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第14章 その4 転移者はサムライ?

その4 転移者はサムライ?


 翌朝。


 朝食をいただいたら、早々に実家を出たがる叔父様。


 そんな叔父様の左腕をとって、一緒に歩くわたしです。


 そして間近から見上げて言うのです。


「叔父様、どうせ滅多に実家にお帰りにならないのに、『出禁』って言われたくらいであんなにしつこく食い下がらなくても。」


「そうなんだけどな・・・なんだか僕が悪の根源みたいに扱われて、その不当な評価に抗議したい気も・・・」


「それ、正当な評価だと思いますけど。」


 わたしだって、複雑なんです。


 弟か妹が生まれることはとてもうれしいのですが、叔父様がわたしより新しい「甥」や「姪」の方に愛情を注ぐようになったら、なんて、つまらないことまで考えて・・・そのせいか、つい辛口になっちゃいます。


「ご機嫌斜めだね、クラリス。」


「そんなことはありまスん。」


「どっちだよ。」


 どっちもです!


 昨日から、ウキウキしたり、プンプンしたり、自分でも不安定なのはわかってるんです。


 それでも叔父様の左腕をぎゅっと抱きしめながら歩くわたしなんです。


 帰り道も、もう作戦時間が残り少なくなって、もはや全面攻勢に出てるんです!


 わたしたち、どこから見ても「そういう関係」に見えるんじゃないかなって期待してるんですけど、セメス川の渡し船では「仲のいい親子ですね」とか、ヘクストスの市街では「浮気者を捕まえてるのね」とか、なんだか狙ってる効果からドンドン遠ざかっています。


 とどめは「なんだか子どもにもどったみたいだね」って叔父様!


 確かにこんなに叔父様に公然とくっつくのは久しぶりです。


 でも昔と違って、ちょっとは「ある」んですけど、それでも「子ども」扱い。


 やはり「攻撃力」が足りないんでしょうか?


 エミルに「お子様体形」って言われたトラウマがよぎります。


 でも、エミルやリルと比べたら世の大概の女性は「戦力増強」の必要を感じてしまうはず。


 その中では絶対的に不利というほどではないのです・・・多分。


 それはそうと・・・


「叔父様・・・あの、そんなに『甥』や『姪』ができるってうれしいですか?・・・その、わたしの時より?」


 叔父様は目をパチパチして、それから苦笑い。


「ハハハ。キミは僕が軍を退役したらもう家にいたからね。僕は兄さんが結婚したのも知らなかったし。だから比べられないよ。」


 そうでした。


 叔父様は規定を大幅に超えて5年以上も軍に徴兵されて、帰ってきた日に初めてわたしのことを知ったんです。


「それに、考えたら僕は結構子どもが苦手だ。キミ以外の子どもなんてちゃんと相手できないよ・・・イタイイタイ!」


 わたしは、またも子ども扱いされて、思いっきり腕をつねって差し上げます。


 どうやら叔父様が「弟」「妹」に浮気することはないようですけど。




 そんな感じで、西の城門から王宮のある中央に向かう大通りをゆっくり歩くわたしたちです。


 大きなお店が何軒もあります。


 今は・・・もう・・・1248。


 街に戻ると魔術時計が復活して一安心です。


 そこから少し行って左に入ると、もう昨日のお店のあたり・・・。


「どこかで食べて行こうか?そろそろキミの飼ってるお腹の虫が騒いでる時間だろ?」


 そのわたしの「食いしん坊」疑惑こそ、不当な評価って言うべきなんけど


「はい、ご馳走になります、叔父様。」


 おごっていただくからには「お礼はスマイルで」っていうファラファラの「教え」に従うんです。




「しっかし、この辺り、ホントに復興遅れてるなぁ。」


 チーズリゾットを戴いたお店の周りは、確かにガレキが残っています。


 よくもまぁ、こんなところで営業していられるって店主さんに感心していた叔父様です。

 

 食事を終え、急いで帰りたがる叔父様と、できるだけゆっくりしようとするわたし。


 そのせめぎあいは、もちろん叔父様の一方的な譲歩で終るんですけど。


「少しでも作戦時間を長引かせないと・・・」


「作戦って?」

 

 ドキ。


 いえ、それは言えるはずもありません。


「まったく随分軍人らしくなっちゃって・・・おっさんたちの悪影響だね。僕は悲しいよ。」


 言い回しこそ作戦って軍人風ですが、中身はただもっと一緒にいたいっていう乙女の願いなんです。


 でもそんなこと察してくださる叔父様ではありません。


「おっと、メルが寂しがって・・・やっぱり夕べは寝ないで起きてたみたいだし。」


 寄りにもよってここでメルの名を出しますか。


 それは、わたしだって少しは気にしてましたけど。


 やっぱり、こんな時でも最悪の選択肢を選ぶ人なんです。


「・・・叔父様、歩きながらメールするのは危ないですよ。」


 左腕はわたしにしっかり拘束されていますが、さっきから右指は動いてばかり。


「別に歩きスマホ禁止って条例もないし、いいだろ?」


 「スマホ」も「ジョーレイ」もわかりませんが、叔父様がお行儀悪いことに変りはないのです。




「あれれぇ・・・お二人さん、そんな関係だったんですか?」


 待ってました!


 ついに「そういう関係」に見てもらえたんです!

 

 恥ずかしくて顔が赤い自覚はありますが、それよりもそんな風に見てもらえたことが、まず勝利への第一歩です。


 もっとも最終目標は遥か彼方。


 まるで「遠すぎた吊り橋」のよう。


「そりゃそうさ。僕とクラリスは仲良しなんだ。どうだい、こう見えて僕はいい叔父さんなんだよ・・・イタイイタイ!クラリス、だからなんでつねるの?」


 ホラ、常にこんな時は最悪の選択肢を選ぶ特殊な才能の持ち主なんです。


「で・・・確か衛兵治安部騎兵隊の隊長だったよな、あんた。」


 通称、騎馬衛兵隊なんですが、わざわざそっちで覚えてる偏屈な叔父様。


 その目の前には一群の騎馬隊。


 そして先頭で颯爽と騎乗しているのは・・・。


「ええ。クライルド・ワグナス大尉ですよ。つい先日も会ったばかりじゃありませんか・・・あの『魔法街の沈黙』事件で。それで、いい仲のお二人さん・・・」


「隊長、どう見ても『仲良し親戚』じゃありませんか。相変わらず男女を見る目ありませんね。そんなだから条件良いのにまだ『お相手』が見つからないんですよ。」


 ぐさっ、です。


 茶色い髪の美人、副隊長アレイシルさんが言うには、わたしがあまりにも異性相手に無警戒無防備で、どう見ても父親や兄のような親しい肉親相手にしか見えないんだそうです。


 むやみにくっついてもだめなんですか?


 全面攻勢って、奥が深いです。


 でも・・・あの叔父様相手に何を警戒すればいいんでしょうか?


 ちょっとわかんないんです。


「そうかい?・・・小官にはお二人さんがいい線いってるように見えたんですが?」


「やれやれ、そんなつまんない話なら僕はまっぴらだ。じゃあな、隊長さんに副隊長さん。」


 何言ってるんですか、こんないい話!


 思わずまたその左腕を拘束するわたしです。


「あ、いえ、実は幸運にもお見掛けしたフェルノウル教官にお願いがあるんですよ・・・『異民』がらみの。」


 「異民」。


 それは、異世界から新たに生まれかわった「転生者」や、その姿のままで世界移動をした「転移者」を指す言葉です。


 以前、叔父様から「転生者」ということを打ち明けられた時には、思いっきりイヤな顔をしていたクライルド隊長さんですが、攻守所を変えると今度は叔父様がおんなじ表情になります。


「確か異民局に登録された『異民』同士は、なにかあったら『互助の精神』って内規があるそうじゃないですか。ねえ、教官殿。」


「イヤなこと知ってるな、あんた。」


 赤毛で長身、精悍な顔立ちの隊長さんですが、相当困っているんでしょう。


「そりゃ、あんだけ立て続けに騒動を起こされれば調べもしますって・・・だからお願いですよ。」


 もう、拝み倒さんばかりの勢いです。


 叔父様よりも大きい体をペコペコって。


「隊長!こんな怪しい人相手に!」


「いいからいいから。アレイシル、お前も頭を下げるんだ!」


 隊長さんは副隊長さんの頭を押さえつけようとします。


 ですが、堅苦しいことが嫌いな上に、女性は苦手でも優しい叔父様にはそんな行為は許しがたいのです。


「やめてくれ、そんなことは!・・・わかったよ、話、聞くから。」


 ホラ。


 見かねた叔父様が怒り出して。


 してやったりと笑う隊長さんには、きっとこうなるってわかっていたんでしょう。


 こんな見え透いた手に引っかかる叔父様も、わたしは嫌いじゃないんですけど。




「民衆が徒党を組んで王宮に向かってる?」


「ええ。倉庫街や問屋街、特に貧民街の住民が大勢。で・・・」


 少なからぬ集団で、国からの支援を訴えているんだそうです。


 確かに、ここの近く、小規模な商店や両替商があつまる北西街区の復興は遅れています。


 わたしたちが暮す北の魔法街や、大きな商店が集まる南東区と比べるとまだまだ。


 人通りも乏しいような・・・。


「で、今朝から小官たち騎馬衛兵隊も駆り出されまして・・・」


「私たちの土地勘も機動力も全っ然いかさないこの任務、隊長は猛烈に抵抗したんですけど。」


「こら、アレイシル。仕事のグチをもらすな。」


 民衆から見上げると大きな騎馬は怖いんで抑止力を期待されたんだろう、とは叔父様の分析です。


「で、早く用件を言ってくれ。」


「はい、実はどうも、騒動のきっかけになったのは、ある連中が民衆をあおったからなんですよ。で、そいつらを見つけて捕まえようとしたんですが、その中に・・・面倒な『転移者』が入ってまして。邪魔されてしまいました。」


「面倒な転移者?」


「ええ。最近転移してきた黒い髪に黒い目の。あれってヒノモト族でしょ?教官殿と同じ出身の?」


「・・・・・・ちっ。」


 不愉快そうな叔父様。


 ですが・・・ヒノモト族って?


 昨夜工房でも聞きましたけど?


「黒髪だからって、みんなが同じ出身世界ってわけじゃないんだがな。だいたい本家のヒノモト族は、今から80年ほど前に集落ごとこっちに『異世界集団転移』をしてきたんだ。第一世代はほとんど残っていない。二世、三世ならともかく。そんな実情なのに今頃『転移』してくるもんか。これだから素人は・・・。そいつの名前ってわかるのかい?」


「ええ。貧民街の連中が知ってました。確か・・・タイト・アシカガ。」


 それまでも充分不愉快な表情だった叔父様ですが


「・・・・・・ちっ。」


 そう聞いて、これ以上ないってくらいお顔をしかめます。


「わかったよ。そいつ、なんか特殊能力持ってるの?」


 「異民」、つまりは異世界出身者ですが、中にはこの世界の人間には持ちえない不可思議な力をもつ人がいるんです。


 もっとも叔父様はそういう力はありませんし、こっちの世界の魔法も使えないっていうご不自由な方なんですけど。


「いいえ、特殊って言うほどでは・・・。」


「けれども・・・異常に剣撃が強くて。一瞬で隊員の半分が戦闘不能にさせられました。そいつさえいなければ、後は小官たちで何とかなるんで・・・お願いできませんかね、教官殿?」


「サムライか。こっちじゃ一番認識されやすいタイプの能力者だな。」


 サムライってなんでしょう?


 わからない単語ばかりで、わたしの頭の中は少し混乱しています。


 そんなわたしを見て


「クラリス。キミは先にお帰り。」


 って、何ですか、それ!?


 この薄情者・・・いえ、わたしを心配してくださるのはわかりはするんですけど。


 そんな優しいお顔と声音に逆らうのは心苦しいのです。


 でも!


「イヤです。叔父様を置いて一人で帰れません。わたしだけ帰れなんて、過保護です。」


 運動神経や体力なら、叔父様よりわたしの方がきっと上です。


 それに叔父様はスクロールをたくさん持ち歩いてはいるでしょうけど、そもそも魔術師ですらありませんし。


 それに・・・本来争いごとや面倒ごとを嫌がる叔父様が、なぜこの件を引き受けようとなさるのか・・・興味もありますし、何より心配でもあるんです。  


 そう思って、またも叔父様の左腕を拘束するわたしです。


 それに心強い援護が。


「そうですよ・・・教官殿。ご自分の良識とブレーキを手放すのは感心しませんな。」


「この子が僕の『外付け』の良識・・・僕は『ピノキオ』か?」


 微妙で遠回しな隊長さんの援護ではありますが、まぁよし、です。


「ピノキオ」が何かはわかりませんが、叔父様をなだめたりすかしたりするのも、わたししかできませんし。


「そ、そうですよ!姪御さんはわたしたちが責任を持ってお守りしますから・・・それに今から一人で帰すなんて、却って危険ですよ!」


 アレイシルさんも必死ですけど、これってわたしの安全よりも叔父様の暴走を心配してるのが丸わかりです。

 

 これって・・・多分「ゴジラ対ガイガン」作戦って言うんです!


「あんたらが送っていきゃいいだろ!」


「この子、大人しい顔してますが・・・黙って帰るタマですか?」


 うんうん。


 大きくうなずくわたしです。


 左腕をとったまま、見上げて、ニッコリ。


「やれやれ・・・『タマ』なんて言うな。二つの世界で一番かわいい、僕の自慢の姪なんだから。」


 それは翻訳すれば「お前ら責任もってクラリスを守れよ」ってことなんです。


 わたしを本当に愛してくださる感じが伝わってうれしくなります・・・「姪」は余計ですけど。




「そのタイトってヤツな・・・典型的なソードハッピーだな。」


 クライルドさんたちから、先ほどの様子を聞き、叔父様はそう判断したようです。


 民衆に同情した様子もなく、高いお金をもらってるような身なりでもない。


 ただ「先生ぇ、お願いします」って言われて、生き生きと剣をふるってたとか。


「要は自分の剣が振るえればなんでもいい、っていうかなり特殊な趣味の持ち主だ。ほとんどビョーキだね。」


「ああ・・・なんかわかりますよ。同病相哀れむと言うか・・・」


「似た者同士と言いますか・・・」

 

 どっちも失礼な発言に聞こえます。


 でも、「剣」を「術式」に置き換えれば、そう変わんないって気がして、わたしですら否定できないんです。


 つい二人と一緒になってジト~って叔父様を見てしまって・・・叔父様はしっかり傷ついてましたけど。


「・・・失敬な。僕は非暴力主義だぞ!進んで戦ったことは二つの世界で一度もない。」

 

 これは事実です。


 少なくても本気ですし、わたしが知る限りは、そうなんです。


 ただし、がつきますけど。


「だけど・・・無抵抗主義ってわけでもないし、無縁の相手でもなさそうだ・・・ま、説得ならしてやるよ。」


 叔父様が「説得」?


 人嫌いで口下手なこの人が、そんな「ビョーキ」の人を説得なんかできるんでしょうか?


 それに・・・「縁」ですか?


 それは「異民」同士の?


 それとも・・・黒い髪の「ヒノモト族」と関係があるんでしょうか?




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作者:SHO-DA 作品名:異世界に転生したのにまた「ひきこもり」の、わたしの困った叔父様 URL:https://ncode.syosetu.com/n8024fq/
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