5話『初日の終わり』
何書けばいいか迷って、こうなりました。
あはは〜……
「にしても、武装してる人が多いよな。」
「……多分冒険者の人達だと思う。」
そういや、ジンが冒険者の街って言ってたな。と、思い出す俺。
「冒険者ギルドも混んでそうだなぁ。……お、何かの串焼き売ってるな。試しに買ってみるか?」
「……ん、食べる。…お腹減ったし。」
何の肉だろう?いや、俺が知ってるのは無いだろうからとりあえず食ってみよう。
「すみません、3本下さい。あと、何の肉ですか?」
「おう、30ミルだ。それと、これはブルズの肉だぞ坊主。」
金貨を渡しながら、ブルズ?魔物の肉か?それに安いな。と考える俺。
10ミルが100円近い価値があるのかもしれないし、ブルズの肉が安いだけかも知れない。
金貨で払われたのと、獣人のフィエナを見たので微妙な顔をしているおっちゃんからお釣りと串焼きを受け取り、2本をフィエナに渡す。
今はフィエナがフードを被っていないので耳は見えている。
俺が居れば平気、と言っていた。
あ、片手で持てなくて腕から離れて食べ始めた。
丁度いいので、そのまま歩き始めることにする。
2本渡したのは正解だったようだ、実に歩きやすい。
俺も食べてみるが、牛肉っぽい味がして硬い。
確かに硬いが、俺はこっちに来てから何も食べてなかったために空腹だ。
……もう一本買うべきだったか?
すぐに食べ終わって暇な俺は、フィエナが食べ終わるまで街を眺めつつ歩くことにする。
……しかし、思ったよりもフィエナへの視線が多くはないが気にし過ぎなのだろうか?
そこで気づいたが、この街の看板やらの文字は全部日本語か英語だ。
またしても勇者の影響なのだろうか?そういえば、シエラに貰ったスキルには言語理解みたいなものは無かった。
という事は世界共通語なのかもしれない。
中世の街並みに、見知った言葉……勇者、ファンタジーに一体何してくれて―――
「……ご主人様、食べ終わった、よ?」
勇者に対して理不尽な怒りを抱き始めた俺に、フィエナがまたしても抱きついてくる。
「あ、ああ。それはいいけど、もうすぐ着くんだし抱きつく必要は無くないか?」
「……守ってもらうために、必要。」
どうやら、冒険者ギルドに入ってもそのままでいるつもりらしい。
絶対、守りにくいと思うんだけどな……
とは思いつつも、嫌な訳では無いので余計なことは言わない俺。
ムッツリ?違うな、嬉しいかと聞かれればちゃんと答えるし。
「ここが冒険者ギルドか……それじゃ、入ろう。」
外からでも、声が聞こえてくる。
俺は、ちょっと緊張しつつ扉を開けるのだが……フィエナは顔を顰めてしまう。
「……お酒臭い…」
「まあ、予想通りではあるけどな。」
知らずに入ったなら、酒場と間違えてもおかしくないくらいの数の冒険者たちが酒を飲んでいる。
腕に獣人であるフィエナを侍らせる俺は睨まれているが、視線を無視して奥を見ると、受付の文字があるので行ってみる。
嬉しい事に、受付嬢は美人みたいだ。
思わず頬を緩める俺に視線が突き刺さる。
「……そういうの、いくない。」
「悪い、むさ苦しい中にオアシスがあるとついな。」
フィエナにそう言いつつ無機質な視線を耐える俺。……変な汗が出てきたな。
恋人とかでは無いにしろ、違う女を見るのは良くないと反省する俺。
「ご用件は、何でしょうか?」
受付嬢は俺達のやり取りを見ていたようで、クスクスと笑いながら聞いてくる。
「あー、登録を2人分したいんですけど。」
「はい、では身分証をお願いします。」
そう言われた俺達は受付嬢に渡す。
そういえば、この人は別に獣人に対して嫌悪感を抱いたりはしないようだ。
あるいは、表情に出していないだけかも知れないが。
そして、受け取った身分証をオーブンのような物に入れる。
―――ピーーッ!
2分ほどでその音が聞こえて来ると、受付嬢は身分証とそれよりも一回り大きい謎物質の板を2枚ずつ取り出す。
というか、チンなんて音じゃなくてよかった。
もしそうなら突っ込んでいた確信がある。
「こちらが冒険者カードになります。」
手渡された冒険者カードはこんな感じだ。
【冒険者カード】
名前:ナギサ ホシノ
職業:なし▽
冒険者ランク:G
~~~~~~~~
まず、名前が漢字からカタカナになって前後が入れ替わっているな。
もしかしたら、勇者とかでも問題なく出来るっていう配慮かもしれない。
それから、職業の横にあるマークは一体……
「職業というものは、変えることによってステータスに補正がかかります。これは本来、神殿で変えてもらうものなのです。それを、過去の勇者様が簡単に変えられるように冒険者カードをお作りになられたと言われています。」
「……それは…知らなかった。」
まあ、王女だったんだし冒険者ギルドになんか行かせてもらえないだろうしな。
「では、職業欄の横にある▽を押してみて下さい。恐らく、見習いと頭につくものがあるはずです。」
そう言われたので、開いてみると……
職業:なし△
・◇◆
・真の勇者
・大魔王
・トリックスター
・大賢者
・剣聖
・暗殺卿
えっと、もはや職業じゃなくて称号みたいなものしかないです。
しかも1番上のやつなんてバグってて押しても反応ないしね!
「ありましたでしょうか?」
「は、はい、ありましたね、ええ。」
「……どうか、した?」
ふー、一旦落ち着こう。
とりあえず、1番無難な剣聖を選んでおこう。
『職業固有スキル【神聖剣術】が使用可能になりました。』
どうやら、職業によっては固有スキルが使えるらしい。
ただし、変えると使えなくなるので複数同時使用は出来ないと。
「大丈夫だ。それじゃ、説明の続きお願いします。」
「はい、分かりました。次は、冒険者ランクについて説明させていただきます。まず……」
長くなったので分かりやすくすると……
・冒険者ランクは上から、SSS、SS、S、A、B、C、D、E、F、G、となっている。
・上げるには、一定数依頼をこなさなければならない。
・Bランクからは試験がある。
・受けられるのは自分より一個上のランクまで。
・ 依頼を3回失敗すると、ランクが1つ下がる。
「所で、ギルド内での争いごとについてはどうなってるんでしょう?」
「え?それはもちろん禁止されています。武器を抜いた場合は冒険者カードを剥奪されますね。どうしてもという場合は決闘と言うものがあります。」
「それって、相手がいきなり武器を抜いて襲いかかってきたとかなら反撃しても?」
「はい、やり過ぎなければ大丈夫ですよ。それなら相手の自業自得ですから。」
「ありがとうございます。それじゃあ、今日は帰る事にしますね。」
「はい、お疲れ様でした。」
フィエナの装備を買わなければならないし、今は4時を回ったあたりなので時間もあまりない。
……言って無かったと思うので一応、時間は視界の左上に表示されている。
確認したいことも無くなった所で、冒険者ギルドを出ることにする。
そういえば、先程も言ったと思うがフィエナは今フードを被っていない。
なので、馬鹿が絡んでくると予想していた。
いわゆるテンプレさんだ。
「おいガキ、そこの汚ぇ獣人と有り金全部おいていけや。」
テンプレだけど、酔っぱらいってホントにこんな事するんだなぁ。……汚ぇ獣人の所でキレそうになったが、耐えた。
だが、俺の奴隷の事とはいえ何故ここまで腹が立つのだろうか。
酔っぱらいの扱いなんて知らないので、挑発し、攻撃され、反撃する、の楽ちんセットでやってみる。
「冗談は顔だけにしておいた方が良いと思うぞ。」
「なんだとてめぇ!喧嘩売ってんのか!」
「……ただの事実だと思う。」
まさかのフィエナからの追撃。
あ、それがトドメになって剣を抜いたみたいだ。
スっとフィエナが離れたので、向かってくるおっさんの横に『縮地』で移動し腕を叩いて剣を落とす。怪我したくないからね。
さらに背中を蹴って、床とキスさせてやる。
「「は?(え?)」」
一部始終をニヤニヤと見ていた男共と、助けに入ろうと動いてた一部の女達(受付嬢も含む)が驚愕している。
『縮地』によって消えたように見えたって言うのもあるだろうが、俺みたいな子供がやったっていうのが1番だろう。
「あ、気絶してる。ちょっと蹴りが強すぎたか……?」
「……大丈夫。すごく、かっこよかった。」
「あ、ありがとう。……それじゃ、行くか。」
褒められて照れた俺は、驚いている人たちを放置して冒険者ギルドから出ていく。
次に来た時は大変だろうが。
「……次はどうするの?」
「それなんだが、フィエナの装備を買いに行こうかと思ってな。武器はともかく、防具は無いだろ?」
「……?…武器も無いと思うけど?」
あ、そういえば、無限収納の事とか言うべきだろうか?……いや、やめておこう。
「アイテムボックスの中に武器は一通り入れてあるからな。何を使うんだ?」
「……一応、短剣。スキルは持ってないけど。」
そういえば確かに無かったな。と思い出しつつ、無限収納から、短剣を2本取り出す。
「1本は予備に持っておくといい。……ってどうした?」
「……こ、これっ」
何故か受け取った状態で立ち止まったフィエナ。
周りも何故かこちらを見ている。
首を傾げながらもう一度短剣を鑑定すると……
【スカーレット・ブレイズ】LR ×2
ヒヒイロカネの短剣。
・MPとINTを除くステータスが3倍になる。
・刀身が常に燃え続けているが装備者に影響はない。
・MPを半分消費することで、『インフェルノ』が使用可能。トリガーは「燃え尽きろ」または自分でMPを込めることによっても発動する。
・折れても鞘に入れておくことで修復する。
あ、はい。どう見ても、頭おかしい性能ですね。
でも、問題はこのヒヒイロカネだろう。
超有名なファンタジー金属だし、恐らく超珍しいのも間違いない。
あと、装備にはレア度が書いてあるようだ。
ソシャゲかな?なんて言ってる場合では無いだろう、俺の知っているレア度と同じなら高すぎる。
低いものから順番に、
N、R、HR、SR、UR、LR、GLR、となる。
「えーっと、だな。まあ、偶然手に入れたけど使わないし?も、持ってていいぞ。」
「……え、と。そ、それなら、遠慮なく?…使わせてもらう……」
俺はかなり苦しい言い分だし、フィエナも目がグルグルしてるんじゃないかと思うくらい動揺してる。
このままでは周りの人達に質問攻めにあいそうな気がするので、フィエナの手を引き、走って地図にある防具工房へ向かう。
「「「そこのあんたぁ!!まてぇ!!」」」
地味に遠いから、着くまでには撒けるハズだ。
☆
――ガチャ
「いらっしゃ〜い。あら?そんなに急いでどうしたのかしら?」
何とか撒いて中に入ると、ほんわかした雰囲気の女性……ではなく、オカマが出迎えてくれた。
「……(ぷるぷる)」
「はあ、はあ……ふぅ。…いや、ちょっとありまして。それよりも、この子に防具を買いたいんですが見繕って貰えますか?」
フィエナは乙女な巨漢にビビって、俺の後ろに隠れている。
だが、俺は知っているぞ?オカマは優しい人が多いのだと。
「あら、可愛い仔猫ちゃんねぇ〜♪こっちへいらっしゃい、測ってあげるわ。」
「……こ、怖い…助けて、ご主人様ぁ…」
「もう、そんなに怖がらなくて良いのよ?食べたりしないから。」
フィエナが物凄い涙目で助けを求めてくるが、恐らくは問題ない。
オカマ云々以前に、この人はフィエナの種族を確認した上で、優しい目で見ている。
間違いなく、大丈夫だろう。
「ほら、大丈夫だって。もし何かあっても助けてやるから、な?」
「……う、うん、分かった…行ってくる。」
安心させるように撫でる俺を見てオカマはこう愚痴る。
「あらぁ、砂糖吐きそうになる光景ねぇ。……それにしても、ワタシは恐ろしい魔物か何かに見えるのかしら……失礼しちゃうわぁ。」
実際魔物に引けを取らないと思う。
とか考えていたら睨まれた、ごめんなさい。
「えっと、それじゃお願いします」
「ま・か・せ・て♪」
それから15分程で出てきた。
オカマがやり切った顔なんだが……
「おいまて、絶対防御力変わってないだろそれ。」
その装備は金属が殆ど使われておらず、見た目は完全にただのオシャレな服だったのだ。
上は背中とか出てるし、横の部分は縦に隙間が開いてる作りだ。……黒だからエロさが強調されてないか?
下はスカートだし、ブーツだし、赤のマフラーだし……守るつもりあるのか?似合うけどさ。
「そんな事ないわよぉ。魔力付与してあるからその辺の鉄鎧より頑丈よ?短剣を使うらしいから軽いものを選んだの。」
「魔力付与って何だ?ニュアンスで魔法なのは分かるが。」
俺にも取得出来るなら、最強の防具が作れるな。
「『付与魔法』って言ってね、装備を軽くしたり、魔法に強くしたりって色々出来るのよ?防具に使われてる素材によって付与出来る数は変わるけどね。」
今度取ろうかな。
にしても、素材で数が変わる……だいたいどのくらいだろうか。フィエナの装備を鑑定してみる。
【黒い普通の服】 HR
オシャレで動きやすい服。素材は普通で、素の防御力はほぼ無い。
・ミスリル並に頑丈。
・VITを1.2倍する。
・あらゆる状態異常を軽減する
やっぱり普通の服じゃん。
というか、素の防御力無いのに付与するとミスリル並なんだな。
素材が普通でも3つは付与出来るようだ。
「……これ、ダメ?」
フィエナがしょぼんとした感じで、耳もへにゃっとしてる。
俺は、頭を撫でてやりつつ言う。
「いや、ミスリル並に頑丈らしいから問題ないと思う。だから、そんな顔するな。」
「あら、『鑑定』持ちなのね?ウチに欲しいわぁ。」
「いやだぞ、俺はあんたと仕事したくない。それより、いくらなんだ?高いと思うんだが。」
装備の値段なんて知らないが、この性能を考えると高そうだ。
「真顔で言われると傷つくわね……まとめて、2万ミルでいいわよぉ。フィエナちゃんみたいな可愛い子に着て貰えるなら安くしちゃうわ〜♪」
「それはありがたいな。また、来るかもしれないからよろしく頼む。」
「……ありがと。」
フィエナも既に怖がっていないようだ。
手を振って店から出る俺達。
「うーん、何か疲れたし宿屋にいくかー。……その服、俺がアイテムボックスに入れておくか?」
「……ん、お願い…私も疲れた。」
そう言ってフィエナが手に持っていた袋を受け取り、宿へ向かう。
「でも、その防具?で本当にいいのか?」
「……ん、いいの。」
何でかは分からないが、本人が良いなら俺も気にしないことにする。
ちなみに、宿屋は防具工房の近くだったためすぐに入ることが出来た。
「いらっしゃい!2名様だね?……あー、2人部屋1つしか空きが無いみたいなんだけど大丈夫かい?」
1人部屋2つにしようと思ったが女将さんにそう言われる。
「そうなんですか……じゃあ、別の宿に――」
と思ったのだが、何やらフィエナが引っばってくる。
「……同じ部屋でいい。…ご主人様が嫌じゃ無ければ…」
そんないじらしい事を言いながら、ちょっと顔を赤くしてるフィエナ。
「いや、フィエナがそれでいいなら大丈夫だ。…という訳で、お願いします女将さん。」
「あいよ。おーい!お客様を部屋に案内してあげな。」
俺も少し照れつつ女将さんに言うと、フィエナを嫌そうな目でチラッと見つつ料理を運んでいた女の子を呼んでいる。
猫耳の何がいけないんだ?
「はーい。それじゃ、案内するねお客……さん……」
と、声が小さくなって顔が赤くなっている女の子。
この子は、獣人が平気みたいなので理由が分からない。
「えっと、大丈夫?」
「あ、大丈夫でし!」
あ、噛んだ。
「本当に平気なので、案内しますね…」
先ほどと違って敬語になっているが、どうしたんだろうか。
「あんた、この子に気に入られたみたいだね?」
そんな事を女将さんに言われる。
そういえば、俺の顔はシエラからカッコよく見えるようになっていたんだったか。
「あはは、気のせいじゃないですかねー?」
そうやって誤魔化しつつ、俺達はミーナに案内してもらう。
「……ジー…」
口に出して見てくるフィエナ。
なんだと言うのか。
「……ご主人様、嬉しそうだった…」
「ソンナコト、ナイヨ?」
「……疑問形だし、喋り方…変。」
ジト目になっているフィエナ。
本当にそんなつもりは無い…とは思う。
「ここがお二人の部屋です。お食事はどうしますか?」
女の子と話すことで逃げることにした俺。
「すぐに食べたいんだけど、部屋に持ってきて貰えるかな?」
フィエナの耳を隠していないので、食堂だとまた絡まれるかもしれない。
「はい、じゃあそうしますね。」
女の子が去っていったので部屋に入ることにする。
綺麗だし、ベッドもふかふかでいい宿だ。……1つしかベッドが無いのを除けば。
「2人部屋って言ったんだから、普通は2つあるんじゃないのか……?」
そうぼやく俺に、フィエナが一言。
「……ベッドのサイズが大きい、よ?」
そういうことじゃないんだが。
どうするか考えながらベッドに座る俺。
「……一緒に、寝ればいい。」
「でも、さすがに嫌じゃないのか?」
俺がそう聞くと、フィエナが俺の横に座って腕をとりこう言う。
「……ご主人様なら、いい。」
それは聞かれると誤解されるんじゃないのか?と言おうとする俺の目に、ミーナが見えた。
「はわわわ…ご、ごめんなさい……えっと、これ、お食事です……」
手遅れだったようだ。
さっきも赤かったが、今はさらに真っ赤だ。
「あ、ありがとう。」
俺が受け取ると、すぐに出ていく女の子。
フィエナは慌てていた理由が分からず、可愛く首を傾げている。
「……どうしたの、かな…」
「さっき、フィエナがご主人様ならいいって言ったのを客観的に見てみろ。」
そうするとしばらく考えていたが、段々赤くなってきた。
「……えっと…その…別にそういう意味でも…平気…だよ?」
そんな事を宣うフィエナだが、俺にそんなつもりは無い。
王女様に手を出すのはアウトだからな。
「馬鹿なこと言ってないで、食うぞ。…いただきます。」
「……いただきますって、なに?」
あー、勇者が色々残しててもこれは知らないのか。
「いただきますとご馳走様でしたって言って、食材とか、作ってくれた人に感謝するんだ。」
本当はどうか知らないけど、大きくは間違っていないハズ。
「……そっか。…いただきます。」
その後、俺達は無言で食べ続けた。
何を言えばいいのか分からなかったのもあるが、ご飯が美味かった。
兎っぽい肉の入ったシチューで、肉が凄く柔らかくなっていた。
「「ご馳走様でした。」」
同じタイミングだったので、思わず顔を見合わせる。それがおかしくて、笑ってしまう俺達。
この宿には……というか、普通の宿には風呂は無いらしいので『生活魔法』のフレッシュを使う。
すると、俺とフィエナの服と体が凄く綺麗になった。
「……ふつうは、こんなにすごくない。」
本来はちょっとした汚れを落とす程度の魔法らしいが、そこはステータスのお陰だ。
その後は寝ようと思っていたのだが、突然声が聞こえた。
『渚くん、話があるんだ。』
ビックリしたが、フィエナには怪しまれていないようだ。
というか、そっちからもかけられるのか。
『だって、電話だってそうでしょ?』
確かに……って、この状態で心読めるのか?
『これは念話だから、聞かせたいことだけ心の声に出してみるといいよ。このままだと、全部筒抜けだからね。』
『あー、こんな感じか?イマイチ分からんけど。』
『だいじょーぶだよ。それで話なんだけど、さっき変な反応を感知したんだ。』
『変な反応って……それを調べて欲しいとかそういうことか?』
『うん、多分生き物だとは思うんだけどその街の近くの森だったから気になって。』
それで、謎の生き物を調べて来いって事か。
『分かった。シエラには世話になってるからな、クエストに行くだろうしその時に見てくる。』
『ありがとう。でも、一応気をつけてね?危ない魔物とかかもしれないし。』
なるほど、確かにその可能性はある。
『じゃあ、そろそろ切るね。』
お互いにおやすみ、と言って切った直後横から視線を感じた。
「えっと、どうした?」
「……なんで、ボーッとしてたの?」
さすがに女神と話してましたとは言えないし、どうしようか。
「いや、今日は色々あったなって思ってさ。」
「……ん、確かに。……盗賊に襲われたり、私が買われたり。」
俺としては、トラックに轢かれたり転生したりも加えたいがフィエナに話す訳にもいかない。
「……おかげで、すごく眠い。」
疲れて眠くなったと言うことだろう。
「ああ、そろそろ寝るか。……端っこで寝れば大丈夫だろうし。」
そう言いながら端っこに横になる俺。
しかし、そうは問屋が卸さない。
「なあ、これじゃ端に寝てる意味が無くなるんだけど?」
「……?じゃあ、真ん中で寝ればいい。」
「いや、俺にくっ付いて寝るのは決定なのか……?」
さすがに寝る時は離れると思っていた。
というか、普通は会ったばかりの男とくっついていたくないだろう。
「まあ、いいか。……ほら、移動するぞ。」
「……ん、わかった。」
フィエナに移動して貰って俺もそっちに行く。
大丈夫、すぐに寝れば問題ないんだ。
「……おやすみ、ご主人様。」
「ああ、おやすみ。」
抱きつかれたまま寝れるか不安だったが、思ってるよりも疲れが溜まっていたみたいで、数分後には眠っていた俺だった。
次回、調査ですよ。
何事も無く終われば良いですね。