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メイセス

「やっぱり儀式終わりにケーキを食べると、体の疲れがとれるわね。特に、今日のチョコレートケーキは最高よ」

 そう言いながら、ジェスレーナは少し大きく切ったケーキを口に運ぶ。

 今日のティータイムは生クリームを添えたチョコレートケーキにストレートティー。濃厚で少しほろ苦いチョコに甘めのクリームがとてもいいアクセントになっている。

「ペリーが聞いていたら、とても喜ばれます」

 ジゼルはそう言いながら、自身もケーキを口にする。

 ちなみにペリーはこの城の料理人である。まだ四十代の女性であるが、この城の厨房を取り仕切っており、彼女の作る料理はどれも絶品である。特にお菓子は繊細かつ、甘さ控えめであり、ジェスレーナやジゼルは彼女のお菓子が食べられる儀式後のティータイムが楽しみであった。

「儀式の終わりにこんなに美味しいものが食べられるってご褒美があるから、一層頑張れちゃうのよね」

「そういえば、フェリシア様はどちらに」

 ジゼルがジェスレーナに尋ねた瞬間、部屋の扉がスッと開き、一人の小柄な女性がおずおずと花が活けてある花瓶を手に抱え込みながら、部屋に入ってきた。ゆるやかなウェーブがかかった金髪に真っ白な肌、凛々とした大きな目が印象的なこの女性こそ、ジェスレーナの兄であるエリアスの婚約者、フェリシアである。いわば、ジェスレーナにとっては、義理の姉となる存在であった。

「遅くなってごめんなさい、花の手入れに夢中になっていて」

 フェリシアは申し訳なさげに、頭を少し下げた。

「あら、気にしないで下さい、フェリシア様。フェリシア様のおかげでこの城のお花は以前より生き生きとしているように見えるわ」

「それは、とても嬉しいお言葉ですわ。でも、ここの花達は私が住んでいたスルデンのお城にいる花達よりも元々元気みたいね。手入れが行き届いていて、ここで生まれて幸せだって言っている花もいたわ」

 そういって、フェリシアは花瓶をテーブルの上に置いた。

「この子達は城の中で飾られたいと言われたので、このように活けてみたの」

 テーブルの真ん中に置かれた花は目の覚めるような紅い薔薇を中心に、雪のように白くて小さな花が周りを囲んでいる。

 ジェスレーナは微笑みながら言った。

「やっぱり、フェリシア様の能力は素敵ね。花とお話が出来るという力は」


 フェリシアの力とは花と話せる力である。このような能力を持っているのは、彼女だけではない。この世界では王族の女性は何かしらの能力を持ち合わせている。ある者は炎を手から出すことが可能であり、またある者は動物と話すことが出来る。この力は十歳までには目覚めると言われている。だからこそ、姫達はその力を持つが故に、巫女の役割も果たし、毎日、城の中にある祈祷室で自国の幸せを祈る儀式を行う。その時は“姫”ではなく“メイセス”という名前で呼ばれるのだ。王子は政治を担い、姫は力で国を守る。だからこそ、最低でも王子一人、姫一人は欲しいため、一夫多妻制が認められている国もある。

 話を戻すが、フェリシアの力は花とお話が出来る力である。その力はこの国ではとても魅力的なものであるが、彼女の故郷であるスルデン王国はあまり必要とされなく、彼女はしかも庶子であったため、城の中で冷遇されていた。そんな彼女をスルデン王国主催のパーティーで出会った兄のエリアスが彼女を見初め、婚約者として、この国に連れてきたのである。


「さあ、お座りくださいませ。お茶をお淹れします」

 ジゼルが立ち上がり、フェリシア用のティーセットを用意し始めた。

「まあ、ジゼルに用意して頂くなんて」

 フェリシアは別の部屋で待機している彼女専属の侍女を部屋に呼ぼうとした。

「いいえ、ここは私に。私はジェス様の専属とはいえ、侍女ですから」

「……では、お言葉に甘えて」

 その言葉を聞き、ジゼルはかしこまりました、と再びフェリシアのお茶の準備をし始める。テキパキと準備をしているジゼルを横目に見ながら、ジェスレーナはフェリシアに言った。

「お気になさらず。ジゼルは頑固なんで」

 フェリシアはきょとんとしたが、すぐに手を口に添えて、くすくす笑い始めた。

「ええ、確かに最近薄々と感じていたわ」

「こないだなんか……」

 そう話し始めようとしたジェスレーナだったが、なにか強い視線を感じた。見てみると、無表情でデザート用ナイフを握りしめながら、ジゼルがこちらを見ていた。

「いかがなさいましたか、話の続きを、さあどうぞ」

「……なんでもないです」

 説明しなくても分かるかと思うが、力関係でいえば、ジェスレーナよりもジゼルの方が圧倒的に上であった。

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