an unexpected tigger.
「ここだよ。」
電車を乗り継ぎ、降り立った駅は都心も都心のど真ん中。
こんな場所にトラが一人で住めるような家賃の部屋があるのかー、なんてキョロキョロしながら進み、
あれ、何か周りの風景がリッチな空気に変化したぞ?という雰囲気を感じた先に指示されたのは
無茶苦茶綺麗な、豪華なマンションだった。
まるで当然かのように澄ました顔で悠然とロビーへ進むトラにマッタをかけることも出来ず、純白の座り心地のよさそうなソファが並ぶエントランスをジャングルの王者の様に我が物顔で突き進む、不釣り合いな革ジャンを追いかけていった先に、いかにも厳重なシステムですよ!!という面持ちでタッチパネルが控えていたが、
難なくそれをクリアする姿にようやく此処が本当に相手の住処だという事に納得する。
そうでなければ、超高級マンションに盗みを働こうとする黒づくめのガラの悪いヤカラにしかみえない。
いや、まだその可能性も――――んなワケない。
ないだろうが、ナイナイ。
いや、待てよ、しかし怪しい。
俺はマンションの中に流れる滝を模したオブジェと、壁にバーンっと掛けられた畳一畳分くらいある意味不明な絵画とを交互に見比べながら立ち尽くしていた。
まるで一流ホテルのそれだ。
俺だって、一応実家住まいだったころは父親の仕事のおかげもあって一般的には“裕福”とされる暮らしをさせて貰っていたけれど、そして周りの奴らもそういった環境だったはずだけど、一人暮らしでメジャーデビューもしていないロッカーで、こんなマンションをポンと与えられるような人間にはお目にかかったことがない。
「ちょっと、こっちだよ。」
二の足を踏む俺に、トラが正式な手順を踏んで開けた(よな?)巨大な自動ドアの向こう側で手招きする。
「凄い場所に住んでんだね。」
俺は正直な感想を告げた。
「俺もそう思うわ。」
トラは病院の職員用かと思えるほど広いエレベーターに乗り込み、慣れた手つきで階数ボタンを押して言った。
「でもこれ、オレの持ちもんじゃねーからね。」
「分譲じゃなくて賃貸ってこと?」
それでも凄い。
「さすがイト君、高校生なのにそういう事知ってんの。」
トラは喉の奥の方で笑った。
「レイはそういうの全く知らねーからさ、アイツも一人暮しだけどさ、全部手続きとか他人に任せっきりで。ほんと、イト君とは正反対だよ。
あの部屋さ、コンロ無かったの気付いた?」
「あー、何か不自然に凹んでた。」
俺はシンクの横の、本来あるべきものが無い違和感たっぷりのキッチンスペースを思い出して言った。
単身用サイズの冷蔵庫は、あった。そしてその上に温めるだけしか役割がないような簡素なレンジ。
「あいつ料理とか絶対出来ねーし、っつーかとんでもねー失敗して大爆発とか巻き起こしそうだし。
“火はやめろ”つって、コンロは撤去したんだよ。」
「あはは、つって、トラこそ料理できんの?」
「出来る出来る。」
トラは妙に自信ありげに笑った。
意外だ。いや、この男に関してはこっちの想像が及んだことは皆無と言ってもいい。
案内された室内をみても、そう実感した。




