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第15章 その5 放課後の教官室

その5 放課後の教官室

 

「はあ・・・はあ。」

 

 どうやら「敵」の目はごまかせたようです。

 

 岩陰にたどり着いて、ようやく息を整えるわたしです。

 

 冬の設定のせいか、息をするたびに白いモヤ・・・これ、見つからないですよね?


「ぐるるるぅ」


 はっ!遠くで唸り声・・・ジャイアントウルフの群れが雪に残るわたしの足跡をたどって!?


 ならば・・・


「眠りのスリープクラウド!」


 威力と範囲を増した通常詠唱で、まずは追っ手を眠らせます。


 続いて、ゴブリンアーチャーの矢は・・・


「風操り(シルフコントロール)!」


 ワンドを一振りした簡易詠唱で、あらぬ方向へ追いやって、


俊足ダッシュ!」


 ここは全力疾走です。


 積雪を蹴散らして走るんですって、ズル・・・滑って転んで、


 すぐ立ち上がって!


 まだ少ししか積もってないのに、その下に氷が隠れてた?


 ・・・もう、雪なんて大っ嫌い!

 

 振り向きざまに、追っ手にもう一回


「眠りの雲!」


 もはや術だって使い放題!


 だってあと少しで・・・見えた!


 友軍旗!




 エクスェイル教官がタイムを確認し、イシオルン主任に報告しています。


 これで魔法装置による模擬「単独偵察任務」は終了・・・疲れました。


 無傷で生還。


 しかも先行して敵部隊の布陣の把握に成功、


 これはおそらく最高得点でしょう!


 これで戦術演習の実技試験は終わり、今日の試験も全て終わったのです。




「クラリス、めっちゃすごかったよ」


「ん・・・負けた。」


「これで、わたくしも危ういですわ。」


 先に試験を終えていた・・・というか、私が最後だったんですけど・・・エミル、リト、シャルノが出迎えてくれます。


「ありがとう。でもエミルはともかく、リトもシャルノもよかったと思いますよ?」


「あたしだけ別扱い?めっちゃひどい!」


「ですがエミルはそもそも偵察の意味がわかっておりませんし・・・。」


「ん。敵に見つかったからって「魔力矢」を乱射する偵察はありえない。」


「まったくですわ。しまいには魔力がカラッポになって試験中止。休憩室には運ばれるなんて前代未聞ですわ。」


 今年始まったばかりの前代ですけれど。


「それ言わないでよ。めっちゃ、ショックなんだから・・・。」


 なんて、ションボリ顔のお嬢様然とするエミルです。


「でも、自分も。」


 そう。


 リトも最後は戦闘に走って、軽傷判定を受けたんでした。


 それに・・・


「ん。偵察で敵を過小評価した。」


 敵陣の偽装を一部見逃した失点があったみたいです。


「それを言うならわたくしも・・・。」


 シャルノも訓練後、主任に同じミスを指摘されたそうです。


「クラリスは何も言われなかったの?」


「え・・・はい。ですが、おそらく作戦時間はシャルノより長かったと思います。最後の追跡を振り切るまでは、相当慎重に行動しましたから。」


「ですが、制限時間内であれば問題ないでしょう・・・おそらくあなたの方が評価は上のハズですわ。悔しいですけど。」

 

 なんだか恥ずかしくて、申し訳なくて、でもちょっと誇らしいんです。


 ライバルに認めてもらえたんですから。




 その日の帰りのホームルームです。


 クラス担当のワグナス副主任が


「クラリスくん、それにヒルデアくん・・・」


 わたしたち二人に指示したのは・・・。


「失礼いたします!クラリス・フェルノウル、入ります!」


「同じくヒルデアルド・デルミーヒッシュ、失礼いたします!」


 ・・・あれ、応答がない?


 やはりノックは五回でなければいけなかったでしょうか?


 そうです。


 ワグナス教授の指示は、叔父様ことフェルノウル教官の教官室に赴くこと。


「クラリス様。主が申すには静かにお入りくださいとのことですぞ。」


 ひっ!?


 ・・・酉さん?


 姿はありませんから、半活性化の状態で叔父様からの伝言をしてくれたみたい。


 もう、びっくりです。


 いくら普段は非活性化してて「見ざる言わざる聞かざる」だからって・・・それは「お申さん」?


 よくわかんないです。


「ヒルデア・・・叔父様は手が離せないから勝手に入ってくれ、と仰っています。」


「・・・なんだかな。キミたちは以心伝心なの?」


「そんなじゃないんです。さっきの酉さんが・・・」


「ああ。あの教官殿の使い魔の伝言?便利だね。」


 そう話しながらそぉ~っと教官室に入るわたしたち。


 ですが、お部屋に入っても・・・


「誰もいないですね?」


「フェルノウル教官だから、何かのイタズラかもしれないけど?」


「まさか。叔父様ならもっと手が込んでると思いますよ。」


 ちゃんと伝言までしてのイタズラは、効果半減でしょうし。


「しばらくお待ちください、とのことですぞ。」



 やれやれ、です。


 人を呼びつけて待たせるなんて。


 しかもメルまで出てこない。


 あの犬メイド・・・。


「ごめんなさいヒルデア。叔父様が・・・」


「キミが謝ることじゃないよ。教官殿とどんなに仲がいいかしれないけど、キミのせいじゃないんだから。」

 

 でも、叔父様の不手際や失礼はつい謝ってしまうわたしなんです。


 なにしろ子どもの頃からの習慣みたいなものですから。




「そう言えば・・・ヒルデア・・・聞いてもいいですか?」


「え?・・・魔法騎士のことかい?」


 ヒルデアは、わたしに教えてくれたんです。


 ご実家のデルミーヒッシュ家は上級騎士の家系で、ヒルデアも幼いころはお兄さんや弟さんたちに交じって、一緒に修行していたとか。


「なにしろ生まれる兄弟、みんな男なんだ。父上も男の子の相手しかできない人でね、だからボクも当たり前に兄弟と同じことをして、同じように騎士になると思ってた。だけど・・・12歳になって、いきなり母上に懐剣をわたされて、「女」の心得がどうとか言われても・・・ねえ?・・・クラリスにはわかんないか?」

 

確かに、その辺だけは普通に(?)女として生まれ育ったわたしには・・・ですが


「少しだけわかります。わたしも11歳の時に、自分の近くの人が・・・」

 

 正確には叔父様が・・・結婚していい相手に変わって・・・どうすればいいかわからなくなって。


「ふうん?・・・ならいいや。で、父上にも、お前は「女」だから騎士になれない。「女」はいい家に嫁いで、いい子を産めばいいって・・・なんだよ、それ!いきなりなんなんだよ!」

 

 ヒルデアは、いつもみんなのことを見て、みんなに合わせて、みんなのために行動している、とても公平で公正な子。


そう思っていました。


ですが、この時の彼女は明らかにそうじゃない。


 わたしに初めて見せる怒りの感情です。


 ですが、それは、この国では多かれ少なれ、女であるからには逃れられない感情なのです。


「で、ボクは、それまでなんでも言うことを聞くいい子だったけど、それからは全然言うこと聞かない悪い子になったんだ。だから、嫁入りがどうこういう家から独り立ちして、ここに来ちゃった。」

 

 ここでなら・・・そうここは、魔法兵を育てる軍の学校。


 それさえ受け入れれば、女であっても自分でいられる、自分の道を自分で切り開ける数少ない場所。


「で、魔法兵になる。その覚悟はできてたんだけど・・・「戦場実習」と「巨人災禍」で、両親が怖気づいてね。ボクが戦場に行くことは認めないなんて、学園に苦情を言い出して。」

 

 もちろんわたしたちは成人の身。


 軍人になるのに、両親の許しが必ずしも必要ではありません。


 それでもやはり自分の生き方を認めてもらえないのは、つらいことです。


「それで・・・逆に踏ん切りがついたんだ。」


 ヒルデアが勢いよく顔を上げると、その青い髪が揺れて、少年みたいな凛々しい笑顔を際だたせます。


「それまで、ボクは幼いころから学んでいた騎士の修行を無駄にしちゃったんじゃないか、だから魔法は中途半端にはなりたくないって思ってた。魔法騎士の学科があるのは知っていたけど、今は魔法だけでいいって・・・でも、やっぱりボクは騎士になるために学んだことを忘れられない。そして、ここで学んだ魔術のことも大事にしたい。だったらやっぱり両方やろうってね。単純だろ?これがボクが魔法騎士を目指す理由だよ。」

 

 そして・・・ヒルデアが魔法騎士になるために悩み相談した相手が・・・。


「なんであんな人に大事な相談なんて?」


 どう考えてもワグナス教授、或いはスフロユル助教授あたりでは?


「ははは。クラリスは意外にわかってないね。フェルノウル教官が一番だと思うよ、こんな相談は。ユイもそう言ってたし。」

 

 ええ?


 クラス委員の無口なユイはジャーネルン教官派のはず?


 ヒルデアだってエクスェイル教官派だし。


「まあ、確かによくわからないアドバイスも受けたけど・・・」


 魔法騎士なんて女子3人でトウキョウタワーを見学に行けば勝手に召喚されて簡単になれる・・・とか?


 それは相変わらず意味不明の言動なんです、叔父様らしいんですけど。


「女子にもなれるとは言え、女子がなるための道はまだできていないそうだよ・・・相当の覚悟を決めなさいって言われて、ね。それでも、魔法騎士の術式まで教えてもらったのは予想以上の戦果だったけど。教官殿、あれだけ術式に詳しいのになんで魔法使えないんだろ?」

 

 コン、コン、コン・・・え?


 それは逆ノック?


 教官室内の準備室のドアの内側からのノックです。


「やれやれ・・・出てくるタイミングに困ってたけど、イヤな話題になったからこの辺で「お茶」にしようか?」

 

 ガチャリ、って音と共に現れた叔父様は、左手のお盆にお茶とケーキのセットを乗せているんです。

 

 わたしとヒルデアは顔を見合わせて、一緒に笑うんです。


「はい!」


 って返事しながら。




「今日はミルクティーですか・・・珍しいですね、叔父様。」


 部屋に入るまではヒルデアの目を意識して「教官」って呼ぼうと思ってたんですけど、さっきまでのヒルデアとの話の後では、逆に不自然と思って。


 だから「叔父様」です。


「ああ・・・もう12月で寒くなったからね。甘くしてあったまろうと思って。」


 カップをわたしたちの前に置かれた後、右手を開いて閉じて・・・またあの変なクセ。


 でも、カップから流れる紅茶の上品な香りにミルクの甘い香りが溶けて、意識がそちらに向かいます・・・だって、ステキな瞬間なんです。


「あ・・・はい・・・とても豊かな・・・幸せな気持ちになります。」


「それはよかった。ケーキもどうぞ・・・僕には少し甘すぎたんで、君たちで分けたまえ。」


 そう言って叔父様が切り分けたのは、チョコレートケーキです。


 一見素朴で、イチゴも飾りもなにもありませんが、なんておいしそう・・・思わずゴクリ、です。


「教官殿。ではボクも遠慮なくいただきます・・・うわ、クラリスはいつもこんなおいしいのご馳走になってるんだ?」


「いつもじゃありません・・・たまに、です。」


「週二回はいつもって言う気がするけど・・・。」


 そこ、ばらさないで!


 思わずにらんでしまいます。


「ま、いいさ。僕もたまには公私混同しないとな。」


 そうです。


 あくまで、たまには、ですけど。




 わたしとヒルデアにとっての至福の時間が過ぎて、一息ついた頃です。


「で、そろそろいいかな?」


 そうでした。


 これで帰っては単に「食い逃げ」ではありませんか。


「すみません、教官殿。ついリラックスしてしまいました。」


「はい。叔父様。御用件はなんでしょうか?」


 実は、もう予想はついています。


 だってわたしとヒルデアが、今日、ここに呼ばれる理由なんて他に浮かばないです。


「・・・うん、実は君たちの今日の魔術詠唱の試験のことでね。」


 ホラ、やっぱりって、ヒルデアと目くばせしちゃいます。


「では・・・やはり失格ですか?評価不能な術式を行使したということで。」


 覚悟は・・・できてませんけど、あの時酉さんが届けた教官方の会話から、わたしとヒルデアの術式は認定しがたいだろう、ということは予想がつきます。


「・・・正直に言おう。4人の教官の意見も割れた。僕だってヒルデアくんとクラリスじゃ、違う評価をした。」

 

 叔父様は、ヒルデアはセーフ。


 わたしはアウトって主張したそうです・・・って!


「ええ?わたしを不合格にしたいんですか!なんでですか!ひどいです、叔父様のバカ!」


「クラリス!?・・・どうどう、落ち着いて。」


 って、ヒルデアがわたしの肩を抑えますが、わたしはアバレ馬ではありません!


 でも、これではレリューシア王女殿下との約束が果たせないんです。


 共に年末の認定ではレベル10を目指しているのに!


 何より・・・叔父様に追いつけないんです!


「教官の評価に文句を言う生徒なんて・・・甘えすぎだよ、キミは!」


「不当な評価に文句を言う分には、僕はいいとは思うんだけどね。」


「そんな!フェルノウル教官がそうやって甘やかすからクラリスは・・・」


 どこが甘やかしているんですか!


 失格にしようとするなんてもう、ジタバタです。


 でも


「僕はこの子の生命や健康、幸福には思いっ切り甘くて、なんでもするさ。でも・・・魔術に関してだけは」

 

 そのお言葉を聞くと、わたしは、動きを止めるしかないんです。


 叔父様の無念を知っているわたしが・・・こんなに魔術にこだわって、必死で、それなのにご自分では使えない、叔父様のくやしさを知っているはずのわたしが、たかがこの程度で暴れるなんて・・・


「ごめんなさい・・・叔父様。わたし・・・ホントにわたし・・・」


「わかってくれればそれでいい。顔を上げて。」


 それでも、どんな時でもわたしの謝罪はあっさりと受け入れてくれる叔父様に、わたしが甘えていることには変わりがないのでしょう。

 


 

 要するに、わたしを失格にしようと言うのは、「あんな問題だらけの術式を認めて記録に残すわけにはいかない」からだそうです。


「あれ、二つとも魔術協会に申請していないし、申請なんかすれば存在を知らせることになる・・・世間に与える影響は考えたくない。残念ながらおっさんの言う通りだ。」

 

「衝撃」の術式も、「付帯術式」も、叔父様が開発したものですが、その影響は絶大過ぎて、公開することがむしろ有害かもしれません。


 まぁ・・・理解しました。


 残念です。


「だからクラリスには、今度、使用する魔術などに制限をつけることになる・・・ま、近いうちに説明があるはずだよ。」


 ・・・やっちゃいましたか。


 がっくし、です。


「一方、ヒルデアくんの術式は、現在「魔法兵」しかも下級魔術士を対象にした試験からは大幅に趣旨から外れる。ま、僕は詠唱の見事さから見のがしてもいいじゃんって言ったんだけどね。」


 ・・・やっぱりわたしに厳しい気がします。


「で、結論だ・・・二人とも。明日、もう一回やろっか?」


 それはつまり再試験、ということなのです。



 その後、再試験についてのいくつかの注意をきき、ヒルデアは一足先に退室しました。


 明日、どの術式を使うかじっくり考えたいと言って。




「キミは明日どの術式で挑むか決めたのかい?あまり珍しいヤツにこだわることはないよ・・・今日のアレも参考にはなってるからね。」


「はい・・・わたしも今夜ゆっくり考えて決めます。」


「それがいいよ。僕もこの件じゃアドバイスできないし・・・これでも担当試験官だからね。」


 そもそもいいんでしょうか?


 生徒の叔父が試験官なんて?


「僕もそう言ったけど、ま、自分の授業の評価くらいは責任もってやれって、おっさんが、ね。」

 

 学園長はさんざん渋ったそうですけど。


「ところで・・・実はクラリス。僕はキミに聞きたいことがある。」


 あら?


 叔父様、珍しく・・・怖いくらい真剣なお顔です。


「おっさんたちが言ってたんだけど・・・」


 なんでしょう・・・こんなにまで・・・思わず、ゴクリ、です。


 なのに


「キミは試験中に「ウィザーズハイ」になったのかい?それってどんな感じなの?ホントに時間の流れがゆっくりになるの?術の手応えとかズウウ~ンッて、わかっちゃうの?それから・・・」

 

 一転して、すごい早口でまくし立てる叔父様!?


 これはいつものビョーキの症状です!


「待って、待ってください、叔父様!」


 そんな勢いで迫られても、いっぺんにお答えできないんです!


「だって僕は魔術が使えないから、そんな感覚全然わかんないんだ!どんな気持ちになるんだい?やっぱりテンション上がっちゃうの?それとも意外に冷静に周りとか見えちゃう?ねえ、クラリス、ねえったら」

 

 かつてこれほど情熱的に叔父様に迫られたことはないのですが、これが記念する第一回めだとすれば、とっても残念なんです!


「なんで魔術の話題になると人が変わるんですか?いろいろと!」


 もちろんわかっていることですけど、できるなら、もっと別な場面でわたしに迫ってほしいんです!


「お答えします、お答えしますから!」


 そう言いながら間近に迫る叔父様のお顔を両手で押しのけてしまうのです。


 いつもは人に触れることを極端に嫌がる叔父様が・・・わたしとメルだけは例外ですが・・・こんなに自分から近づくなんて、もうびっくりです。


 別にイヤなわけではないのですが、あんまり近過ぎて驚いたやら恥ずかしいやら・・・こっちの方が顔が赤い自覚があります。

 

 しばらくして、ようやく落ち着いた叔父様は


「えっと・・・僕はいつも一人でキミを指導していたからね。魔術師でない僕にとって、魔術師のおっさんたちの話を聞けたのは、意外に面白くてね。」

 

 まだ興奮気味ですけど、とりあえずご自分の事情を教えてくださいました。


「で、知識としては知ってた「ウィザーズハイ」に、キミがなったんじゃないかって聞いて・・・もう、うれしいやら、誇らしいやら・・・でも正直悔しいやらで・・・ゴメン。ちょっと我を忘れ過ぎたね。」


 ご自分の頬をかきながら、わたしに謝る叔父様です。


「いいえ、叔父様、お顔を上げてください。」


 「ウィザーズハイ」は、魔術師としての理想の状態です。


 クラスメイトはおろか、あのメルですらまだ経験していない境地なんです。


「ですから、次にまたそうなるかは分かりませんし・・・」


 それは、術者の心・技・体の一致。


 つまりは術イメージへの高度な集中と、完璧な詠唱と、そして正確な呪文動作、その全てができて到達できる瞬間です。


「もちろん、いつでもできるという保証はありません。まして、明日の再試験でもう一回見せてと言われましても・・・。」


「なるほど。ま、一種の「ゾーン」なんだろうな。ミハイさんの言ってたフロー・・・だったら意図的に入ることは可能っぽいけど・・・。」


「ええ?いつでもあんな風になれるんですか?」


「ま、少しばらく僕もいろいろ試してみるよ。うまくいったら授業で教えるから。」


 そう言って、叔父様は早々と準備室に戻ってしまうんです・・・もう、わたしより魔術の方が大事なんでしょうか?


 なんだかとっても不愉快なんです。


 それに・・・わずかな間に、クラス20名+メルの21人分の「ふぃぎゅあ」を展示用保管用宣伝用の三セット63体をおつくりになった叔父様は、とっくに「ゾーン」とやらにお入りになってるって思うんです。


 あれはあれで、絶対常人にはなしえない境地ですから・・・決して褒めてはいませんけど。


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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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