14話『2人(?)旅へ向けて』
遅れました!
次回、第1章終わりになります。
「……旅?」
「ああ、2人で旅でもどうかなと。」
逃げるように食事をしに行った(外まで)後、理の覇者の事についてフィエナに話していた。もちろん、巻き込まれ体質になる事も含めて。
離れていってしまうのでは、と少しだけ考えていたが「ふふっ」と笑ってこう言った。
「……あ……馬鹿にしたんじゃ、ないよ?……ナギサが居るなら、楽しそうって思っただけ」
確かに、守るつもりではある。
とはいえ、だ。自分の命を人に預けるような事をしたくない、と言われなくて良かったと思う。
次いで考えたのが、是非とも異世界を見て回りたいというものだ。そして、先程聞いてみた限りでは……大丈夫そうだ。
「……旅?」という短い言葉に対して、目はキラキラとしていて声も弾んでいる。
それは、やはり勘違いではないようで……
「……行きたいっ。エルフとか、竜人族とか会ってみたい。それに、ナギサと色んな所に行けるなら何でもするっ。」
グイッと顔を近づけて、矢継ぎ早にそう言ったフィエナ。……ん?今何でもするって?
……いや、普通に恋人なんだし気にすることでも無いだろう。
「そういうのに会えるかは分からないけどな。んー、他に何かあれば聞くぞ?」
急にフィエナが、少し真面目な表情を浮かべてこう言ってくる。
「……ナギサの故郷に、行ってみたい。あ、行けないのは……分かってる、けど。」
ふむ、そういえばどうなのだろうか。
1度死んでるから行けないと思っていたが、良く考えれば勇者だの真夜さんだのが来てるわけだしな。俺達が地球に行くぐらいなら問題は無いような気もする。
「こんな時の、女神様だな。」
『こんな時の、じゃないよ!』
お、繋がった。
「昨日ぶり。それで、地球に行く方法はあるのか?」
『むー、なんか扱いが雑だなぁ。……一応、行く方法はあるけど。』
ボヤきながらも答えてくれる、優しいシエラ。
あるけど、何だろうか。俺には出来ないとか、そういう感じだとお手上げ侍だぞ。
『でも、自分達で探してみる方がいいんじゃない?旅の目的として。』
なるほど、それはいい考えかもしれない。
特に意味なく旅をしても、途中で飽きてしまう可能性は高くなる。だが、目的があればそれを達成するうちに色々な所を見れるだろう。
「ちなみに、見つからなかったらどうするんだ?絶対にあるとは限らないだろうし。」
『そうなったら、私が教えてあげるよ。駄目だったとしても補償ありです!』
「なら、そうしてみようかな。んじゃ、ありがとう。……お疲れ様。」
『うん、頑張ってね(もうすぐ行くけど)』
挨拶をした時に少しだけ聞こえた気がしないでもないが、気の所為ということにさせて欲しい。……服とか食料とか3人分だな……
「……どう、だった?」
シエラと念話中、ずっと俺の横でじっとしていたフィエナ。そこまで行ってみたかったらしい。
「一応、あるってさ。でも、教えるともったいないから自分達で探してみるように言われた。」
「……ある、んだ……分かった、頑張る。」
真剣な表情で両手を握っている姿が微笑ましくて、つい頭を撫でてしまう。すると、みるみる表情が崩れていくのが可愛らしい。
「まずは、金の方を何とかしないとな。」
☆
準備してやって来たのは冒険者ギルド前。
食料等を買い込むにしても、金が無いとどうにもならないので魔石を売りに来たのだ。
――キィッ
確か、ウエスタンゲートというそれを開けて入っていく俺達。相変わらず酒臭いのは同じだが、受付嬢は普通の女性だった。
「どこで売ればいいんだ?」
「……多分、あそこ。」
見渡しても分からなかったが、フィエナが指した先には酒飲み達がいて視線を遮っている。
だから、見えなかったのだろう。
そんな風に考えながら歩いていると、自殺志願者が現れる。
「おっ、可愛い子じゃねぇの。」
そう言ってフィエナのお尻を触ろうとするおっさんだったが、スっと俺の方に抱き寄せたので自殺未遂に終わった。こちらを睨んでいるが、人の恋人を触ろうとする方が間違いだ。
「買取はここであってるか?」
この世界、どうやら丁寧な口調だと舐められるらしいとハングラーで分かった。なので、最初から敬語は知りませんとばかりに話す。
「そうだぞ、買い取って欲しいものがあればここに持ってこい。……今は手ぶらみたいだがな。」
お帰りはあちらです。みたいな感じで言われ、頭に?を浮かばせる俺。
「……アイテムボックスは珍しい。」
人前なので、無限収納とは言わずにダミーの方で言ってくるフィエナ。
俺は最初から持っていたが、普通に持っていたなら商人の仕事が楽だろう。それに、冒険者としても引く手数多なはず。
そんなやつが、2人だけで居るとは思ってなかったのだろう。……服装のせいもあるだろうが。
「とりあえず、これ。」
上の階層で出会ったオークの魔石を取り出して、買取の人に渡す。
「おお、アイテムボックスが使えるのか!どれどれ………でか過ぎだぞ、この魔石!?」
そうなのか?と横にいるフィエナを見てみたが、あちらもキョトンとしていた。城育ちの常識知らずと、異世界育ちの常識知らずなので仕方が無いだろう。
「普通の魔石は2、3センチなんだぞ?それが拳よりも大きいって……しかも、こんなに純度の高いとなると……」
「あ〜、でも……問題は無いんだろう?いくらで買い取ってくれるんだ?」
ここで目立つとろくな事にならなそうなので、買取の人に早くしてくれと急かす。
「このサイズでこの純度だと……70000ミルって所だな。」
「そうか、じゃあこれも頼む。」
どこで倒してきたんだ、という質問を受け流しつつ追加で50個程渡しておく。
「は?おい、こんなにあるのかよ……」
「このくらい別におかしくないだろ……ん?なんか静か――」
振り返ってギョッとした。
何故なら、屈強な男達(1部女性)が皆こっちに注目していたのだから。
「……どう、したの?」
それは俺も聞きたい。
別に、このくらいなら40分程で集めた物なので大したことは無いはずだ。
そこで、買取の近くにいた1人の青年が答えてくれる。
「いや、だって……そのサイズと純度だと、Aランクに近い強さの魔物じゃないと……」
ふむ、Aランク級の魔石がどっさり出てきたからビックリしてる訳か。
後何千とあるんだけど、買取は無理そうだな。……グリフォンとかサイクロプスの魔石も売りたかったのに残念だ。
「合計、4820000ミルだ。……それにしても、どこで倒したんだ?そんな魔物。」
意外としつこいな、買取の人。
白金貨3枚、金貨18枚、大銀貨2枚を受け取り、適当な言葉でで誤魔化す。
「企業秘密って事で、また今度な。……二度と来ないとは思うけど。」
「……金貨が、多い。」
騒ぎになろうと名前を明かしていないし、旅に出ることになったので問題は無い。それよりも、金貨多めで貰った理由か。
「いや、白金貨なんて滅多に使わないだろうし。金貨なら微妙な顔をされても、断られることは無いはずだ。」
ハングラーの串焼き屋みたいにな。
冒険者ギルドを出たあとは、後ろをつけてくるやつがいるかと思ったが大丈夫のようだ。
小説の読みすぎだな。
「……今度は、服と食料?」
そう、防具に関しては付与魔法でどうとでも出来るが、服はセンスが無いので無理だ。食料は普通に旅の途中で食べるのにだな。
そうして、服と食料、追加で調理器具を買った。服に関しては、やたらと日本でも売ってそうな物ばかりなのがいただけない。
値段も古着1着2000ミルほどだったので、新品は高そうだ。
最後は……
「移動、どうするかなぁ。」
「……馬車、は……御者がいない……」
そう、馬車を買う金があっても御者が居ないのが問題だ。雇うという手もあるが、それは色々とめんどくさい。
「念話って馬に使えるか?」
それさえ使えるならなんの問題もない。随時方向を指示すればいいのだから。
「……たぶん、無理。」
そうだろうとは、思っていたさ。
「ま、仕方ない。俺がやればいいさ。」
そう言って、馬車を買いに向かう。歩いてる途中にも色々考えてみたのだが、どうにもならなさそうだった。
「いらっしゃいませ。……失礼ですが、少々値が張る物ばかりですよ?」
丁寧な言葉遣いではあるが、目は口ほどに物を言うとよく分かった。
「金もない子供が冷やかしに来るな」という心の声が聞こえてくるようだ。それは仕方の無いことなので、とりあえず白金貨を1枚取り出す。
「!?……失礼しました。貴族様の使いでしたか。こちらへどうぞ。」
「いや、貴族なんかじゃない。俺達が使うためのものだから、そんなに派手な物は選ばないでくれ。」
貴族の馬車というと、豪華な装飾が当たり前なイメージがある。そんなのはゴメンなので予め言っておいた。
「では、こちらは如何でしょうか?値段の方は、150000ミルとなっております。」
見た目は、普通の馬車だ。
見た目がどんなに悪くても、後で改造する予定なので大した問題では無い。
「馬車はこれでいい。……あと、馬を買いたいんだがどうすればいい?」
そう聞いてみた所、取り扱ってるとの事だったので見せてもらった。しかし、イマイチパッとしないので牧場を紹介してもらった。
「はい、うちでは馬が自慢ではありますが、他にも売っておりますでどうぞ見ていってくださいね。」
馬以外で馬車を引ける生き物が居るのだろうか。気になったので、それを見に行ってみる。
「ん?こいつ、ウルフ……じゃないな。もっと強いやつだろ、なんでこんな所に……」
レッツ鑑定だ!
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ステータス
名前:エニファ
性別:女
種族:???
年齢:3
職業:
レベル:6
HP 26000
MP 1300
STR 7200
VIT 4600
AGI 5100
DEX 2300
INT 1700
【所持スキル一覧】
通常スキル
『気配察知Lv2』『気配隠蔽Lv1』
『HP自然回復Lv2』『危機察知Lv2』
魔法スキル
『身体強化Lv3』『念話』
武術スキル
『縮地Lv1』
ユニークスキル
『???』
耐性スキル
『恐怖耐性Lv4』
補正スキル
エクストラスキル
【称号】
『腹ぺこ狼』『孤独な女』
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おん?種族が不明だが、称号に狼の文字はある。しかし、何故ステータスが魔物と違うのだろうか。よく分からないが、会話が出来ないかと『念話』スキルを取らずにやってみる。
いつもの感覚でやってみれば、あら不思議。
『スキル【念話】を取得しました。』
『おい、聞こえるか?』
座ってじっとしていた狼がビクッとした。
そして、返事が帰ってくる。
『私を連れていってください!!』
……頭が痛い程の大声で。
『もうちょい静かに頼む。』
『あ……すいません、主様……』
勝手に主認定されているが、それはいいとしよう。それよりも、牧場主だ。
見つめ合う俺とエニファを見た牧場主は、これは売れるか!?という顔をしている。
「その狼は、安く買い取ることが出来たのです。しかし、気に入らない相手には攻撃するし、餌代も高くつくので、早く売りたいと思っていたのです。」
『失礼な、人を大食いのように。体の大きさが違うだけでしょう。それに、気に入らない相手ではなく、下衆な輩にです!』
人間の言葉は分かるらしい。
にしても、下衆な輩って心を読める訳でも無いのにどう分かるのだろうか。……いや、顔とかに出てたりするやつばかりだったのかもしれない。
「……ナギサ、買う?」
「こいつは、いくらなんだ?」
「40000ミルとなっています。正直、売れるなら何でも良かったので……」
そう言ってくる牧場主に大銀貨5枚を渡す。
ステータスの謎?牧場主への同情?違うな、エニファの毛並みが良いからだ。
灰色の毛並みはフサフサとしていて是非触ってみたくなるし、飛び込みたくなる。
「?1枚多いようですが?」
「ああ、明日までこいつを預かって欲しいんだ。あと、飯とか必要な物を揃えておいて欲しい。」
『これからは、俺達と旅をすることになるからよろしくな。……触ってみてもいい――』
『はいっ、触って下さい!』
食い気味に許可を得たので、遠慮なくモフらせてもらおう。
背中を掌で撫でていく。フィエナの耳やしっぽとは、当然違う手触りだ。そして、大きいので掌全体で感じる事が出来る。
しかし、ここでモフり過ぎると人様に見せられない状態になりそうだ。
そんな訳で、これで終了。
「噛みつきも、引っ掻きもしない……何故でしょうか……?」
既に主認定されていたからだな。
偽装していない俺のステータスの高さを、野生の勘とかで感じたのかもしれない。むしろ、それ以外にこうなる理由がない。
『主様に触られるのは気持ちいいですね……』
もう少し触ってくれても……みたいな感じで言ってきた。
『明日にでもまた触らせて貰うよ。』
これで目的は果たせたので、宿に戻ることになった。
……フィエナと話して、出発は明日の朝にする事に決まっている。
戻った後お腹が空いてきたので、食堂へ食べに向かった。そして、女の子が注文を取りに来る。
「何になさいますか?」
そう言われても、そもそも何があるのか知らない。仕方ないので聞いてみる事に。
「んー……オススメはなんだ?」
「豚の角煮定食です!120ミルで量も多いですよ。どうですか?」
豚って、もしかしてオークなのだろうか。
この世界で普通の豚が生き残れるとも思えないし……いや、見た目が角煮なら行ける!
「じゃあ、俺はそれで。フィエナは何を食べたい?」
「……同じでいい。他に、知らないから。」
だよな。
そう思っていると、女の子から衝撃の一言が。
「え?テーブルの下にメニューがありますよ?」
え?マジで?という顔を向ける俺達。
どうやら、テーブルの裏にメニューをしまうところがついているらしい。
「……あった。……飲み物は、エールで。」
エールって何だっけ?と思いつつ、俺も同じものを頼む。
「かしこまりました。それでは、しばらくお待ち下さい。」
そして、エールが先にやってきた。
しかし、これは……
「冷たくない酒って微妙だな……」
「……それは、言っちゃだめ。」
飲んでみて思い出したが、エールと言えば異世界で定番の酒だ。
酒が飲める歳では無かったので、これが初めての飲酒。……冷蔵庫は作ってないのだろうか。
「あ、そうだ。簡単に冷やす方法があるじゃんか。」
魔力が冷気を放っているイメージをする。
そうすると、本当に冷たく感じてきた。
実は、イメージで魔法を使おうとしているのには訳がある。職業固有スキルの魔の理というのが、どんなスキルか確認したのだ。
ざっくりとした説明をするなら、イメージ通りの現象が引き起こせるというもの。
さて、何が変わるのかお分かりだろうか?
元々、魔法を使うのにはイメージと詠唱が必要だ。それを、スキルの補助によって無詠唱で使っていたのが俺。
しかし、魔法というのはLv毎に増えるものを使うしかない。多少のアレンジは可能だが、1から新しいものを作れなかったのだ。
だが、俺は持っていないはずの魔法をイメージのみで発動することが出来た。
その結果は……
『スキル【氷魔法】を取得しました。』
スキルを取得する前と今とでは変わった様子はない。魔の理さえあれば十分なのではないだろうか。
「……これも、いい?」
早速冷やしていた俺を見て、温いエールに微妙な顔をしていたフィエナがお願いしてくる。
恋人になっても「やって」みたいな感じではなく、頼んでもいい?みたいに言うのが可愛い。
当然、エールを受け取り冷やす。
そして、返してから同じタイミングで飲んでみる。
「これなら美味いな!」
「……ん、美味しい。」
そんな事をやっていると、女の子が食事を運んできた。
「お待たせしたした。豚の角煮定食です!ごゆっくりどうぞ。」
「……すごく、多い。」
何故だろうか。この間、同じようなセリフを聞いた気がする。まあ、それは置いておくとして。
フィエナの言う通り、量が本当に多い。
大皿に埋め尽くすように肉があるので、4、5人で食べても問題なさそうだ。
「よし、食うか……」
これは、食べ切れる気がしない。
☆
俺達は、今ベッドで横になっている。
しかし……甘い雰囲気は微塵も存在せず、死にそうになっている少女が1人居た。
「……何で食べる事が出来たんだ?」
「……半分が、限界……」
この体は、腹にブラックホールでもあるんじゃないか?そう思うほどに、いくらでも食べられた。……フィエナが残した半分も食べ切れたし。
「半分でも十分頑張ったよ、うん。むしろ、前の体なら半分も食べられなかったし。」
角煮だったから、脂っこかった。
気持ち悪くならない俺自身が、気持ち悪いと思ったくらいだ。
「……もう、寝る……うぅ……おや、すみ……」
辛そうにしながら布団に潜っていくフィエナ。今日はすることも無いので、俺も寝る事にした。
「おやすみ、フィエナ。」
「……うっ……出そう……」
出来ればそれは、耐えて欲しい。別にリバースした所で気にしないが、フィエナは落ち込みそうな気がする。
……明日、出発できるんだろうか?
フィエナちゃんは、マーライオンにならずに済みました!
エニファは急に思いついただけなので、後々手直ししたいと思ってます。