not first contact。
翌日、俺は姉の身支度の音で目が覚めた。
ゴワつく布団の中を確認すれば案の定、普段パジャマにしているスウェットに着替えず眠ってしまった自分に溜息を漏らす。
道理で寝苦しかったわけだ。
「はよー」
何時もの癖で頭をガシガシやりながらドアを開けると、キッチンカウンターの前で新聞を立ち読みしながら珈琲を飲む姉が顔を上げる。
「友達、連れ込むなら連絡しなね。」
言いながら、ソファの前を陣取る布団の膨らみを蹴る真似をした。
「あ、忘れてたわ。悪い。」
すっかりメールを送った気になっていた俺は、眠り込む寸前に心に引っかかっていたものはそれだったかと思い至って謝った。
当の“トモダチ”等は昨晩何時まで話し合いを続けていたのかは解らないが、全員俺が教えてやった布団に包まってまだ爆睡していた。
時計を確認すれば、今は午前9時45分。廊下に転がっていたはずのレイ、と呼ばれていた女もその中で雑魚寝している。
「このオンナノコ、あんたの彼女?」
「違う。つか全員昨日会ったばっかの、居酒屋の客。」
俺が言うと、姉は目を丸くした。
「へえー、鋼鉄のバリケードと名高いあんたが、珍しい。」
「なんじゃそりゃ。」
俺は呆れて欠伸を漏らし、湯気を出すポットから淹れたての珈琲を拝借しにいく。
「ぁー…うわ、めちゃくちゃ頭痛い。」
その時、レイが首部を垂らしながらダルそうに起き上がった。
うなじの髪の毛がさらりと左右に別れたのを男の本能で咄嗟に確認してしまう……と、そこにバイオリンのf字孔を象った二つの黒いタトゥーが彫られているのを発見する。
タトゥーって……
普通なら、オイオイ不良やんけ!!
等と言い慣れない関西弁で吐き捨てているところだが、昨日からのレイが致す数々の暴走を見れば、こういう、一見可憐な少女に危なげなオプションは凄く似合っているモノのように想えた。
「おはよー、つってももう10時なんだけどね。」
俺よりも先に、姉の咲乃が声をかける。
「う。しんどくてここがどこかも解んない。」
レイが眉を顰めながら呟いた。しかし隣で寝ているメンバーを確認し、自分だけがこの場に居るのではないことを知って若干安堵した様子を見せた。
「エイスケの身内?」
咲乃を指さして、レイは唐突に言った。
「エイスケって誰?」
咲乃は俺を向いて尋ねる。
「知らない。」
俺も聞き覚えのない名前に首を振る。
「ていうか、あなた誰。」
レイは疑問符を顔全体に浮かべながら今度は無遠慮に俺へ問いかけた。
「ちょっとぉ、イトってばこの子を無理くり泥酔させて連れ込んだんじゃないでしょうねぇ。」
何やら誤解した咲乃の発言に、レイの目が一瞬怯えた色を見せた。
「違うって。」
俺は焦って目の前の二人にどう弁解しようか考える。
レイは完全に二日酔いで、寝起きで、昨日の記憶があやふやらしいのは歴然だった。
事実を並べても、胡散臭く思われてしまう様な気がする。
「ウルッサイわー、もうちょい寝かせてよぉ。」
そこで助け舟かの如く、オカマがタイミングよく身体を起こした。
レイと並ぶと身長の差に改めて気付かされて少しビビる。
「あー、ああ。」
周囲を見まわしてここが何処かを認識し、キッチンカウンター前で並ぶ俺と、咲乃を目に入れた瞬間、オカマは覚醒したようで頭をぺこりと下げた。
「昨日は、どうも…ありがとうございマシタ。」
「いやいや、イーデスよ。」