第14章 フェルノウル家の家庭の事情 その1 二人の帰省
第14章 フェルノウル家の家庭の事情
その1 二人の帰省
「クラリス様。メルは大旦那様から、ただちに実家に戻ってほしいと仰せつかったのです。」
「おじいちゃんから?」
ガクエンサイの翌朝・・・と言っても寝過ごしてお昼近くではありますけど・・・、わたしは朝食の為に学生食堂に向かいました。
リトとレンも一緒です。
デニーとリルはまだ寝ているとか・・・夕べは遅かったですし、しかたありません。
しかし、朝食を終えたわたしのところに、いつものメイド服姿のメルがやってきて、そう告げたのです。
朝からわたしを待ちうけていたみたいです。
でも、何があったんでしょう?
先月の戦場実習あけに里帰りはしましたし、しかも「ただちに」?
「まさか!?」
誰か大けがでも、と思いました。
「そういうことではないのです。ただ、お話したいことがあるということなのです。」
「まったく迷惑極まりないよな、父さんたちも。どうせなら平日に呼んでくれれば堂々と講義をさぼれたのに。」
少し後ろからおいでになったのは叔父様です!?
見るからに不満たらたらで、冬用の黒いコートを着た叔父様が眼鏡を曇らせながら、口をとがらせています。
35にもなって、いつもながら子どもみたいです。
コート姿は意外にお似合いですけど。
「ひょっとして・・・叔父様もご一緒に?」
「ああ。絶対来いってさ。本当に面倒くさい。僕はこう見えて結構忙しいんだけどな。」
叔父様と一緒に!
帰省とは言え、ひきこもってばかりの叔父様と外にお出かけなんて何年ぶりでしょう!
ですが、つい障害物・・・いえ、障害半獣人娘をちらっと見てしまう素直なわたしです。
「・・・クラリス様。誠に遺憾ながら、今回は家族の大切な話ということで、メルは同行できないのです。」
それでは、ホントに二人きり!
メルの口惜し気な表情も心地よいのです。
もっとも
「メルは家族じゃなくて使用人扱いなんだってさ。ま、僕の用事でけっこう実家に行ってるから今さらなのかもしれないけど・・・ふん。」
叔父様はますます不満げに眉までしかめます。
もともとメルは人族の敵、狼獣人との混血です。
わたしたちの家族は、ともに暮らすことで他の人族より随分メルを受け容れていると思います。
おばあちゃんなんか、孫扱いしている様にすら見えます。
でも、それでも叔父様のように本当の家族としては受け入れてはいないのです。
以前のわたしにも、それは仕方のないことに思えたのですけれど。
「ご主人様ぁ。メルはお早いお帰りをお待ちしているのです・・・ぐすん。」
そう言ってわざとらしく叔父様に抱きつくメルを、今日は見逃すことにします。
「夜、眠れるように『クスリ』を用意しておいたからね。」
奴隷時代の心身の後遺症で、叔父様がいなければ未だに夜も眠れないメルなのです。
そんなメルを優しく抱きしめる叔父様も、今日は見てみぬふりして差し上げあげます。
これは勝者の余裕ですけれど。
だけど、そうして見過ごしていたら、叔父様の手がメルの犬の耳を優しく撫であげて、そのたびに
「・・・んっ・・・あん・・・ご主人様ぁ♡」
って、メルは叔父様にいっそう強く体を押し付けながら、なんだかとってもイケナイ声を・・・
「風紀上問題。」
ってリトは顔を真っ赤にします。
「・・・やっぱり教官ってH?」
レンまでそんなことを言い始めて。
わたしも、なんだか困ってしまいます。
いえ、実はもう頭にきてます!
ちょっと見逃せば、この有様!
叔父様の、メルの耳へのこだわりは、アントの姿からもどっても直らなくなっていました。
なにせケモノ耳やメイド服を愛する重度の「中二病」患者で、相手は年中発情犬娘メイドですから。
「二人とも!人前でやめてください!もう!・・・叔父様!」
「ああ・・・メル。明日には帰るからね。」
「・・・人前でなければいいのですね、クラリス様?ご主人様、お帰りになったらもっとかわいがって欲しいのです。」
「人前でなくてもダメです!」
「ハレンチ。」
「・・・メルちゃん、大胆過ぎ。」
「んじゃ、さっさと学園の『転送門』を借りるとするか。」
叔父様が、そんなヒドイことを言い始めます。
「ええ?この格好でですか?」
「だって『ただちに』なんて言ってくるんだから、サッサと行って終わらせよう。」
わたしは、休日の上に寮から来たばかりの、普段着のままなんです。
こんな格好で叔父様と「お出かけ」、しかも「サッサと」なんて・・・ホントに人の気持ちを分かってない人です。
「・・・いえ。どうせエクサスまで四半日もかかりませんし、『転送門』の使用料なんてもったいなさ過ぎです!歩いていきましょう、叔父様。わたしも着替えますからしばらくお待ちください。」
なにしろ学園の「転送門」ですら、一往復で金貨1枚もするんです。
それだけあれば普通の家庭なら一月は余裕で暮らせます。
「叔父様は、魔術書の製本や写本でお金があるかもしれませんけれど、お金はもっと大事に使わないと、わたしたち、『将来』困ります。」
浪費癖とまでは言いませんけど、面倒くさがりな叔父様は「手間暇は金で買え」って考えのようです。
でもわたしたちは一介の市民ですし、何より道中の二人の時間こそ大切なのです!
それに・・・わたしが叔父様と「将来」を共にすることになれば、今から浪費にはさけないとって思います。
そう思って「将来」って少し強調しちゃいます。
「クラリス、攻勢!」
「・・・うん、積極的!」
さすがにリトとレンには気づかれます。
強調しすぎだったかも。
ちょっと恥ずかしいです。
なのに当のご本人は
「わたしたち?将来?・・・ああ、大丈夫だよ。僕が借金まみれになっても父さんや兄さん、ましてキミには迷惑かけないから。」
ですって!
「もういいです!わたし急いで着替えてきますから、絶対に待っててください!」
メルが勝ち誇ってクスクス笑うのが、とっても不愉快なんです。
リトとレンも一緒に寮の私室に戻りましたが、そこで途方に暮れるのです。
考えてみれば、ちゃんとした私服なんて、あまり持ってません。
特に冬に近いこの季節モノは。
「・・・クラリス、いっそのことファラの服、借りたら?」
「いや、それは遠慮します。」
あのファラファラの服なんて怖くて着られません。
先日の「潜入偵察事件」のことを思い出してしまいます。
絶対なにか企まれるに決まってるのです。
「デニー・・・はない。」
「ええ、ありません。」
あの子、身長はわたしと同じくらいですけど、センス的にはほとんど男の子ですし。
三人がかりで、ああだこうだと工夫して、白のブラウスに紺色のベストにスカートって・・・あまり制服と変わりませんけど。
ですが
「・・・その髪飾り、すごくかわいいよ。」
「ん。似合ってる。赤いコートも。」
特殊装備で乗り切ることにします!
靴もおしゃれな赤いショートブーツで。
よし、です。
「二人ともありがとう。じゃあ、行ってくるね。」
手を振るわたしを見送るリトとレン。
「勝利を祈る。」
「・・・レンも。」
勝利って・・・うん、頑張ります!
そうです。
本作戦の目的は、叔父様との楽しい時間。
これってまるでデートです!
この時には、わたしの頭の中から、本来の目的「帰省」の二字が消えていました。
なんで叔父様と二人で呼ばれたのか、「お話」とやらの中身が何なのか、なんて疑問は完全に「アサッテ」だったのです。
「・・・随分気合入ってるね、クラリス。とてもきれいだよ。その髪飾りもよく似合ってる。」
「叔父様・・・うれしい!ありがとうございます!」
まさかの賛辞!
何かとわたしを褒めたがる叔父様にしても、ここまで「どすとらいく」な褒め言葉はめずらしいのです。
もう、宙を舞う心地のわたしです。
「そんなに里帰りが楽しみなんて、大きくなったようでまだ子どもだな。」
・・・やはり、この人はコンナモノなんです。
いきなり空から地面にたたきつけられた衝撃です。
思わずよろめいて、しばらく何も言えません。
「だけど、そのブーツ・・・よかったらこっちに代えてみないかい?」
「ええっ、叔父様がわたしに靴をくださるんですか!」
そんなありえないご褒美が!
再びわたしの心は急上昇し、
「ああ、軍靴の試作品だ。試験したいんで感想を教えてよ。」
更なる急降下で、先ほどを上回る大ダメージです!
「イヤです!せっかくコートとそろえたのに、なんで軍靴なんですか!」
「なんでって?だから試作品の実験・・・いや、いいよ。」
わたしの剣幕は理解できても、その原因がご自分という自覚はない叔父様です。
それでも首をかしげながらも、あきらめたようです。
「さぁ、叔父様。遅くなりましたから急ぎましょ。」
そう言って叔父様の腕をとって、ウキウキと歩き出すわたしです。
でも
「遅れたのはキミが着替えたからで、急ぐんならやっぱり『転送門』で・・・何でもない。」
途中とは言え、下から見上げてにらむわたしの視線に気づいたのは、この機微に疎い人にしては上出来なのです。
「叔父様・・・この辺りはまだ・・・。」
学園から西に進み、魔法街を出て、南西へ向かう大通りに出ました。
出発から一時間ほどたって、体内の魔術時計によれば今は・・・1206です。
そこは右側に倉庫・問屋街が並んでいて・・・あの、5年前の「邪赤竜襲撃」事件があった場所。
叔父様が命がけで幼いわたしを助けてくださった、今のわたしの原点ともいえる場所です。
ですが・・・。
「・・・ああ。ヘクストスでも魔法街と比べると他の場所は復興が遅れているんだ。5年まえに続いて、この前の『巨人災禍』。ここらはまたまた大被害さ。」
そう答える叔父様の憂鬱そうなお顔。
わたしにすら滅多にお見せにならない、本当のお顔。
叔父様は曇った眼鏡を外し、ハンカチ・・・ではなくコートのそでで拭こうとしています。
「もう、叔父様。子どもじゃないんですから、わたしのハンカチを使ってください。こんな時のために二枚用意してますから、そのままお持ちください。」
「ハンカチくらい、僕だってちゃんと持ってるさ・・・メルが用意してくれたんだけど。」
「どうせとり出すのがご面倒なんでしょう。では使ったらお返しください。使う際にはわたしがお出ししますから。」
「・・・悪いね。」
なぜか、こんな時には謝る叔父様です。
子どもの時、どうして「ありがとう」ではないのか、と聞いたのですが、そういう世界で暮らしていたから、だそうです。
つくづく変わった所から「転生」なさった叔父様です。
「そう言えば、叔父様。叔父様以外に、『転生』や『転移』なされた方は、ご存じなんですか?」
「・・・知ってるヤツもいるけど、あまり会いたくないな。みんな非常識なヤツらでね。」
叔父様よりでしょうか?
そんな存在はアリエナイって思いますけど。
「くしゅん・・・ち。急に寒くなってきた・・・ヤツかな?」
ヤツ?
・・・はてな、です。
どなたか聞こうとしたわたしですが・・・
くう~って。
もう、わたしのお腹が!
さっき食べたのに!
頬が熱いです。
「いい時間だし・・・あそこの店はもう復旧していそうだ。ランチにしよう。」
「・・・はい。」
そんな風に聞こえないふりをしながらも自然に誘ってくださるのは、ありがたいんです。
叔父様はひきこもりのくせに、お店を選ぶのが不得手ではありません。
このお店も外装はそっけないし、品数は少ないながら・・・というかランチは「ポトフとバゲット」の一種だけ・・・とてもおいしかったのです。
いろんなお野菜、それに何よりじゃがいもと手製のソーセージの組み合わせが絶妙で・・・。
「とってもおいしい。じゃがいもなんか、よく煮込んで柔らかくなってるのに、スープがすごくしみこんで、味がしっかりしてて。」
「ああ。このソーセージも、かんだ時の肉汁が・・・ウマイ。こんど買いに来よう。」
なんて、イイ感じの一時。
そして、お茶までいただいてから、移動再開です。
「叔父様。もっとゆっくりしていってもよろしかったのに。」
「・・・すまないね。昼食はついつい早食いになっちゃう貧しい生活が染みついててね。」
叔父様は元の世界では、15分も昼食にかけなかったんです。
いつも1時間近くかけるわたしたちとは大違い。
なんだかお忙しくて、いつも仕事、いえ、時間に追われていそうな、おかわいそうな生活です。
「それで、こちらではジリツシンケイを鍛えて体内時計なんですか?ご自分で機械時計とか、おつくりにもならずに。」
「そんなとこかも・・・イヤなこと、思い出しちゃったよ。いつの間にか11月も下旬になってたし。」
「ああ、ハロ・・・」
「そこでストップ!頼むよクラリス。」
よほど恥ずかしかったのでしょう。
あのゴラオンのハロウィン仕様が。
わたしに左腕を抱えられたまま、道を急ぎだす叔父様です。
そしてヘクストスの西門を抜け、セメス川の渡し場に向かうのです。
振り向けば、わたしたちの右後ろには、あの日わたしたちを守ってくれた魔法兵のゴーレムが収納された西北西の塔が見えるのです。
「叔父様。もう魔法鋼像が街を守ってくれることはないのでしょうか?」
あの「巨人災禍」の日、北の守護者にして最強の魔法鋼像「魔法騎兵のゴーレム」はついに現れませんでした。
もしかすれば、それは魔法騎兵以外の他の5体のゴーレムも・・・。
「只今調査中だ。僕にはわからないことが多過ぎる。まだまだやることが多いんだ。調査して、学習して、もしもの時の備えを作って・・・まったく、今すぐひきこもって没頭したいよ。」
ひきこもり中の叔父様は、かつての世界では世の中には無用の趣味・・・げえむ?あにめ?ねっと?まんが?・・・ばかりにいそしんでおられたのですが、生まれ変わったこの世界にはそんなモノが存在していません。
なので、ご本人の現在の趣味は、読書や術式開発、スクロールやアイテム製作・・・世の中の役に立つことが多いのです。
とんでもない大失敗もありますし、あの「ふぃぎゅあ」とやらは別にしますけど。
もっともご自分では
「単に好きなことをしてるだけで僕が変わったわけじゃない。世間に興味はないし・・・ただ、何よりキミを大切にしていることだけは違うかな。」
なんておっしゃってます。
つい口元がほころんでしまうわたしです。
先日も、叔父様は、ヘクストスや世界を救うためではなく、わたしの願いをかなえるために戦ってくれたのです。
これだけ聞けば、わたしは叔父様に「愛されている」って思いますし・・・「愛されている」自信はあるのです。
ただ・・・
「キミは僕のかわいいクラリスなんだから、当り前さ。」
それが恋愛対象かという自信はないのです。
「かわいい姪」。
そこで終ってるかも。
わたしがようやく自分の気持ちに気づいてからは、いくどか思いを伝えたつもりですが、いつも逃げられてばかりなんです。
それから、一人銀貨一枚の船賃・・・お昼も船賃も叔父様・・・を払って、向こう岸に着くと、もうそこはわたしたちの故郷エクサスです。
50万人都市と言われるヘクストスと比べれば、そのまわりの衛星都市の一つに過ぎない、人口一万人足らずのエクサス。
でも、平和で穏やかな町です・・・この人さえいなければですけど。
なにしろ叔父様はエクサスの「怪人」(シャルノ談)「奇人」(エミル談)「変人」(リト談)で、今やヘクストスの「名物」(衛兵隊長クレイルドさん談)なんですから。
ですが、そんな叔父様でも、家に帰れば・・・。
「ただいま、かあさん!」
懐かしいと言うには早すぎる、でもほっとする我が家。
青い屋根に白い石壁の普通の家です。
一見、大きい家に見えますが、それは単に製本の工房とくっついているせいです。
「クラリス・・・よく帰ったわね。待ってたわよ。」
わたしと同じ赤い髪の、20代半ばに見えるのが、かあさん。
勢いよくわたしに抱きついて、もう、仕草や表情だけならもっと若く見えますが、わたしの歳には、わたしを生んで、実は立派な三十路突入者。
しばらく抱き合って、互いの頬にキスをして・・・キスが苦手な叔父様は、たったこれだけでもう脇を見てますけど。
ホントにスキンシップのない不幸なご出身です。
「・・・で、なんでそんな人と一緒に帰ってくるの、あなたは。」
かあさんは、わたしを離すと、すごい形相で叔父様をにらみつけます。
怯みまくっている叔父様。
かあさんは叔父様をナメクジのごとく嫌っていて、今にも塩をまきそうな剣幕です。
「え?だって叔父様にも帰って来いっておじいちゃんが・・・」
「だからって一緒じゃなくていいでしょう!だいたい、なんでお義父様が『おじいちゃん』で、そのひきこもりの穀つぶしの変態が『叔父様』なのよ・・・赤ん坊の時からこの変態に洗脳された、かわいそうなクラリス・・・そこのあんた。わたしたちの娘になにか変なことでもしたら、どうなるかわかってるよね!」
かあさんはそう言って、ついに塩をまき始めます。
前もって準備していたのかしら?
「かあさん!?」
「義姉さん!?ちょっと、やめて!」
叔父様も、頭を抱えて逃げ回る一方です。
慣れてる様子ですけど。
いつものことですし。
「あんたなんかに『義姉さん』なんて呼ばれる義理はありませんよ!」
ありますよ!
だって義理の姉じゃないですか!
もう、かあさん、無茶苦茶・・・。
それでも、かあさんに頭があがらない叔父様ですから、素直に呼びかたを変えるんですけど。
「んじゃ、クレシェリアさん、落ち着いてよ!」
「あんたに名前で呼ばれる理由はもっとありません!」
ついに叔父様は這う這うの体で階段を駆け上がり、ご自分のお部屋にひきこもるのです。
・・・今更ですけど、叔父様のひきこもりの原因の一つは、かあさんかもしれません。
「なんだい、クレシェ。騒がしい・・・おお、クラリス!お帰りなさい!」
「とうさん、ただいま!」
腕を広げるとうさんに抱きつくわたしです。
叔父様より一回り大きいとうさん。
もう40近いけど白髪なんか一本もなくて、その黒い髪は叔父様とおんなじ。
でも顔立ちはもっと男性的。
悪く言えば厳しめ。
「おじいちゃんにおばあちゃんも!ただいま!」
「うん、お帰り。」
白髪交じりの黒髪はおじいちゃん。
とうさんはおじいちゃん似です。
でもとうさんより、もっと厳しい、いかにも気難しい職人さんって感じ。
わたしにはとっても優しいけど。
「クラリス、元気そうね・・・あら、あの子は一緒じゃないの?」
おばあちゃんは、もう真っ白な髪だけど、顔立ちは穏やかで優し気。
性格も外見通り。
でも、最近少し腰を悪くしたみたい。
「あ~・・・えっとね、おばあちゃん、それ、今禁句。」
そう言って、わたしはかあさんの方をチラミします。
それだけでみんな事情を察するのです。
「クレシェさん、今日は見逃してもらえんかね。なにしろあいつを呼び戻したのは大事な話・・・この家全員に関わることなんだから。」
「そうよ・・・お願い。」
おじいちゃんとおばあちゃんに言われ、さすがにかあさんも矛先を修めることにしたようです。
「・・・わかりました。クラリス・・・いえ、やはり、あなた、上の人を呼んできて。わたしは夕食の用意があるの。」
かあさんも今日は我慢する宣言・・・よほど大事なお話みたいです。
ですが・・・これって・・・ひょっとして、わたしが覚えてる限り初めての、フェルノウル家の全員そろった一家団欒が始まるんでしょうか?
ちょっと楽しみ、でも、もっと不安なわたしです。