初対面Ⅱ
「さて、そろそろ父上。その手を離したらどうでしょう」
にこりと微笑みながら、エルランド王に未だに掴みかかっているアーチボルト王に言った。アーチボルト王はちらりとエルランド王を見て、不満げに手を離した。エルランド王はゴホゴホと咳き込んでおり、遠くで様子を見ていた周りにいた側近たちが慌てて王に駆け寄っていく。父のその姿を見ても、ジェスレーナは同情する気にはなれなかった。
「……まあ、確かにこちらも挨拶に来なかったことに対しては申し訳ない。手紙では何度もやり取りをしていたから、てっきりすでに知っているものだと思っていてな」
「……ああ、そうですよね」
第一印象はとても怖そうで近寄りがたいと思っていたが、この瞬間に良い関係が築けそうだとジェスレーナは思った。
「いや、本当にすまないね。婚約者の存在は明かしていたけど、詳細までは言ってなかったみたいだ」
エルランド王がにこにこしながら、ジェスレーナとクライドに近づいていく。そしてクライドの肩にポンと手を置いた。
「あらためて、ジェス。彼が君の婚約者のクライド王子だ。今回は、たまたま近くまで来ていたから、立ち寄ってもらったんだよ」
立ち寄ったということは正式な顔合わせではないということか。確かに顔合わせするには人数が揃っていないし、準備もされてない。次に会うことになるのはおそらく、自身の十六歳の誕生日を迎える頃だろうか。そうジェスレーナは思っていた、その時までは。
「はい、あと、明日はたしか花祭りが開催されると聞いておりまして」
花祭り、その言葉にジェスレーナは反応した。花祭りはグユン王国が年に一度、開催するお祭りである。家に花を飾り、街は様々な屋台や特設のステージが組み立てられ、そこで踊りや音楽を楽しむことが出来る。ジェスレーナが一度はお忍びで行ってみたいお祭りであった。
「おや、興味があるのか」
「ええ、恥ずかしながら。父は忙しいのでこのまま帰りますが、私は街の宿にでも泊まろうかと」
「いやいや!それならうちの城で泊まっていきなさい。部屋はいくらでもあるのだから」
「……本当ですか!感謝いたします。……そうだ、ジェスレーナ様も明日、一緒にお祭りを見に行きませんか」
エルランド王とクライドによる会話の話の展開についていけなかったジェスレーナであったが、その誘いに一瞬思考が止まった後、「ふぇっ」と変な声を出してしまったのである。