序章 10歳の決意
この作品を故モンキー・パンチ先生と宮崎駿監督と
かの名作「ルパン3世 カリオストロの城」に捧げます。
いわゆるオマージュです。二次創作ではありません。
序章
わたしに魔法使いの才能がある、と知った叔父様は、6体の巨大魔法鋼像に守られた六角都市ヘクストスに連れて行ってくれました。
魔術師になるために必要な物品を買ってくれる、というのです。
重度のひきこもりである叔父様にとって、川向こうとは言え大都市まで出向くのは、大変な労苦なのですが、「花一輪も出せない自分にとっては、キミが魔法を使えるようになることが、うれしくてしかたがないよ」と言って、珍しく笑顔のままでした。
そして、その日、巨大な邪赤竜が飛来したのです。体長100mを越える巨体。
禍々しい赤いウロコ。蝙蝠のような翼で空を飛び、邪竜の特徴である、真っ赤な目を鈍く光らせる人族の敵。
わたしたちの世界は、過去100年にわたって、異界からの侵略を受けています。
その侵略者の一つが、この邪竜族です。
邪竜は国境の城郭都市や要塞を無視して、いつも首都を襲撃するのだそうです。
前回から8年ぶりの襲撃が、この日でした。
それを迎え撃つのは、首都を守る、これも身長数十mを越える巨大魔法鋼像ゴーレム。
首都を囲む六角形の頂点の柱に納められた人族の守護者です。
6体のゴーレム中で、この日出撃したのは、魔法兵のゴーレム。動き出した魔法兵ゴーレムは、黄金色に輝き、神々しくもありました。
そして、その錫杖から火球を、雷撃を繰り出して、ついに邪赤竜を倒しました。
でも、その間、街に大きな被害が出ています。邪赤竜の吐いた炎が建物を焼いたり、石造りの塔が崩れ落ちたり、馬車が暴走して多くの人を跳ね飛ばしたり、逃げる人々がパニックになって、転んだ人を踏みつけたり・・・。
その中を叔父様は、わたしを抱きかかえて必死に逃げ回りました。
わたしは叔父様の言いつけを守り、無言で抱きついていました。
屋上から屋上に飛び移るときも、窓を突き破って飛び降りる時も、悲鳴を上げず、叔父様の邪魔にならないように、ひたすら。
叔父様自身は無数の火傷と擦り傷を作りながら、わたしを無傷で守りぬいてくれました。
「よく辛抱したね。キミが信じてくれたから、ボクは何だってできるさ。キミを守るためなら、空だって飛べる。」
叔父様が、そう言ってくれました。
今にして思えば、少し自分に酔っていたように思えますが、その時のわたしは素直に感激したものです。
多くの人が犠牲になり、その中で助けられたわたしなのです。
でも、その時のわたしは、言葉では言い尽くせない感謝の代わりに、叔父様にこう言ったのです。
焼けた街と巨大なゴーレムを見つめながら。
「わたしは、いつか魔法兵になって、困ってる人を守りたいです。」
と。
叔父様は困ったように
「それじゃクラリスじゃなくてナウシカみたいだよ」
なんて、わたしにはわかりにくいことを言いますが、わたしは
「泥棒さんに助けられた後のお姫様は、きっと、もう守られるだけの自分はイヤになっていたと思います。」
そう答えたのです。
こうしてわたしは叔父様の反対を振り切って、魔法兵になるために、このヘクストスにあるという魔法学校を受験することを決めました。
それはわたしの10歳の誕生日でした。