rising ghost。
「じゃあ、そこの人、ドラム叩けない?」
その時、急に聞きなれない女の声が部屋に響いた。
誰だ!?と、振り返れば、泥酔して転がっていた暴走美少女がムクリと上半身を起こしていて、俺の顔を大きな瞳で見詰めているのだった。
「……俺!?は無理だわ。リコーダーもマトモに吹けないねえ。」
いつの間に目覚めてるんだ、ということに驚くよりも質問に返す方に気を取られ、冷静に答えている自分が少し意外だった。
「――なーんだ、ロキノン系少年は見掛けだけだったかぁ。」
残念そうに小さな口が動き、貶されているのかなんなのかよく解らないその態度に
俺は「へいへい、すみませんでしたね。」とだけ言って顔を逸らした。
というか、ドラムが叩けたなら明日いきなり参加しろ、とでも言うつもりだったのだろうか。
バンドってそんな大雑把で適当なモンなのか……?
「ちょっとレイ、失礼でしょーが。」
オカマが呆れたように諫める。
「だって、もうなりふり構ってられないんでしょ?
明日、ライブやりたいんじゃないの?」
首をかしげて問いかけるその言い方に、オイオイお前はやりたくないのか?と聞きたい衝動が湧き上がった。
この女はただバンドにくっ付いて荷物持ちや搬入の手伝いをする存在か何か、ということだろうか。
しかしそれにしてはガリッガリに痩せてて背も低いし、戦力になりそうにない。
だったら、と思いつくのは映画『あの頃ペニーレインは』に出てきたグルーピーみたいな、いわゆる肉体関係アリの追っかけ……なのだろうか。
目の前にいるオカマか、入れ墨かどちらかの。
それなら納得がいくな、と俺は今夜目撃した一連の流れに自分なりの決着をつけた。
二人の女同士で揉め合っていたのも、色恋絡みなら説明がつく。
音楽にしろ美術にしろ、ゲージュツ系、と呼ばれる世界を目指す奴らは当然の如くナルシストで、
恋多き男女で溢れていて、泥沼に丸腰でダイブしていくタイプが無茶苦茶多い。
一応自分もそういう空気が漂う学校に籍を置く身。
校舎内でも幾度となく修羅場に遭遇することがあった。
居酒屋で繰り広げられていた場面にどことなく既視感があったのは、それを思い出したからかもしれない。
カジヤンの言っていた通りだ。
「ふぁ…じゃあ、俺は参加できないんで、部屋行って寝てくるね。」
俺はこれ以上の話し合いを聞く気にもならず、自室のドアを指さして三人へ告げた。
姉の部屋には鍵がかかっている筈で、リビングダイニングとなっているこの部屋には盗られて困る貴重品も特にない(強いて言えば大事に育てている観葉植物くらいか)。
「布団は、そこの収納に入ってるんで、タイミング見て適当に寝てくださいな。」
そして三人の反応も見ず、そのまま自室に入るとベッドへ倒れこみ、何か忘れてる気がする……と思いながらも深く眠り込んでしまった。