4話『少女の涙と背負う覚悟』
主人公の口調が安定していない気がする今日この頃。
着いてからしばらく待つと、俺達の番が回って来た。
「身分証を見せてくれ。」
と、兵士の人が言ってくる。
だが、当然そんな物は転生直後の俺には無い。と思っていたのだが、何やらジンの手の甲から免許証等と同じ大きさのカードがでてくる。
どうやら念じる事で手の甲から出せるらしい。
早速試してみると、名前と年齢、種族が書いてある。それと、空欄だが賞罰の欄もある。
ちなみに、『特殊隠蔽』の効果も出るようなのでステータスとは連動しているらしい。
「お前17なのか?もうちょいガキだと思ったんだがな。」
「いや、17もまだガキだと思うけどなぁ…」
兵士の言葉にそう返す俺だが、童顔なら日本人っぽい顔なのかもしれないと考えていた。
「え?お前17なのか?15くらいだと思ってたんだけど……」
お前もか、ジン。
ジト目で見ていたら顔を逸らされた。
「あ、そ、そうだ。これ、この街の地図な。この印のある場所がおすすめの宿だ。」
「お、ありがとう。地図もあるのは助かる。」
まあ、別に怒ってる訳じゃないから慌てなくても良かったんだけど…実際助かる。
場所を聞いてもイマイチ分からなそうだしな。
「よし、通って良いぞ。」
ジンと話している間にレドガーも終わったらしい。
「それじゃ、またなナギサ。」
「ああ、またなジン。」
そう言って、ジンと別れた俺はレドガーと奴隷商に向かう。その途中で、奴隷について聞いてみた。
「奴隷には、一般奴隷と犯罪奴隷がありますね。一般奴隷の中にも戦闘が出来る者や愛玩用の奴隷など複数あるんですよ。」
細かい指定も結構出来るらしい。
その後は、値段について聞いているうちに目的地に着いていた。
奴隷商なだけあって、あまり人目の多いところではないようだな。
「それでは、準備して参りますので少々お待ちください。」
そう言われたので、部屋にあるソファーに座ってフィエナの事を考えていた。
王女の獣人奴隷なんて絶対に面倒事が起きると思う。だが、初めて会った猫耳の少女は、忘れようとしても忘れられない。
普通の奴隷が欲しいならお金を貯めて買えばいいのだし、とりあえずフィエナを貰ってから考えればいいだろうか…?
「お待たせしました。」
かなり雑な結論に行き着いた所で扉が開き、10人程の奴隷少女が出てくる。
「おー……あれ?」
容姿の整った子を選んだようだが、その中にフィエナの姿は無い。何故だろうか?と考えながら見渡していく俺。
6人が獣人なのでそれが理由で居ないわけじゃないのは間違いない。
容姿で考えても、ぶっちぎりでフィエナが選ばれると思うのだが……やはりフィエナが気になるので、レドガーに質問してみる。
「さっき馬車で見たんだが、真っ白な猫の獣人が居なかったか?」
話していたと言っては、フィエナが何か言われるかも知れないので見かけたことにする。
「はい、確かに居ますが……」
「その子を見せて欲しい。」
何故か口篭るレドガーに間髪入れず俺はそう頼む。
「ですが、あれは既に貴族の方に買われることが決まっていまして……」
だからか?あの時俺に助けて欲しいと言わなかったのは。
それでも諦めきれない俺は、少し強引に行く。
「でも、どの奴隷でもいいって言ってただろ。それとも、その貴族は先に金を払ってるのか?」
「……いえ、まだですね。ですが、横取りしたとなると恨みを買ってしまうと思いますが…?」
マジか、それは面倒だな。
「その貴族は、なんの目的であの子を買うんだ?」
「そこまでは分かりません……ただ、噂で聞いた話ではありますが、美しい獣人を買っては死ぬまで痛めつけるような加虐趣味があるらしいと聞きました。」
じゃあ、引くのは論外だ。
面倒でもそんなクズに知り合いを殺させる訳にはいかない。
「やっぱり、その獣人を見せてくれ。」
「……分かりました。では、私に着いてきてください。」
レドガーは、並んでいる奴隷たちを戻して扉の向こうに進んでいく。
その後に続いて進んでいくと1つの部屋に辿り着く。貴族に売るので1人だけ別室だったようだ。
「では、どうぞ。」
そう言って扉を開け、入るように促すレドガー。
俺が入るとレドガーは部屋の前に立つ。
「お済みになりましたら、お呼びください。」
「ああ、分かった。」
扉が閉まり、俺はフィエナの方を向く。
「……あなたは…さっきの…」
「ああ、まあな。ちなみに、俺はナギサって言うんだ。」
驚いた様子のフィエナにそう言った俺。
「……何を…しに来たの…?」
俺の自己紹介はスルーして、目的を聞いてくるフィエナ。
「まあ、簡単に言うとお前を買いに来た。」
「……でも、私は…」
恐らく、貴族に買われることを知っているのだろう。
「ああ、聞いた上で買うつもりだ。まあ、買うって言ってもタダなんだけどな。」
その言葉を聞いて、フィエナの頭には?が浮かぶ。
何故買うのか、どうしてタダなのか分からないのだろう。
「さっき馬車で言っただろ?報酬があるって。俺は貴族からお前を横取りする事を報酬に選んだ。お前を買う理由は初めて会った獣人の女の子、しかも歳が近い子が死ぬのを無視できなかったからだな。」
「……そんなことしたら…迷惑かける…」
それに関しては俺も、正直どうなるか分からない。
それでも、助けたいと思った。
「俺の自己満足なんだし、それくらいは許容範囲だ。任せろ、結構強いから何とかなる。」
不安だなんて言ったら自分の気持ちを言えないだろうから、強気に行くことにする。
「本当はどうしたいのか言って欲しい。大丈夫だ、俺が守ってやるから。」
チートなんだから、大丈夫だ。
ラノベのキャラだって理不尽に屈したりしないだろ?
俺には女神もついてるからな、きっと上手くいくハズだ。…たぶん。
フィエナは俯いて、何も言わない。
数分が経ち駄目なのかとも思ったが、ゆっくりと顔を上げたフィエナが泣きそうな顔で話し出す。
「……私、死にたく…ない……酷いこと…もう、されたく…ない…怯えて…過ごしたくなんて、ないよ…」
震えながら、自分の気持ちを吐き出すフィエナ。
なんて言うのが正しいのか分からない。
でも、そんな思いをさせないってことは伝えたかった。
「安心しろ、お前を狙うやつが居るなら守ってやる。酷いことなんてさせないし、怯えて過ごすのなんてもう終わりだ!むしろ、俺と居るなら普通の人と同じように過ごして貰わないとな。」
それが当然かのように自信満々な顔でそう言い放つ俺。…実際はビビってるが。
「……本当…?…可愛い服とか…着ていいの?…ご飯とか…お腹いっぱい…食べていいの?…したい事…していいの?…」
奴隷になって出来なくて、でもしたかった事を口に出していく。
縋るような目で、ポロポロと涙を零しながら。
「もちろん。欲しい物があればある程度は買ってやる。飯なんていくら食ってもいい。したいことがあれば、出来るだけ協力してやる。」
俺は頼りないかも知れないが、それくらいは余裕で出来る。
俺の返事を聞いたフィエナは、1番言いたかったであろう一言を絞り出す。
「……私を助けて…!」
同時に、飛び込んてきて抱きつかれる。
「任せてくれ。もう、大丈夫だからな。」
そう言いながら、俺はフィエナを抱きしめ返し頭を撫でる。
もう、後戻りは出来ない。
その貴族がどれだけ厄介な奴でも守らないといけなくなった。
守り抜く、何があっても。
その覚悟とは裏腹に、頭に置いた手は優しく撫で続けている。
その後、泣き止むまでずっとそうして抱き合っていた俺達だった。
☆
「……恥ずかしい…」
そう言うのは、耳まで真っ赤にしたフィエナだ。
落ち着いてから恥ずかしくなったらしいが、俺も同じように赤くなっている。
ちなみに、その後レドガーも呼んだのだがさっきから物凄く暖かい目で見られている。
その原因は横にいるフィエナだ。
「…なあ、いい加減離れてくれないか?」
「……したい事…協力してくれるって言ってた。」
「いや、まあ、確かに言ったけどさ?」
実はさっきから俺の腕に抱きついたまま離れてくれないのだ。
自分で言ったこともあって、あまり強くは言えない俺。
とはいえ、そのままという訳にもいかない。
「奴隷契約しなきゃいけないから、少しの間だけ。な?」
「……む…それなら、仕方ない。…出来るだけ早くして欲しい…」
渋々離れるフィエナ。
レドガーは既に準備していたらしく、すぐに始めることが出来た。
奴隷紋が背中にあるそうなので、見える所まで捲ってもらう。
レドガーはその奴隷紋に触れるとスキルによって契約者を俺に変更する。
作業はすぐに終わったし、フィエナも別に何ともないようだ。
「はい、終わりました。奴隷紋があると、命令に逆らおうとした場合や契約者に害をなそうとした際に激痛が発生しますので殺されることはありません。」
「……そんな事…しない…」
「この人もそんな事すると思って言ったわけじゃないだろ。」
不満そうにフィエナはそう呟くが、レドガーは説明をしているだけなので別に俺は気にしていない。
説明が終わると、フィエナはすぐに俺の腕に抱きついて楽しそうに自己紹介を始める。
何故抱きつくのかは分からないが、そのままにしておく。
「……私はフィエナ…フィエナ・エリオールっていうの…よろしく…ご主人様…しっかり、守ってね…?」
「ああ、これからよろしくな。……ちょっと常識に疎いからその辺は教えてくれると助かる。」
シエラもそこまで知っているのか分からないからな。
「……うん、任せて…」
それとレドガーには、ここから出る前にお礼を言わなければいけないだろう。
「レドガー、フィエナの服とかも用意してくれて助かったよ。」
フィエナの服はボロボロの貫頭衣だったのだが、レドガーが着替えを持ってきてくれた。
濡らした布も持ってきてくれたので、さっきよりも綺麗になっている。
レドガーが持ってきたのは、白のワイシャツに赤と黒のチェックになったスカート、そして黒のフード付きローブもくれたのだが、前が開いていて微妙にエロい感じになっている。
美少女なのは分かっていたが、改めてよく見てみる。
真っ白な髪は腰まで伸びていて、キラキラと輝いているようにも見える。
頭の上にあるピンと立った耳はもふもふしていて、フィエナの気持ちを示した尻尾はふりふりと動き続けている。
眠そうに見える目をしていて、肌は真っ白。
ただ、表情はそんなに変わらないようだが完全な無表情という訳でもない。
事実今は、少しだけ口の端が吊りあがっているのが分かる。
ついでに言うと、そこそこ胸も大きいのでワイシャツで抱きつかれるのは精神力を試される。
見たところ全て高そうな生地で出来ていたので、レドガーに金貨1枚を渡しておいた。
本人は恐縮していたが。
それにしても、なぜワイシャツがあるのだろうか?もしかしたら、過去の勇者が広めたのかもしれない。
「それじゃあ、まずは冒険者ギルドに行こうか。」
地図に書いてあったので是非登録してこようと思っていたのだ。
「……うん、凄く…楽しみ…」
そう言って、俺達は外に向かっていく。
だが、かけられた言葉につい笑ってしまう。
「ありがとうございました。…大事にしてあげて下さいね…」
レドガーが後半に言った言葉は独り言なのだろうが、聴力が強化 されてる俺と猫の獣人であるフィエナには聞こえていた。
実は、馬車の中でフィエナがナギサと話していたことはレドガーも知っていた。
何故なら、お礼を言いに来たのがレドガーから指示されたからなのだ。
…というのを先程フィエナから聞いた。
そもそも、フィエナを俺に譲ってしまう事で貴族に恨まれるのはレドガーも同じというのもある。
つまり……
「レドガーはお人好しだな。」
「……間違い…無いね…」
2人は笑いながら、大通りに向かっていく。
あまり時間は進んでいません。
ダラダラと書きすぎなんでしょうか?
それと、今回はフィエナちゃんがデレましたね。
チョロインと言うことなかれ。
実際にこんな状況で、守ってやるなんて普通は言えないと思いますから。