rain machine。
「あのね……居酒屋でちょっとひと悶着あってね、エイスケと沢野さん、辞めることになっちゃったから。」
セオは言葉を選びながらレイにそう告げた。
“レイが暴走したせいで”と言わない辺り、何かしら内輪の事情があるのだろう。
「で、車も乗ってかれちゃってね……泊まるとこもなくって、ワタシたち、この」
と言ってセオは俺に掌を向ける。
「居酒屋の店員サンのお家に泊めてもらったのよ。」
レイは暫く考えたあと、ぽそりと呟いた。
「じゃあ、荷物は。」
「――――今は、無いわ。」
セオが告げると、レイは「そっかあ」と顔を天井に向けて軽く言い放つ。
その様子はあまりショックを受けているようには見えなかった。
俺は数時間前のレイの様子を脳裏に過らせる。
自分は別にライブをしなくても良い、皆がしたいからしている、とでも言いたげな態度を。
「そんなワケがあったなんてねー。」
咲乃はリビングの中央に置いてあるローテーブルにマグカップと珈琲ポットを並べてやりながら話に割って入った。
「じゃあ、京都には旅行で来たの?」
「いえ、知り合いの伝手でライブに来たんです。レンタカー借りて、東京から。」
「それはそれは。」
俺は今さら初めて聞く、目の前の奴らの切羽詰まった状況に思わずそう口走っていた。滅茶苦茶大変そうだな、他人事だから言えるけど。
「で、今日も夜からある予定なのよ……」
「そうだったそうだった。」
言い募るセオに対し、レイが思い出したように口を開く。
「で、よ。」
セオはここで真剣さを含んだ瞳でレイを見詰めた。
「昨日、トラちゃんと、話し合った結果ね。ドラム抜きで、わたしたち三人で出ることになったから。」
「うん、わかった。」
レイは存外あっさりとその提案を受け入れる。
「清水さんにはメールしてあるから連絡待ちよ。足りない機材も貸してもらえると思うわ。」
「わかった。」
繰り返された言葉に熱は籠っていない。
まるで機械かロボか、と俺は思った。