予言
「そ、そういえば、ジェスレーナ様はもうすぐ十六才のお誕生日を迎えられますわね」
話題を変えようと、慌ててフェリシアが二人に話しかける。その言葉にジェスレーナはため息をつき、ジゼルは手にしていたナイフをテーブルに置き、作業を続けた。二人の様子に気づいたフェリシアはおずおずと話を続けた。
「確か、十六才になると、国民の前で挨拶をしなければいけないため、一度、国を知るためにもお忍びで街に行かなければいけないという話があったような」
「そう、それです!!」
ジェスレーナは勢いよく立ちあがった。
「ジェス様、お行儀が悪いです」
「……っ、ごめんなさい!!!」
ジェスレーナはジゼルに叱られ、今度は勢いよく座った。そう、ジェスレーナが悩んでいること。それは、城の外に出ることを許されていないということである。
ジェスレーナは生まれた時から一度も城の外に出たことがない。確かに、王族はめったに城の外に行くことはないが、国の様子を知るためにも変装して街に行くことはある。また、パーティーやお茶会など外交のために両親や他の兄弟達は他国に行くこともある。今でも弟のアクセルは勉学のためにヴィルド国に留学に行っている。
そんな中、ジェスレーナは今でも城の外を出ることを禁じられていた。
「フウセントの儀式の予言で言われたそうです。」
ジェスレーナはフェリシアに向かって話し始めた。
フウセントの儀式は、他人の力がどのようなものか見定める力を持つメイセスが城に来て、その姫がどんな力を持っているのか見てもらう儀式である。ちなみに他人の能力を見る力を持つメイセスはこの世界で三人存在している。
メイセスが持つ特別な力。それは王族にとってはとても素晴らしい力である。しかし、ジェスレーナのように目には見えない力も存在する。そのためにこの儀式が存在する。しかも、銀髪であるがゆえに、普通は一才の誕生日に行う儀式をジェスレーナは生まれて三カ月頃に行った。
その儀式の際に、生誕の祝いとして、未来が見えるメイセスも招待することになっている。そして、姫に襲いかかるかもしれない災いを防ぐため、三つの予言を伝えることが彼女たちの役目だった。
「三つの予言の一つが幼い頃は城の外に出してはいけない。出すとしたら、十五才頃がいいんですって」
「今じゃないですか」
「そうです、今なんです!!」
再び、ジェスレーナは立ち上がって、すぐに「ごめんなさい! 」とジゼルに指摘する前に今度はゆっくり座った。
「もうすぐ、十六才になるのに、私はいつ、外に出してもらえるのかしら。十六になると、馬車で国民にあいさつして回るものなのに、今ではそれも夢のようなものだわ」
「十六才は成人になるという意味もあるため、まず成人パーティーに出席しなければいけませんもの。必ず外に出なければ……あら、ジゼル、ありがとう」
フェリシアのためのケーキとお茶を用意していたジゼルが、二人が座っているテーブルにやってきた。
ケーキと茶器を置き、丁寧に手際よく、お茶をカップに注ぐ。その動作をジェスレーナは静かに見つめていた。全ての準備が終わり、どうぞ、と一言だけいうと、ジゼルは自分の席に着いた。フェリシアは注いでくれたお茶を一口飲み、にこっとジゼルに微笑みかけた。
「美味しいわ、ジゼル」
ジゼルは左手を胸に当て、軽く頭を下げた。そして、ジェスレーナの方に顔を向けた。
「必ず外に行きましょう。私が必ず守りますから」
その言葉を聞いて、ジェスレーナは少し驚いた後、口元が少し微笑んだ。