seven teen melancholy。
「え?」
その場にいた全員の視線が俺に一点集中する。
「すぐそこなんで。」
俺は隣のコンビニから3分しない自宅アパートの方角を示した。
「その子も苦しそうだし、一晩くらいなら構わないすけど。」
「そう、ねえ」
悩んだオカマがまたしても頬に手をやる。
「ま、完全に信頼出来ない奴でもないと思うけどね?職場は押さえてあんだし。」
入れ墨が割と乗り気な態度でオカマに提案した。
重そうなケース、肩にはギター、その格好で見知らぬ町を徘徊していたのだとしたらだいぶ疲弊しているのは間違いなく。
何処でも良いから休みたい、という意思が目に見えるようだった。
「レイ、どうする?」
「うん……しんどい…」
女はもうどうしようもない。
「……じゃあ、一晩だけ、お邪魔しちゃいます。」
オカマが申し訳なさそうに頭を下げる。
「あ、そうだ。姉と同居してるんすけど、今仕事だから。」
マンション2階の住居へ続く、エレベーターに乗り込みながら俺は後ろの3人へ声をかけた。
「へー、夜勤?看護師とかなんか?」
「……まあ、夜の仕事で。」
「ああ……祇園だっけ?その辺り?」
俺の言い方で悟ったらしい入れ墨が、動じることなく呟いた。
「ですね。」
曖昧に頷いて俺は鍵を開ける。
電気とエアコンのスイッチを入れて漆黒の衣装に身を包んだ怪しいトリオを中へ促すと、面々はやっと一息つける安心感からだろう、微かに笑いあった。
テリトリーに入れてもらったということで、僅かに砕けた態度になる。
ラグの上に座り込んで、オカマは早速ローテーブルに突っ伏した。
「つかれたわぁ。」
「ほんっと、スマンね。」
入れ墨が重量感あるケースを床の隅に置いて片手を上げる。
「まあ、袖触れ合うも他生の縁ってことで。」
やっと的確な故事を思い出した俺は、台所に立ち、コーヒーメーカーにフィルターをセットしながら答えた。
「焙じ茶なら、このヤカンに入ってるんですけど。珈琲飲みます?」
流しの下から紙コップを重ねたまま出して尋ねれば
「悪いねえ」と入れ墨の声が返ってきた。
オカマは「わたしはこっちで」とヤカンを取りに来る。
隣に並ばれると、やっぱり滅茶苦茶デカい。
女はシャットダウンしたように微動だにせず、床に伸びていた。
俺は少し悩んだ末、姉の咲乃が仕事仲間の女性たちから誕生日に貰ってきた花柄のブランケットをかけてやった。
「っていうか、キミ高校生なの?」
淹れたての珈琲カップを入れ墨に渡すと、急に聞かれた。
バイトへ行く前に取り敢えず脱ぎ散らかした、なんちゃって制服を発見したのだろう、それに、どこからどう見ても教科書がはみ出してる鞄もその脇に置いてある。
「17。」
俺は頭を掻いて自分の歳を告げる。
居酒屋なんかでバイトしているから、あんまり歳下に見られることはないけど、見下されるのは勘弁だった。
「へぇ、じゃあわたし達と一緒ねえ。」
オカマがほうじ茶の入った紙コップを両手で包んで口に運びながら言い、俺は驚いて目を見開く。
「一緒って……」
オカマと、入れ墨と俺が!?
あまりに衝撃で、飲んでいた珈琲が咽た。
ゲホゲホやっていると、背中を良い感じのリズムで入れ墨が叩いてくれる。
革ジャンを脱いで露わになったその首元から腕にかけて、びっしり禍々しい線画が描かれているのが自然に目に入り、余計に
こいつが同じ歳――?ということに驚きが隠せない。
「俺は違うよ。」
しかし入れ墨は否定した。
「そこで寝てる、レイと、この金髪が同じってことな。」
「すよねー…」俺は脱力した。
「んで明日は土曜だけど、何か用事あんの?」
入れ墨が聞いてくる。
「いや、俺は何も。」
本当は美術科の高校生らしく休日はじっくり創作活動に熱を入れるべきなんだろうけど、ここ最近寒さを言い訳にして学課以外はほぼ手つかずになっていた。
バイトのシフトも明日は入っていない。
「そちらさんはどうなんすか。」
そこで、二人は気まずそうに顔を見合わせる。
「いやー、明日もこっちでライブの予定だったんだけどねぇ。」
「ちょーっと仲間内で揉めちゃって。」
その現場は十分目撃した。
俺が黙っていると、思い出したように会議を始めるバンドマン二人。
「どうする?中止?」
「ばっか、清水サンに何て言うんだよ」
「ねえ、ワタシらの枠だけトイレタイムにあててもらう、とか?
えーやだ…皆そんなに長く行ってるわけないよねーもうどうしよお…」
オカマがオロオロ、項垂れている。