言って叔父様はわたしたちを送り出したのです。


 しかしケンカなんて野蛮なことをしない?


 幼少以来のわたしの記憶を全否定するその発言・・・どこのどなたがおっしゃられるんでしょう?


 そう思うんです。


 非暴力主義だって、時々アヤしいんです。


「キミたちも試験期間が終わったばかりで疲れてるんだろ。今日は早く帰って、早めに眠りたまえ・・・今夜は何があっても寮から出ちゃだめだよ。」

 

 教官室からいつになく強引に追い出されたわたしとリトは顔を見合わせ、同時に首をかしげたのです。


 そして・・・「アヤシイ」「絶対今夜何かあります!」って。


 隠し事が致命的にへたくそな叔父様です。まず間違いないのです。


 その後、わたしはリトに隠れて酉さんにこっそり指示するんです・・・。

 

 


 そしてリトと話しながら学園から出た時です。


 ふと視線を感じて振り返ると、背後には金髪でマント姿の教官と、長い紅金ストロベリーブロンドの髪をたなびかせた制服姿の女生徒の姿が見えました・・・ジャーネルン助手?


 でも、一緒にいるのは・・・あんな生徒いたかしら?


 ひょっとして転校生?


 その見覚えのないはずの女生徒が不思議と気になって・・・。

 ・

 ・

 ・

「・・・クラリス、考え事は後にするべきなの。」


 心の表面がつながっている状態のわたしたちですが、特に術者のレンには完全に丸わかりです。


「班長、あそこです!外に4人!」 


「通用門、開いてる。」


「あっ、向こうもこっちに気づいたよ!」


 通りの脇に潜んでいたのは、黒づくめの軽装の戦士でしょうか?


 随分身軽ななりですが、手に持った長剣とその殺気は本物です。


 そして、その4人の賊は無言のままこちらに向かってくるのです。


 ですが人間相手に本気の勝負は、まだためらいがあります。


「レン!」


 レンが得意のスリープクラウドを簡易詠唱します。


 わたしたちと同調・増幅しているため、いつもより大きな魔法円が発現します。


 そして、賊の周辺に雲が発生し・・・なのに誰も倒れない!?


 暗闇の中、デニーの「暗視」のおかげではっきりと、賊の周囲に展開した鈍い光が見えます。


「耐魔術抵抗」の呪符物が発動したのでしょう。


 あんなものを全員が持っているなんて?


「リト、気を付けて!」


「承知!」


 わたしはリトに並んで前に出ます。


「デニー!」


「はい、閣下!」


 味方の後衛はデニーの判断に任せます。


 レンとリルが立て続けに「回避」「防御」などの支援系魔術を放ってくれます。

 

 デニーは戦闘指示の合間に敵味方の状態を「戦闘管制」し伝えてくれます。


 もっともこの賊のステータスは妨害されて、よくわからないようですが。


 賊は二人ずつに別れ、わたしとリトに向かってきます。


 リトは二人相手でも後れをとっていないようです。


 敵の攻撃を受けずに避けて、素早く長剣を振るって優勢です。


 問題は・・・わたしの方。


 わたしの付け焼刃の剣術、しかも小剣では手だれの敵に押され気味・・・無表情のまま振るわれる連続攻撃にはついていけない!


 それでも何とか小剣で敵の斬撃を防ぎ・・・その度に体重の乗った重い衝撃で手がしびれていきます・・・次の一撃をかわして、なんとか時間を稼ぐんです。


 その間にレンとリルの「魔力矢」が賊の体力を削っていきます。


 このまま持ちこたえれば・・・ですが、「魔力矢」が命中する度にあの鈍い輝きがその威力を減殺しているのでしょう。


 しかも鍛えられた体力はなかなかなくならない・・・。


 そんなことを考えたのがいけないのか、左の賊の打ち込みを受け止めたのはよかったのですが、連続するように放たれた右からの横殴りの一撃は、だめ、防げない!?


 ガキッ!


 その回避不能と思われた一撃は、でも、突如わたしの眼前で弾かれたんです!


「イタタタタ・・・いいえ、これも主の大切なクラリス様のためでございます。この酉めの忠誠をお忘れなく。」


 そう言って一瞬だけ姿を見せた酉さんは消えてしまいました。


 そう言えば以前叔父様を守っていた「使い魔さん」たちも、攻撃を受けることができても、一定のダメージを受けると魔力の補充を受けるまでは動けなくなっていたみたいです。


 でも、死んだわけじゃない、そして酉さんのつくってくれたこのチャンス。


 見逃すわけにはいきません!


 わたしは、一撃を防がれ一瞬動きの止まった賊の、その右手をつかむんです。


 そして!


「衝撃」「衝撃」「衝撃」「衝撃」「衝撃!」


 そのまま幾度も連続詠唱します。


 さすがの賊もこの「衝撃」は接触系で抵抗できないのです。


 そして幸いなことに手をつかんだ賊ばかりか、小剣で防いでいた敵も、剣を伝わって直接「衝撃」を受け、二人とも崩れて落ちます。


 驚く敵のスキをつき、リトも敵の剣を弾き飛ばし、もう一人を剣の平で昏倒させました。


「お見事です!」


「二人とも、すごいすごい!」


「・・・強い!」


 援護をしてくれていた三人も安心して近寄ってきます。


 わたしもつい彼女らに目を向けました。


 ところが、その瞬間です!


 剣を飛ばされた賊は、迷いなく倒れた仲間に飛びついて短剣で突き刺し、そのまま自ら喉も突いて、血を噴出しながら倒れました。


 まさか・・・仲間の、自分の命すらこんなに軽いなんて、なんて人たち!?


 暗闇の中で、地面に重なる二人の傷口からあふれた赤い血が流れ、広がっていくのを茫然と見ているだけのわたしたちです。


 こんな近くで、人が死んだ・・・その事態の意外さに我を忘れるわたし。


「即死・・・ぬかった。」


 そんな中、リトの無念そうな声だけが、ポツリってその場に響きました。


 わたしたちは言葉もなく、その場にたたずんでしまいます。


 その間にもリトは要領よく、衝撃で倒れた二人を厳重に縛り、さるぐつわまで噛ませています。


 さらに服などをあらため、隠されていた暗器や薬物などを取り除いていきました。


「身分を示すものは皆無」とつぶやき、更に、それが終わると


「クラリス。覚悟が必要。デニー、リル、レンも。」


 と、厳しいまなざしをわたしたちに向けるリトなのです。


「覚悟?」


「ん。こいつらを・・・トロウルだって思う覚悟。」


 それは、同じ人族と思うな、見かけ通りの人族だと思うな・・・そう言っているんです、リトは。


 つまりは殺す覚悟と殺される覚悟!


「・・・リト。」


「教官方もそう。魔術は使えても人には使えない。それでは、この敵相手では・・・死ぬだけ。」


 わたしはハッとします。


 叔父様・・・亜人相手ですら命を奪うことを嫌うあの人が、同じ人族相手に戦えるかどうか。


 それに他の教官方も・・・あの「キッシュリア事変」の折も上級魔術師であるセレーシェル学園長とワグナス副主任は戦えなかったのです。


「軍人を志すなら、こんなことはある。」


 そうです。


 賊が、いえ、敵が何者であろうと、わたしたちの学園を襲撃する、そんな輩に無抵抗ではいられない。


 そして叔父様も教官方も危ういのです。


 自分のためならムリでもみんなの、そして学園のためなら、わたしはみんなを守って・・・戦えます!


「わたしの士道不覚悟でした。ですが、もう大丈夫です。」


 遅ればせながら、覚悟を決めたわたしです。


「いきましょう」


 しかし・・・そう言いかけて。


 眼鏡を曇らせたままのデニーを。


 震えたままのリルを。


 うつむいたままのレンを見てしまいました。


 三人は、軍人になるって決めているわたしたちとは違うんです。


 このまま連れて行っては・・・死んでしまうかも。


「デニー、リル、レン・・・みんな、ここまでありがとう。」


 三人はわたしたちを見て、何かを言おうとして・・・でもまたうつむいて。


 それは仕方のないこと。


 だって三人とも魔法兵、つまりは軍人になる覚悟ができていないまま。


 それなのに人族の、しかもあんな非情な敵が相手なら戦えなくて当然なんです。


「ん。みんな、寮で待ってて。」


 だからリトも、優しい笑みを向けてます。


 わずかの沈黙を振り切って校舎に向かうわたしとリト。


「待って!・・・レンも行くの。ここで行かなかったら、あの時のアントに申し訳ないの。」


 アント。


 あのミライの洞窟の中で、16歳の叔父様は、わたしとレンを救うために上官二人を・・・。


 非暴力主義を謳っていても、守るべきものを守る時にはためらわない叔父様です。


 それは昔から変わらない。


 いつしか顔を上げ、強い決意を浮かべるレン。


(それに、もしもの時にはミライに申し訳がないの。)


 そうわたしにだけ念話を送るレンの瞳は、深く青みがかっていました。


「うわああ!・・・すみません、怖気づいていましたが、私も行きます!」


 奇声をあげたのはデニーです。


 この子の行動はいつも奇矯です。


 止めようとするわたしたちですが


「いいえ!あの邪巨人の襲撃からヘクストスを守ったのは我がエスターセル女子魔法学園ではありませんか。その学園を、どんな理由があろうとこんな形で襲撃する輩を見過ごすわけにはいきません!それに・・・なぜ、何者がこんなことを企てたのか、それを知らずして・・・私は戦場の名探偵などと名乗れないわ・・・そうよ、この謎はこの私が必ず解き明かして見せる!」

 

 途中まではいい話だったのに・・・結局はいつものビョーキです。


 でも


「そうだそうだ!あたいの妹たちが無事だったのは、あたいたちや学園のみんなが戦ったからだ・・・あたいも学園を守る!だから一緒に戦う!」


 リルまで・・・そう訴える彼女のム・・・は元気に揺れてますけど、その表情はいつもの笑顔ではなく、真剣なモノ。


「へへへ・・・それに、あたい、お姉さんだし。」


 最後は、いつもの笑顔にもどったリルです。


「リル・・・こんなときだけ年上ぶるのってズルいって思うの。」


「そうですよ、年下のわたしたちの立場がなくなるじゃありませんか。」


 13歳のレン、14歳のデニーも、それは同じ。


「クラリス、一度怖気づいた私たちですけど・・・連れて行ってください。」


「そうそう。必ず役にたって見せるから!」


「・・・レンもお願いするの。」


 最後は三人そろって・・・。


 わたしとリトは一度顔を見合わせて、でも、もう答えはお互いの顔に書いてあって。


「ホントにこの班はおバカの集団・・・今度からアルバトロスとでも名乗りましょうか。」


 冗談めかしてそう言うわたしですが、


「アホウドリ?・・・でもそれはそれで納得。」


「はぁアホウですか・・・それでは隊章も作り直しですね。」


「あたいにお任せ!今度新しい隊章描いて来るね。」


「・・・レンはあの、エターセリュの花が好きだったの。でも新しいの見せてね。」


 なんだかみんな、あっさり乗り気です。


「もう恋人を待つだけの女なんか、わたしたちには似合いませんよ。帰ってこないならムリヤリ迎えに行くだけです。みんな、そんな覚悟ができたんでしょ?」


 みんな仲良く苦笑い。この王国の常識内じゃ、全員、規格外の猛女、決定なんです!


「では、あらためて・・・いきますよ。エスターセル女子魔法学園、2班あらためアルバトロス、このまま学園に潜入した敵の背後を強襲、教官方を援護します!

 

 当然みんなの返事は「おおおおうっ!」って。


 こうしてわたしたち5人は仲良く元気よく、戦場に赴くのです。


 その日の昼までは平和だった、慣れ親しんだ学園へと。


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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