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ジェスレーナの恋愛観

 伝説の姫の朝は早い。お城で働く使用人とほぼ同じ時間に起き、軽く湯浴みをする。身支度を整え、朝食を済ませた後は、家庭教師による授業が始まる。歴史に地理、語学や作法に楽器演奏も教えてもらうことがある。授業が終わった後は、昼食代わりに軽食をとる。午後からは祈りの儀式があり、儀式の後にはジゼル達のお茶会がある。その後は夕食まで自由時間となる。ジェスレーナはその時間を読書の時間として使っている。

 今、読んでいる本はある国の女王の物語である。この世界では珍しく、女王として国政をとり、さらにメイセスとして、巫女の役割も果たす主人公の一生が描かれている。これはシリーズ化がされており、今は十八巻まで刊行されている。ちなみにジェスレーナは現在、十五巻を読んでいるところだった。十五巻は初めて主人公の恋愛模様が描かれており、開いているページは今まで恋愛に興味がなかった主人公が初めて隣国の王子と心を通わせる場面だった。自身の国にしか興味がない主人公が恋をするなんて、ジェスレーナは思いもよらなかった。

 ジェスレーナは歴史ものや大衆文学、様々な本を読むが、恋愛小説だけは決して読まないようにしている。恋愛に憧れを持ってはいけない、それはジェスレーナが物心がついた頃から思っていることだった。もしも、平民であれば好きな人に愛の告白を告げることが出来たり、結婚したりすることが出来ただろう。しかし、彼女は姫という身分がある。ましてや、伝説の姫であるため、簡単に平民になんてなれるわけがない。しかも、ほとんどの王族は婚約者は決まっている。結婚する相手が決まっているにもかかわらず、恋愛に憧れを持っているなんてむなしいだけだ。だからこそ、彼女は恋愛小説には手を出さなかった。

 さて、こんな風に婚約者がいるため、恋愛に憧れを持たない主義のジェスレーナだが、彼女は一度も婚約者に会ったことはない。大きくなったら会わせてやると両親から言われているが、どこの国の王子なのか、名前も年齢も教えてはくれなかった。分かっていることは、父親の古くからの友人の息子だということだけだった。

 実は息子と言いながら、かなりのご年配の方だったりして……。そう考えると途端に不安になったジェスレーナは本に集中することにした。


 こういう場面を読んでいるから、自分自身の婚約者の有無を考えているのか、とジェスレーナは思いながら、とりあえず一旦、婚約者の事は忘れようと読んでいた箇所を目で探していると、外が突然ざわざわと騒がしくなり始めた。

「……何事なの」

 ジェスは本から目を離し、窓の方を見た。

 ジェスの部屋の窓からは城門が見えるが、いつも固く閉ざされている城門が開いており、複数の黒くて大きな馬車が城に入ってきており、多くの使用人たちがその馬車が到着するのを今か今かと待ちわびている。お客様だろうか…。ただ、今日誰かがお越しになると聞いてはいないのだが…。

 興味を抱いたジェスは部屋を出て、二つ隣の部屋に入った。誰も使用していないこの部屋はジェスレーナの部屋と違い、窓が二倍くらいの大きさがある。そこからジェスレーナはカーテンで身を隠しながら、窓の外を見てみた。

 馬車が城の入り口付近に止まっており、父と同じぐらいの年齢の男性が複数の従者を従えて、城に入ろうとしていた。おそらくどこかの国の王様なのだろう。顎ひげを蓄えて、眉間にしわを寄せており、第一印象としては、少し話しかけづらい印象を持たせる人物であった。


 その後ろに少し離れてゆっくりと歩いている若い男性がいた。

 太陽に当たっても真っ黒なその髪は自分の兄と似ている。うつむきながら歩いているため、顔がよく見えない。もう少し、顔をあげてくれたら……。

 そう思った瞬間、ふとその男性がパッと顔をあげて、こちらを見た。

 ジェスレーナは思わず、カーテンで全身を隠し、そのまま窓から自分の体を離した。今、目があったのだろうか。おそるおそるもう一度、外の方を見てみると、黒髪の男性は隣にいる背の高い男性と話をしていた。どうやら気づいてなさそうな様子だった。まさか、誰も城の窓からじっと見ているとは思わないだろう。

 ジェスレーナはほっとし、すでにお客様たちが部屋の窓から見えない位置にいたため、自室に戻ることにした。黒髪の男性がじっとジェスレーナの後姿を見ていることに気付かず……。

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