ジゼルとオーガスト
その頃、ジゼルとオーガストはようやく二人の姿を見つけていた。
「なんか、少し目を離していた隙にお二方とも仲良くなっている気がしますね」
「あら、それなら安心しました。馬車の中での雰囲気を思い出すだけでこの先の結婚生活が絶望を感じずにはいられなかったですもの」
そう言いながらも、ジゼルは表情を変えずに二人を見ているだけであった。不思議な方だ、とオーガストは思った。ジェスレーナ姫の専属というからには、それなりの家柄だろうと考えられる。グユン王国は小さな国であるため、セブラス国とは違い、王族を除く貴族というものは存在しない。その代わりに父親、または家族の職業でその家柄は決まる。恐らく、父親が大臣のような城の関係者だろう。そうでなければ、これほどまでに侍女の所作が綺麗だと思うことはあるだろうか。
「なにか、私の顔についていますか」
無意識の内にじっと彼女の顔を見ていたらしい。
「い、いえ!失礼!!なにもありません!」
女性に対して、大変失礼な行為をしてしまった。慌ててジェスレーナ達がいる方向に顔を向けた。
二人はいまだに屋台の食事を楽しんでいるらしい。仲良くアイスクリームを食べている。クライドの笑っている顔を見て、オーガストは安堵した。昨日、がっかりだとかジェスレーナ姫に対して否定的な意見を言っていたため、結婚しても仮面夫婦になるのではないだろうかともやもやしてしまい、昨日は少し眠れなかった。おかげでこちらは少し寝不足だ。このまま彼らを見守って終わってくれたらいいが、安心はできない。なんせ今日は祭りの中でも特別な日だからだ。
「それにしてもグユン国王はよく外出を許されましたね、いくらクライド様が行きたいと言っても、ジェスレーナ様の同行はこちら側としては考えていなかったですよ」
「……それに関しては同意見です」
なぜなら、今日は祭りの一日目。この日は国外から多くの人が参加する日である。グユン王国は普段はなかなか入国審査が厳しく、簡単に入ることはできない。しかし、今日だけはその審査も緩和され、他国の人達が多くこの祭りのために押し寄せる。少し離れた場所で見守っているが、人が多いため、もう少し近くに行ったほうが何かあった場合にすぐに駆け付けることができない。警備が通常よりも難しい状況である。明日以降はまたいつも通りに入国審査も厳しく戻るはずなのだが…。
「ただ、一つ分かることがあります」
ジゼルは静かに言った。
「なんですか」
その問いに一呼吸をして、オーガストの目をまっすぐ見て、言った。
「王は意外と色々なことを考えている方です。私達が想像しているよりも」
ジゼルは真剣なまなざしで言った。