Looking properly.
「で、ピクシーは何処に入院してるわけ。」
トラは俺たちが大方食べたドーナツの箱を器用にコンパクトに畳み、残った数個をご丁寧に空っぽの冷蔵庫へ片づけながら聞いてきた。
まるで保護者だな、とその様子を見てて思うけど、生活能力が絶望的に皆無のレイと一緒にいれば誰でもそうなってしまうのかもしれない、と俺はボンヤリ思う。
俺だって、レイが泊まりに来たとき、わざわざ服を洗濯してやって、食事に風呂、あまつさえ乾燥機まで稼働させてやったのだ。
全く得な奴だよ、と横目で伺えば、何と当の本人は片づけをしないどころかグータラと横になってCDの歌詞カードをフンフンと読んでいるのであった。
「……ここから割と近所なんだけど、なんていったかな。」
集中しているせいか言葉を返すつもりが全くないらしいレイに代わって俺が立ち上がり、
さきほど病院から渡された書類を取りに玄関へ行こうとすれば。
「レイ坊、聞いてんのか。」
トラは躊躇なくその頭にスコーンと煙草の箱を投げた。
「イッタイ!」
レイが頭を抑えて体を起こし、漸くトラへ顔を向ける。
「もー……何なの。」
「缶じゃねーだけマシだろが。
だから、病院だよ、何処の病院だって聞いてんの。」
呆れた調子で言われ、レイはさっきまで着ていた汚れ塗れのスカートをのそのそと拾い、
ポケットから一枚の紙を取り出した。
「この病院。」
ああ、思えばそんな名刺をもらったっけ。と思いながら俺はその場に座り直す。
ここには勿論座布団やクッション等あるはずがなく、しかもラグや絨毯なんてのも敷かれていない。
硬いフローリングの床に直接腰を下ろし、2人のやり取りを眺めた。
「んで、コレは?」
トラは受け取った紙をしげしげと見詰めた後、裏に書かれた手書きの携帯番号を目ざとく見つけてレイに問うた。
「明らかにプライベートなヤツじゃね?」
「だねー。」
レイは平然と頷いている。
それを受けてトラはため息交じりに煙草の煙を吐き出し
「油断ならねーな。ったく、ピクシー引き取りは俺が行くから。」
と呟いて、面倒くさそうに自分の上着にその名刺を畳んで仕舞った。
「なんつーか、レイ坊は隙だらけっていうか……。
ちゃんと断れよ、なあ、イト君」
トラはぼやく様に俺へ同意を求めてくる。
自分のバンドのボーカルに何かあれば心配、ということなのだろう、それは解る。
けどアンタも女医と付き合ってるでしょ、という脳裏に湧いた科白を飲み込んで俺は言った。
「彼氏が居ないんなら、別に良いと思うけど。」
「えー……」
トラは眉を顰めて空き缶に煙草の灰を落としている。
「だってレイ坊みたいなガキ狙うオトナなんて、クズいロリコンだろー。」
そしてバッサリ言い放った。
「あはは、そうだよー。」
黙って聞いていた筈のレイはそんな暴言を受けて、まるで他人事のようにケラケラと笑い転げだす。
「だって、そのお医者さんさー。
ピクシー診てた時は指輪してたのにね、追いかけてその紙渡してきた時、ワザワザ外してたんだよー。
ほんっと、クズだよねぇ。」
俺は背筋に寒いものが走るのを感じた。




